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大友の姫巫女

南海死闘編

閑話その四 びっち みーつ びっち 

  
  これは、讃岐と阿波が大混乱に陥っていたある日の物語である。

「私に会いたい?
  追い返しちゃいなさいよ」

 現在必死に状況をまとめようと修羅場っている珠です。
  そんな状況下で客に会うつもりなんてまったくないのですが。
  普通、この手の客が来るならば丁重にお引取り願う政千代・八重・九重の三人が雁首揃えて私の所にやってくるって事はかなりの大物と見た。
  そこまで考えた結果、前言を撤回する。

「誰が来たの?」

 三人を代表して政千代が口をあけた。

「はっ。
  三好実休様の室で小少将殿です」

「……」

 うわ。
  そりゃ、追い返せない。
  間違いなく彼女はこの阿波・讃岐のキーパーソンの一人なんだから。

「いいわ。
  会いましょう。
  奥に通して頂戴」

「あ、あのぉ……」

 そこまで言った後で、めずらしく言い澱んだ声で八重が声をかける。
  その顔には困惑の文字が浮かんでいた。

「会見の席なのですが、小少将殿は安宅冬康殿および立花元鎮殿ともお会いしたいと」

「……」

 三好一族の重鎮でもある安宅冬康に会いたいというのは分かるが、なんで四郎にも会いたいのだろう?
  全体のデザインを作っているのは私だから私に会いたいのは分かるのだけど。
  よくわからないが、ここで追い返すのはまずい。
  正直な所、状況を改善できる玉が転がり込んだようなものなのだ。
  そして私が考えている事を三人も思ったのだろう。
  政千代・八重・九重も同じような顔を浮かべていたり。
  多分、私も同じ顔を浮かべているに違いない。

「構わないわ。
  四郎と安宅冬康も呼んで頂戴」

 

「お初にお目にかかります。
  珠姫様」

 入ってきたのはBBA=ボインボイン姉貴だった。
  というか、色気が凄い。
  四郎と安宅冬康はごくりと唾飲み込んだし。
  いや、私も飲み込みましたがな。つば。
  というか、その衣装は何?
  肩丸見えで艶やかな着物からあふれんばかりに主張する乳!乳!(大事なので強調してみる)
  その着物とコントラストを見せ付ける白い肌というかうなじがすげー綺麗。
  瑞々しい黒髪を結っている簪が銀細工で櫛が鼈甲、髪飾りが珊瑚。
  そして帯がまないた帯。

 どうみても花魁です。
  ほんとうにありがとうございました。

「珠姫です。
  その着物綺麗ですね」

 とりあえず、色気から頭を覚ます為に適当に言った言葉が壮絶なブーメランになって返ってこようとは。

「姫様達の衣装が畿内でも流行っていまして。
  流行の先端を行く姫様には適いませぬわ」

 元凶あたしだよ。おい。
  そーいえば下着売る為にこっちの遊女引き連れて畿内ツアーとかやったし、遊女のブランド浸透を狙ってファッションを広めたりした覚えが。が。
  めでたく上流階級にも行き渡ったかと思う反面、それがオフィシャル衣装になるとは想定外だった訳で。

「何よりも、姫様の今のお姿とても似合っておりますわよ」

「……」

 いや、あんたのそれ見た後で言われても嬉しくないんですけど。
  ちなみに私の今の衣装は某格闘ゲーム(エロバレーでも可)のくノ一さんだったり。
  しろちち(あおちち)さまはやっぱり神だった。
  わざわざ絹で特注したストッキングで太もも絶対領域を演出し、篭手をつけるための長めの腕カバーで腋を強調。
  横から見ると太めの帯で留めているだけで丸見え(もちろん紐パンの結びは横だ)という素敵ファッション。
  そろそろお腹が大きいので鎧系はアウトだし、エロスポイントを乳と太ももとお尻に絞った結果がこれである。
  目指すのは傾奇者の女バージョン。
  ちゃんと前垂に大友家家紋である杏葉紋を入れているこだわりの一品だったり。

 ちょっと話はそれるけど、この手のエロスコスプレは戦国末期に限っては『あり』かなと思っていたりする。
  理由は三つ。

 まず一つ目として大砲が大友家を主体に運用が始まっており、鎧そのものが意味がない状況になりつつある事がひとつ。
  銃だけならば信長よろしく南蛮胴具足でいいのだけど、既に大砲を使い出している以上つける意味があるのかというと疑問符がつく。
  もっとも、何も防具をつけないというのも危ないので、怪我しやすい手足のみ篭手と脛当てをつける訳で。
  今は部屋だからつけてないけど、これだけはいいものを用意していたり。

 二つ目として隊列や陣形によって戦が行われているので、誰が誰だかわからなくなるという事があげられる。
  傾奇者の代表である前田慶次や名古屋山三郎みたいな連中が派手な格好をしたのは、自分が戦う事で敵味方にアピールしているのだ。
  その為、個人の武勇がまだ重視される足軽大将や一番槍、大名の最側近である馬揃なとが派手な衣装をつけていたのはこんな所に理由がある。
  おまけに火力の増大とともに煙という視野を妨害するものが戦場に広がっているから、派手な色でないと見分けがつかないという理由も。
  このあたりでぴんと私があげた理由が分かった人はある意味凄い。
  要するにナポレオン戦争のスタイルが既に西国で始まりかかっているという事なのだから。

 最後の一個は私的理由ではあるのだけど、私自身が本陣から動かない事。
  勝ち戦ならば動く事はなく、私が動く時は敗走時しかない。
  そんな状況下で剣豪将軍よろしく斬っては捨て斬っては捨てなんてできる訳もなく。
  ならば、身軽な方が逃げやすいのは当然な訳で。
  それを踏まえての逃げやすい衣装がこれである。
  最悪捕まっても、殺される前に陵辱されるからまだ逃げるチャンスが増えるというのもあったり。
  とはいえ、さすがにそんな格好で出すのは政千代と八重・九重の良心が許さなかったらしく、打掛を羽織らされた結果、座った時に前垂だけがちょこんと出ていたり。

「で、今回のご訪問の理由をお話していただけると嬉しいのですが。
  色々と立て込んでおりまして」

 とりあえず、軽い皮肉をまぜまぜした挨拶代わりのジャブを放ってみる。
  返ってきたカウンターは想定外のものだった。


「ええ。
  立花殿に安宅殿。
  私を側室にしませんか?」
 

「……はい?」

 声を返したのは私だった。
  ちなみに、私と小少将以外まだフリーズしていたり。
  そんな一同を前に煙管を取り出して手でくるくると。
  実に様になっているのが困る。まじで。

「いえね。
  篠原自遁が討ち死にしたから新しい男を捜そうと思って」

 清々しいまでにビッチだ!この人!!
  というか、この時点であんた×3だろうが!
  最初の旦那が阿波守護の細川持隆で、三好家と対立した時に三好義賢に殺された。
  その三好義賢が次の旦那なんだけど、彼は和泉国久米田合戦で討ち死に。
  ここで未亡人として尼なんぞになってないからこんな格好をしている訳で。
  で、三番目の旦那があの篠原自遁。
  この人僧侶だったんだけど、小少将の肉の味を覚えたあげく二人の子供まで作ってやがった。
  ついでに、彼女の子供で細川持隆の種が細川真之であり、三好義賢の種が三好長治と十河存保である。
  ちなみに、篠原自遁がこっちに粛清の許可をもらいに来て讃阿擾乱のきっかけとなった篠原長房は篠原自遁の兄に当たる。

 つまり、この状況を作り上げた元凶の一人である。

 色々と痛罵したい事があるのだけど、ぐっと我慢する。
  とはいえ、皮肉のひとつでも返してやりたいのは止められない訳で。

「男の上に常に乗り続けないといけないなんて大変ですね」

 あ、四郎や安宅冬康や政千代・八重・九重が『あんたが言うな!あんたが!!』と目で言っているけど、知らないふりをする。
  けど、私を含めて更に唖然とする言葉を小少将は平然と言いやがった。

「だって、あなた達が全部討ち取ったからじゃない。
  代えの馬ぐらい用意して貰わないと」

 え?
  この人、今何を言った?
  全て討ち取ったって……

「あんた、まさか三好三人衆とも繋がっていたか……」

 私の呟きに小少将は何も答えずにただ微笑むだけ。
  それが全てを物語っていた。
  そういう事か。
  阿波三好領内で三好三人衆が大名直轄領を横領していたのは以前触れたと思うのだけど、それを側面から押したのはあんたか!
  できるのだ。彼女ならば政治的に・権威的に。
  何しろ政治のトップ(一応)は彼女の子供である三好長治と十河存保な訳で。
  それを保障する権威のトップも彼女の子供である細川真之だ。
  そして、それらの政治と権威を維持管理するには篠原長房の手だけではな足りない。
  篠原自遁経由で接触したか、三人衆が彼女に近づいたのかは知らないが、彼女の御乱交の中に入っていたのは間違いない事実だろう。
  だから篠原長房が政治的に押されていたのだ。
  これだけ閨閥(厳密な意味では違うがあえてこの言葉を使わせてもらう)で固められたら動きようがない。

 傾国の美女。
  まさにその名前に相応しい胸を揺らしてアピールなんかしつつ小少将は口を開く。

「で、お二方いかがです?
  閨で全てをお見せしますし、味わっても構いませぬよ?」

「いや、ちょっと待って。お願い。
  あんたその前に言う事があるんじゃいなの?」

 さすがに話が脱線するのはまずいと思ってあわてて私が軌道修正を試みるが、彼女はきょとんとするばかり。

「何かありますか?」

「って何故に疑問系?
  あるでしょう!
  阿波と讃岐の混乱や、あんたの息子の事や」

 ぽんと手を叩く小少将。
  やっと話が本題に戻ると安堵した私の声に、あっけらんとした小少将の声が聞こえる。

「関係ありませんわ。
  そんな事」

 あえて弁護する。
  戦国時代の武家には『家』が全てだった。
  『家族』ではなく『家』である。
  どういう事かというと、子供はその『家』のものなのだ。
  具体的な例をあげると、大友家における私の出なんかが参考になるだろう。
  生みの母が比売大神なんだけど、育ててくれたのは『正室』の奈多婦人である。
  さらにここからがちょっと歪んでいて、実際に育てたのは奈多婦人に従う乳母達なのである。
『生みの親より育ての親』なんて言葉がどうして出きるのかというと、まさに生む人と育てる人が違うからに他ならない。
  しかも、正室は基本政略結婚が前提ゆえに実家の外交官みたいな立場につくので、外戚排除の意味合いから確実に息子は取り上げられる。
  なお、娘はまた嫁に出す事からそのまま嫁に育てられるケースが多い。
  このあたりの人間関係は後の未来人から見ると恐ろしいぐらいシビアでドライだったりするのだ。
  それを知っているがゆえに、私は彼女を責められない。

「思うがままに生きたいの。
  もう家とか戦とかこりごり。
  ただ、閨で男の肌を感じながら一生を過ごしたいだけなのに」

 その言葉は心からの言葉なのだろう。
  政略結婚の果てに主人を殺され、先立たれでその体を持て余す気持ちは痛いほど分かる。
  また話がずれるのだが、四郎の子を孕んでから御乱交三昧をする私なんだけど、エロゲー的『姫様調教して裏から大友家乗っ取っちゃる』的な動きは基本的にみんな起こせない。
  ……まぁ、たくらんだ馬鹿野郎の幾許かが別府湾と玄界灘で屍になっていたりするのだが。
  それもこれも下克上上等で大名独裁権が確立していないからで、ぶっちゃけると私の御乱交中の男達の中にすら、家臣(案外四郎あたりかも)が潜ませた間者がいる。
  アへっている私の前で己の野望なんて吐こうものならば、大友と毛利の間者にその日のうちにずんばらりんである。
  なお、今は無き吉岡老なんて、

「まぐわうなら同紋衆の若者達を引き合わせますので、それで我慢できませぬか?」

 なんて懇願する始末。
  これはひとつの警告であって、『乱交OKだから四郎の血を引く子供をこれ以上作るな』と暗に言っているに等しい。
  大友同紋衆にとって父上である大友義鎮の血を引く大友珠の子供は価値があるけど、これに毛利元就の血なんて入れてみたら、その子供を経由して毛利が親戚になって家督継承に介入しかねないからだ。
  ちなみに、私の御乱交が許された最大の理由が、私が大友家を暫定的に継ぐ事と私が生んだ子供がみんな娘だったからに他ならない。
  これで息子が生まれていたら、今頃四郎が殺されてひたすら城の奥で同紋衆の若者相手に生む機械と化していた未来は決して低くは無かったのである。
  エロスにまで政治が介入するおそるべき戦国時代。
  ただひたすらアへって快楽を貪る事すら許されないので、遠慮しつつ快楽を貪っているのである。
  これ人間の営みかよと思うそこのあなた。
  とてもいいたとえがあるので、それをあげるとすっきりするだろう。
  競馬である。
  さしあたって私はホクトベガあたりか。
  四郎はトウカイテイオーと見たけどどうだろう?

 話がそれた。
  政治を忘れて快楽を貪った女とその結果が今私の目の前にある。
  私と小少将の違いは多分これだろう。 
  私は『母』で『大名』だけど、小少将は『女』だ。
  ならば、男を求めるのは自然の摂理。
  腹立たしいのだけど、これを突っ込むと間違いなく家中からブーメランとなって自分に突き刺さるのが分かるから自重する。
  この地位についてから思い知ったけど、

「エロゲーの精神崩壊ENDってある意味最高のエンディングだよね。
  第三者はともかく、本人はもう快楽しか認知していないんだから。
  判断の基準が快楽しかないのに良いも悪いも無いじゃない」

とほざいて周囲の友人をドン引きさせた過去を持つ私からすると、正直小少将の生き方に羨ましさも感じていたりするのだ。

「三好長治と細川真之に文を出して、和睦を仲介していただけないでしょうか?」

「したら、私を抱いてくれる?」

 ぞくぞく背中が震えるほど官能的な声で小少将が囁く。
  その優しい笑顔が恐ろしい。
  彼女の澄み切った目に誰も映っていない事がいやでも分かるから。
  言い直そう。
  小少将は女ですらない。牝だ。
  それも、快楽に狂いきって私が求めてあきらめた類の牝だ。

「ええ。抱いてあげるわ。私が」

 初めてきょとんとした顔を浮かべる小少将に私はしてやったりの笑みを浮かべた。

「知らないと思うけど、私、女も食べちゃうお姫様なんで」

 


「おはようございます。ひめさま」(棒)
「きのうはおたのしみでしたね」(棒)
「……ごはんはこれ」(棒)

 冷たい。
  政千代・八重・九重の視線がめっさ冷たい。
  まぁ、朝までちょっと死闘を繰り広げたからだろうけど。
  今までの経験とこちらの魅了スキルが無かったらやばかった。まじで。
  なお、小少将はまだ閨でアへ顔晒して失神中である。
  こっちが妊婦なんておかまいなしで責めるからこっちも遠慮なく……女同士だと体力続くまでやりまくるからガチだと長丁場になって困る。
  とはいえ、なんとか彼女に和解の文(もちろん文面はこっちで用意してサインを入れさせただけである)もゲットしたし、これで状況の改善が少しは見込めるはず。
  運動の後のご飯はおいしいとぱくぱく食べていた時に、四郎と安宅冬康が能面のような顔で部屋に入っている。
  ……もしかして、昨日の一件で怒っているのかな?
  なんてお椀を持って考えていた時、四郎が用件を切り出した。

「今、阿波勝瑞城より早馬が。
  阿波岩倉城にて三好軍が細川軍に大敗。
  三好長治殿の行方が分からないとの事」

 持っていたお椀が手からこぼれて、ことんと大きな音を立てて味噌汁がこぼれた。
  こぼれた味噌汁の熱さよりも私は思ったことを呆然と口にした。

「つまり、昨日の私の努力は……無駄?」

 

 数日後 瀬戸内海にて

「で、なんでここにいるのかしら?」

 四国情勢の急変に錯乱しつつ強引に乗せられ九州に逃げ帰る珠姫丸の船中、当然のようにいる小少将に私は手を震わせて尋ねた。
  私がやる予定だった船女の仕事を取って真っ白けの彼女は当然のように私に言ってのけた。

「え?
  だって姫様が養ってくれるのでしょう?」

 誰が言った!誰が!!
  私はそんな事一言も言ってないわよ!!!
  清々しいぐらいに妖艶に壊れきった笑みを浮かべた小少将は、当然のようにとんでもない一言を。

「あの閨での言葉を忘れるなんて……」

「言った覚えはありません!
  ちょっと!
  四郎に安宅冬康に政千代に八重に九重、そんな目で見ないでって『自業自得』って目で訴えないでよぉぉぉ!!!」

 日頃の行いって大事らしく、誰一人として私の事を信じる人がいねーでやんの。
  小少将が阿波太夫と名前を変えて、九州でも名前を轟かすこれはその前の話。 

 

 追記
  結局、小少将を引き取る形になったので、彼女の子供二人(篠原長秀・篠原右近)を引き取る事に。
  それが篠原長房粛清から始まった三好家崩壊から結果的に命を救う事に。
  助けの手を出した事が、母であり大名である私の業かと自嘲したり。
  今は、二人とも淡路で大友側の将として働いているらしい。

 


  作者より一言。
  インスパイヤされた元ネタは小少将夢譚 ※18禁
  やる夫短編集 阿修羅編より http://mukankei151.blog47.fc2.com/blog-entry-452.html

 
  調べると篠原自遁には二人の子供がおり、母親が分からないのでこれも小少将を母親に。
  ついでに三好三人衆もと好き勝手させてしまいました。

 しかし、ビッチキャラオリ主で売ろうと思ったら、ここでも史実のキャラの方が濃かったというどうしてくれようかこれという結末に……




 

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