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大友の姫巫女

南海死闘編

幕間 二条城 宴の席にて


「此度は拝謁を賜り……」

「堅苦しい挨拶は結構。島津家久殿。
  今は宴ぞ。
  九州の話でもして頂けぬか」

「とはいえ、それがしは学も芸もなく、話せると言えば戦の話ぐらい。
  場汚しにしかならぬかと」

「それよ!
  わしは、いかにして島津殿が大友の姫巫女の魔の手から逃れたのか知りたいのよ」

「それでは。
  この話はそれがしではなく我が兄歳久より聞いた事にて。
  まずはそれをご承知頂きたく。
  歳久兄者が申すには、大友とは大猪だと」

「大猪?」

「図体大きく山野を荒らす山神様だそうで。
  では、これを狩るにはどう知恵を絞るか?」

「狩るときたか。
  戦うではなく」

「そこなのです。織田様。
  家というのは大なり小なり主の命を聞かねばならぬ身。
  それゆえ、数ではなく大きさで表すのが相応しいと兄者は申しておりました。
  なれば、大きかろうと小さかろうと、頭を討ち取れば」

「みなまでいわずとも結構。
  わしも桶狭間で似たような事をしたのでな。
  だが、その頭をどうやって討ち取るのだ?」

「大事なのは『頭がどこにあるか?』ではなく、『頭が何処に来るか?』
  絶対に頭が来らざるを得ない場所におびき寄せるのです」

「で、どうやって頭をおびき寄せるのだ?」

「それがしが、『狩る』と言った事を思い出して頂きたい。
  犬や勢子は何のために居るので?」

「なるほど。
  振り回して疲れさせるか。
  犬や勢子が島津家では何になるのだ?」

「それがしや、忠平(義弘)兄者、歳久兄者がそれにあたり申す。
  我らが、肝付や相良での戦で勝ったからこそ、大友はいやでも前に出て着た次第で。
  織田殿が朝廷を使い和議を斡旋していただけねば、木崎原の地で我等は大友相手にその牙を突き立てていたでしょう」

「ふむ。
  その木崎原だが、良ければその武勇伝も聞かせてもらえぬか。
  九州にて話題になった戦で、その場にいた者の話が聞けるのが楽しみでな」

「いやいや。
  それがしは後詰に出たまでで、その功績は忠平兄者の物。
  それに、あの戦でそれがしは大友の一隊に痛い目にあい申した次第。
  先に木崎原で大友に牙を立てると粋がってみましたが、戦えば大友の図体に踏み潰されていた事も考え申した」

「ほほう。
  痛い目とは?」

「珠姫の愛人たる立花元鎮が率いる御社衆にて。
  この御社衆、流れ者や溢れ者を雇い、姫の手駒の中で最も練度も指揮も低い事で九州では知られてい申した。
  しかし、立花元鎮はその兵を率いて、忠平兄者やそれがしの手勢を飛び道具にて痛めつけたのでございます」

「飛び道具?
  弓や鉄砲か?」

「大筒もにございます。
  水軍衆が使いし棒火矢まで用いて、われらを叩き潰したのです」

「解せぬな。
  弓鉄砲はともかく、大筒となると動かすのが難しい。
  横槍で崩せばよかろうに?」

「奴等は、府内で南蛮人が暴れた際に用いた方陣を使っており申した。
  この陣、四方全てに長槍を置き、四隅に飛び道具を置く事で死角を無くし、まるで城のようでござった。
  それゆえ、一度引いて陣が崩れた所を叩こうと思っていたのですが伊東の残党がかかるのみにて、その間に陣を解き荷駄を捨てて逃げ去ったのでございます。
  その時の我等は、『九仞の功を一簣に虧いた』と悔しがった次第。
  立花元鎮と御社衆は四国でも戦を行いて勝ったとか。
  一将にて羊が狼に化けたかと忠平兄者などは立花元鎮を警戒しており申した」

「そのような話を、土佐長宗我部の使者もしておったな。
  いずれ、この畿内から土佐を結んで薩摩に船が出入りするので、その折に聞いてみるのも良かろう」

「本当に織田殿には感謝している次第。
  紹介して頂いた堺の座屋が売り買いして頂けねば、我等は博多にて不当な値で売り買いをせねばならぬ所で」

「勘違いしてもらっては困る。島津殿。
  わしは大友と争うつもりはないのだ。
  ただ、乱世を終わらせたいのみ。
  大友と島津が争わぬよう、できうる手は取るので是非我等を頼って頂きたい」

「ありがたき幸せ。
  われらも大友と争う事は望みませぬが、助けて頂いた恩はこの武にてお返しする所存」

 

 

 


「一益。
  フランシスコ・カブラルを連れて来い。
  府内で暴れた南蛮人の使いし方陣の事を精しく聞くぞ。
  それと、堺と国友より鉄砲をありったけ買い占めろ。
  あと、九鬼嘉隆に命じて棒火矢の事を聞き出せ」

「誰を勢子にするので?」

「羽柴と明智と家康よ。
  猪狩りだ。
  武田という大猪よ。
  お前は狩人として頭を仕留めよ」

「承知」



 

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