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大友の姫巫女

南海死闘編

第七十七話 櫛田崩れ その後


  珠姫暗殺未遂事件の翌日、私は厳重な護衛のもとで博多・中洲を練り歩き無事をアピール。
  その翌日には南蛮船で門司に入り、四郎と共に毛利側に襲撃事件の発生と私の無事を報告。
  更に次の日の朝には、南蛮船の上から宇佐の外港である中洲を見下ろすところにまで来ていた。
  暗殺者とて大組織ではない。
  この時代、一番手っ取り早く身を守るのは場所を変える事なのだ。
  まぁ、南蛮船に潜まれたらアウトだが、南蛮船船員はそれこそ私の子飼いだし、万一の事を考えて四郎と共に家畜室に入っていたから大丈夫。
  ナニだけを狙って篭っていた訳ではないのである。ナニもしていたのは否定しないが。

「姫様。ご無事でしたか」
「出迎えご苦労。
  で宇佐はどうなっている?」
「見てもらえばわかるかと」

 宇佐を守っていた佐田鎮綱が兵を率いて出迎える。
  早馬なら昨日の夜には着いている。
  府内に一報が届くのは今日の朝。
  それ以前に間者等を走らせて知っている者が居るかも知れないが、このタイミングで動いた人間が怪しい。

「豊後との国境に兵を伏せておいて。
  私達はこのまま南蛮船で府内に行くわ。
  田原鑑種が兵を率いてこっちに向かっているから、後は彼と相談して決めて頂戴」

「かしこまりました」

 戦でもないのに本国豊後に兵を進めるのはそれだけで謀反と取られかねない。
  まぁ、私が当主代行ではあるが父上がいる以上あまり派手な事はしたくない。
  かくして、事件勃発から四日目にして私は大友家の中枢たる豊後国府内に乗り込む事になる。
  そこで待っていたのは、私の想定していない事件の顛末だった。

「娘よ。
  無事で何より」
「心配しておりました。姉上」

 南蛮船で単身戻ってきた私に対して、父上大友義鎮と弟大友義統は安堵の声をかけてくれてほっとする。
  まぁ、府内港で私が帰ってきたのを見て出迎えた麟姉に抱きつかれて泣かれるという一騒動があったのだが、とりあえず襲われる事無くほっとする。

「正直、ここで殺されてもやむなしとは思いましたが、馬鹿よろしく仕掛けが甘い様子で」

 何気なく嫌味をちくり。
  弟は疑われた怒りで顔を真っ赤にするが、父上はニヤリと笑うのみ。
  なお、付き添いの四郎は地味に刀から手を離さないし、向こうの部屋には近習が抜刀して待機しているのだろう。
  懐かしきかな殺伐たる戦国よ。

「お前を殺すのにどれだけ手を考えたと思っている?
  その上で、お前を今の座に押し込めたのだ。
  簡単にくたばるようなお前ではあるまい」

 父上の言葉に四郎が刀を置く。
  つまり、向こうも手を出さないと感じたらしい。
  私は懐から四郎と田原鑑種がまとめた事件のあらましを父上の前に差し出す。

「とはいえ、此度の手はかなり手が込んでおります。
  既に立花元鎮の博多奉行の任を解き、府内の策次第では奈多鎮基および田原親賢まで責が広がりかねませぬ。
  ただの馬鹿にしては手が鋭すぎます」

 ただの馬鹿では打てない手。
  同時に、言葉にしなかったが二階崩れや小原鑑元の乱を乗り切った父上だから私が言葉にしなかった事をあったりと口に出した。

「内通者がいるか。
  それも上座近くに」

「はい。
  府内に戻って確信しました。
  静か過ぎます」

 暗殺未遂が府内に届いたのは昨日の夜。
  何かしらのリアクションがあってもいいと思ったのだが、何もなく府内に入れた。
  港での一騒動も無事を確認したかった大友家臣が押し寄せた程度で、馬鹿どもにとっての玉である父上と弟の身柄確保すらしていない。
  それは、馬鹿どもの尻尾を切って逃げられる所に間違いなく内通者がいる証拠だった。

「で、田原親賢はどこに?」

「お前の早馬の後、府内城に手勢を入れて警戒させた後、奈多鎮基を詰問しに行ったが」

 そんな話をしていたら、その二人が憔悴した顔で部屋に入ってくる。
  あ、これは何かあったなと悟ったが、出できた答えは笑えないものだった。

「姫様。
  申し訳ございませぬ。
  弟、奈多政基が奈多城に篭り謀反の構えを見せており、一族の奈多恒基も呼応する動きを見せておりまする」

「我が愚息新七郎も呼応しており、屋敷を出てどうも奈多城に入った模様」

 その一瞬だけ、親の顔だった田原親賢が説明を続ける。 
  奈多家の方は良くあるお家争いで、奈多鎮基がどうも評価がよくない事を奈多家中もうすうす感じていたらしい。
  で、それならばと三男の奈多政基を立ててという流れなのは分かる。
  問題は田原親賢の息子である新七郎の方だった。 
  親が寵臣なのを良い事にいじめっ子として名を馳せていたのだが、そこに立ちはだかるはさいきょーのお子様知留乃。 
  「いじめるな!」の正論負け、女に手をあげる事もできずと悶々としていた新七郎なんか気にせず、杉乃井攻防戦で功績を立てて父上のお目見えどころか菓子をもらい、いつの間にやら弟大友義統の側室確定である。 
  人間は自分を中心に相手の考えを考えるから、新七郎にとってはいつ知留乃が報復に出るか気が気でなかっただろう。 
  また、新七郎がいじめていた相手も大問題だった。
  麻生親政の息子七郎で、この麻生家は豊前国宇佐衆に所属していた。
  つまり、ばりばり私の与党の子弟。
  知留乃のバックが私である事を考えたら、生きた心地はしなかったんだろうな。きっと。
  そこを誰かに唆されたらしい。

「唆された?」

 顔にまで出ている大友義統の厳しい視線にも表情を変える事無く田原親賢が説明を続けた。

「あれにそこまでの頭はありませぬ。
  新七郎の部屋より間者の文とおぼしきものが。 
  このようなものを残しておく時点で、あれが傀儡である事は分かるかと」

 とはいえ、乗っかる土台はあった。
  私は他紋衆のバックを受けていながら、その最大の後援者である奈多家の血を受けていない。
  その代わりに、大神国人衆やら毛利家というもっとやばいバックを持っているのだが。
  その為、奈多家中では切り捨てられるという恐怖が渦巻いていたのだろう。
  原因でいきつく所はそこなのだ。
  そして、そこを傀儡回しに狙われた。

「傀儡回しは別か。 
  しかし、お前の狙いである同紋ではなく、お前の身内を狙い打った手筋、毛利狐に負けずとも劣らぬぞ。
  心当たりはあるのか?」

 父上の質問に私も苦笑して答えるしかない。

「困った事にいくらでも」

 戦国チートがあちこちにいる世の中、仕掛けの候補者に事欠かないのが戦国時代である。
  だが、その仕掛け人が仕掛けたとても、この府内で内通者兼実行犯が潜んでいる事には間違いが無い。

「人の口に戸は立てられませぬ。
  既にこの一件は主だった者の耳に入っていると見て間違いはないでしょう。 
  おそらく、奈多城へ討伐の兵を出す為に府内に兵を集める時こそが本命かと」

 考えられるケースは二階崩れより小原鑑元の乱のケースに近く、府内の市街戦を想定している節がある。 
  そうでないと府内に大兵を集められないからだ。
  奈多城は別府湾に面する奈多八幡宮に隣接しているから南蛮船の砲撃で軽く落とせる。 
  そこから先の話として、内通者をあぶりだす必要がある。

「田原親賢。奈多鎮基。
  今回の罰として、あなたのたち家を取り潰すわよ」

 予想はしていたのか、私が取り潰しの言葉を出した時二人の体は震えていた。
  まぁ、身内が襲撃事件に関与していたとあっては、私でも庇いきれないのは分かっていたのだろう。

「奈多鎮基。
  あなたは奈多八幡宮司として今後働いてもらいます。 
  田原親賢は奈多姓に戻って、奈多家を再興するように。
  いいわね」

「「はっ! 
  姫様の寛大なご処分に感謝する次第!!」」

 ちなみに、この処分は筑前宗像家の処分のアレンジでもある。
  武家としての奈多家に処分を出す一方、宮司としての奈多家は温存するという。
  まぁ、田原分割の目的として奈多家から養子に出て行った田原親賢を元に戻すだけともいうが、私からすれば評定衆だった田原親賢と寺社奉行である奈多鎮基のポストの穴埋めを考えないといけない。
  あ、四郎の博多奉行の後任も探さないと。
  のっけから痛烈なパンチをもらったものであるがまだダウンはしていない。

「父上。
  養母上達を連れて南蛮船にて臼杵に行ってください。
  臼杵鑑速なら心配ないでしょう」

 小原鑑元の乱時でも危難先になっていた臼杵に父上達を逃がす。
  領地を返上して隠居している臼杵鑑速だが、苗字の通り多くの縁者が居る臼杵に連れて行けば万一はぐっと押さえられるだろう。

「長寿丸は別府に。
  知留乃の所に遊びに行ったとでもしておきなさい。
  奈多攻めをあなたの初陣にするわよ。
  南蛮船の砲撃で城を落とすから、あなたの仕事は奈多城を囲んで、奈多八幡宮に被害が出ないようにする事。
  吉弘鑑理が老後の楽しみ学校やっているから、彼に目付をしてもらうように」

 隠居してもじじいライフを満喫しているはずの大友家武闘派の吉弘鑑理が目を光らせていれば、よほどの間違いは犯さない。
  初陣の目付にうってつけの人材である。
 
「わかりました。姉上」

 大友義統が頭を下げたのを見た上で、私は今回の手の肝心な所を話す。

「豊前国境に田原鑑種と佐田鎮綱に兵を伏せさています。
  これを後詰にして、長寿丸を大将に日出鎮台で奈多攻めを行う次第。
  府内には戸次鑑連と吉岡鑑興の手勢を呼び、勝手働きを禁止させ府内には入れさせません」

 ここまですれば、府内に入ってくる輩が黒になる。
  吉岡鑑興は麟姉の旦那だから疑っても仕方ないし、戸次鑑連の忠誠は疑うのがおかしい。
  ついでに、日出鎮台の木付鎮秀は八重姫の旦那である木付鎮直のパパでこれも裏切る心配はないだろう。

「奈多攻めはこれで行くわ。
  そして、府内から私が指示を出します」

 つまり、私を囮に内通者を引きずり出す。
  この時の私の笑顔に何でか四郎と大友義統が引いてやんの。失礼な。

 父上の臼杵行きと大友義統の別府行きはその日のうちにひっそりと行われた。
  これも海路を掌握している私の強みなのだが、双方とも無事に入ったと間者から連絡が入る。
  翌日、正式に触れを出し、奈多家謀反とその鎮圧と立花元鎮、田原親賢、奈多鎮基の解任の処分を発表。
  大友義統を大将に日出鎮台より討伐軍を出す事を告げると、家中から異論が噴出する。

「日出鎮台だけに功績を与えるつもりですか」
「我等にも信用ならぬとおっしゃるか」
「この戦に出陣する事にて姫様に忠義をお見せする次第」

 府内城に残っていたのは私と四郎(処分中なので表に出ていない)爺こと佐田隆居、加判衆は戸次鑑連と木付鎮秀、志賀鑑隆がこの場に居る。
  日田鎮台の田北鑑重と加判衆就任にて大野鎮台を率いる事になった朽網鑑康の二人は動揺を抑えるために現地に戻っている。
  この手の戦は戦功稼ぎのチャンスでもあるから無碍にはできないと加判衆の顔に書いていたので、私はため息をついて妥協案を提示する。

「一家につき百人。
  これ以上はいらないわ。
  志賀鑑隆。
  あなたが監督しなさい」

 私の妥協案に志賀鑑隆がただ頭を下げる事で答えた。
  余計な出費が増えるのと内部に敵を抱え込むなと頭を抱えながら、それを許可する。


  そして六日目。
  実行犯の正体が割れるが、それは本当に想定外の大物だった。

 

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