大友の姫巫女XXX とある少女の物語






このお話は北部九州在住様の作品である「大友の姫巫女」の設定を使わせて頂いた二次創作です。
また、XXX板への投稿ではありますが、しばらくはそちらの描写は殆どありません。
それではあの世界の片隅で起こった(かもしれない)小さなお話をどうぞ……。

 


とある少女の物語第一話 別れと出会い 

 


 突然、お母さんにごめんねって言われた。
 お母さんもお父さんも泣いていて。
 いつも行商に来るおじさんが私の手を握って。
 嫌がる私は家から連れ出された。
 
「恋、ごめんね……」
  
 もういちど、お母さんが私に謝って。
 隣でお父さんがお母さんを支えていた。
 私の手を引いて行く男の人の顔は何かを耐えているようで。
 お母さんとお父さんを見たのはそれが最後だった。

 知らない男の人に連れられて歩くこと数日。
 私が連れてこられたのは別府遊郭、という場所だった。
 そこにはお母さんやお父さんと一緒に暮らしていた村とは比べ物にならないくらい人がたくさんいて。
 奇麗なお姉さんがいっぱいいて。
 そして。

「……それじゃこれが代金ね。
 しかしまぁ、最近多いねぇ……」
「それは仕方ないだろう、姫巫女様の祈祷を受けた村はそうでもないんだがな。
 酷い村は本当に酷いもんだよ」
「うちはまあ、助かるけどねぇ……。
 それでもあんな年端もいかない子が近頃増えているからねぇ」
「俺もこんな事はしたくないんだけどな……。
 生きていくにはどうしようもないって事だと判っていても、な」

 ……その時の私は自分がどういう状態なのか判らなかった。
 だけど、おじさんとお姉さんの話を聞いているうちに理解して。
 ああ、自分は口減らしのために売られたんだ……と。
 村で同じように売られた人を何人も見ていたから。 
 だから。
 私をここに連れてきた男の人と話していた奇麗なお姉さんが。

「あんたはこの別府遊郭で働くんだよ」

 と私に告げた時も。
 ああ、今まで見ていたお姉さん達もきっとこういう場所で働いているんだな……と思っただけで。
 そしてお母さんお父さんと離れ離れになってしまった事よりも。
 今まで見たことのない遊郭――当然どんな事をする場所かも知らなかった――のあまりの大きさと賑やかさに心を奪われていたのでした。
 そんな私を。
 少し哀しげな様子で見ていたお姉さんに連れられて、私はこの別府遊廓に入ったのでした。
 
 お姉さんに手を引っ張られながら周りの喧噪に驚き。
 奇麗な着物を着たお姉さんが沢山いるのに驚き。
 そして何よりも。
 私がこれから暮らす部屋に通された時が一番の驚きでした。
 今まで住んでいた家とは違う、畳が敷かれた土間のない部屋。

「さあ、ついた。
 いいかい恋、あんたの部屋はここ。
 今日から私があんたの面倒を見る由良だ。
 普段は由良姉さんと呼びなさい。
 明日からは私があんたの勉強を見る。
 そしてあんたには私の身の回りの世話をしてもらうからね」
「……はい」
「それから食事は私と一緒、朝と夕方。
 昼から夕方の店開けまではあんたの勉強の時間。
 良いかい、この別府で働くからにはあんたもある程度の教養を身につけてもらうからね」
「はい」

 ここで暮らすのに気をつけなければいけないことや、これから私が何をしたら良いのかをお姉さんが話していたのですが。
 私の眼は部屋の中に釘付けでした。
 行燈が置かれ、暖かそうな布団が押入れに入っていて。
 そして何よりも。
 
 ご飯が普通に食べられる。
 
 それはお母さんお父さんと別れてしまったことすら忘れさせてしまうくらい、今までの生活とは別のものだったのです。
 私は今までの村の暮らしとは全く別の、信じられない世界に迷い込んでしまった気分になっていました。
 そのせいか、由良姉さんが私の顔をじーっと見つめていた事に声をかけられるまで気づきませんでした。
 
「……しかし随分汚れてるねぇ。
 寝る前に身体を洗ってやるから風呂に行くよ」
「お風呂……ですか?」

 私にとってのお風呂、というのは村長さんの家にある石造りのもので、一年で数回しか入れないようなものでした。
 それも水汲みや薪集めをしてやっと、というもの。
 だからこう簡単にお風呂に行く、と言われるのは想像の埒外にあったのです。

「ああ、知らない訳じゃないだろう?」
「はい。
 でも川で水浴びばかりでしたから……」
「まあ、そんなもんだろうねぇ。
 ここは温泉地でもあるんだ、身体を洗う風呂には困らないよ。
 それに人前に出るのに身体を奇麗にしておかなきゃいけないしね」

 この時はまだ人前に出る、という意味はよくわかりませんでした。
 ただ、村にいた時は滅多に入れなかったお風呂に入れる、というのが嬉しくて。
 しかも温泉というのは聞いた事はありましたが入るのは初めてです。
 きっと、この時の私はすごくうれしそうな顔をしていたんだと思います。

「よし、それじゃ行くよ」
「はい、由良姉さん」

 部屋の中にあった手拭と禿用の普段着を持ち、私は由良姉さんの後について行きました。
 その普段着も、今の私が来ている麻の着物より数等上のもの。
 木綿生地で出来たそれは肌触りも良くて。
 ごわごわした麻生地の着物とは比べ物になりません。
 これからはこんな着物を着れるんだ、と思うと自然と笑みが零れていました。

 そして。
 由良姉さんに案内されてついたお風呂は。
 あまりの大きさに最初はこれがお風呂だとは信じられないくらいで。
 そこには何人もの奇麗なお姉さん達が入っていて。
 中には私と同じくらいの年の子を連れている人もいました。
 きっと私と同じ、売られて来た子なのでしょう。

 少し鼻につんとくる匂いと、暖かそうな湯気。
 そこは、本当に私にとって天国のような場所でした。
 ぼーっとそのお風呂を見ていたらざぶん、と頭からお湯を掛けられ。
 
「ほら、ぼさっとしてないで身体を洗うんだよ。
 これを身体に擦りつけて手拭で擦れば汚れが落ちるからね」

 そう言われて渡されたもの、「せっけん」という物を初めて知りました。
 由良姉さんの見よう見まねで必死で身体を洗っていると、垢がぼろぼろとおちていきます。
 周りにいるお姉さんや私と同じくらいの年の子に比べてあまりにもみすぼらしい気がして。
 先程までの浮ついた心が一気に冷めていくのが判りました。
 そんな私の身体を由良姉さんの手拭がごしごしと擦って。

「いいかい、恋。
 ここに来た子達はみんな今のあんたと同じように身体を奇麗にして部屋に戻るんだ。
 だから気にしちゃいけないよ?」
「……はい」

 それから由良姉さんは私の背中を洗って、髪の毛も奇麗にしてくれました。
 そして全身を洗った後は湯船の中に。
 ……それはまさに「極楽」という言葉がぴったりの気分でした。
 あまりの気持ち良さに長湯してのぼせあがってしまい、由良姉さんに支えられてお風呂から出る羽目になってしまったのですが。

 お風呂の後に用意されていたのは夕餉でした。
 真っ白なお米とお味噌汁。
 それにお漬け物。
 横のお櫃にはおかわりが出来るようにご飯が入っていて。
 やはり村では考えられない食事に私は我を忘れて食べていたのでした。

 夕餉の後、由良姉さんから長旅で疲れているだろうから、今日は早めに寝なさい、と言われ。
 布団の中に潜り込むと。
 つい数日前まで横に感じることが出来たお母さんの温もりがない事を改めて気付かされて。
 お風呂で身体が温まり、ご飯をお腹いっぱい食べて心も暖かくなっていた筈なのに。
 布団の中で一人で横になる私は何故かとても心細くて。
 
 暖かい筈なのに、とても寒い。
 お母さんとお父さんの温もりが感じられない事がこんなに寂しい事だと実感して。
 もう会えない、と思うと自然と涙が零れ、寂しさと哀しみの中私は眠りについたのでした――――。

 


 時に永禄3年(1560年)。
 一人の少女はこうして別府遊郭で暮らし始めた。
 その小さな胸に癒しきれない寂しさと哀しさを覚えながら。 





とある少女の物語第二話 杉乃井御殿の生活

 

 

 

 寂しさと哀しさを改めて思い出しながら眠りについて。
 翌日由良姉さんに身体を揺すられ、目が覚めた時は頬に涙の跡が出来ていました。
 寂しさも哀しさもまだ忘れる事は出来ないのですけれど。
 それでも私はここで生きていかなければいけないのです。

 

 「禿(かむろ)」

 ここでの私はそう呼ばれます。
 私と一緒の部屋で暮らす、由良姉さん(由良姉さんは「花魁」というのだそうです)の身の回りの世話をしたり、遊郭に出る時にお供をしたりする役目なのだとか。
 そうして由良姉さんのお供をしながら色んなことを学んでいく、それが私のお仕事。
 ……でも最初に教わることになったのは読み書きでした。
 正直、びっくりしました。
 売られてきた私が読み書きを教わることができる、という事に。

「いいかい、恋。
 私もそうだけどあんたもここで働いて、いつかは出ていくことになる。
 その時に学があるとないとで大違いだからね」
「はい」

 これは別府遊郭の主人である、大友家の姫様の方針なのだそうです。
 見込みがある女の子は読み書きだけでなく、算術や舞も教わるとのことで。
 特に私のような、10歳くらいでここに来た女の子は遊廓に出るまで時間があります。
 実際に私が遊女として店に出るまでに、色々な事を学ぶことになりそうです。
 
 
 まず由良姉さんより早く起きて。
 顔や手を洗うための手水の用意をします。
 最初の日は私が由良姉さんに起こされてしまったのですが、これからは私が由良姉さんを起こさなくてはいけません。
 もともと村での生活は日の出と一緒に起きていましたし、朝から冷たい水仕事をしていましたからこれはすぐに慣れる事ができました。
 
 一通り朝の身支度が終わると朝食を食べ、由良姉さんに読み書きを教わります。
 村にいた頃、ほんの少しだけ和尚さんから教わった事はありました。
 いろはに……といった簡単な文字は教わっていたのです。
 でも、ここで教わる読み書きは難しい字が沢山。
 最初こそちんぷんかんぷんでしたが、だんだん読める事そのものが面白くなり、由良姉さんも驚くほど短期間で私は読み書きを覚えていきました。

 そしてお昼を過ぎたら私の禿としての教育が始まります。 
 由良姉さんが遊郭に出る時に、当然私がついていくのですが。
 その時はきちんと着物を着てお供をしなくてはいけないのです。
 なので、由良姉さんが見つくろってくれた着物を着て、髪を整えて頂くことになりました。
 こんな綺麗な着物を着るのは生まれて初めてです。 

「……しかし、こうして綺麗に身繕いして髪を整えると姫様に似ているねぇ」
「え?」
「年も同じだし、背格好も似ているし。
 姫様の隣に今の恋を座らせたら見分けがつかないかもしれないよ?」
「は、はあ……」

 正直、由良姉さんにからかわれているのだと思ったのです。
 私はそれこそどこにでもいるような村娘でしかありません。
 そんな私が姫様に似ている、などと言われてもぴんと来るはずもなく。
 ただ、その時の由良姉さんの目が妙に鋭かったのだけは心に残りました。

 時折私をここに連れてきてくれた行商人のおじさんが顔を出してくれることもありました。
 お母さんもお父さんも元気で、私の様子をおじさんに聞いたりしているそうです。
 そして何よりも驚いたのは、私の村に姫巫女様が豊穣の祈祷に来て下さったこと。
 その事を由良姉さんの方を見て人の悪そうな笑みを浮かべながら私に教えてくれたのです。

 不思議に思った私が由良姉さんを見ると、顔を赤くしながら急にそっぽを向いてしまいました。
 ……きっと私の村の事を聞いた由良姉さんがお願いして下さったのでしょう。 
 ありがとうございます、と頭を下げた私に、「わたしゃ何も知らないよ」と答えた由良姉さんに行商のおじさんと二人で噴き出してしまったこともありました。
 由良姉さん、それだけ顔を赤くしてたら幾ら子供の私でも判ります……。
  
 そんな毎日を過ごしつつ。
 読み書きに加えて算術や舞踊も教わるようになったのが、私がここに来てから1年ほど経った頃でした。
 11歳になった私は、読み書きは由良姉さんも太鼓判を押すくらいの腕になっていました。
 毎日の由良姉さんのお世話もそつなくこなして、着物の着付けもきちんと出来るようになりました。
 この1年で由良姉さんの仕事――将来私もする仕事――というのもきちんと理解出来るようになっています。

 それを理解する切っ掛けになったのはここに来て半年程経った日のことでした。
 それまで私は由良姉さんのお供として一緒に遊郭へ行き、姉さんが客を取る前に部屋に戻されていたのですが。
 その日は隣の控え室に残るように言われ、 由良姉さんの部屋へ男の人が入って行くのを見送ったのです。
 ……しばらくすると衣擦れの音と共に、それまで聞いたことのない由良姉さんの艶の混じった声が聞こえて。
 男の人の声と共にますます強くなる由良姉さんの声に、思わず襖を少しだけ開けて中を覗いてしまったのです。

 目の前に男の人の背中があって、由良姉さんの足が男の人の両側に見えていました。
 男の人が動くたびに由良姉さんがはしたない声を上げ、足を揺らして。
 見てはいけないものだ、と思っても。
 私はどうしてもその光景から目を離す事が出来なくて。
 どれくらいそうしていたかは覚えていないのですが、気づいた時には既にお客さんはいませんでした。

 そして、私の事をいつもの優しい目で見ている由良姉さんの視線に思わず涙を流していたのです。
 ごめんなさい、と。
 見てはいけないと思ったのに見てしまいました、と。
 そんな私を由良姉さんは優しく抱きしめてくれて。
 
「いいかい、恋。
 あんたもね、いつかは私のようにここで男に抱かれる事になるんだ。
 少しずつでいいから、こういう事も覚えていかなくちゃいけないんだよ。
 今日、あんたを部屋に帰さなかったのは少しでも理解して欲しかったからなんだ」

 そう諭してくれたのです。
 あくまでも遊女とはこういうものなんだ、という事を実感して欲しかったのでしょう。
 尤も、まだ私の身体が育っていないと言われて私自身がそういった行為をするという事はありませんでした。
 ……由良姉さんに比べてぺったんこな私の胸がちょっと悔しかったのは心の奥にしまっておきます。

 今まで教わってきたのはあくまでもここで暮らしていく為に必要な事でしたが、これからは遊女として必要な事を学ぶ事になりました。
 必要とあれば京のお公家様の前に出ても恥ずかしくないくらいにしてやるよ、とは由良姉さんの弁。
 そして厳しくも優しい由良姉さんの元、私の遊女修業が本格的に始まったのでした。

 とはいえ。
 まだ身体の発育も不十分な私でしたから、殿方を相手にする為のものではなく舞踊や唄から学ぶ事に。
 ……算術以外にも右筆として必要な読み書きに、はては茶道や歌道、俳句や漢詩まで。
 由良姉さん曰く、

「恋は何でも出来るし覚えが良いからねぇ。
 教えがいがあるから何でも教えちまうんだよ」

 とのこと。
 ……確かに何かを学ぶというのは私にとってとても楽しい事ではあります。
 そして気付けば13歳になるまで、一向に遊女としての本分――つまり殿方相手の秘め事――は全く教わることなく過ごしていたのです。
 この2年で少しですが胸も大きくなってきて、身体付きも少しづつ女性らしくなってきている……とは思うのですが。
 どちらにしても実際に遊女として遊郭に出るのは15を過ぎてから、焦る事はないと由良姉さんに言われてしまったのですけれど。

 そういえばこの2年、毎年姫巫女様が私の村に祈祷に来て頂けているそうで。
 食べるのにも精一杯だった私の村が、今では年貢を納めてなお他に作物を売れるくらい豊かになっているとか。
 これも由良姉さんと姫巫女様のおかげです。
 まだお母さんとお父さんに会う事は出来ませんが、行商のおじさんから話を聞いたり手紙を預けて届けて貰ったりしています。
 尤も、私の両親は読み書きまでは出来ないのでおじさんが代読しているとの事。
 それでも私が書いた手紙を自分で読みたいと、最近は村の子供に交じってお寺で簡単な読み書きを習っているそうです。
 近いうちに私宛の手紙が来るかもしれません。
 

 

 

 ……14歳になった年の瀬。
 流行り病で両親が亡くなった、と行商のおじさんに告げられました。
 最初、何を言われたのかよくわかりませんでした。
 前に来た時は読み書きが大分出来るようになって、今度は手紙を出せると嬉しそうに語っていたと聞いていたお母さんとお父さんが。
 初めてこの別府に来た日に感じた寂しさと哀しさが蘇って来て。
 次の瞬間、目の前が真っ暗になって私は気を失ってしまったのです。
 気付いた時は私は布団に横になっていて。
 傍らには由良姉さんと行商のおじさんが心配そうな顔で私を見ていました。
 
「……恋、辛いだろうけど受け止めなきゃいけないよ。
 それとね、哀しい時は遠慮なく泣きなさい。
 無理に我慢したらあとで立ち直れなくなるからね」
「由良……姉さん……」

 由良姉さんに言われて。
 それまで我慢していたものが全て溢れ出て。
 私はその場で号泣したのでした――。
 

 

 

 どれくらい泣いていたのか。
 それでも由良姉さんもおじさんも、ずっと私が泣きやむのを待っていてくれて。
 泣きやんだ私を由良姉さんが優しく抱きしめてくれて、少しだけ哀しさが和らいだ気がします。

「恋、これは預かりものだ。
 お前の母さんが嫁入りの時に付けていたものだそうだ。
 他は……、流行り病が広がらないように家ごと焼かれてしまったから、唯一の形見になる」

 そう言われておじさんが私に差し出したもの。
 それは全体的に地味ですが、出来の良い飾り櫛でした。
 病で亡くなる前に、私にこれを渡して欲しいと頼まれたそうです。
 その櫛を胸に抱いた私は再びこみ上げてきた哀しさに涙を抑え切れなくて。

 きっとこの時、初めて私はこの別府遊郭の遊女の一人としての自覚を持ったのだと思います。
 それまではいつか村に帰れる、という思いがどこかにあったから。
 両親の死を聞いて、私が帰る場所はもうなくて。
 ここが私のいるべき場所になったんだと。
 
 私が本当の意味でこの別府遊郭の一員となったのは、この日の事だったのです―――。

 


補足
 本文中にあります「客を取るのは15歳を過ぎてから」というのは吉原を参考にしています。
 また、生活部屋と客を取る閨が別なのは由良姉さんが高位の花魁の為です。
 参考書籍>図説吉原入門


          


とある少女の物語第三話 恋の初恋と新造出し

 

 

 私の両親が亡くなった事を知らされたその日の夜。
 形見の櫛を抱いたまま私は眠りにつきました。
 そして翌日。
 目が覚めて身支度を整えようとした私の目に飛び込んできたものは。
 布団の上に記された赤い点でした。

「!?」

 血であることはすぐに判ったものの、それが何を意味しているのかまで考える事が出来ず。
 大慌てて由良姉さんを起こして事情を説明したら大笑いされてしまいました。
 
「恋!
 あんたもようやく女になったんだよ!」

 その言葉を聞いて、これが私の初潮だった事に気付いた時は恥ずかしくて仕方ありませんでした。
 何しろ私の初潮が中々来ない事で、由良姉さんが些か不安を感じていたくらいですし。
 こういう事があれば初潮なんだ、と言う事は教わっていたのですが、見ると聞くとでは大違いという事でしょう。
 両親が亡くなった事を知った翌日に私自身が女になる第一歩を踏み出した、というのはちょっと出来過ぎという気もしますが、これもきっとお母さんの形見の櫛のおかげだと思う事にしました。

 そして――。
 今日の仕事はすべて中止となり、 由良姉さんがせわしなくあちこちに声を掛けています。
 普段なら私がお手伝いをするのですが、きっぱりと断られてしまいました。
 
「いいかい恋。
 急だけど明後日にあんたの新造出しをやるよ。
 ……ご両親の事があった直後だけど、だからこそ目一杯派手にやるよ。
 これも供養の一つだと思いなさい」

 新造出し。
 禿を卒業して、新造になる際に行われるお披露目の事だそうです。
 新造というのは禿の頃と違い、由良姉さんの都合が悪い時などに殿方のお相手をする事もあるのだとか。
 ただ、水揚を済ませていない新造はお相手と言っても伽ではなく、由良姉さんが部屋に来るまでの間、殿方とお話をするのだそうです。
 ……この時殿方から誘われても決して肌を許してはならない、とも言われました。
 
 それはさておき、この新造出し。
 私が正式に遊郭へ上がる事を杉乃井御殿の皆様にお知らせして、遊郭にお越しになる殿方へのご紹介も兼ねているそうで。
 そして一番驚いたのは。
 この新造出しを行うのに必要なお金は、全て由良姉さんが用意するという事でした。
 そんな事までお世話になるわけには、と言い募ったのですが、帰ってきた答えは。

「馬鹿だねぇ、地味にやったらこの由良姉さんの女が廃るってもんだ。
 良いかい、これはあんただけの問題じゃないんだ。
 私がここまで立派に育て上げたって事を知らしめるのも目的なんだよ」

 つまり。
 私がお披露目を受けるのに地味な姿では、姉遊女である由良姉さんの沽券に関わるのだそうです。
 何より私をきっちり育て上げたという自負がなければこんな事は出来ないんだと。
 だから遠慮なんかする必要はないんだよ、と。
 優しくそう言うと、私を抱きしめて頭を撫でてくれました。
 ……ここに来たばかりの頃を思い出して懐かしくもあったのですが、流石に14になった今では頭を撫でられるのは少々恥ずかしかったのですけれど。

 
 そして私の新造上げの日がやってきました。
 普段寝起きしている部屋で、いつもは私が由良姉さんの着付けを手伝うのですが、今日だけは私が由良姉さんに手伝ってもらっています。
 綺麗な着物を着て、髪を結いあげて。
 由良姉さんが遊郭に出る時は奇麗な飾り櫛を挿すのですが、飾り櫛が用意されていません。
 不思議に思ってその事を聞いたら。

「……あんたの晴れの舞台だよ、形見の飾り櫛を使わずどうするのさ。
 あの櫛は見た目は地味だけど筋の良いものだからね。
 それになによりご両親も恋と一緒の方が良いだろうさ」

 そう言って形見の飾り櫛を出すと、私の髪に挿しこんでくれました。
 由良姉さんの気遣いが私にはとても嬉しくて。
 でもそれ以上にお母さんの飾り櫛を使う事に思いが至らなかった私自身が情けなくて、思わず涙を零してしまったのでした。
 
「あーあー、晴れの舞台に涙は似合わないよ。
 ほら、こっちを向きなさい」

 苦笑しながら私の涙を拭ってくださって。
 私も気持を切り替えて、頬をぱちんと叩いて気合を入れると由良姉さんに先導されて外へ繰り出したのです。
 私を先頭に、由良姉さんが後ろに。
 さらに遊郭の若衆が祝いに炊いたお赤飯を配って歩きます。

 そんな感じで杉乃井御殿の道をゆっくりと練り歩いているのですが。
 物凄い人出です。
 なんでも新造出しでお披露目する遊女は、その後三月四月の間にお相手を決めて突出しと水揚を行うとの事で。
 ……突出しというのは遊女となった新造が初めて客を取ることで、水揚というのはつまりその、初めて殿方のお相手をする事なのです。
 新造として由良姉さんの仕事に付き、そこで馴染みの殿方を見つけて水揚をお願いする……という事なのですが。
 つまりこの人出は私を見定める常連様が沢山いらっしゃるという事らしく。

 正直、まだ私自身が殿方に抱かれる姿というのが想像できないのですが。
 それでもこうして着飾った姿で歩いていると、自分が本当の意味でこの別府遊郭の一員となった事を自覚させられます。
 それにしても今日は妙に大友家の若武者衆が多いのです。
 殿方への愛想は常に絶やさず、と由良姉さんに言われていましたから、そちらの方にもにこやかに微笑んで手を振って。
 ……私が手を振ったら皆様顔を赤くしてそっぽを向いてしまいました。
 何か気付かぬうちに粗相をしてしまったのでしょうか……。
 そんな事もありましたが、一刻近くを掛けて杉乃井御殿をぐるりと回り、私の新造出しは無事に終了したのでした。

 

 私が新造出しを終えた翌日。
 今日からは今までとは生活が変わります。
 まず、由良姉さんから習う事に房事が加わりました。
 殿方を悦ばせる為の手練手管を本格的に学ぶのです。
 
 私はまだ突出しをしていませんから、本当に殿方を相手にするわけにはいきません。
 そんな私の為に由良姉さんが取り出したのは「張り形」と呼ばれるものでして。
 これは殿方のその、あれを模したものなのだそうです。
 閨で殿方にどのような事をすれば良いのかをこの張り形を使って教わるのです。
 
 もうひとつ、私がやらなければならないことが増えました。
 それは私の下腹部に大友家の杏葉紋を彫ること。
 彫師の方も女性ではあるのですが、流石に足を大きく開くというのは抵抗がありました。
 それでもやらなくてはいけない訳でして。

 いえ、14歳になってもまだ、あの。
 生えていないんです、私。
 おかげで彫師の方には「恋ちゃんは仕事がしやすいねぇ、こんな綺麗な肌でさ」などと言われ、思わず赤面する有様で。
 ……結構気にしているんですよ?
 結局、ひと月掛けて全てを彫り終わるまでその事で散々からかわれました……。
 
 そして肝心の新造としてのお仕事なのですが。
 私が新造出しを終えてから、由良姉さんへつく殿方が少し変わりました。
 今まで由良姉さんをご所望の殿方は、裕福な商人様やある程度御歳を召したお武家様が多かったのですが。
 最近は若武者衆の方が増えてきまして。

 由良姉さんの準備が整うまでの間、私がお相手をする事も多くなりました。
 普段はさっさと身支度を整え、ほとんど殿方を待たせることなく閨に来る由良姉さんなのですが。
 何故若武者衆の方がお越しの時だけ時間を掛けるのか不思議になって聞いてみたのです。
 ……呆れた顔で言われました。

「恋、突出しと水揚の事は説明しただろう?
 初めての殿方は自分で選べるんだから色々話してごらん。
 そうやって身体を許しても良い相手をみつけるんだよ」

 言われて初めて気付く私も抜けているというかなんというか。
 ただ、その時の私はまだ殿方に対してそういう心を持つことが出来なかったのです。
 あんたの名前は恋(れん)なのに恋(こい)には疎いんだねぇ、とは由良姉さんの弁。
 尤も、遊女である以上本当に恋心を抱いてはいけない訳でして。
 そう、思っていたんです。
 あの方に出会うまでは。


 それは姫巫女様が伊勢参りを済ませ、久しぶりに杉乃井御殿へ戻られた時の事でした。
 姫様のお出迎えは杉乃井御殿の城代でもある麟様や白貴様、花魁の皆様が総出で行っています。
 これまでは禿であった私はお出迎えの際には部屋で待機する事になっていたので、直接姫様を見る機会はありませんでした。
 今回は私も新造となり、お披露目も終わっていたので由良姉さんのお供として姫様のお出迎えをする事になったのです。
 
 しかもこの時姫様は殿方をお連れになっているとかで。
 今まで全くそちらに興味を示した事のない姫様が遂に、と杉乃井御殿中で評判になっていました。
 そして姫様御一行が杉乃井御殿に到着したのですが。
 その中に姫様と並んで馬に乗っていた一人の殿方に私の目は釘付けになって。
 
 ……後から思い返せばまさしく一目惚れ、という事だったのでしょう。
 その時の私は自分の中に湧きあがってきた思いが何なのかさえよく判っていませんでしたから。
 ただただいきなり激しくなった鼓動と湧きあがる感情に翻弄されていて。
 それが私の生涯を本当の意味で決定付けた、珠姫様と四郎様との出会いだったのです―――。

 

 


 ……姫様に並んで杉乃井御殿へ入城された方のお顔が頭から離れないのです。
 あの方の事を想うと、胸の鼓動が速くなって居た堪れない気持ちになってしまいます。
 これが誰かを好きになる、という事なのでしょうか……?
 

とある少女の物語第四話 恋の葛藤


「こら、恋!
 あんたらしくもない。
 姫様を迎えてから気が抜けてるじゃないか。
 一体どうしたのさ?」
「あ、いえ……。
 なんでもありません」
「何でもないようには見えないよ?
 いつもてきぱきと仕事をこなすあんたが、この数日失敗ばかりじゃないか」

 由良姉さんの身支度を手伝いながらあの方の事を思い出してしまい、怒られてしまいました。
 普段の仕事をしている時にこれではいけない、と判ってはいるのですが。
 それでもあの方の事が頭から離れず、あの方の事を考えてしまうとどうしてもそちらに意識がいってしまうのです。
 そのせいか、今までしたことのなかったような失敗をしてしまう有様で。

 あの方が誰なのかはあの日の夜、由良姉さんに教えて頂きました。
 毛利少輔四郎元鎮様。
 この杉乃井御殿の主である珠姫様の思い人で、大友家の宿敵とも言える毛利家の方でありながら姫様の為だけに出奔されて来たのだとか。
 そのような方に私のような者が懸想して良いはずがありません。

 それなのに、一度私の胸に生まれてしまった想いはどうしても消すことが出来なくて。
 由良姉さんに房事の手解きを受けながら思いをはせるのは、馬に乗ったあの方の凛々しい御姿で。
 不可能だと判っていても、あの方に私の水揚をお願いしたい、女としての初めてを捧げたい、と思ってしまうのです。
 叶わぬ願いと判ってはいるのです、判っているのですが。
 それでも、万が一あの方が遊郭に足を運んで下さるのならその時は……、と思わずにはいられないのは私の弱さなのでしょうか。 

 

 そんな私の思いとは無関係に時は流れ。
 年が明けてからしばらくすると徐々に慌ただしくなってきました。
 理由は、戦。
 姫様を総大将に南伊予へ攻め込むのだとか。
 姫様と共に戦場へ赴く姫巫女衆の皆様も忙しく準備に立ちまわっています。

 そんな中。
 私はこの杉乃井御殿の実質的な主である麟様にご挨拶に上がることになりました。
 禿から新造となり、遊女として遊郭に上がる前にお目通りを済ませておかなければいけないとのこと。
 由良姉さんは麟様、白貴様とはこの杉乃井御殿が出来た頃からのお付き合いとの事なのですが、私からすれば姫様と並ぶくらい雲の上のお方です。
 お目通りの日時が決まった時はとても緊張していました。


 
「此度、禿から新造となりました恋でございます」

 麟様、いえ。
 この杉乃井御殿の責任者としてお会いする場合は本来豊後太夫、とお呼びしなければいけないのですが。
 私が新造としてきちんと身なりを整え、麟様の部屋へ通されまして。
 緊張に震えながらご挨拶申し上げた途端、とても渋い顔をなされました。

 麟様の隣に控えている白貴様も同じように、何と言いましょうか、苦虫を噛み潰したような表情で私の事を見ているのです。
 何か粗相をしてしまったのかと、恐る恐る由良姉さんを見ましたら。
 由良姉さんは袖で口元を隠して、どうやら笑いを堪えているようで。
 どうしていいか判らず、困っていますと。

「……ぷっ、くくく、あははははは」

 もう堪え切れない、と由良姉さんがいきなり声を出して笑い始めました。
 その由良姉さんを、麟様と白貴様が再び渋い顔で見ておられます。

「恋、麟様と白貴はねぇ、あんたが姫様と瓜二つで丁寧な態度を取ったもんだから、狐にでも化かされたような気分になってるんだよ」
「……え?」

 思わず聞き返してしまいました。
 ……私と姫様が瓜二つ。
 確かに最近いらっしゃる若武者衆の方にはよくそう言われるのですが。
 由良姉さんのその言葉に、麟様と白貴様もため息をついておられます。
 
「あー、まったくもう。
 由良、あんたわざと恋に馬鹿丁寧な対応させたんじゃないだろうね?」
「いやいやそんな。
 恋には普段通りの挨拶をするように言っただけですよぉ?」

 白貴様の言葉に由良姉さんが軽口を返しています。
 確かにいつも通りの挨拶をしなさい、と言われていたのですが。
 由良姉さんがとても楽しそうな表情なのは気のせいではないと思います。

「それはまあいいとしてだ。
 ほんと恐ろしいくらいに似ているねぇ、ごく一部を除いてだけどさ」
「確かに。
 ここまで姫様に似ているとなれば若武者衆が熱をあげるのもわかります」

 白貴様と麟様が私を見ながらうんうんと頷いておられます。
 ……でもごく一部って、とお出迎えをした時の姫様を思い出して。
 はい、胸ですね。良くわかります。
 確かに馬に乗った姫様の胸は、白衣を押し上げんばかりに自己主張されておられた気がします。

 翻って私といえば。
 ここに来た4年前のようにぺったんこではありませんが、やはり姫様に比べれば小さいのです。
 由良姉さんはあんたはまだまだ成長期なんだからもっと大きくなるさ、とは言って下さったのですが。
 私と姫様は年が同じですから、それはつまり姫様のような大きさにはなれないという事ではないかと……。

 ……とりあえず胸の事は忘れておきます。
 その後も麟様、白貴様と少しお話をさせて頂いたのですが、やはり私が話す度にどこか居心地の悪そうな表情です。
 白貴様など、ついに「恋、もっと砕けた話し方をしておくれよ!」と言い出す有様で。
 麟様も白貴様の言葉に頷きかけて、慌てて首を振ったりしていました。

 結局、最後までお二人ともどことなく微妙な表情のままで。
 由良姉さんがそんなお二人を楽しそうに眺めていたのが印象的でした。
 それと、麟様から私の突上げと水揚の時期についてお話があったのですが。
 間もなく出陣となる南伊予攻め、それが終わって姫様が杉乃井御殿にお戻りになられた時点で行うそうです。
 
 勝利の祝いと共に行えるよう頑張っておくれよ、とは居残り組の由良姉さんの弁。
 本来なら戦場慣れしている由良姉さんも参加する筈だったのですが、私の突上げと水揚が控えているので居残りになったそうです。
 お目通りも終わって、部屋へ戻る道すがら。
 私はご挨拶の最中から考えていた事を由良姉さんへ伝える事にしました。

「……由良姉さん、私の水揚の事なのですけれど。
 殿方は由良姉さんが選んで頂けませんか?」
「……そりゃあんたがそう言うなら、探すのはやぶさかじゃないけどさ。
 本当に良いのかい?
 あたしが言うのもなんだけど、恋の初めてなんだよ?
 最初くらいは自分で決めた男にした方が良いと思うんだけどねぇ」

 勿論、私も自分で決めた方に水揚をして頂きたいとは思います。
 でも、それがあの方では望みを叶える事は出来ないというのは自覚していますから。
 かといって、それを理由に他の殿方を私が選ぶのではその方に失礼だと思うのです。
 だからこそ、由良姉さんに選んで頂きたいと。
 
 私が一番信頼出来る由良姉さんの選んだ方なら間違いはないと、そう思うから。
 姫様の思い人へ懸想しているとは言えませんから、どうしても自分で選ぶ事が出来ないのです、と由良姉さんに伝えたものの。
 やはり一抹の寂しさが胸にこみ上げてくるのはどうしようもなくて。
 由良姉さんも私の様子を察してか、そのまま二人とも無言で部屋へ戻ったのでした。

 

 そして再び新造としての日々。
 戦を控えているからでしょうか、今までにもまして若武者衆の方々が杉乃井御殿に来られます。
 由良姉さんも呼び出しの回数が増えて、同時に私の出番も多くなります。
 時折、酔っぱらった方もいらっしゃいます。
 
 いえ、単に酔っているだけなら良いのですけれど。
 私が水揚を控えている事は既に皆様ご存じのようでして。
 ……酔っぱらった方が私に迫ってくる事があるのです。
 殿方から申し出があるというのは女冥利に尽きる、というのは由良姉さんの弁なのですが。

 酔っていなくてもそういった申し出はありましたし、私のような者には身に余る事だとは思います。
 それでも。あの方が私の事を全く知らないと判っていても。
 私の心の中で、私が自分の意思で他の殿方を選ぶという事は、あの方を裏切るような気がするのです。
 こんな私の思いを他の人が知ったら、きっと愚かな娘だと思うのでしょう。
 何しろあの方は私を知らず、私の一方的な想いだけで自分自身を縛っているのですから。

 自分の思いに自分なりのけじめをつけた数日後、ついに姫様率いる軍勢が出陣致しました。
 私はそれを一人見送ると、杉乃井御殿の中にある神社へ向かいました。
 誰に理解されなくても構わないから。
 ただ、自分の心にだけは素直でいたいから。

 だから、私は決めたのです。
 四郎様がお戻りになるまで、毎朝この神社で水垢離をしてあの方のご無事とご武運を祈ろうと。
 例え愚かな娘と思われても、自分自身に嘘はつきたくないのです。
 私の中にある、四郎様への想いを私自身で裏切りたくないのです。
 それが今の私の、偽らざる心なのですから―――-。

 


 

 姫様の軍勢が南伊予で勝利をおさめ、凱旋なされました。
 同時に私の突出し、水揚の日取りも決まりました。
 もうすぐ私も「女」になるのです。
 由良姉さんは「もう相手は決めてあるよ」と仰るのですが、誰なのかは教えて下さいません……。
 でも由良姉さんが決めた殿方ですから、私は由良姉さんを信じるだけです。

 

とある少女の物語第五話 突出しと初体験

 

 そしてとうとう私の突上げ当日です。
 この日の為に私が身につける晴れ着が用意され、再度のお披露目が行われるのです。
 前回の新造上げと違い、名実ともに遊女となる私の為に用意されるものは由良姉さんではなく、杉乃井御殿で準備されます。
 ……それにしても、このお披露目はつまり、その。

 私が突上げと水揚を行う、という事を知らしめるものな訳でして。
 それは逆に言いますと私が殿方に肌を許す、という事が本日杉乃井御殿にいらっしゃっておられる方々全てに知られるという事でもあります。
 そう思うと少し気恥ずかしくなってしまうのです。
 今まではあくまでも由良姉さんの名代として殿方とお話をしていたのですが、これからは私自身が最後までお相手しなければなりません。
 
 いよいよ突出しです。
 晴れ着を着た私を先頭に、杉乃井御殿で私が与えられた部屋へ向けてお披露目の行列。
 今日は周りへの愛想は控えめにして、きちんと正面を見据えて歩いて行きます。
 回りの方々からのお祝いの声に包まれながら、私は遂に遊女として杉乃井御殿へと入ったのです。


 
 杉乃井御殿へ入り、まずは姉遊女である由良姉さんにお披露目が終わった事をご報告します。
 そして自分へ割り当てられた閨へ移動するのですが。
 
「うん、よーく似合ってるよ。
 でもここでその晴れ着は脱いでもらうからね?」
「はい?」

 ……由良姉さん、何故いきなり巫女服を取り出すのですか?
 最初だからこそしっかりしないといけないと思うのですが……。
 そんな私の抗議も「これは今日のお客さんのご希望なんだよ、良いから早く着替える!」という由良姉さんの言葉にあえなく沈黙。
 どのような方を選ばれたのでしょうか、由良姉さん……。
 
 何はともあれ、お客様のご要望であるとなれば着替えない訳にはいきません。
 いけないのですけれど。
 白衣に緋袴、これは判ります、判るのですよ。でも。
 この二つだけ、というのはどういう事なのでしょう……?
 
 内に着る襦袢もなければ足袋もありません。
 いえ、確かにこれから私は水揚を行う訳ですから、やたら着こんでいても仕方ないのかもしれませんが……。
 正直、由良姉さんが選んだ殿方、というのが些か不安になってきた私は間違っているのでしょうか?
 とにもかくにも用意された巫女服に着替え終わり。

「うん、よく似合ってるわね。
 元が良いんだから当然って気もするけどさ。
 さあ、隣の部屋で待ってなさい。
 最初の挨拶は以前教えた通りにするんだよ、ほら、さっさと行く!」

 由良姉さんに背中を押されて隣の部屋へ。
 既に寝具が整えられ、布団の隣には屏風が立てられています。
 この屏風は私が脱いだ着物を掛けて置く為のもので、これも杉乃井御殿で用意して下さった私の専用品なのだそうです。
 布団の上に正座して座り、お客様を待ちます。

 どのくらいの時間が経ったのか。
 私自身はとても緊張していましたから、実際にはそれほどでもなかったのかもしれません。
 ともあれ、がらりと襖が開けられ。

「本日お客様のお情けを頂き、水揚をして頂く新造でございます。
 至らぬ事もあるかと思いますが、お願い致します」

 誰が来たのかも確認しないまま、私は反射的に由良姉さんに教わった通りの言葉と共にその方へ平伏致しました。
 
「……姫?
 何をしているのです?」

 ……姫?
 え?
 私が姫様に似ている、というのは勿論判っています。
 麟様や白貴様へのお目通りでもそれはよく判りましたし。
 でも、今日のお客様は由良姉さんにお願いして決めて頂いた方ですし、私と姫様を間違うはずはないのですが。
 そう思って顔を上げると。


 ……!?


 そこで私の事を見つめていらっしゃるのは。
 今までずっと想い続けて、懸想する事など許されない方だと判っていて。
 それでも私の水揚をお願いしたかった、あの方が。
 不思議そうな顔で私を見ていらっしゃるのです。
 
 きっと、今の私の顔は真っ赤になっていると思います。
 でも。何故。どうして。
 四郎様。
 あの方が私の閨に来るのかと。
 有り得ない現実を前に、私の頭の中は大混乱していて。

「姫、一体どうされたのです?」

 気付けば目の前に四郎様が。
 そして不安そうな顔で私を見ていらして。
 その現実に私は思わず涙を流してしまって。

「四郎……様……」
「!?」

 感極まって思わず名前を呼んでしまった私の言葉に。
 四郎様の表情が一瞬で硬くなり。
 疑いの眼差しが私へ向けられました。
 
「……姫ではありませんね?」

 冷たい声で私にそう問い掛けてくるその姿に。
 私の心は一瞬で凍りつき。
 沈黙が部屋に落ちたと思った瞬間。
 控えの部屋に続く襖ががらっと勢いよく開けられ。

「四郎〜、やっと気付いたの?」
「姫様っ!?」

 隣の部屋から現れたのは。
 私と同じ巫女服を着た、本物の珠姫様だったのです―――。

 

 何が起こったのかすぐには理解できず。
 ようやく落ち着いた私に、珠姫様が今回の件をすべて話して下さいました。
 なんでも、由良姉さんから白貴様を通じて珠姫様に私の水揚を行う事と、そのお相手として四郎様をお願いしたいと申し出があったそうなのです。
 最初は珠姫様も四郎様が他の女性を抱く事に難色を示しておられたそうなのですが、私が姫様にそっくりだという話を聞いて了承されたのだとか。

 それがつまり先程の、要するに四郎様に何も知らせず私と会わせる事でどういう反応をするのか見てみたかった、との事で……。
 何と言いますか、その事を心底楽しそうに語る珠姫様が、私が今まで抱いていた印象を完全にひっくり返すのに十分で。
 その話を聞いた四郎様も渋い顔をしていらっしゃいます。
 
 ……珠姫様以外の女性を抱く心算がない四郎様にとって、きっと今回の件はお気に召さないのでしょう。  
 その事に思いが至った私の心は少し沈んでいて。
 四郎様が望まぬのに無理に私を抱いて頂くという事に、抱いて欲しいと思う私と、それはいけないと思う私がいて。
 
「しかし四郎、いつ私と恋ちゃんが別だって気付いたの?」
「……いえ、恋殿が私の事を様付けで呼ばれた事で」
「ふーん、でもそれだけじゃないわよね?
 正直に言いなさい」
「いえ、その。
 姫様にしてはこう、胸のあたりが小さいと……」

 ……私の思いとは別に、お二人が何やら話して……というより四郎様が珠姫様に詰め寄られています。
 しかも何かこう、話題の中身が……。
 今までお二人に抱いていた印象が短時間で音を立てて崩れていった気がします。
 しかし、このままでいるわけにもいきません。
 私は思い切って話を切り出すことにしました。

「珠姫様、四郎様。
 此度の件でご迷惑をお掛けいたしまして真に申し訳ございません。
 私の水揚は後日改めて行いますよう麟様と白貴様にお願い致しますので本日は……」
「ちょい待ち」

 お二人に平伏し、そこまで話したところで珠姫様に遮られました。
 
「良い?
 恋の水揚の客として私が来た。
 だけど私じゃあなたの初めてってわけにはいかないから、四郎にあなたの相手をさせる。
 それが約束なの、だから四郎にも嫌とは言わせない。
 良いわね、四郎?
 それにあれよねー、私とそっくりなあなたを嫌だって言ったら私が嫌だって言ってるようなものだしねー」

 何やらとても楽しそうな珠姫様。
 翻って四郎様は複雑な表情をしていらっしゃいます。
 確かに私は珠姫様とそっくりと言われているのですが。
 
「……はい、姫の仰せのままに」
「宜しい」
 
 結局、珠姫様に押し切られる形で四郎様が私の水揚をして下さる事に。
 とても、とても光栄な事ですし、叶わぬと思っていた事が叶ったのですから私にとって何を言う事もないはずなのですが。
 ……目の前で姫様がさっさと巫女服をお脱ぎになられているのです。
 これは一体……。

「あー、当然私も参加させて貰うからね?」
「……は、はあ」

 当たり前のように仰る珠姫様に。
 私は間の抜けた声を返すことしか出来ず。
 そんな私をよそに、珠姫様が私の後ろに回り込んで。
 
「んっふっふ〜、さーて、恋ちゃんの感度はどうかな〜?」
「ひゃうっ!?」
「初めてなんだから、十分準備しないときついわよ?
 四郎のはおっきいんだから」
「姫っ!?」

 突然珠姫様に、巫女服の上から胸を鷲掴みにされました。
 しかも手慣れた様子で私の胸をむにむにと揉むのです。
 確かに自身の準備に関しては私も由良姉さんから手解きを受けていますし、特に最初は十分、あの、あそこを濡らしてから……とは聞いているのですが。
 それでも四郎様の目の前で珠姫様に胸を揉まれ、あられもない声を上げてしまう事が恥しくて。
 
「た、珠姫様……、や、やめ……ひゃあっ!」
「本当にやめちゃって良いのかな〜?
 しかし恋ちゃんってば随分敏感なのねぇ。
 ちょっと弄っただけでこんなになるなんて」

 私の羞恥などお構いなしとばかりに珠姫様の手が私の身体を弄って。
 敏感に反応した私の乳首はもう硬くなり始めてしまっていて。
 巫女服の上からでもはっきりと判るくらいになってしまっていました。
 その乳首を巫女服の上から珠姫様に抓まれ、私の身体がびくびくと震えてしまい。

「四郎もそこに突っ立ってないで。
 恋ちゃんの準備、手伝ってあげなさいよ」
「はい、ひm……、いえ、珠」

 珠姫様に促され、四郎様が私の足元に座られました。
 そのまま四郎様の顔が私の顔に近付いて来て。
 目の前に四郎様の顔が……と思った次の瞬間、私の唇が四郎様に塞がれ。
 突然の口付けの上、さらに四郎様の舌が私の歯をこじ開け、私の口内へ侵入して来ます。

 反射的に私も四郎様の舌に舌を絡ませ。
 しばしの間、私と四郎様の口付けが続いて。 
 お互いの唇を離した時には、その間にねっとりとした橋が掛かっていました。
 
「うわー、四郎ってば大胆ねぇ、恋ちゃん初めてなのに」

 珠姫様がそう四郎様に声を掛けつつ、さらに私の白衣が肌蹴られ、露になった胸を直接揉みしだいて。
 胸から手が離れたと思った次の瞬間、珠姫様の手が私の足に伸びて―――。
 緋袴をめくり上げられて膝裏を抱えられ、四郎様に向けて脚をがばっと開かされてしまいました。

「!?」
「こっちも十分解してもらわないとね〜。
 四郎、私にするみたいに恋ちゃんにもしてあげて」
「はい」
「や、いや、恥ずかしいですっ……」

 後ろから珠姫様に足を思いっきり広げられている訳で、それはつまり、私の大事な場所が四郎様に全て御開帳してしまっているという事で。
 あまりの恥ずかしさに、思わず手で顔を隠し、なんとか珠姫様の手から逃れようとするのですが。
 完全に足の間に入ってきた四郎様がいるので、足を閉じる訳にもいかず。
 それ以上に四郎様の指が私の秘唇を優しく撫でている、という事実に頭の中が真っ白になって。
 
「やあっ、私、私おかしくなっちゃいます、し、四郎様ぁっ……!」

 指に加え、さらに私自身の秘唇へ四郎様の舌が触れた瞬間、私の意識が飛んでしまったのです。
 
「……恋ちゃん、思った以上に敏感みたいね。
 あれだけでイッちゃうなんて……」
「す、すみません……」
「だけどほら、もうこんなに濡れてる。
 これだけ濡れていればもう大丈夫だと思うわよ?」

 はぁはぁ、と荒い息をなんとかおさめて。
 なんとか正気に戻った私の目の前には、私自身が秘唇から溢れさせた液体が絡められた珠姫様の指。
 その事実に再び羞恥心が刺激されて。
 そして、珠姫様の言う「大丈夫」という言葉の意味にも否応なく気付く事に。
 それはつまり、四郎様に本当の意味で私が抱かれるという事で。

「でもその前に、四郎の準備もしてあげないとねー?」

 ……四郎様の準備。
 珠姫様のその言葉は、浮ついていた私の心に冷水を浴びせたかのような効果がありました。
 私は遊女なのです。
 なのに、私は四郎様に抱いて頂けるという事に意識がいっていて。
 
 一番肝心な、お客様を悦ばせてさしあげるという本分を完全に忘れてしまっていたのです。
 ぼうっとした頭で由良姉さんから教わった、殿方のその、あれを起たせる為に何をするのかを思い出して。
 珠姫様の言葉に四郎様も私が何をするのかを察したようで、私の目の前に立ち上がると褌を解き、四郎様ご自身が私の目の前にあらわれました。
 ……それは今まで由良姉さんに教わる時に使っていた張り形より一回り大きくて。

「し、失礼致します……」

 小声でそう呟き、目の前に突き出された四郎様の逸物にそっと指を絡め、ゆっくりと手を上下させて四郎様のそれを刺激していきます。
 私の手の中で、四郎様の逸物がびくんびくんと震え、少しずつ大きく、硬くなって。
 
「ん〜、由良から習ったのはそれだけじゃないわよね?」
「あ、はい……」
「この際なんだから、全部四郎で試しちゃいなさい、ね?」

 珠姫様に促され、由良姉さんから習ったことを思い出します。
 確か胸で殿方のアレを挟むというのがあった、のですが。
 ……自分の胸を見て、少し落ち込みました。
 珠姫様の大きな胸と違い、私の胸で四郎様の逸物を挟めるのでしょうか……。
 そんな事を考えていると。
 
「ほら、案ずるよりなんとやらって言うじゃない。
 私も手伝ってあげるから胸で四郎のを挟んであげなさい」

 珠姫様、何故私が次にしようとした事が判るのですか?
 そんな疑問が頭に浮かびましたが、このまま何もせずにいるわけにもいきません。
 私は意を決して四郎様のもとへ身体を寄せ、胸の間に四郎様の逸物を挟み込みました。
 さらに珠姫様が私の胸を左右から押して、かろうじて四郎様の逸物が私の胸の間へ。 

 私も自分の胸に手を添えて、ゆっくりと身体を上下に動かします。
 四郎様の逸物が私の胸の間を動くたび、私も快楽の波に揺られて。
 もっと四郎様を感じていたい。
 もっと四郎様に感じて頂きたい。
 そんな思いが私の中でどんどん大きくなって。

 四郎様の逸物を胸から離し、そっと指を添えて私の口元へ運び。
 そのまま四郎様ご自身を私の口の中へ。
 由良姉さんに教わった中で、一番驚き、抵抗があったその行為。
 それすらも自然と出来てしまっていたのです。

 私の口内に入ってきた逸物に舌を絡ませ、舐め上げて。
 さらに顔を前後に動かして全体を刺激して。
 四郎様の先端――鈴口、という場所だそうです――をゆっくりと舐め回し、少しずつ染み出してきた液体を吸い取り。
 私の口内で、ただでさえ大きくなっていた四郎様の逸物がさらに大きさと硬さを増して。

「くっ……、恋殿、もう十分です……」

 私が夢中になって四郎様の逸物を咥えているうちに、四郎様も十分に準備が整っていたらしく。
 四郎様の言葉にゆっくりと口を離し。
 改めて布団に座りなおして。 

「し、四郎様……。
 私の水揚を、お願い致します」

 恥ずかしさで一杯になりながら四郎様へお願いすると、今度は自分の意思で脚を開いて。
 その言葉を聞いた四郎様が私の脚の間に陣取りました。
 
「四郎様、私にお情けを下さいませ……」

 四郎様の顔を正面から見つめ、自分の手で秘唇を割り開き。
 遂に女に、それも憧れだった四郎様の手で女になるんだ、という悦びと共にあれほど大きな物をはたして私が受け入れられるのだろうかとの恐怖感が湧き上がり。

「それでは行きますよ、恋殿」

 四郎様の宣言と同時に私の濡れた秘唇にくちゅり、と何かが触れた感触があって。
 次の瞬間、身体が内側から広げられるような違和感と一緒に私の大事な場所から激痛が走りました。

「痛いっ、痛、痛いっ……」

 私の叫びに、四郎様の腰が動きを止めて。
 私を気遣うようにこちらを見ていらっしゃいます。
 ご心配をおかけしてしまっては、遊女としてこれから様々な殿方を受け入れる事など出来るはずもなく。

「だい…じょうぶ……です。
 ですから……、四郎様のお情けを最後まで私に下さいませ」
「では……、改めて行きますよ。
 どうしても我慢出来ない時は仰って下さい」
「あぁっ……」

 そう思った私は股間に走る痛みを堪えつつ、四郎様に微笑んで見せて。
 私のその言葉に、四郎様が再び腰を動かして私の膣内へと入ってきます。
 痛みだけではなく、頭が蕩けそうになるような不思議な感覚が加わり。
 遂に四郎様の逸物が私の膣内へと完全に侵入を果たしたのです―――。
 その後幾度も四郎様の精が私の胎内へ注がれ、さらに珠姫様が私に覆いかぶさり、一緒に四郎様を受け入れたり。
 
 はっきり覚えているのはそのあたりまでで、それからの事は……正直靄がかかったようで、よく覚えていないのです。
 ただ。
 はっきりと記憶に残っているのは珠姫様の一言。

「これって疑似姉妹丼になるのかしら?」

 という言葉でした……。 

 

 

 翌日は身体を慣らす事もあってお休みを頂き、数日を空けて私は杉乃井御殿の遊女として普通にお客様を取ることになり。
 あの夢のような水揚の日から僅か十日程のうちに、私は大友家若武者衆の一番人気の遊女となっていました。
 これから先、どんな辛い事があっても。
 四郎様と珠姫様に抱いて頂いたあの日の記憶がある限り、私は大丈夫。そう確信しています。
 そして、改めて珠姫様と四郎様への感謝と忠義を誓ったのです―――。

 


 

 

とある少女の物語第六話 様々な出会い

 

 私が正式に遊女としてお客を取るようになって、早十日程経ちました。
 私を指名して下さるのは大友家若衆の方が多く、最近では若衆の方々の間で一番人気になっているのだそうです。
 ……若い方々なだけに私への接し方も荒々しく、本来なら一晩で数名のお客様を取らなければいけないのですが、どうしても一人だけになってしまっているのが困りものなのですが……。
 由良姉さんからは、

「恋は感じやすいからねぇ、最初の一人であれだけ疲れてたら二人目を取れとは言えないよ」

 と苦笑され。
 本来遊女たる私はお客様を相手にしている時に本気で感じてはいけないのですが、こればかりはどうしようもなくて。
 しかも皆様揃って巫女服を着ることを所望され、せっかく作って頂いた晴れ着も殆ど着ることが出来ません。
 尤も、晴れ着を着ていても結局は脱いでしまう事になるのは同じなのですが……。

 

 そんなある日のこと。
 珍しく若衆の方以外の方が私をご指名されまして。
 きちんと晴れ着を着て部屋に入ったのですが、見たところ60を超えたあたりでしょうか。
 好々爺、という言葉が一番しっくりくるようなご老人でした。

「ほほ、主が恋かの?
確かに若衆が入れ込むのも判るくらい、姫によう似ておるわ」

 部屋に入った私を見るなり、そう言われました。
 もう姫様に似ていると言われる事にも慣れましたし、若衆の方々が私を姫様に見立ててこの身体を求めて来る事も自覚しています。
 しかし、今日のお客様は。
 失礼だとは思いますが、もうそこまで元気があるようにはとても見えなくて。

「ああ、わしの事ならそう気に掛けんでもよいぞ。
 主の身体が目当てで来た訳ではないからのぉ」
「は、はあ……」
「まあ、自己紹介からじゃの。
 わしは吉岡長増、見ての通りの隠居じゃよ。
 今日来たのは最近若衆に人気の遊女を一目見ておきたくての」

 吉岡様はそう言うとからからと笑い。
 突然表情を引き締めると私の顔を正面から見据えられました。
 
「ふむ。
 中々にいい目をしておるの。
 それが判っただけでも良しとするか。
 して、恋。主は茶は点てられるかな?」
「あ、はい。
 少々お待ち下さいませ。
 すぐに用意を致します」

 由良姉さんから一通り茶道も習っていますし、この部屋には茶器も一式揃っています。
 急いで湯を沸かし、作法通りにお茶を点てて。
 
「……どうぞ」
「ふむふむ、基本に忠実じゃな。
 筋も悪くない。
 とがった所はないが、その分安心して飲める茶になっておるわい」

 ゆっくりと私の点てたお茶を飲み、満足げに笑っておられます。
 なんとかご不興を買わずに済みました。
 これも由良姉さんから徹底的に仕込まれたおかげです。

「さて、恋よ。
 主にひとつ頼みがある」
「あ、はい。
 なんでございましょう?」
「なーに、主の茶を教えてやって欲しいのじゃよ。
 なんせ武芸は仕込まれておってもこちら方面はとんと苦手な女子がおるでの。
 無論、主の空いている時間で構わぬ」
「……私に出来る事でしたら」

 この時は吉岡様の言っている意味がよく判りませんでした。
 この日、吉岡様はお茶や和歌を楽しみ、満足げに笑いながらお帰りなさいました。
 ……後日吉岡様と一緒に私の部屋へ参られた方々に、私は絶句する事になるのですけれど。

 戸次政千代様、宇都宮家の八重姫様、九重姫様。
 吉岡様に連れられて私の部屋へ参られたのは、私などとは身分も何もかもが違う3人の姫様方。
 このような方に私のような遊女が何かを教えるなど、恐れ多い事でございまして。
 その旨を吉岡様に伝えて辞退しようとしたのですが、私のその態度に3人の姫様方が固まっておられます。
 
 私が珠姫様とそっくりなのに、本当の珠姫様とはまったく違う態度を取る事に驚かれるのはもう慣れました。
 ……驚かれる、というより信じられないものを見た、という表情をなさる方が多いのですけれど。
 吉岡様もそのような姫様方を見て、笑いを堪えておられます。
 由良姉さんもそうでしたが、珠姫様を知っておられる方と初めてお会いする時に私を利用して楽しむのは趣味が悪いと思うのですが…。
 
 結局、その日から時折私の部屋で姫様方と共にお茶を点て。
 気付けば点てたお茶を飲みながら、吉岡様から軍略のお話をお聞きするようになり。
 自然と姫様方だけでなく私も軍略を習うようになりました。
 どんな内容であれ、知らぬものを知る、というのは楽しいものです。

 そして共に吉岡様の話を聞く姫様方も、私と立場を超えたお付き合いをして下さいまして。
 由良姉さん以外で初めて出来た、その、このような言い方はとても不敬であるかもしれないのですが。
 私にとって大切な友人となったのです。 

 

 


 遊女である私にも月に幾度かお休みの日があります。
 女性特有の、体調がよくない日ですとかもそうなのですが。
 それ以外では珠姫様がお作りになった保育所の面倒というものがあります。
 孤児や杉乃井御殿で働く遊女が生んだ子供を育て、面倒を見ている場所なのですが。

 この保育所のお手伝い、といっても殆どの場合子供の相手をするのですけれど。
 その当番になった日は遊女としてのお仕事はお休みになるのです。
 ……尤も、子供の相手に慣れていない方にとっては「殿方の相手をするより疲れる」のも事実ではあるのですが。
 私はもともと農村育ちですし、子供の相手は慣れていましたから苦になる事もありません。

 村にいた時と同じで、時々やんちゃをする子がいると少々疲れますけれど。
 特にいちばんやんちゃな知瑠乃ちゃんの相手は疲れます。
 元気なのは良いのですが、良過ぎるというのも少し考えものです。
 そんなある日。

「あ、姉上だー。
 今日はこちらにいたのですか?」

 ……突然駆け寄ってきた男の子に姉上と呼ばれました。
 えーと、私に弟はいません。
 もしかしてこれは珠姫様の弟君……という事なのでしょうか。
 と言う事はつまり、大友家の若君様と言う事で。

「……あれ、なんか姉上とは違うような気がする」
「……胸の辺りを見ながら言わないでください、判ってますから」
「姉上にそっくりなお姉さん、名前は?」
「杉乃井御殿の恋にございます、若君様」

 それにしても、つくづく私と珠姫様の区別は胸でなされる方が多いと……。
 お客様を取るようになってからというもの、少しづつ大きくはなっているのですが。
 それでもまだまだ珠姫様のあの大きさには届かず――届く日が来るのかどうか判りませんが――少し哀しくなります。
 
「恋?」
「はい」
「んー、それじゃ今日は恋の部屋で何かしよう!」

 こくり、と首をかしげ。
 ああ、可愛いなぁと思って和んだ次の瞬間、とんでもない事を言い出す若君様。
 あの、私は遊女ですから私の部屋に行くというのはその、杉乃井御殿の中に若君をお連れしなくてはいけないという事なのですが。
 ……押し切られました、はい。

 何度も入っている、というのは珠姫様の部屋や麟様の部屋に時々出入りされているとの由。
 直接そういった現場に行っている訳ではないにせよ、多少問題があると思うのですが、珠姫様……。
 結局若君様を連れて私の自室へ。
 
 珠姫様や麟様ほどではありませんが、それなりに整えられた部屋です。 
 初めて入る場所が珍しいのか、興味深そうにきょろきょろと辺りを気にしている御姿は年相応で。
 私も村にいた頃を少し思い出し、どこか暖かな気分になっていました。
 
 部屋に入り、わくわくした表情で私を見上げる若君様。
 ……正直、何かしようと言われてもそれこそお茶を点てる事や和歌を詠むような事しか思い浮かびません。
 と、部屋の片隅にあったものを思い出して。

 小さな箱から取り出したそれは。
 私がこの杉乃井御殿に来た頃に由良姉さんから作ってもらったお手玉でした。
 まだ両親を思い出して泣いていた頃、少しでも私の気を紛らわせようと作って下さった思い出の品です。

「……これ何?」
「お手玉ですよ、若君様。
 こうして遊ぶのです」

 まずはひとつ手に取って。
 右手から左手へ、左手から上に放ってまた右手へ。
 幾度か繰り返すと今度はお手玉を二つに増やし、さらに幾度か繰り返すと三つ目を追加。
 私の手の中でくるくると回るお手玉に、若君様の表情が驚きの色に染まって。

「恋、それ教えてよ!」
「はい、若君様。
 まずはこう……」

 私の膝の上に座り込むと、若君様は最初からお手玉を二つ持って。
 私と同じように回そうとしますが、最初から二つは流石に無理があったようで、コロコロとお手玉が転がります。
 背中越しに若君様の手を取り、お手玉を一つ乗せて。

「最初はひとつを回せるようにしてから二つ目にして下さいね。
 慌ててやろうとしてもうまくいきませんから」
「む、わかった」

 むー、と少しむくれた表情をしながらも、一つのお手玉を回し始めて。
 少ししたらすんなりと回すことに成功して、私の方を振り返ると。

「恋、できた!」

 と、とても嬉しそうな表情で。
 私には弟はいませんでしたが、無邪気に笑う若君様を見ていると弟がいたらこんな感じなのかな、と思います。
 結局、その日は若君様に一日お付き合い致しまして。
 帰り際に若君様から「また恋の部屋に遊びにくるね!」と言われました。
 実際、若君様は私が休みの日以外もちょくちょく顔をお出しになるようになりました。

 

 午前中に若君様が私の部屋に来るようになった数日後、保育所にて。

「長寿丸!
 あんた最近来ないと思ったら、恋姉さんの所に行ってたのね!!」
「知瑠乃には関係の無い事だろ。ばーか!」
「私より弓下手なくせして!
 ばーか!ばーか!!」

 ……保育所一やんちゃな知瑠乃ちゃんと若君様が喧嘩しているのを発見、間に入ってお二人を仲裁し。
 その日から若君様に加えて知瑠乃ちゃんまでが私の部屋に来るように。
 二人とも元気過ぎるきらいはありますが、それ以上に私の心を和ませてくれて。

 このような出会いがあるのも、この杉乃井御殿ならではなのでしょう。
 この先私がどうなるかは判りませんが、今はこの杉乃井御殿で暮らせることの幸せを感じていたい、そう思うのです。

 


とある少女の物語第七話 接客〜博多商人編〜

 


 政千代様、八重姫様、九重姫様とご一緒にお茶を点て、吉岡様から軍略のお話を聞くようになってしばらく経ちました。
 元々私のお茶は基礎を習った、という程度でしたから、政千代様方が私と同じ程度にお茶を嗜むようになるまではそう時間も掛からず。
 一月も経たないうちに、皆様私と同じくらいの腕前となっていたのです。
 身分の違う私と仲良くして頂いた事がとても嬉しく、同時にこれからは一緒にお茶を楽しむ事が出来なくなるのが寂しくもありました。

 

 自室に居てもどこか寂しく感じるようになって数日。
 博多からの船団が別府に入港しました。
 この船団はいわば博多からの大規模な行商のようなもので、私達遊女が使う日用品を始め様々な物が売られます。
 私も保育所の子供達に配るお菓子を買ったりしています。

 それからもうひとつ。
 大規模な行商ですから、博多で商いをする商人の方々も沢山いらっしゃいます。
 それはつまり、遊郭を利用する殿方が増えるという事でもあります。
 大店の番頭さんを始め、それなりにお金を持った方がいらっしゃいますので、迎える遊女も皆良い殿方に見初めて貰おうと普段より綺麗に飾り立てています。
 
 そんな中、私は既にご指名があったようで、部屋で待機しているように言われました。
 昼を過ぎ、私の部屋にいらっしゃったお客様は。
 ぱっと見た感じは20代半ばくらい。
 仕立ての良い着物を召した、どこか大店の若旦那といった風情の方でした。

「杉乃井御殿の恋にございます。
 本日は私をお呼び頂きましてありがとうございます」
「ん、ああ。
 楽にしてくれ、堅苦しいのは苦手でね」

 手をひらひらと振りながらそう言うと私の前にどっかと座り込み、物珍しそうに私の事を見ていらっしゃいます。

「あの、お客様……?」
「あー、旦那って呼んでくれないか?」
「……旦那様、ですか?」
「うん、それ。
 ここにいる間はそれで頼むよ」

 ……名前を名乗る事もなく、旦那様と呼ぶよう申しつけられました。
 少し面映ゆい呼び方ですけれど、お客様のご要望とあれば従わない訳にもいきません。
 
「旦那様、まずは何を致しましょう?」
「……そうだねぇ。
 船でだいぶ潮風を浴びたし、風呂から頼もうかな?
 杉乃井御殿の風呂、噂で聞いているから期待しているよ」
「はい、かしこまりました」

 杉乃井御殿の風呂、というのは。
 珠姫様がご神託を受けて遊女に広められた風呂場で行う睦事の事で、私はこれを由良姉さんから教わりました。
 ……由良姉さんは当時8歳程の珠姫様から教わったそうなのですが。
 初めてそれを聞いた時は驚いたものです。

 なにはともあれ、旦那様のご希望ですのでまずはお風呂へ。
 私が先導しながら着替場まで移動しまして。
 旦那様のお召し物を一枚ずつ丁寧に脱がし、着物掛けへと掛けておきます。
 同時に私も着物を脱ぎ、旦那様と一緒にお風呂場へ。

「……ふーん、恋って意外と良い身体してるんだなぁ。
 歳が歳だからもう少し痩せてるかと思ったんだが」

 裸になった私を旦那様がじっくりと眺め、そう仰いました。
 水揚を終えてから、少しずつですが私の胸も大きくなりまして。
 今も腕で胸元を隠してはいるのですが、ちょっとだけ腕の間から胸が出ているくらいに。
 旦那様の視線はその胸元に向いている訳でして。

「そちらの椅子にお座り下さい。
 お背中をお流し致します」
「おう、頼むよ」

 それはさておき、まずは旦那様の身体を奇麗にしなければいけません。
 奇麗にしなければいけないのですが。
 流石に、その。
 まだ慣れていないので恥ずかしいのです、かなり。

 まず手桶で私と旦那様に軽くお湯を掛けて、石鹸を背中にさっと塗り付けます。
 塗り付けた石鹸の上から旦那様の背中を洗うのですが。
 ……胸を直接背中に当てて、上下に身体を動かして洗うのです。
 最初に聞いた時は、開いた口が塞がらなかったのは秘密。

「んんっ……」
「おう……、これはまた……」

 背中に当たる胸の感触に、旦那様が愉しげな声を上げます。
 私はと言えば、胸と乳首が擦られる快感に耐えながら必死に身体を動かしている訳で。
 石鹸のおかげで滑らかに擦りながら汚れを落とし、お湯をかけて流します。
 それを2、3回繰り返して、ようやく背中を流し終った時には私の乳首はとても硬くなっていて。
 
 私自身もかなり感じてしまっているのですが、お風呂ではまだやることがあります。
 次は旦那様の腕を洗わなくてはいけません。
 やはりお湯をかけて、腕に石鹸を塗りつけて。
 今度は胸ではなく、足の間で洗います。

 ええと、その。
 つまり私の秘唇で旦那様の腕を擦る訳でして。
 まず腕を伸ばして頂いて、私は身体を旦那様に向けて腕を跨ぎ。
 旦那様の目前に胸を晒しながら股間で腕を擦ります。
 
「おや、恋はまだ生えていないのか。
 これは意外だったな」
「い、言わないで下さいっ、これでも気にしているんですから……。
 ああっ、あんっ……」

 腕を跨いだ時に、私の下腹部に何も生えていない事を見てとった旦那様にその事を指摘されました。
 恥しくて顔を隠したい衝動に駆られましたが、なんとか耐えて。
 ……腕を擦る間中、私の秘唇の真上にある真珠も擦られ、我慢し切れず時折はしたない声を漏らしてしまい。
 私自身が感じながら、それでもゆっくりと腰を前後に動かして腕を洗い、お湯を掛けて流します。

 そして最後は旦那様の指。
 由良姉さんからは「壺洗い」と言うのだと教わりました。
 壺、というのが何を表すかと言えば。
 
「旦那様、最後に指を洗います。
 あまり動かさないで下さいね……。
 ん、はぁっ……」

 そう旦那様に囁き、石鹸を軽く塗り付けた指を私のその、大事な部分へ。
 一本ずつ私の膣内へ指を入れ、ゆっくりと数回上下に動かしては次の指を入れて。 
 目の前で自分の指が私の中へ入って行くのを、旦那様が面白そうに眺めています。
 この背中流しから腕洗い、指洗いまでが杉乃井御殿独特のお風呂なのです。
 そしてようやく最後の指――右手の親指――を私の中へ誘い、ゆっくりと動き始めた瞬間。

「恋はこういうのはどうなのかな?」
「え?
 え、あ、やぁっ!?」

 とても楽しそうな顔をした旦那様が突然私の中に入っていた指をくいっと折り曲げ、そのままくにくにと動かして膣襞が擦られて。
 いきなり与えられた刺激に私の腰ががくがくと震え、立っていられなくなってしまい。
 胸を刺激され、真珠を刺激され、その上私の膣内で一番敏感な部分を直接刺激されたのではもう我慢出来なくて。
 旦那様の指が入ったまま、その場にぺたんと座りこむ羽目に。

「……悪かった、ごめん。
 まさかあんなに感じるとは思わなかった」

 ばつが悪そうに私に声を掛け、ゆっくりと指を引き抜くと恥ずかしさのあまり動けなくなってしまった私を優しく抱きしめて下さいました。
 抱きしめられた温もりのおかげか、私の心はすぐに落ち着きを取り戻して。

「いえ、私の方こそ申し訳ありません……。
 すぐ続きを致します」
「いや、無理はしなくていい。
 まずは風呂で温まろうじゃないか」
「……はい、旦那様」

 

 そのあと普通に湯船へ浸かり、十分に温まってから部屋に戻りまして。
 喉が渇いた、と旦那様が仰るのでお茶を点てる事になりました。
 茶器を用意し、お湯を沸かして。
 私がお茶を点てる姿を真剣な眼差しで見ておられます。
 
「……うん、悪くないね」
「あ、ありがとうございます」

 私の点てたお茶でほっと一息。
 そのあとは旦那様から私の事を色々と聞かれ。
 故郷の村が飢饉でどうしようもなくて売られてきたこと。
 由良姉さんのもとでお茶や和歌、舞踊などを学びながら数年過ごしてきたこと。
 
 気付けば両親が死んだことや、私の初恋、新造出しや突出し、水揚の事まで旦那様に話していました。
 その間、両親が死んだ事を告げられた事を思い出して涙ぐむ私の頭を優しく抱きしめて下さったり。
 新造出しの事をお話した時など、「自分がその時に杉乃井御殿にいたら水揚を申し出たんだけどな」などと言われ、思わず赤面してしまったり。
 そんなたわいもない話をしているうちに、日は落ちて。

 夕食も終わり、改めて布団の上に正座して旦那様と向き合うように座り。
 今まで私がお相手をさせて頂いたのは、殆どが大友家の若衆の方々でした。
 皆様若い上、私を珠姫様に見立ててかなり強引に身体を求めて来られる方ばかりでしたから、旦那様のように私の話を聞いたり優しく抱きしめて下さる方は初めてです。
 そのせいか、慣れている筈なのに妙に肌を合わせる事に緊張してしまっています。

「……旦那様、恋にお情けを下さいませ」

 行燈の燈火に照らされながら立ち上がり、自ら帯を解いて着物を落とし。
 一糸纏わぬ姿で布団の上に座り、おずおずと脚を開くと旦那様の手で全身を愛撫され、あっという間に私自身が潤みきって。
 私も旦那様自身を胸に挟み、舌で鈴口を舐め上げ、十分に大きくなったところで再び脚を開き。
 ゆっくりと私を押し倒した旦那様が、私の膣を押し開いて侵入し―――。

 

 そのあとの事はまるで夢の中の出来事のようでした。
 優しく愛撫され、突かれ、抱きしめられ。
 これまで経験したことのない優しい抱かれ方に、私の身体は敏感に反応して。
 幾度も達して、それでもまだ旦那様を求めてしまう私がいて。
 
 求められるままに姿勢を変え、旦那様に馬乗りになって自ら腰を振り。
 お互いの性器に顔を近づけ、舐め合ったり。
 胡坐をかいて座った旦那様の膝の上で啼かされたりもしました。
 そして、最後はまた布団の上に横になって脚を開き、正面から旦那様を受け入れて。
 お腹の中に幾度目かの熱い迸りを感じたところで私の記憶は途切れていました。

 


 
 そして翌日。
 朝、目を覚まして手水を用意しながら昨晩の出来事を思い返していました。
 あれだけ優しく抱かれた事は、水揚での四郎様以来だったと思います。
 どこか暖かな気持ちになりながら、旦那様と朝食を済ませ。

「またお越しくださいませ、旦那様」
「ああ、近いうちにまた来るよ」

 朝早くに妓楼を出る旦那様を見送り、私の接客は終わりました。
 ……お名前を伺っていない事に気付いたのは、旦那様の姿が見えなくなった後の事でした。
 尤も、私が思っていたより余程早く旦那様のお名前を知ることになるのですが。

 

 その日は博多商人の市で「ぼおろ」という南蛮菓子を買い求めると保育所へ向かいまして。
 子供達にお菓子を配ると午前中はそのまま保育所を手伝い。
 午後からは吉岡様と姫様方がいらっしゃるとの事で、自室に戻ることに。
 
「おお、恋。
 最近はどうじゃな?」
「あ、はい。
 恙無く過ごしております。
 吉岡様や姫様もお元気そうで」
「ほほ、嬉しい事を云うてくれるのぉ。
 これは土産じゃよ」

 そう言って吉岡様が私に差し出されたものは。
 箱に入った茶碗でした。
 私がいつも使っているものとは明らかに違う、それなりの窯で焼かれたもののように思えます。
 
「……このような物を私が頂いても宜しいのでしょうか?」
「構わぬ構わぬ、実を言えばわしが用意した訳ではないのでの」
「は、はあ……」
「ほれ、その茶碗を主に、といった御仁が来たようじゃよ」

 吉岡様の言葉と同時に襖ががらりと開かれ。
 そこに立っていたのは。

「……旦那様?」

 言ってからしまった、と思いましたが後の祭りでした。
 旦那様、という言葉に政千代様や八重姫様、九重姫様がぴくり、と反応して。
 何と言いましょうか、姫様方から「旦那様ってどういうことですか?」みたいな視線が私の方に。
 いえ、旦那様とお呼びしてはいますが当然本当の夫婦である訳もなく。
 
「恋、今は客じゃないからその呼び方はしないで構わない。
 ……あー、そういや名乗っていなかったか。
 博多の島井宗室だ」

 さらにそこへ旦那様、いえ、島井様からの発言が。
 ええ、私は遊女ですしお客を取るのは当たり前のことではあるのですが。
 政千代様や八重姫、九重姫の眼が興味津々といったものに切り替わっています。
 私と違い、お輿入れするまで綺麗な身体である姫様方ですが、却ってこういう事への興味は大きいらしく。
 今にも昨晩の事を聞いてきそうな雰囲気です……。
  
「島井殿、例の件はお受けして頂けますかな?」

 その雰囲気を変えたのは吉岡様の一言。
 いつの間にか座っていた島井様へそう問い掛け。

「宜しいでしょう。
 元大内家の公家をご紹介致します」
「宜しく頼みますぞ」

 ……何が何だか分からず、私と姫様方が茫然としていますと。
 吉岡様曰く、茶の指導をして頂く方を島井様にお願いしていたとの事。
 これからは私が姫様方に教えるのではなく、私も一緒に茶の湯を始め様々な事を学ぶように、との仰せでした。
 それはつまり、これからも政千代様始め姫様方と一緒にいる事が出来る、という事で。
 
 吉岡様のご配慮に私は深く感謝し、これからも頑張ろうと思いを新たにしたのです―――。 
 

 
 


注意!
今回のお話は恋視点ではありません。
題名の通り、島井宗室視点となっております。

 

 


とある少女の物語第八話 〜幕間・島井宗室〜

 

 


 吉岡老から正式に依頼を受けたその日の夜。
 昨晩と違い、杉乃井御殿にいながら一人で布団に入りながら色々と考えていた。
 別府に来る前、内々に伝えられたのは武家の息女を教育する為の人材紹介。
 大友家重臣、戸次鑑連殿の息女である戸次政千代、宇都宮家の八重姫、九重姫。
 そこに加えて遊女が一人。
 最初は何故遊女に武家の姫君と同じ扱いをするのか図りかねていたのだが。
 
 吉岡老に頼み、予めその遊女を一晩買う事にして当の本人を見た瞬間、吉岡老が言葉にしなかった事が理解出来た。
 そっくりなのだ、大友家の珠姫に。
 双子でも通用するくらい、違う場所を探す方が難しかった。
 いや、一カ所だけ明確に違う部分があったのだが、それはさておき。
 
 恋と名乗った少女は遊女らしさが殆ど感じられなかった。
 普通なら遊女というのは自分が疲れないようにしながら客を悦ばせるものだ。
 しかしあの恋という少女は本気で感じ、乱れていた。
 それだけでも遊女としては問題だろうに。

「……しかしまぁ、あれが逆に彼女の魅力でもあるんだろうな。
 それにあれは……。
 本気で乱れて貰わないとこちらが持たないか」

 本気になって乱れる恋を見て、相当頑張ったのは間違いなかったりする。
 しかもあの少女、稀に見る名器の持ち主だった。
 こちらの攻めに過剰なほど反応するもんで、最初のうちは気付かなかったんだが……。
 寝っ転がって上に跨らせ、恋が自分から腰を振り始めた瞬間ヤバいと思った。

 締め付けも襞の感触も並の遊女とは違い過ぎた。
 即座にこちらも腰を突き上げて主導権を取り返したんだが、少し遅れていたらあっという間に限界だったのは間違いない。
 それくらい自分から男を悦ばせようとし始めたあの子の膣内は凄かった。
 ……私の手の中で啼く恋の姿を思い出し、最後の日も行くことにする。
 裏を返しておくのに吝かではない、ないはずだ。

 

 

「失礼しますぞ、島井殿」
「ああ、吉岡殿、おはようございます。
 面白そうな子を紹介して頂いて感謝しておりますよ」
「ほほ、あの子は伸びそうですかな?」

 翌朝、私の泊まる部屋に吉岡老がやってきた。
 お互い名前を出さずとも誰の事かは判っている。
 吉岡老も商人としての私の見立てを確認したいのだろう。
 
「ええ、伸びると思いますよ。
 新しい事を次から次に思いつくような子ではないでしょうが、何をやらせるにしても安心して任せる事が出来る。
 外連味はありませんが着実に伸びて行くでしょう」
「これはこれは。
 中々に高い評価の様ですのぉ」
「吉岡殿も同じように考えておられたのでは?」

 私の問いかけに吉岡殿はからからと笑って答えず。
 その表情を見ればまあ当たらずとも遠からず、といったところか。
 何れにしても、吉岡老があの子を単なる遊女として以上に育て上げようと思っているのは間違いない。
 だからこそ私も正親町三条家のご隠居に下向してもらうよう、京へ便を出したのだが。

「ああ、それから吉岡殿。
 近頃大友家では南蛮船を建造しているとお聞きしましたが」
「……耳が早いのぉ」

 吉岡老の目が厳しさを増し、雰囲気が武将としてのそれに変わった。
 さあて、ここからが本番だ。
 あの子の事はあくまでこちらの序。
 これから先、私の商売を決定付けるのはこちらなのだから。

「私も明や朝鮮と交易しておりますからね。
 南蛮船は何千里もの距離を航海して日の本までやってくる。
 となれば積み荷の量も相応に多くなければ儲けは出ない。
 それに加えて荒波を超えてやってくるだけの頑丈さも持っている」

 私の言葉を一言一句聞き洩らさぬよう、真剣な表情で吉岡老が先を促してくる。

「そんなわけでしてね。
 南蛮船の方が交易を行うのに適しているのでは、と私は考えているのです。
 しかしながらこの日の本で南蛮船が作られるはずもない。少し前までは確かにそうでした。
 が、今は御家の珠姫様が南蛮船を自力で作ろうとしていらっしゃる。
 商人としては投資のし甲斐があると思いませんか?」
「ほほ、で。
 お主は何が欲しいんじゃ?」

 商人としての投資、という部分で吉岡老の表情が少し緩んだ。
 勿論投資であるからにはこちらにも利益がなければ意味がない。
 何を希望しているのかは判っているだろうに。
 
「されば。
 造船施設の拡充に投資する分、何隻かの南蛮船を頂きたいと珠姫様にお伝え下され。
 投資分の船を頂いた後は、発注という形で御家とのお取引をさせて頂ければ」
「……島井殿の申し出は了解致した。
 珠姫様にはこの吉岡から伝えておくわい」
「お頼みします。
 それから別府へ支店を開きたいので、そちらもお願い致したく」
「判った判った、その件もわしがやっておくわい。
 全く、年寄りをこき使うものではないぞ?」
「それにしては随分を楽しそうですよ、吉岡殿」

 明や朝鮮との交易で上がる利益は莫大だ。
 しかしそれは船で行っている以上、常に遭難という危険が付きまとう。
 だが、大友家で建造している南蛮船が手に入れば遭難という危険性は一気に減少する。
 しかも積載量が極めて大きい南蛮船、一度の航海で上がる利益も大きくなるのは間違いない。
 瀬戸内の水軍衆に手を焼いている大友家であれば、軍用船としても強力な南蛮船を作る為の施設を拡充したいのは間違いないだろう。
 
 それに船を作るには金が掛かる。
 あれだけ機を見るに敏で、内政に手腕を発揮している珠姫の事だ。
 自らの懐が痛まぬ上、大友家の水軍強化も図れる私の提案を無碍に扱うはずがない。
 合わせて別府への支店設置、これは税収の強化にも繋がる。
 この時、私は珠姫が申し出を断らないであろう事を確信していた。

 吉岡老が退席し、代わりに私の部屋に入って来たのはうちの番頭だった。
 何やら慌てているようだが……、私がいない間に何かあったのか?

「どうした、そんなに慌てて。
 もう持ち込んだ品がなくなったとでも?」
「いえ、それは流石に。
 しかし、此度持ち込みました品の中で一点所在が判らぬ物が出まして」
「……何がないんだ?」
「高麗象嵌青磁にございます。
 目録を見てご所望のお武家様がいらっしゃったのですが、現物が見つからず……」

 ……やべー。
 恋に渡した茶碗だが、そういや持ち出したのを誰にも言ってなかった気がするな。

「ああ、あれはこちらで所望する客人がいたので持ち出した。
 一言言っておくのを忘れていたな、すまん」
「……旦那様、次からは間違いなく言ってくださいよ?
 目録にあるのに現物がないなんて、信用に関わるんですから」
「ああ」

 番頭が首を振りながら部屋を出て行った。
 とりあえず後ろ姿に心の中で手を合わせ、謝っておく。
 さて、後は出店を回って状況を確認しておくか……。

 

 部屋を出て、うちの若い衆が切り盛りしている出店に向かうと。
 5〜6歳くらいだろうか、大分やんちゃな印象の女の子と、同じくらいの年格好の男の子が喧嘩している場面に出くわした。
 
「知瑠乃は恋からお菓子貰ったんだからいいだろ!
 これはあげないぞ!」
「そんだけあるんだから少しくらいいーじゃない!
 長寿丸のけーち!けーち!」

 あー……。
 そういや杉乃井御殿には子供も多かったんだけ……。
 最近は子供向けの菓子なんかも良く売れるって言ってたな。
 しかし、長寿丸……、どっかで聞いたような名前だな。
 着ているものも他の子供とは明らかに違う。
 
「知瑠乃ちゃん! 若君様!
 お店の前で喧嘩しないでください!
 まったくもう……、若君様、知瑠乃ちゃんにあげたお菓子を若君様にもあげますから、知瑠乃ちゃんにも若君様の買ったお菓子を分けてあげてくださいね?」
「う……、判った」
「ばーかばーか、恋姉さんに怒られてやんのー」
「知瑠乃だって恋に怒られてるじゃないか!
 ばーか!ばーか!」
「二人とも!」
「「……」」

 おお、あっさり収めた、と思えば恋じゃないか。
 随分手慣れたものだなぁ……って若君様?
 つーことはあれか、大友家のご嫡男って事か。
 まだ年齢が年齢だからちょいと厳しいが、今後の客として見ておくことにしよう。
 
 そんなこんなで日も傾き。
 最近の杉乃井御殿での流行りも掴み、支店を建てた際の重要品目もある程度絞り込む事が出来た。
 持ち込んだ商品もそれなりに捌けたし、あとは明日片付けて帰るだけだな。
 今回は番頭に迷惑を掛けたし、店持ちで全員遊ばせる事にしよう。
 
 
 
 そして当然のように恋を指名して。
 恋の部屋に入り、裏を返しに来た、と告げた時は驚いた顔をしていた。
 あれほどの名器を持つ遊女なら、それなりに通いの客がいてもおかしくないと思ったんだが。
 話を聞くと恋のところに来るのは殆どが大友家若衆らしい。

 花魁に近い揚代の恋を抱こうにも、一度来れば暫くは素寒貧という事か。
 裏を返しに来て頂いたのは旦那様が初めてです、と嬉しそうに微笑む恋にしばらく見とれていたのは店の連中には内緒だ。
 結局その日も風呂で色々と愉しませて貰い、布団の中では散々啼かせて。
 初会の時以上に恋の身体を愉しませて貰ったのだった。

 ……翌日のお日様が黄色かったのは気のせいだろう、たぶん。

 

 


とある少女の物語第九話 恋の接客〜大友家若衆編・その一前篇〜

 

 

 島井様がお帰りになられて数日。
 最近、私の部屋に沢山の方が訪れています。
 お客様が、ではなく大友家若衆の方々が、なのですけれど。
 なんでも最近杉乃井御殿にいらっしゃった田北様、最近入り浸りの吉岡様のお二人で若衆の方に教養や軍略、稽古をお付けしているのだとか。
 ……それにしても態々私の部屋まで若衆の皆様方を連れてこなくても、とは思うのですが。

「……吉岡様、何故私の部屋をお使いに?」
「ほほ、恋の部屋は茶道具も揃っておるしの。
 それにほれ、みな目の色が違うじゃろ」

 吉岡様が促す先には、人数分が持ち込まれた机で必死に書き取りをしている若衆の皆様方。
 確かに皆様必死になって机に向っていらっしゃいます。 
 しかも一通り勉強が終わった後、最初に課題を終わらせた方にお出しするお茶を私が点てるように、と吉岡様に言われ。
 それを聞いた若衆の皆様、さらに筆を走らせている訳でして。
 正直、お茶を点てるなら私より吉岡様の方が結構な御点前をお持ちの筈なのですけれど……。

 吉岡様は私の部屋でこうして読み書きや軍略、礼法等を若衆の方々にお教えしておられます。
 時々知瑠乃ちゃんを引き連れた若君様もいらっしゃいまして、この時は私が若君様と知瑠乃ちゃんの読み書きを見る事になっています。
 尤も、若君様は真面目に読み書きを学んでいらっしゃるのですが、知瑠乃ちゃんはすぐ飽きてしまうらしく学ぶ時間の割には読み書きが上達していないのですが。
 そのせいで。

「知瑠乃ー、これ読んでみろよー」
「う、うー……」
「これなんか簡単な字なんだぞ、ばーか!ばーか!」
「う、うるさーい!
 あたいだって勉強すれば読めるようになるんだもん!
 ばーか!ばーか!」

 お二人が揃って勉強を始めるといつもこんな調子で。
 知瑠乃ちゃん、勉強すれば読めるようになるのは間違いないけれど、すぐ落書きをしていたら覚えられるものも覚えられないんですよ?
 こんなやり取りの後、なんだかんだで若君様も知瑠乃ちゃんに色々教えてあげているようで。
 そんなお二人の姿に吉岡様も嬉しそうな顔をしていらっしゃいました。

 もう一人の田北様は武芸が中心で、こちらは杉乃井御殿の中庭が臨時の修練場に。
 この時も私が一緒に行くことになっておりまして、万が一の為に薬箱を用意して吉岡様と一緒に修練を見学する事に。
 私も簡単な手当や包帯の巻き方は由良姉さんから習ってはいるのですが、本当に使うようになるとは思いませんでした。
 さらにこちらの稽古は若君様が行うにはまだ早過ぎる、という事でいつも私の横で一緒に見物していらっしゃいます。
 知瑠乃ちゃんも一緒に見ているのですが、どちらかと言うと剣術より弓に興味があるようです。

 


 そして私自身が思うところは色々とあっても、決して私の部屋を使う事や修練のお付き合いをお断りしないのは。

「やあっ!」
「とりゃあっ!」

 木刀がぶつかる激しい音が響き。
 一人の手から跳ね飛ばされた木刀がカラン、と地面に落ちて。

「勝者、元鎮殿!
 双方、礼ッ!」

 ……吉岡様、田北様それぞれのお稽古に四郎様が来ておられるからなのです。
 珠姫様のお腹が大分大きくなり、それに合わせて麟様、白貴様から四郎様とのその、まぐわいを禁止されてしまったとか。
 それで四郎様に手空きの時間が増えたそうで、その時間をこの杉乃井御殿での修練に当てているのだそうです。
 吉岡様にお聞きしたところ、珠姫様にいつまでも頼って欲しい、と頑張っておられるとの事。
 ほんの僅かでも私もその中に入れれば良いな……と思ってしまうのは我儘だと自覚してはいるのですが。

 私の部屋が若衆様方の勉強部屋と化し、中庭に木刀の音が響くようになって数日。
 四郎様と一緒に珠姫様が参られました。
 突然の姫様来訪に若衆の方々も緊張しているようで。

「あー、四郎の稽古姿見にきただけだから、私の事は気にしなくていいわよ」

 ……他の方は眼中にないと言わんばかりの物言いに、若衆方の肩が一斉に落ちました。
 珠姫様はまだ正式に結婚されている訳ではないので、皆様良い所を見せようと思ったのでしょう。
 きっと珠姫様の事ですから、若衆の方々へあえて先手を打ったのだと思います。
 そして田北様と並んで座る私の隣へ腰を下ろし、面白そうに稽古を眺め。
 
「……それにしてもここにいる連中、みんな恋を抱いてるんじゃないの?」
「!?」

 突然私だけに聞こえるようにそう言われました。
 実際、ここに来られる方は大抵一度は私の元へお客様としてお越し頂いている訳でして。
 事実は事実なのですが、はっきりそう指摘されると流石に恥ずかしく。
 きっと今の私は顔が真っ赤になっていると思います……。
 
「ははーん、やっぱりねぇ。
 最近こっちに来る連中が増えたのはそのせいね。
 まあ、動機はどうあれ勉強するのは悪いことじゃないからね」

 私の顔を見ながらうんうんと頷き、何か得心した様子の珠姫様。
 そんな珠姫様を見ているうちに、一人だけ私を抱いたことのない方がいらっしゃったことを思い出し。 
 
「珠姫様、一人だけ私を抱いた事がない方がいらっしゃいます」
「へー、そんな奇特な若い衆もいるんだ、誰?」
「あちらで素振りをしておられます孫七郎様です。
 なんでも正室を迎えるまでは女子は抱かぬ、とか」
「なるほどね、あの堅物の言いそうな事だわ。
 しかしただ見ているだけっていうのも面白くないわねぇ。
 ……んー、ちょっと爺の所に行ってくる」

 そう言って手でその方を指し示し、そちらの方を見た瞬間やはり得心した様子で頷いて。
 さらに一言私に告げるとすっくと立ち上がり、杉乃井御殿の中へ入っていかれました。
 きっと吉岡様の所へ行ったのだと思うのですが、何か嫌な予感がします。
 珠姫様、妙に楽しそうな顔をしていらっしゃいましたので……。


 
 稽古が始まって小半時が過ぎた頃、珠姫様が吉岡様を連れて戻ってこられました。
 田北様と三人で何やら相談をしているようなのですが。
 と、珠姫様が私に向って手招きを。
 
「はい、何か?」

 お茶の用意とかそう言う事だと思って近寄った私に、珠姫差がどこからか取り出した小さな帯を首に巻き付け。
 
「はい、これで賞品の出来上がり〜♪」
「……は?」

 何が何だか訳がわからず、きょろきょろとあたりを見回して。
 吉岡様と田北様がこう、何と言いましょうか。
 とても微妙な表情で私の事を見ていらっしゃいます。
 なんというか、言いたい事が表情で判ります、「姫様を止められなかった、すまん」と。
 そんな私達をよそに珠姫様が稽古をしていた若衆の皆様を集め、皆様集まった所で私の手が引っ張られ。

「今日の稽古はここまで!
 このあと勝ち抜き戦で皆の腕前を見せて貰うわよー。
 優勝したら吉岡爺の奢りで今日一晩恋を抱く権利をあげるわ!」
「……え?
あ、あの、珠姫様?」

 珠姫様の言葉に若衆の皆様方、目が輝いておられます。
 というかそれ以前にいつの間にそんな話になっているのですか、珠姫様?
 いえ、私も遊女の端くれですから、殿方に抱かれることそのものは構わないのですが。
 それでもこんな大勢の前であからさまに言われると流石に恥ずかしいのですけれど……。
 
「良いから良いから。
 四郎が勝てば恋も嬉しいでしょ?」
「!?」
 
 こっそり耳打ちされたその内容に。
 水揚の時四郎様に抱かれた事を思い出し、顔が一気に紅潮したのが自分でも判りました。
 確かに珠姫様の宣言通りであれば、四郎様が勝てば一晩私の部屋に来て頂けるのですが。
 ただ、それは四郎様がお望みの事であるとは思えず。
 そんな私の内心をよそに、珠姫様が仕切って勝ち抜き戦の準備が整えられていきました。

 そして珠姫様主催の勝ち抜き戦(賞品、私)が始まり。
 今日は四郎様を含め八人の方がいらっしゃいましたので、三回勝った方が優勝となります。
 楽しそうな顔で試合を眺める珠姫様の隣に首に帯(あとからリボンという南蛮の飾り帯だと教わりました)を巻いたまま座り、一緒に若衆の皆様を見てたのですが。
 
「……四郎と孫七郎の二人で決勝ね、これ」

 ぽつりと珠姫様が呟き、その言葉通り最後に残ったのは四郎様と孫七郎様でした。
 お二人とも呼吸を整え直し、田北様の指示に従い木刀を構え。
 それまでの試合では感じられなかった、張り詰めた雰囲気が中庭を満たし。

 同時にお二人が動き、四郎様と孫七郎様の木刀が正面からぶつかり合い、お互い一歩も引かないまま何合も打ち合って。
 お互い決定打が出ないまま、距離を取るとどちらからともなく木刀を正眼に構え。
 はらはらとしながらお二人の様子を見る私に。

「大丈夫。四郎は負けないもの」

 私に言うというより、自分に言い聞かせるように珠姫様が呟きました。
 次の瞬間、お二人が同時に動き。
 一瞬の後、四郎様の右腕を孫七郎様の木刀が捉え、握り手が緩んだ木刀が跳ね上げられ。
 四郎様の持っていた木刀がくるくると宙を舞い、からんと乾いた音を立てて地面に落ちました。
 
 右腕を抑えてその場に膝を落とした四郎様を見た瞬間。
 私は我を忘れて薬箱を抱えると、四郎様のそばに駆け寄って。
 
「四郎様、お手当てを……」

 今までも何度かこういった打ち身の手当てはしてきましたから、すぐ処置をと思ったのですが。
 
「いえ、それほど強く打ったわけではないので大丈夫です」
 
 四郎様の腕は赤く腫れており、顔を少し顰めていらっしゃるのですからそれなりに痛みがある筈なのです。
 なのに私の申し出を明快に拒絶され。
 私を見る四郎様の眼は、四郎様と珠姫様に水揚をして頂いたあの日、私が珠姫様ではないと判った瞬間の眼にそっくりで。
 その眼に気圧された私は、そのまま薬箱を持って引き下がるしかありませんでした。
 私のただならぬ様子を見た珠姫様が四郎様の元へ駆け寄り何か言っておられるようでしたが、今の私にそれを聞く勇気があるはずもなく。
 
 結局、珠姫様主催の勝ち抜き戦は孫七郎様の勝利という形で終わり。
 若衆の皆様方ががっくりと肩を落としておられました。
 その後、私は自室に戻って休むように言われ。
 先ほど四郎様から向けられた眼が頭に残っていた私は、項垂れながらとぼとぼと自室に戻ったのでした。

 

 しばらく自室で休み、少し元気が出てきたところで気付きました。
 孫七郎様が勝ち残ったのですが、あの方は「正室を迎えるまで女子は抱かない」と仰っておられました。
 という事は、今宵はどうなるのでしょう?
 などと考えていたら。

「失礼致します」
「あ、はい。
 どうぞ」

 襖をトントンと叩き、私の返事と共に部屋へ入って来たのはその孫七郎様でした。
 どっかと座り込んだ孫七郎様は少し険しい顔つきで、何やら悩んでいるようにも見えるのですが。

「こちらにどうぞ。
 今お茶を点てますね」
「ああ、申し訳ありません。
されば一杯」

  ……私の点てたお茶を飲みながら、やはり孫七郎様の表情は硬いままで。
 こういうときは殿方からは話しにくい話題だと由良姉さんから教わっています。
 なので、思い切って私から話を切り出すことにしました。

「孫七郎様、何かあったのですか?
 先程から険しいお顔のままですけれど……」
「ああ、これは申し訳ない。
 実は恋殿が戻られてから姫様や吉岡様、田北様にあれこれ言われまして。
 それに……。
 元鎮殿に勝利を譲られたような気もしたのです。
 ご本人は気付いておらぬでしょうが、最後の踏み込みに躊躇いがありました。
 あれがなければ勝利はどちらにあったか判りませぬ」

 なんでも、正室を迎えるまでは……と私の部屋に行く事を渋る孫七郎様に、珠姫様が「初めて同士なんて大変よ? 正室迎えるまでって思いは良いけど、それで苦労するのはあなたより奥さんになると思うのだけど」と懇々とお話したらしいのです。
 ……孫七郎様の言い方はかなり押さえられたものでしたが、あの珠姫様の事ですからきっと問い詰めるような言い方だったと思います。
 さらに珠姫様に加えて吉岡様や田北様も同じような事を話されたらしく。
 特に次男でありながら珠姫様のお取り立てによって家を持つ事になった孫七郎様ですから、その珠姫様の言葉というのは非常に大きかったのでしょう。
 その上あの立会の最後での元鎮様の不可解な動きの事もあり、私の部屋へ行く事を尚更渋っていたのだそうで。
 最終的に珠姫様や吉岡様の説得を受け入れ、私の部屋へ行く事を承諾しここに来たのだという事でした。

 四郎様が最後の最後で躊躇った、というのはやはり私が賞品とされていたからなのでしょうか。
 もしそうだとしたら……、やはり四郎様にとって私の思いというのは邪魔なものでしかないのでしょうか。
 湧きあがる黒い感情を胸に押し込め。

「……孫七郎様、至らぬ事も多々あるかと思いますが今宵は宜しくお願い致します」
「あ、ああ。
 こちらこそお願い致します、恋殿」

 由良姉さんから殿方の初めて、所謂「筆卸し」の事は聞いていましたし、どのような事に注意すれば良いのかも判っています。
 でも。本当に筆卸しをされる殿方のお相手をするというのは初めての経験です。
 私は改めて頭を遊女としての意識に切り替え、孫七郎様へ頭を下げたのでした。 
 

 


とある少女の物語第十話 接客〜大友家若衆編・中篇〜

 

 


 普段なら殿方が部屋に来られた時、希望を承るのですが。
 今日のお客様である孫七郎様は、まだ女性を抱いた経験がないのだそうです。
 ですから私が孫七郎様を先導して、女性の身体をお教えしなければなりません。
 実はこの殿方の初体験、所謂「筆卸し」というのはお相手をする遊女からすると意外と難しいものなのです。

 普段ですと大抵の場合、殿方から私達遊女の身体を求めてこられます。
 しかし、筆卸しとなると女性の身体そのものをまず理解してもらわなければなりません。
 男女何れにしても、初体験で失敗してしまうとそれが後々まで尾を引く事にもなりますから。
 この杉乃井御殿でも私と同じように禿から新造となって水揚を行う場合、自分の意思で相手をある程度決められるのはそういった事情も考慮しての事なのです。

「孫七郎様、先ずは汗を流しましょう。
 こちらへどうぞ」
「あ、ああ。
 済まない」

 先ほどまで剣術の稽古をしていらっしゃったのですから、当然孫七郎様の身体は汗をかいている訳です。 
 ですので先ずはお背中をお流しする事にしました。
 肌を合わせるのですから、身体を奇麗にする事は基本ですし。
 普段ですとお風呂の中でその、私の身体を求めて来られる方もいらっしゃいますので湯浴み着はあまり着ないのですが、今回はきちんと湯浴み着を着て。

「孫七郎様、そちらの腰掛に座ってください、お背中をお流し致します」
「宜しくお願い致す」

 真面目な表情でそう私に言葉を返す孫七郎様。
 でも、その顔は真っ赤になっておりまして。
 女子は抱かぬと言っていた訳ですから、女性に裸を見られる事自体が初めてなのかもしれません。
 孫七郎様は私よりいくつか年上なのですが、そのお顔を見て可愛いと思ってしまったのです。

 まずは普段通りに背中にお湯をかけ、石鹸を塗って手拭で擦ります。
 慣れたお客様であれば私の身体を使って洗うのですが、今日はそう言うわけにもいきません。
 あれはあくまでも遊女として行う行為ですから、女性と肌を合わせるのが初めてという孫七郎様には使えないのです。
 こういった行為を当たり前のように思われて、奥様を迎えられた時にその話をされても困りますから。

 背中を流し、腕を洗って。
 脚や胸などは自分で洗って頂きます。
 これが既に女性と幾度も肌を合わせていらっしゃる方でしたら、脚や身体の隅々まで私自身でお綺麗にするのですけれど。
 綺麗に洗い終わったところで湯船に浸かり、身体を温めます。

 私も湯浴み着のまま湯船へ入ったところで大切な事をすっかり忘れていたのです。 
 私達遊女の使う湯浴み着は薄出の生地で出来ていて。
 これはつまり湯に浸かるとぴったりと肌に張り付く上、その。
 胸の形や乳首までがうっすらと透けて見えてしまうのです。

「……れ、恋殿。
 些か目のやり場に困るのですが」

 やはりと言いますか、孫七郎様がそわそわとし始めました。
 でもこのあと孫七郎様には私を抱いて頂く訳ですから、慣れて頂くのには丁度良いのかもしれません。
 そう思った私は、あえて孫七郎様の横にぴったりと寄り添いました。
 
「孫七郎様、これから私を抱いて頂くのですからお気になさらずに。
 女子を抱くというのはそう言う事なのですから」
「判ってはいるのですが……。
 如何せん、慣れていない事というのは緊張するのです」

 そう言いながら、今までお相手して来ました若衆方とはあまりにも違う孫七郎様の態度に私自身も少し照れてしまい。
 普段ならあまり意識せずにいられる、「見られている」という事そのものがどことなく恥ずかしくなってしまいました。
 孫七郎様の視線が完全に私を向いていないのであれば、それほど気にならないのですが。
 やはり私の身体が気にかかるご様子で、ちらちらとこちらを見ていらっしゃるのです。
 それが却って私の羞恥心を刺激してしまい。

「ま、孫七郎様。
 そろそろ出ませんか?」
「あ、ああ。
 大分温まっていますね。
 それではお先に」
「はい」

 ざばっ、と孫七郎様がお立ちになって湯船から出たのを確認し、私も……と立ち上がりかけたところで眩暈がして。
 
「危ないっ!」

 大きな声と共に孫七郎様の腕が倒れかけた私の身体を抱き締め、支えて下さいました。
 ……抱き抱えられ、孫七郎様の厚い胸板に私の顔が押し付けられ。
 殿方からの、身体目当てではない抱擁というのは実はこれが初めての経験だと、その事に気付いた瞬間私の顔がかっと熱くなって。

「あっ、あの、も、もも、申し訳ありません……」
「いえ。
 どうやら長湯し過ぎたようですね。
 本当に大丈夫ですか?」
「あ、はい。
 もう大丈夫です……」

 孫七郎様の腕の中にすっぽりと収まったまま、大丈夫だと伝えて。
 それでも孫七郎様は私を離して下さらず。
 
「あの、孫七郎様?」
「すみませぬ、今少しだけこのまま」

 しばらくの間、私は孫七郎様の腕の中に包まれたままで。
 ようやく私を離して下さった孫七郎様は。

「……恋殿に姫様を重ねて見ておりました。
 申し訳ない」
「いえ、私の元へ来て下さる方は大抵そうですから、お気になさらず」

 その後はなんとなくぎこちない雰囲気で。
 お互い無言のまま身体を拭き、寝間着に着替えると私の部屋へ戻りました。
 


 そして。
 布団の上に二人で座っているのですが、どうにも先程の雰囲気が残ったままで。
 お互い顔を合わせ辛いのです。
 何か孫七郎様が悩んでおられる様子ではあるのですが、今回はあまり聞いてはいけないような気がしまして。
 そんな微妙な雰囲気の中。

「……先程は失礼致しました。
 恋殿が姫様に似ているあまり、つい」

 孫七郎様からそう切り出され。
 自分は次男でありながら高橋の家名を頂き、珠姫様には感謝しているとの事。
 絶対の忠義を尽くすつもりでいたのが、眩暈を起こして倒れかけた私を抱きとめた時、心がざわついてしまったのだと。
 その時自分の心が判らなくなってしまったのだそうです。
 自分が珠姫様に抱いているのが忠義なのか、愛情なのか。
 
 正直、私にはそういう悩みはよく判りません。
 だから、孫七郎様に思った事をそのままお伝えする事にしました。

「愛情でも忠義でも良いと思います。
 どのような形であれ、孫七郎様が珠姫様にお仕えするという事は変わらないのですから。
 護りたいとか力になりたい、というのも愛情の一つの形だと思いますし。
 それに……、たとえ愛情であったとしてそれが報われぬと判っていても、自分の心に嘘をつかなければそれで良いのではないでしょうか?」

 その言葉を聞いた途端、孫七郎様は一瞬ぽかんとした表情を浮かべ。
 次の瞬間いきなり笑いだされました。

「ああ、確かにそうでした。
 私は姫様に家名を頂き、それを感謝しているからこそ全身全霊を以て姫様にお仕えしようと思ったのです。
 私が抱いているものが忠義であれ愛情であれ、姫様にお仕えする事そのものに変わりがある訳ではありませんな。
 対価を求めねば尽くせぬ忠義など忠義ではない」

 なにか吹っ切れた様子で膝を叩き。
 私に向って平伏し、ありがとうございます、と。
 そして再び顔を上げた孫七郎様からは、先程までの影がなくなっていたのです。
 


 お互いの間に流れていた妙な雰囲気がなくなり。
 孫七郎様が私の元へ寄っていらっしゃいました。
 私とて女子の扱いを全く知らぬ訳ではありませんので、と私へ寄りながら孫七郎様が仰います。
 でも、そのお顔は照れているのか頬のあたりがうっすら赤く染まっておりまして。

 年下の私がこんな事を言うのもなんですが、とても可愛らしく見えてしまうのです。
 そしてそのまま孫七郎様の腕が私を抱き締め。
 腕に包まれたまま、顔を上げて目を瞑り。
 私の態度で何が求められているかを理解した孫七郎様の唇で私の唇が塞がれ。
 そのままどちらからともなく布団に倒れ込みました。

 唇を離し、お互い見つめあい。
 倒れ込んだ拍子に私の寝間着が肌蹴けており、合わせから覗く胸に孫七郎様の視線が移って。
 胸を見られるのはいつもの事なのに、今はなんだかとても恥ずかしく感じられます。
 視線から隠すように寝間着の胸元を合わせようとした私の手を、孫七郎様の手がそっと止め。

「恋殿、今少しこのままでお願いします」
「……はい」

 孫七郎様の言葉に手を止め、少し躊躇いつつ寝間着の胸元を拡げて双丘を晒し。

「れ、恋殿?」 
「孫七郎様、見るだけではなく……、触っても良いのですよ。
 女子は見られるだけでなく、触れられる事で殿方を受け入れる準備が出来るのですから」

 そう言いながら孫七郎様の手を取り、私の胸へと誘って。
 
「んっ……」

 孫七郎様の掌が胸に触れた瞬間私が漏らした声に、孫七郎様が反射的に掌を離そうとするのをそっと上から押さえて。

「よ、宜しいのですか、恋殿?」
「はい、私の胸を……、もっと触って、もっと感じてください。
 女子の身体というものを、その手で、身体で知って欲しいのです」

 戸惑いながら私に問いかける孫七郎様にそう返答し、掌を離して微笑み。
 私の言葉を聞いた孫七郎様の手がおずおずと動いて胸を包み、その指が動いて。
 
「はぁっ……ああっ……」

 たちまち私の身体に官能の波が走って喘ぎ声を漏らし、声に合わせるかのように孫七郎様の手が動いて更なる官能が引き出され。
 いつもより激しく感じてしまう身体に戸惑いを覚えつつ、孫七郎様が触りやすいように寝間着を完全に肌蹴させて。
 両手で私の胸にそっと触れ、掌全体で感触を確かめるように揉みしだかれ。
 いつしか私の乳首も硬くなっていて。
 
「女子の身体というのは、随分と柔らかいのですね……」

 孫七郎様の手が止まり、そう呟かれ。

「いつも鍛練なされている殿方とは違いますから」

 少し恥ずかしかったのですけれど、そう言って微笑むとぴったりと孫七郎様に身体を寄せ。
 身体を寄せた私を、孫七郎様は躊躇いもなく抱きしめて下さいました。
 殿方の腕に抱かれ、温もりを感じる事がこんなに気持ちの良いことだとは今まで全然知らなくて。


 
「孫七郎様、宜しいですか?」
「……はい」

 しばらく孫七郎様に抱かれたままお互いの温もりを確かめあうと、腕に抱かれたままお顔を見上げて。
 私の言葉を正確に汲み取った孫七郎様が腕を解いて、自由になった私がゆっくりとその場に立ち上がり。
 
「私の身体を見て下さい、孫七郎様」

 そう言って肌蹴掛けた寝間着に手を掛けた瞬間、孫七郎様の喉が唾を飲み込む音が聞こえ。
 その直後に寝間着は布団の上に落ち、私は一糸纏わぬ姿を晒したのです。
 そのまま孫七郎様の前に座って。

「孫七郎様もお脱ぎになって下さいませ。
 こ、これから私があの、筆卸しをさせて頂きます」

 由良姉さんから以前言われた「筆卸しの時、殿方に恥をかかせてはいけない」という言葉が頭をよぎり、緊張のあまり少しどもってしまい。
 逆にそれで緊張感が解れたのか、孫七郎様は優しく微笑みながら立ち上がると着物をお脱ぎになりました。
 褌だけの姿になると、その場に私と向き合うように胡坐をかいてお座りになられて。

「それでは失礼致します……」

 一言お断りを入れて孫七郎様の褌に手を掛け、解いていきます。
 少し腰を浮かせて頂き、するりと褌を引き抜いて。
 ……褌の下から現れた孫七郎様の逸物は今まで見た中で一番大きく、一瞬茫然としてしまいました。
 しかもまだ大きくなり掛けで、完全に起ちきっている訳でもないのです。

「……恋殿、如何なされました?」

 私の表情を見て、少し不安そうな顔で孫七郎様。
 自分のその、逸物が他人と違うのかと気になられたご様子で。
 いえ、確かに違うのです。大きさが。
 こういう比較をしてはなんですが、私が水揚げをして頂いた時の四郎様に匹敵する大きさでした。

「いえ、孫七郎様の……、その、大きさに驚いたのです」

 驚いた事を素直に伝えながら、私が四郎様に水揚をして頂いた時の事を思い出して。
 ここから更に大きくなる訳ですから、受け入れる女性も十分にその、濡らしておかなければ相当に大変な筈です。
 そこで。

「孫七郎様、私のここを触って下さい……。
 女子はここを触られるととても感じるのです」

 脚を立てるとゆっくりと開き、恥ずかしさに顔が赤くなるのを感じながら両脚の間にある私自身、その上を指し示しました。
 私自身の真珠は今までの抱擁と胸への愛撫でぷっくりと膨れていて。 
 殿方と違う私の秘所に孫七郎様の視線が釘付けになっているのが判ります。
 躊躇う孫七郎様の手を取り、その指を私の真珠へ導いて。

「ひゃうっ……」
「れ、恋殿!?」

 十分過ぎるほど私の身体は官能に支配されていて。
 自分で導いておきながら、孫七郎様の指が真珠に触れた瞬間背筋をぞくぞくっと快感が走り抜けました。
 私のその姿を見て慌てて孫七郎様が指を引っ込め、不安気な表情で私を見つめておられます。
 
「い、いえ、大丈夫です……。
 気にせずそのままお願いします。
 その、殿方を受け入れられるようにするには必要な事ですから」

 そう言って孫七郎様にどこをどう触れば良いのかを説明し、その度に私の喉は喘ぎ声を漏らして。
 一通り説明を済ませた時、既に私の秘唇は溢れんばかりに愛液を湛えていました。

「孫七郎様、ここがこれくらい濡れていれば、もう大丈夫です。
 次は孫七郎様ご自身ですよ」
「そ、それは一体……、うっ……!?」

 そう言って孫七郎様ご自身へ手を伸ばし、優しく両手で包み込むと手を上下に動かして刺激します。
 もともと私の身体を愛撫し、全身をくまなく見ておられるうちに大分大きくなっていましたのですぐに硬くなりまして。
 これくらい大きく、硬くなっていればもう大丈夫、と思い。

「お願いします、孫七郎様。
 ……私を抱いて下さいませ」
「恋殿……」
「お願い、致します」

 お願いすると同時に私は脚を大きく開いて、その脚の間へ孫七郎様が入ります。
 そして孫七郎様の逸物に右手を添え、左手で私自身を大きく割り開いて。

「ここに……、孫七郎様を下さい」
「いきますよ、恋殿……」
「はい、孫七郎様」

 私の膣口に孫七郎様ご自身が当たって湿った音が響き。
 次の瞬間、私の奥深く目掛けて孫七郎様が腰を突出しました。

「ああっ、あああっ……!」
「くっ、恋殿、恋殿ッ!」
「はあっ、ああっ……、ま、孫七郎様の、お、お好きなようにされて、ああっ、あっ、下さいっ……」

 今まで十分過ぎるほど高められていた官能が一気に解放され、孫七郎様の一突きで私の意識が半ば飛びかけて。
 それでもなんとか言葉を紡いで。
 私の言葉を聞いた孫七郎様の動きがいっそう激しくなり。
 あっという間に私は限界まで官能を高められてしまい。

「ああっ、もう、もうダメです、孫七郎様ぁッ……!」
「私も、私ももう限界です、恋殿ッ……」

 孫七郎様の手で限界を迎え、果ててしまう直前にお腹の中に熱い迸りを受けた事だけはかろうじて覚えていました……。

 
 

 

 

補足
 この話の最初の方に書きました「この杉乃井御殿でも私と同じように禿から新造となって水揚を行う場合、自分の意思で相手をある程度決められるのはそういった事情も考慮しての事なのです」の部分は吉原を元ネタにしています。
 嘉永四年頃に出された「正写相生源氏」には妓楼では抱え遊女の水揚には気心知れた客の中でも四十以上の男に依頼するとされ、その理由として下記のように書かれています。

「若ェものはいざ戦場といってみねへ、松の根ッ子か、山椒の擂粉木のやうにして、突立てるから堪らねへ。処が四十以上のものは、たとへ勃起(おこっ)ても何処か和(やわら)かで、ふうわりとするだろう。其うへ、お前、場かず巧者で、なかなか雛妓(しんぞ)を痛めるようなことはしねへサ」

 つまり女の扱いに慣れた男なら初体験の新造相手に無茶はしないという事だったり。
 モノも若い連中程硬く大きくはないから余計適している、と。
 遊女は妓楼にとっては商品ですから、初体験で男性恐怖症になってしまっては困る、という事情がある訳です。
 吉原という場所は同じ遊女でも下から上まで大きな格差がありましたが、意外とこういう点はしっかりしていたんだな……と調べれば調べるほど出てくる一般的なイメージとの落差に少し驚き。
 建前上は「人買いによる事実上の奴隷」ではなく、あくまでも「雇用契約」であることが最大の理由なのでしょうけれど。



 


とある少女の物語第十一話 接客〜大友家若衆編・後篇〜

 

 

 孫七郎様の迸りを受け、私が果ててしまい。
 絶頂に達してはぁはぁと荒い息を吐く私の身体を、目覚めるまで孫七郎様が優しく抱きしめて下さっていました。
 そして私と孫七郎様はまだ繋がったままで。
 
「孫七郎様……」
「恋殿……」

 どちらからともなく視線を絡め合い。
 優しげな眼差しを受け、目を閉じて顔を上げた私の唇を孫七郎様に塞がれて。
 私の方から舌を伸ばして孫七郎様の歯を舐め、その意図を察した孫七郎様と舌を絡めあいながらお互いの体温を感じ。
 それだけでも十分過ぎるほど高められた私の身体は再び熱を帯び、殿方を求めてしまうのです。
 長い口付の後、孫七郎様がゆっくりと身体を離し私の中からご自身を抜き出して。
 一度の射精ではまったく衰えを見せないその逸物に私の心が揺り動かされ、思わずまじまじと見つめてしまいました。
 
「恋殿、本日は私のお相手をして頂き、真に有難く。
 この御恩は何れ必ず」

 私の視線を知ってか知らずか、裸のまま妙に真面目な表情でそう仰る孫一郎様。
 孫一郎様は真面目なお方ですから、おそらく筆卸しを済ませた事で私との関係を断つ心算なのでしょう。
 もともと私は、若衆の皆様から見れば珠姫様の代わりの一夜妻のようなものですから、それも当然と言えば当然だとは思います。
 ただ、この時は私自身もまだ高められたままでしたし、一度出しても全く衰えを見せぬ己自身に孫七郎様も戸惑っていたご様子でした。
 そのせいか、普段なら殿方からお帰りを仄めかされた時に決してお止めはしないのに。

「いえ、これも私のお勤めのひとつですから。
 孫七郎様はお気になさらないで下さい。
 それに、姫様は今宵一晩私を自由にしてよいと仰っていましたから」
「……されば、今宵はこちらに御厄介になりましょう」

 まるで自分からこのままここに居て欲しいと言わんばかりの言葉が漏れて。
 その言葉に孫七郎様の顔が一瞬固まり、すぐに私の意図を汲み取って下さいました。
 
「それでは孫七郎様、まずは孫七郎様ご自身をお鎮め致しますね。
 そのまま横になって下さいませ」

 そう言って孫七郎様に仰向けに寝て頂いて。
 私の中に放たれた精を零さぬよう、下半身に力を入れながら孫七郎様を跨ぎます。
 仰向けになった孫七郎様の股間で和合水に塗れた逸物がそそり立っているのを確認すると、その真上で止まり。
 左手でそっと逸物を押さえ、少しずつ腰を下ろしていきます。

「れ、恋殿?」
「孫七郎様、今宵は私の身体を存分に楽しまれて下さいませ。
 私にはそれくらいしか出来ませんから」
「そのような事は……うっ!」

 孫七郎様がなお言い募ろうとしましたが、その前に私の秘唇が孫七郎様ご自身を包み込み。
 そのままゆっくりと孫七郎様ご自身を呑み込んでいきます。
 腰を下ろしきる前に私の胎内一番奥深くに孫七郎様ご自身が触れ、その瞬間私の背筋をゾクゾクっと快感が突き抜けて。
 その快感に抗し切れず、私の身体から力が抜けて。

「ああっ、ああんっ……。
 ああああっ!」
「恋殿っ!?」

 残りわずかでしたが、孫七郎様ご自身を一気に飲み込み。
 お腹の奥深くを突き上げられる余りの快感に耐え切れず、私はそのまま孫七郎様に倒れ込んでしまいました。
 はぁはぁと荒い息を吐く私を、孫七郎様が不安気な表情で見上げておられます。
 布団に手を付き、ゆっくりと身体を起こして。

「申し訳ありません、孫七郎様。
 もう大丈夫です、動きますね……」

 そう言いながら少しずつ腰を動かし、孫七郎様の逸物をもう一度私の奥深くへ導いていきます。
 今度はどのあたりで奥が突かれるかが判っていましたので、先程のような醜態は晒さずに済み。
 しっかりと奥深くまで入っているのを確認すると少し身体を前に傾けた姿勢のまま、ゆっくりと腰を振って。
 孫七郎様の目が私が身体を動かす度に揺れる胸を指しているのに気付きまして。

「孫七郎様……、遠慮なさらずに触って下さいませ。
 今宵の私は、孫七郎様のものなのですから」
「恋殿……、では遠慮なくそうさせて頂きます」

 そう言って孫七郎様の手を取り、私自身の胸へ導きました。
 すっかり硬くなった乳首に掌が触れ、それだけでも私が受ける快楽が増して。
 私の胸を下から支えるように掌で包まれ、孫七郎様の指先が私の乳首を撫で、弄られ。
 孫七郎様の身体と私の身体に挟まれた私自身の真珠が腰を動かす度に強く擦られ、痺れるような快感が全身を駆け巡り。
 さらに孫七郎様も腰を動かし始め、その都度私の奥深くが孫七郎様ご自身にごりごりと突き上げられて。

「きゃうっ、ああっ、あああっ……。
 もう、もうダメです、私もうっ……!
 ああああッ!」
「くっ、わ、私ももうっ……。
 れ、恋殿ッ!」

 元から高められていた私の官能が一気に頂点へ駆け上り。
 無意識のうちに下腹部に力を入れ、孫七郎様を攻め上げて。
 私の膣内で孫七郎様ご自身が一瞬膨れ上がったかのような感触を覚え、次の瞬間熱い迸りが胎内奥深くへ吐き出されるのをはっきりと感じ。
 直後私の頭が真っ白になって、全身を震わせ達してしまったのです。

 

 

 しばらくして私が目を覚ますと、相変わらず孫七郎様が優しく抱きしめていて下さいました。
 二度精を放った事で、私の膣内に納められたままの孫七郎様ご自身も先程までよりいくらかその大きさを減じておりました。
 そのせいで多少身体を動かしてもすぐに感じてしまう事はなく。
 少し身体を起こし、孫七郎様に声をお掛けしました。
 
「……申し訳ありません、私ばかり先に」
「いえ、お気になさらず。
 それに……、私の上で乱れる恋殿は可愛らしくありましたよ」

 孫七郎様の言葉に、恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じて顔をそむけようとした瞬間、再び孫七郎様の腕が私をやさしく包み込み。
 私は逞しい腕の中で今まで感じた事のない安堵感を感じておりました。
 
「孫七郎様、一度汗をお流し致しましょう」
「ああ、そうですね。
 では風呂へ参りましょうか」

 ただ安堵感を感じている訳にもいきません。
 汗を流しておかないと風邪をひく元にもなってしまいますし、その。
 お互いの液体に塗れた身体も洗っておかねばなりません。
 ゆっくりと身体を起こし、腰をそろそろと上げて孫七郎様ご自身を抜き出し。

 私の中に放たれた精を漏らさぬよう、下腹部にしっかり力を入れて。
 孫七郎様の手を取り、起ちあがるのをお助けして二人で浴場へ向かいます。
 まずは孫七郎様ご自身を綺麗にしなくてはいけません。
 腰掛に座って両足を開いて頂き、その間に私が跪くようにして顔を近付け。

「れ、恋殿!?
 い、一体何を!?」
「今から孫七郎様ご自身を綺麗に致します、そのままお座り下さいませ。
 杉乃井御殿ではこれが普通なのですから、落ち付いて下さい」

 私の顔がご自身に近付いた途端、孫七郎様が慌てて腰掛けごと腰を引いてしまいました。
 離れてしまった孫七郎様に改めて近付きながら杉乃井御殿では、という点を強調しておきます。
 そして改めてゆっくりと顔を近付け。
 大きく口を開き、舌で亀頭に付いた和合水を舐め取りながら徐々に口内奥へと孫七郎様ご自身を咥えこんで。

「うっ……、れ、恋殿……」

 初めて感じるであろう感覚に、孫七郎様が呻き声をあげられて。
 それに構わず私は口内の逸物を舌で舐め上げ、そこに付いた和合水を呑み込んでいきます。
 両膝を床につき、ほとんど四つん這いになりながらひたすらに孫七郎様の逸物を綺麗にする事に集中して。
 孫七郎様の股間に顔を埋め、股座からはぽたぽたと和合水を垂れ流しつつ。
 
「孫七郎様、綺麗になりました」
「あ、ああ、お気使い有難く。
 しかし、杉乃井御殿ではこのような事までして下さるのですか」
「はい、珠姫様が御神託を受けて、それを私達遊女に伝えられておりますから」

 珠姫様の御神託、という言葉に驚いた表情を見せて。
 一瞬後にはどことなく納得されたご様子でした。
 孫七郎様のような、真面目なお方もそれで納得されるというのは……、珠姫様、皆様からどう思われているのでしょうか……。
 それはともかくとして、今度はお湯をかけて汗をお流ししなければいけません。

 いつものように背中にお湯を掛け、石鹸を塗り付け。
 私自身を手拭の代わりにして身体を洗い。
 やはり孫七郎様は慌てた様子でしたが、私がこれもこの杉乃井御殿では普通なのですよ、とご説明致しますと納得して下さいました。
 ……そして背中を洗い終わって、気づいた事が。
 
 普段ですとこのまま腕や指を洗うのですが、今回は既に孫七郎様とまぐわった後でして。
 このままいつも通りの洗い方をしたのでは、その。
 まだ私の胎内に残ったままの和合水が溢れてしまうのは間違いなく。
 先に私の処理をしなければならないのです。
 こういう時、手慣れた方ですと私自身が秘唇から和合水をかき出す姿を見物されたり、あるいはご自分で私の秘唇から和合水をかき出されたりするのです。
 
「孫七郎様、少々お待ち下さいませ。
 私の準備を致しますので……」
「ああ、はい。
 しかし準備、ですか?」

 不思議そうな顔で私の事を見つめる孫七郎様。
 ……思い切ってお見せ致したほうが宜しいのでしょうか。
 悩んでも仕方がありません。
 思い切って私が何をするのかをお伝えする事にしました。
 
 私の胎内に注ぎ込まれた孫七郎様のその、精をかき出してから秘唇を使って身体をお洗いするのです、と。
 その言葉を聞いた瞬間、孫七郎様の顔が真っ赤になりました。
 流石に想像もしていなかったらしく些か慌てた様子で、それでもやはり興味そのものがない訳ではないらしく。
 結局、私が自分でかき出す所を見て頂く事になり。

「……そ、それでは孫七郎様、こちらを見て下さいませ」

 床に座って脚を大きく開き。
 左手で秘唇を割り開いて右手の指で奥をかき回し、少しずつ膣内の和合水を外に出していきます。
 一心不乱に自らの秘唇を弄る私の姿に、腰掛に座った孫一郎様の、その。
 逸物が少しずつ大きくなっていくのが目に入りまして。
 大きくなっていく逸物を見て、その逸物が入れられていた事を思い出しながら自分の指が膣内を動きまわり。
 指を動かす度に私の喉から喘ぎ声が漏れ、それに合わせるかのように孫七郎様の顔も何かを耐えるような表情になって。

「れ、恋殿……。
 申し訳ない、また……」
「はい、それではこちらに……」

 三度大きくなったご自身を持て余していた孫七郎様が、今度は自ら私をお求めになられて。
 その求めに応える為に今度は湯船の縁に手を掛け、お尻を孫七郎様に向けました。
 
「孫七郎様、後ろから私を抱いて下さいませ」
「よ、宜しいのですか?
 このような姿勢で……」
「はい、私を求めて来て下さる方は大抵このようにして私の事を抱かれますから。
 ですからお気になさらず、お願い致します」
「それでは……」

 私の後ろに孫七郎様が近付く気配が感じられ。
 それに合わせて右手をお腹の下から秘唇に沿わせ、ぱっくりと割り開き。
 私の腰を孫七郎様の手がしっかり押さえた次の瞬間。
 ずんっ、と身体の奥深くまで届くような衝撃が私自身を襲い、後ろから孫七郎様の激しい攻めが私の意識をあっという間に高めて。
 
 今までとは違う、孫七郎様の激しい攻めに私は幾度も達して。
 覚えているだけでも三回以上、孫七郎様の迸りを胎内奥深くで受け止めていました。
 全ての行為が終わった後、孫七郎様は「何故か判らないが、恋殿を後ろから貫いた瞬間理性の箍が外れてしまった」と仰っておられました。
 私を後ろから攻めたてた殿方は皆様同じ事を仰います、どうか気にしないで下さいとお伝えしたものの、孫七郎様はそれでも気にされているご様子で。

 それでは今宵一晩、私の事を抱きしめて下さいませ、それで私は気にしませんから、とお願い致しましたら快く引き受けて下さいました。
 その夜は孫七郎様の腕の中、安堵感に包まれながら床につき。
 そして翌日、目覚めた時には既に孫七郎様の姿はなく。
 枕元に一通の手紙がしたためられておりました。


「恋殿。
 貴女が目覚める前に帰るのは卑怯かとも思いましたが、私も許婚を持つ身なればこれ以上恋殿とご一緒していては我が心が揺れかねず。
 誠に申し訳ありませんが先に発たせて頂き申した。
 昨夜の出来事は一生忘れませぬ。
 本当に有難う御座い申した」


 この手紙を見た瞬間。
 ああ、孫七郎様は本気で私の事を見ていて下さったのだと。
 それが何よりも嬉しく、そしてそれが何よりも哀しく。
 その手紙を抱いたまま、私はしばし泣き崩れたのでした―――。

 

 

 


 
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