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大友の姫巫女

南海死闘編

閑話その二 とある若武者の就職活動 

 珠姫が大友家家督継承の為にしかけた戦であった日向侵攻において、誰もが(いやいやながらも)認める勲功第一位は立花元鎮であった。
  これが、壮絶かつ微妙で珍妙極まりない騒動を巻き起こしたのだが、今回はそれについて語りたいと思う。

「褒美……ですか?」

 四郎が博多に戻る前、佐土原城の一室での話である。
  部屋は暗く、上半身を起こした四郎の正面で何か四つんばいでもそもそ動く物体から、その声は聞こえていたりする。

「そうなのよねぇ。
  下手に褒美をあげると、大友と毛利両方の嫉妬を受けちゃうし。
  どうする?」

 何か声以外の音も色々聞こえていたりするのだが、それについては今回は関係がないのでご容赦いただきたい。
  水音とか、肌に何か当たる音とか、意味がとれない謎の声とか。

「とりあえず、褒美ならば銭で片付けるとして……
  問題は、領地加増なのよねぇ……」

 組織において功の有った者には賞を与え、罪を犯した者には罰を与えるのは当然の事である。
  ましてや、今回の四郎の功績は間違いなく誰もが(しつこいようだがいやいやながらも)認めるものだから、加増は当然と思うだろう。
  だが、四郎の加増は政治的にはかなりというか、ものすごい爆弾だったりするのだった。
  まず第一に四郎は大友家『だけ』の家臣ではない。
  この時代、兼帯として複数の主君を持つ事は許されており、四郎は大友家家臣という地位と同時に毛利家一門衆という地位も持っていた。
  さらに厄介なのが、四郎の上で裸で嬉しそうに腰を振っているどこぞの姫君の愛人なんてやっている事で、大友家の一門衆としてもみなされているという所にある。
  つまり、領地加増というのは、その家における影響力増大を意味し、もう片方の家とも疎遠になってしまう危険を孕んでいるのだった。
  現在四郎が持つ領地は筑前国立花山城を中心とした五万石だが、博多を眼下に見据えるこの場所かつ四郎は博多奉行なんてものまでやっていたりする。 
  実収入では軽く十万石を越えるだろう。
  それに加増なんてするとどうなるか?
  それも、四郎の上で何だか痙攣しながら失神している姫が既に通っている道である。
  この姫は大友家の家督を継いで居ない現在においてすら、豊前・筑前・隠岐という三つ国の守護代なんてやっていたりする。
  おまけに、実収入である銭にいたっては、もはや九州どころか東アジアで並ぶ者がいない超大金持ちである。
  並の戦国大名に並ぶ知行と、尋常ではない銭を持っていたのだから、大友家家中では一時期真剣に珠姫排除の動きを検討していた。
  だが、それは見送られ、長男長寿丸の繋ぎとして彼女に大友家を継がせる事で、辛うじてこの粛清を回避したのであった。
  そういう緊急回避が行えたのも、大友家はまだ大友義鎮が実権を握っていたというのが大きい。
  このあたり、大友家の家臣としてならば四郎に加増を与える事について、嫉妬や危険視まで含めてもまぁ対処できる問題だと二人とも認識していた。
  問題は四郎の実家である毛利家の方だった。
  毛利家を率いる輝元は初陣となった明禅寺合戦でまさかの敗北を喫し、その権威確立に四苦八苦。
  辛うじて毛利がまとまっているのが、実権を握っている吉川元春と小早川隆景が輝元を支えているからに他ならない。
  彼らが輝元を支え、それを見て他の一門や譜代衆も輝元を支えているという危ういバランスの上で、毛利家というのは成り立っていた。
  そんな状況に立花元鎮の加増は一石を投じかねない可能性があったのである。

「正直な所、これ以上の知行はいらないのですが……」

 繋がったまま珠姫の頭を撫でる四郎に、我に帰った珠姫は息を整えながらうめく。
  扇のように髪を広げたままうめく姿は、羽化する蝶のようにも見えた。

「既に、佐伯惟教に財府城をあげているから、四郎の褒美なしはものすごくまずいのよ。
  城かそれに類する家宝なんだけど、何かないかなぁ……」
  
「でしたら、一つ刀を頂きたく」

 呻いていた珠姫が顔を上げて闇の中で四郎をまじまじと見る。
  闇になれた四郎の目には、そのたわわに実った胸が跳ねる所まで見えていたりするのだが。

「四郎って、そんなの興味あったっけ?」

「ありませぬが、持っていれば褒美に渡せます。
  率いるのがあれですので、目に見える褒美は大事かと」

「あー」

 こてんと音がしたかと思うぐらい、勢い良く珠姫の頭が四郎の腹の上に落ちる。
  痛いと思うような体ではないのだが、それ以上にこれから四郎が率いる『あれ』呼ばわりの御社衆の錬度を考えると頭が痛い。
  ちなみに、今回の日向戦で最後まで残っていた御社衆は三割しか残っていない。
  残りは、皆契約を継続せずにさっさと帰ってしまったのである。
  傭兵家業は基本自分のみが全てという事もあって、できる連中も多いのと同時に、感が鋭くて自分の命が危ないと逃げてしまう傾向がある。
  何しろ、今回の島津戦はそんな意味では最悪の相手と言ってよかった。
  菱刈・伊東・肝付・相良と完勝してみせたその幻影は、傭兵には死神が鎌を持って待ち構えているような感覚を植えつけていったのである。

『たしかに、この戦は勝てるだろう。
  けど、その勝ち戦に自分が死なないで残る事ができるか?』

 その疑問にNOを出して次々と彼らは離脱。
  兵も多く、無理に働かせても役に立たないと悟った四郎はさっさと契約を打ち切ったので支障はなかっのたが、この御社衆崩壊はそれまでの御社衆に対する不信を決定的なまでに高めてしまっていた。

「目の前に宝をぶら下げて、褒章として渡せるのならば彼らの士気もあがりましょう」

「たしか、国俊銘太刀があったわね。
  じゃあ、それをあげるわ。
  それ以外に、もう少し色をつけたいけど、ひとまずはこれで」

 国俊銘太刀は山城の刀工・来国俊の作で秋月種実が持っていたのだが、秋月滅亡後に珠姫の所にやってきていたりする。
  もっとも、彼女は刀を使わないし、大典太光世を持っていたので渡しても構わないと割り切って考えていた。
  胸を押し付けながら、珠姫は話を元に戻す。

「よく、三割も残ったものだわ。
  四郎。
  全員立花家で抱え込んじゃっていいわよ。
  間違いなく、そいつらは四郎の手足として役に立つから」 

 四郎の腹に胸だけでなく顔をこすりつけながら、珠姫が呟く。
  何しろ立花家そのものが、謀反とその粛清で家中がめちゃくちゃになっており、大友や毛利から頭を持ってきても手足となる中間層から末端部がぞこっと抜けていたのだった。
  今回の日向戦においてそれが破綻しなかったのは、ひとえに清水宗治・村上吉継・寒田鎮将という大将連中が頑張ったからに他ならない。

「そういえば、姫。
  怒留湯融泉殿を香春鎮台にお移しなるという事は、恵利暢尭殿に全て任せるおつもりですか?」

 賢者時間なので、頭が冴えている四郎の手が当然のようにたわわに実った果実(比喩表現)を揉みながら尋ねる。
  既に北部九州全域に広がっている御社衆を一人で押さえるのは無理なのは珠姫も分かっていたので、喘ぎながら抜擢する人間の名前を継げた。

「四郎が美々津で私に会わせた野崎綱吉ってのがいたでしょ。
  彼に手伝ってもらいましょう。
  他にも誰か居る?」

 何か大きくなったものに対して嬉しそうな声をあげた珠姫に、四郎は口付けしながらその者の名前を告げた。


 

 一月後 博多 立花山城前

「たのもう。
  立花様の紹介状を持ってまいった、小林吉隆と申すもの……」

 そう名乗った若武者が見事なまでに硬直するのだが、門番をしていた二人の若武者は『あ、新入りらしい』という顔で小林吉隆を出迎える。
  なお、間違いなく二人の門番の方が若いが、きっとなれだろう。うん。

「あ、気にしなくていいので。
  もうすぐ中州に持って行きますから。これ。
  忠三郎。
  かき手何時来るんだっけ?」

「与右衛門よ。
  もうそろそろではないか?
  まったく、晒されるのが好きとか困ったものよ。
  あ、立て板忘れているから持ってこさせないと」

 門番が気だるそうに見つめたそれは神輿が一つ。
  というか、その神輿の上にあられもない姿でアへっている女(しかも一人は妊婦だった)が二人ほどいたりするが、周りがさして気にしていないという事はきっと日常なのだろう。
  そう思う事にした。
  ちなみに、この門番二人も杉乃井家の小姓で、初陣である日向戦において功績をあげた若武者だったりするのだが、その次の仕事がこれである。
  そのやさぐれ具合は押して知るべし。
  とはいえ、彼ら二人は次の戦では足軽組頭に大抜擢される事が決定しており、そのかき手や護衛は彼ら二人が率いる足軽組だったりするのだから、まぁある種の実地訓練という事にしておいて欲しい。
  そんな屁理屈を堂々と主張して大抜擢を押し込んだのが、そこでくぱぁのままアレされたアへ妊婦だったりするのだが。
  なお、この二人の若武者の苗字を聞いて、派手にアへっている妊婦が飛び起きたのはこの城では伝説となっていたりして、それも彼らのやさぐれ具合に拍車をかけていたりするのだが。

(今やかつての大内以上の栄華を誇る大友家の有力武将がこれとは……)

 とてつもなく冷ややかな目で女体神輿を眺め、仕官先を間違えたかと思いながら、小林吉隆は城内に入る。
  庭先で派手に並べられていたのは、大量の旗だった。

「この間は一条に伊東、今回は大友、次は毛利に卍……」
「我ら、何処の家なのだろうな……」

 中々不穏当な事を呟きながら城の者達が旗の手入れをしていた。
  彼ら元御社衆の家臣にとって、立花家=御社衆だからその認識は間違ってはいない。
  だが、ここまであからさまだと、小林吉隆も何と言っていいか分からない。
  何しろ、彼は武将待遇でここに呼ばれているという事は、さっきの彼らは彼の部下になるかもしれないという事である。

「殿。
  小林吉隆殿をお連れしました」

「入ってくだされ」

 小姓に連れられた部屋で待っていたのは、書類を片手に仕事に励む四郎の姿。
  均整で、礼儀正しく、丁寧な言葉使いで四郎は彼に語りかけた。

「ようこそ。お待ちしておりました。
  小林吉隆殿。
  立花元鎮と申します」

 小林吉隆の時が瞬き三回分ほど止まった。
  小林吉隆は越前朝倉家の将だった。
  その後、朝倉家が滅亡した後は織田家に仕えていたのだが、色々あってこの場所にいる。
  日本海交易をほぼ独占し、若狭商人との繋がりの深い珠姫にとって、港があって船が出ているのならば『お隣さん』でしかない。
  実際、彼のように故郷に居られなくなった者や、再起を目指す者のかなりがこの博多にやってきていたのだった。
  話がそれたが、彼もここに呼ばれるだけの武将であるからして、動揺を顔には出さずに建て直しの為に思った事を聞いてみる事にした。

「あの城門の女二人は何です?」

「私の奥と側室です」

 即答だった。
  瞬殺だった。
  これ以上聞いてくれるなと目で訴えていたが、その質問をした者で今まで誰一人としてそれを守る人間は居なかった。
  そりゃそうである。
  四郎の言葉が本当ならば、この立花山城の女主人なのだから。
  ちなみに、その女主人、

「あれに負けるなんて女として我慢できないのじゃ!!!!」

 と合戦に及んで惨敗した結果である。
  誰に負けたかというと、もう言わなくてもいいだろう。
  なお、その勝者は四郎の側室から聞いた『中州遊郭で晒し者』を凄くしたかったらしく、こうして嬉々としてやっているあたり、まぁストレス発散しているのだろう。
  島津戦とか、日向復興とか、長宗我部とか、竜造寺とか、織田信長とか彼女のストレスの種は尽きない。
  だから、四郎は自らの口で差し障りないように理由を話す。

「日向の戦において大友同紋衆に連なる美姫を頂き、それを周知している次第で。
  我が立花家は先代が家臣に弑逆され、権勢の回復にもこうして大友の繋がりを見せ付けねばならぬのです」

 これが、四郎がもらったもう最大の褒章だった。
  同紋衆の家とはいえ大友の血を引いていない四郎と、来島水軍出身の鶴姫という夫婦では大友の影響力の強い九州では色々と問題があるのである。
  事実、謀反粛清後の立花家家臣団で去った連中の大半が吐いた理由が、『大内の血を引かぬ毛利の子に忠誠が誓えるか!』という捨て台詞だったりするのだから。
  こうして大友の血を引く美姫を貰った事で、立花家をきちんと大友同紋衆に位置づけるという褒章は実際にもらったのが女一人という事もあって、毛利を刺激せずに歓迎された。
  …………事になっている。
  褒美の話の表側だけ聞いて激怒した鶴姫に、それを止めようとした鶴姫つきの侍女の夏と留守番だった立花家筆頭家老である雄城鎮景が広間に入ると、

「どおもぉ~
  新しく四郎の側室になった恋姫でぇす♪
  よ・ろ・し・く・Ne」

 なお、そのもらった美姫の名前って、恋姫というらしい。
  新しくできた同紋衆杉乃井家の美姫である。
  そう。恋姫である。
  何だが既にお腹に四郎の子供がいるが恋姫である。
  少し前まで、日向侵攻の総大将をやっていたがような気もするが恋姫である。
  大友家次期後継者だったり、『嬉しそうに腰を振る』と知瑠乃に馬鹿にされたりもするが恋姫なのである。
  広間の主人席に堂々と座って、事情を知っている四郎以下日向に出陣していた連中がガチで頭を抱えていたり、白貴太夫や政千代以下珠姫直轄の姫巫女衆がまとめてやってきていて立花家家臣団に『ほんとごめん』と目で謝っていたりするが、恋姫という事にしてほしい。
  ちなみに、府内にいるはずの珠姫はというと、評定の席で実に大人しく清楚に笑う事しかできなかったりする。
  ばればれである。
  珠姫の父である大友義鎮は大爆笑の果てに、

「いいではないか。
  わしもふらりと逃げ出したくなるものよ。
  あれにも休息は必要だ」 
 
  と、この親にしてこの娘ありの対応をして丸く治めてしまったり。駄目だこの父娘。はやくなんとかしないと。
  ちなみに、美々津で懇々と説教をした戸次鑑連は肩を震わせて激怒していたり。
  その理由が、一応気にしていたらしい、彼あての某姫様の文である。

『遠慮なく頼らせていただきます。
  あ、畜生のまねはしないから By珠』

 博多から漏れ伝える話では、たしかに畜生のまねはしていない。
  やっている事が畜生以下なだけという、斜め下にかっ飛んだ事をやらかしているのだが。
  きっと、某21世紀では堂々と名乗って、映画割引をげっとしたり、某ガイナアニメを見て『私の時代きたぁぁっ!!!』と叫ぶような事だろう。多分。
  ちなみに、彼についたあだ名である『雷神』は彼の輝かしい武功の他に、某姫様とその姫の父親である某大名を叱り付けた雷ぶりによって広がったりするのだが、それは別の話。
  そんな裏事情なんて小林吉隆は当然知る訳もない。
  だから、時間を稼いだ彼は本題を切り出した。

「大友は織田と戦うおつもりか?」

 その問いに、四郎は笑顔のままで静かに首を横に振った。

「いえ。
  あくまで大友は畿内の戦に係わるつもりはありませぬ。
  我らは一向宗門徒として石山に入る所存にて」

 小林吉隆の顔が厳しくなる。
  元朝倉家家臣として、散々死闘を繰り返していた一向宗になるというのは心穏やかなものではない。
  特に、その一向宗によってこの地に来ている彼にとって見れば。

 織田家の浅井・朝倉征服事業において、朝倉が支配していた越前については多くの朝倉家家臣が降伏したこともあり、前波吉継を越前守護代にしてその統治を任せる事になった。
  だが、一向宗が長きにわたり治め、朝倉家が上杉家の協力の下に征服した加賀の領有で信長と一向宗が対立。
  加賀・越前一向一揆となって勃発し、織田家はその鎮圧に全力を傾けなければならないほどの状況に追い込まれたのだった。
  小林吉隆はこの一向一揆時に、彼の上司で暴虐を極めた富田長繁を撃ち殺して逐電していたのだが、そのあたりの情報をしっかり握る程度には大友家の諜報網は機能していたのだった。
  人が足りないと人材を求めた珠姫が、四郎経由で聞いたこの話を逃す訳がなかった。
  そして、この一向一揆がそのまま信長による彼らの本山である石山本願寺攻めの理由になると、珠姫から四郎は閨で聞かされていた。
  現在、石山本願寺の近くには織田軍のまとまった兵はいない。
  とはいえ、越前・加賀情勢の激化に伴い一向宗を率いる本願寺顕如も開戦を決意。
  雑賀衆をはじめとした畿内の門徒を集めだしており、大友毛利連合はその西国の門徒を畿内に集めるために全面協力していたのだった。
  四郎の派遣はその一環である。
  だから、小林吉隆はその違いが理解できない。
  どうして大友は織田と戦わないのかという疑問が顔に出ていたのだろう。
  四郎が笑みを崩さないままその答えを口に出す。

「毛利は、石山と共に戦いますよ。
  既に織田は尼子の残党と組んでいる報告がありますし、我らが攻めている浦上ともつるんでいます。
  だが、大友には理由がない。
  そうなっています」

 喘ぎながら、珠姫が漏らした大友にとっての石山戦ははるかに容赦なかった。
  美姫を下賜されたというある種の遊び&欲求不満解消を、彼女自身徹底的に政治的に利用するつもりだったのだから。

「かわいいお姫様に種付けする事が大事だから、戦場に連れて行かないとね~
  大丈夫。
  おとなしく船の中でじっとしているからぁ」

 なんて可愛く言って、四郎が果て寝た後ぽつり、

「信長相手に奥に篭ってちゃ駄目……
  日向の時みたいに、追い詰められなれないようにする為には、こっちが状況を作らないと……
  危ないけど、前に出ないと追い詰められるのはこっちね……」

 なんて繋がったまま壮絶な顔で呟くあたり、珠姫は対島津戦の時以上に対織田戦においては欺瞞と策謀を撒き散らすつもりだっのだから。
  それを四郎はしっかりと寝たふりをして聞いていた。
  他にも、

「いざとなったら、私が当主を退いて家を守るわよ」
「我らが負けるとおっしゃいますか!」
「うん」

 それが嫉妬であるという事は四郎にも分かっていた。
  何よりも腹が立つのが、珠姫が織田信長を遥かに高く買っており、彼女が率いる大友毛利連合の敗北を前提に仕掛けを組んでいる事だった。
  四郎も実際の所天下なんてどうでもよかったりする。
  だが、彼が虜にされ、彼が全てをかけた珠姫が織田信長の下にいる事を許容するという未来を四郎は我慢できない。
  四郎こと、立花元鎮は毛利元就の血を引く者として、珠姫と信長の遊戯盤に割り込んでその盤をひっくり返す事を珠姫に内緒で画策していたのだった。

 四郎は穏やかな笑みを崩さない。
  もし、黄泉にいる毛利元就が見たら、きっと笑ってこう言っただろう。

『わしの若い頃の笑い方にそっくりだ』

と。

 

「だから、この戦で織田信長を討ち取ります。
  その為に、貴方に来てもらったのです」




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