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大友の姫巫女

南海死闘編

第七十二話 豊薩死闘 珠姫はサイコロを振らない

 

 固定値は裏切らない
                       ――あるTRPGゲーマー達のつぶやきより――

 基本的にあまり運が良くない珠です。
  和マンチを目指していたけど、基本どこか抜けて見事に墓穴(サイコロにまかせて見事ファンブル)を掘ったことが何度あったことか。
  そんな経験をしているならば、必然的にサイコロを振る前に片付けようと足掻くわけで。
  けど、そんな事に未だ出会う事がない為に、掘った墓穴を埋める為に東奔西走する羽目に。
  なんとなくGMをやっている感覚がなんでか思い出されたりするのだが。
  ちなみに、私は設定準備のアドリブ系GMだったりする。
  閑話休題。

「で、四国に送る連中の準備は進んでる?」

 肥後での島津との決戦において四国で長宗我部に横槍を入れられる前に、兵を送り込んでおこうという前フリである。
  戦争というのは準備だけでかなり時間がかかる。
  近代戦ですら三ヶ月は必要な戦争準備だが、兵給が整っていない戦国時代は下手したら一年がかりともなってしまう。
  ましてや、四国攻めは海を超えるし、四国の石高を考えると大軍を送ったらその兵士に食わせる兵糧を九州から運ぶ羽目になりかねない。
  世の中銭で解決という基本方針をとっているから、四国で兵糧買えばよくねと考えているそこの人。
  四国の石高を考えると、木材を売って食糧を購入する事で成り立っている為、余剰食糧はとても少ないのだ。
  ここに銭だけ持ってゆくとインフレが発動する。
  ちなみに、これは羽柴秀吉が四国攻めや九州攻めの時にやらかして、穀物相場が阿鼻叫喚になった果てに秀吉に巨万の富をもたらしたとか。
  かろうじて余力がありそうな阿波とか讃岐とかは現状大友・毛利連合の勢力圏ではないのがまた困る。

「悩ましい所で」

 私の政権下における首相にあたる加判衆筆頭である田原鑑種が苦笑しながら報告する。
  中央のごたごたに巻き込まれた西園寺領返還問題の結果、西園寺領十万石の大友領編入が確定した。
  これに、領地運営代行という形で土佐一条領と同盟国という名の従属をしている宇都宮家、毛利に従属している河野家が四国における大友毛利連合が保護しなければならない勢力全てである。
  地理的に言うと、西土佐から南伊予・中予がその勢力圏となり、その防衛領域はかなり広い。
  にもかかわらず、ほとんどが山という四国の特徴から、これら四家が合戦時に動員できる兵力は限られている。
  宇和島鎮台によって一条と宇都宮は管理できており、その動員は三千五百ほどあるのだが、土佐の過半と阿波の半分を領有している長宗我部の進攻兵力一万以上を相手に戦うには少しばかり足りない。
  実は、双方が静かに機を狙っている九州より四国の方が火を吹いていたりするのだ。

「やっぱり三好?」
「はい。
  阿波守護との対立は決定的かと」

 三好の事を思い出すと、あの惨敗を思い出すのであまり嬉しくはない。
  現在三好家内部は長宗我部の傀儡である阿波守護細川真之と重臣篠原長房が粛清。
  それを見た三好義継が細川真之に対して蜂起したまでこちらに聞こえている。
  おそらく、三好義継が細川真之を粛清するところまではわかるが、それを大義名分に長宗我部元親が一気に阿波に進攻するんだろうな。
  だから、こんな所に彼らがいる訳だ。
  安宅冬康に連れられて入ってきた十河存之と篠原長秀・篠原右近の三人が。
  篠原長秀・篠原右近の二人は九州でビッチライフを心ゆくまで楽しんでいる小少将の子供達で、十河存之は岩倉合戦にて戦場の露と消えた三好長治によって追討令が出たので大友に逃げてきたという過去を持つ。
  で、彼らが何をしていたかというと、拡大し続けている水軍衆の将として安宅冬康の下で働いていたらしい。
  この場に連れてきたという事は、何か話があるとみた。
  それを察した田原鑑種が先に話を切り出す。

「姫様。
  彼らをこの場に連れてきた理由は、まだ決められる西園寺のまとめ役についてで」

 これまで一万田家に管理させていた南予の後任がまだ決まっておらず頭を痛めていたのだが、この三人のうち誰かを頭に据えるという所か。
  だが、田原鑑種はとんでもない事を言い出す。

「姫様直轄として、奉行に安宅冬康殿を押したく」
「まてや。こら」

 いや、安宅冬康は南蛮船を任せて私の放浪……じゃなかった旅行の大切な足である。
  それを領地に貼り付けて、しかも捨て地かつ死地の四国に送り込めとおっしゃるか。

「説明、してくるんでしょうね?」

 こういう時におよそハズレの判断をする事がない田原鑑種だが、感情は別である。
  また、ちゃんと聞けば理にかなっている説明が出てくるのがこいつの凄いところなのでそこはまあ安心していたりするのだが。

「端的に言えば、同紋衆内で一万田に変わる家が出てきませなんだ」

 どういう事かというと、私が考えた捨て地かつ死地というのは彼ら同紋衆内部でも思っていたらしい。
  そんな危険な所に座りたい重臣はあまりいない。
  九州各地で大規模開発が始まり、臼杵や一万田みたいに領地を放棄して生きていける事がわかった現状で、手間がかかる遠隔地の領地管理というのは割が合わないのだ。
  だが、中堅以下の同紋衆から見ると、南予の管理は必然的に鎮台大将を兼ねる事になるから、評定衆入りが約束される出世ポストなので自薦・他薦が殺到する羽目に。
  とはいえ、彼らを大将として据えた場合、南予国人衆から「だれ?」と舐められかねない。
  ならば、私の直轄下で奉行を送り、その下に中堅どころの国人衆を送ろうと考えた訳だ。

「しかし、安宅冬康って領地いらないって言っていたじゃない。
  どういう心変わりよ。
  欲しいならばももっといい場所渡すのに」

 長年南蛮船を任せてきた功臣である。
  捨て地かつ死地なんぞに送るつもりは私には毛頭ないのだが、安宅冬康は淡々とした声でその理由を告げた。

「それがしはいまでも領地については欲しい訳ではござらぬ。
  とはいえ、彼らと彼らに続く者達への助けになればと田原殿よりお話がありこの話を受けた次第」

 そういう事か。 
  自分の領地ではなく、十河存之と篠原長秀・篠原右近らの領地という事ね。
  そして、安宅冬康も田原鑑種も、私とおなじく三好の敗亡を前提に話しているという訳だ。
  こういう時、私は空を見上げてため息をつきたくなる。 
  世の中とは本当にままならない。 
  とはいえ、彼ら三好残党は安心して長宗我部戦に磨り潰せるから貴重ではある。 
  地元に密着している国人衆はこういう時に裏切りかねないからだ。

「という事は、お目付けとして、同紋衆の誰かをお目付けにつけとかないとまずくない?」

 まぁ、この田原鑑種がそのあたりを忘れているとは思わないけど。
  案の定、田原鑑種が手を振ると一人の武将が前に進み出る。

「利光鑑教と申します。
  姫様においてはご機嫌麗しく……」

 田原鑑種。 
  相変わらずいい仕事をする男である。 
  利光鑑教の名前より、利光宗魚の名前の方が有名かもしれない。
  元々は大神系一族だったのだけど、戸次や臼杵とおなじく大友の血を入れられて同紋衆に変わった家で、史実における戸次川合戦において大友側にて気を吐いていた勇将である。 
  彼は当時崩壊する大友家において加判衆の座についていたのだが、それは耳川合戦とその後の混乱において田北や田原など信頼できる重臣が離反したり粛清された結果だったりする。
  本来ならばこういう形で抜擢でもされないと、地方の一領主としてそのまま生を終えるはずだったのだから歴史とはわからない。
  とはいえ、その才能は未来において実証されている。

「いいわ。
  一万田鑑実は貸してくれるんでしょ?」

 南予で残務処理をしていた一万田鑑実をまだ残す事を私は求め、田原鑑種はそれにさも当然とという感じで答えた。

「はっ。 
  この件は我らの始まりでもある故、火が燃えるようならばそれがしが火消しに走る所存」

 我らときたか。
  このあたりの言葉遣いが旨いと心の中で思っていたり。
  最初こいつを粛清するために始めたんだよなぁ。南予進攻は。 
  いまや、大友家において最も頼りになる男に化けやがったのだから世の中は不思議で満ちている。

「あら?
  あなたには軍を率いて私のそばを固めてもらうつもりだったのに」

 だから、けっこう残念そうに田原鑑種に戦場に来てもらうだったのだが。
  その私の言葉に田原鑑種はあっさりと首を横に振った。

「お戯れを。
  立花殿や小野殿がいる以上、戦場にてそれがしの働く場所はござらぬ。 
  府内にて、この戦を影より支える所存」

 これが言えるからこの男は凄いのだ。 
  彼がいる限り、府内で起こるだろう馬鹿の暴走については安心していい。

「後は、城井宇都宮かな。
  出すとは聞いているけど、規模とかまで聞いていないのよ」

「城井鎮房殿の弟の城井甫房殿が大将となり五百ばかり出すとの事。
  甥の時種殿はどうも郎党と共に香春御社衆に志願したいと噂が」

 伊予宇都宮家における養子問題で、城井側も誰を送るかで揉めていたらのだが、それが弟甫房と甥の時種の争いだったらしい。
  種の字を見ればわかるとおり、城井時種は母が秋月系の一族らしく、それも不利に働いたとか。 
  で、表向きは弟甫房が勝ったように見えるが、香春御社衆は南予遠征に派遣されるから結局内部調整に失敗しやがったな。これは。
  おそらく、派手にもめて家にいられなくったパターンと見た。
  まぁ、ちゃんと使える人間ならば出世させてあげるけど。 
  とりあえず頭についてはわかったので、今度は兵力について話をすすめる。

「城井が五百、御社衆が香春と博多からあと千五百持ってこらせればいいんじゃない?」

 別名、烏合の衆とも言う。
  とはいえ、警戒のための水増しならばこれで十分。
  宇佐と別府の御社衆は府内での騒動の時に場合によっては動いてもらうからあまり動かしたくないのだ。
  危機が本格化した場合には後詰は一応ここから出す予定。

「で、みんなの手勢はどれぐらい?」

 私の言葉に安宅冬康が代表して答える。

「水軍衆ゆえ、陸の戦に使えるか分かりませぬが、我らの手勢が千。
  一万田殿と利光殿の手勢がそれぞれ五百で千。
  合わせて二千を」

 合計で四千。
  南伊予の兵力を足して七千五百。
  守るには十分の数か。

「毛利側はどうなっているの?」

「伊予河野家が二千ほど兵を集められ、小早川隆景殿に来島水軍と毛利の兵二千の後詰を約束させました。
  代わりに、こちらの河野後詰も約束させられましたが」

 田原鑑種のある意味当然といえば当然の約束に私も納得するしかない。
  むしろ、河野について毛利に任せて大丈夫という安心感もあって、私はこの話を打ち切った。

「年を超えるまでに、兵と物を送るわ。 
  主戦線ではないけど、だからこそここで泥沼にならないようにする必要があるわ。 
  年を越すと、新公方の烏帽子親で長寿丸が元服するから、事は一気に動く。
  皆の奮戦を期待します」

「「「「「はっ」」」」」

 私の締めの言葉に皆が頭を垂れてその命を受諾したのだった。

 基本的にあまり運が良くない珠です。
  和マンチを目指していたけど、基本どこか抜けて見事に墓穴(サイコロにまかせて見事ファンブル)を掘ったことが何度あったことか。
  そんな経験をしているならば、必然的にサイコロを振る前に片付けようと足掻くわけで。
  けど、そんな事に未だ出会う事がない為に、掘った墓穴を埋める為に東奔西走する羽目に。
  言ったさ。
  言ったけどさ。
  この展開はいくらなんでも私は読めなかったわよ!!!

 1573年春。
  おそらく、この年には十六代将軍足利義真が就任する事になり、事実とは少しずれながらも天正に改元されると噂される年にその急報は飛び込んできた。

「伊予宇都宮家で大野直之による謀反勃発!
  宇都宮豊綱殿の安否は不明!
  他にも宇都宮一門が蜂起しており……」

 こうして事態は、本来動いて欲しくなかった南予より一気に動き出す。
  うん。とりあえず神様がいたらぶん殴ろう。

「呼んだ?」

「呼んでないですから。
  とりあえず父上かそのあたりの男の上で腰でも振っててください。おねがいですから」 


 

 

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