戻る 目次 

大友の姫巫女

南海死闘編

第五十九話 国という形のつくりかた

 九州探題福岡城問注 後編


「そもそも、此度の騒動は肥前国後藤家の継子である後藤惟明が後藤家当主である後藤貴明を暗殺せしめんとした事が発端。
  これに気づいた後藤貴明は単身脱出して竜造寺家に保護を求め、竜造寺家はこれを了承。
  兵を後藤家に進め、後藤家に抑えんとした松浦家の兵と対峙。
  ここに来て、双方とも九州探題に詮議を依頼したと。
  ここまでの流れに相違はござらぬか?」

 四郎の言葉に松浦・竜造寺双方とも無言で頷くのを確認している珠でございます。
  養子が養父を殺そうとするなんて推理小説なんかでは、理由は一つしかない。
  後藤貴明に実子である晴明が生まれたのだ。
  ましてや、後藤貴明自身が血が繋がっていたのに実家である大村家を継げなかった身である。
  己の息子に己が受けた不幸を背負わせたくないのは親としてある種当然とも言えよう。
  だが、そうなると養子としてやってきた後藤惟明が邪魔になるのは当然の事で。
  この後藤惟明の元の家が松浦家だった事から、話がややこしい方向に進んでゆく。

 

地理説明


肥前国 勢力図


  松浦家

   後藤家
       竜造寺家


    大村家

      有馬家

 

大村家および後藤家および有馬家および松浦家家計図

 

 


【松浦家】

 

        松浦隆信―――――――――――――――――――――松浦鎮信(現松浦家当主)
                               |
                               |
                               |
                               |――松浦親(相神浦松浦家養子)
                               |
                               |
【後藤家】                        |
                               |
          ――後藤貴明 (後藤家養子)   ―――後藤惟明(後藤家養子)
          |    |
          |    |――――――――――――――――――――――後藤晴明(実子)
【大村家】   |
          |
  大村純前―|

      
         ――大村純忠 (大村家養子)
         |
         |
【有馬家】  |
         |
         |――有馬義貞―――――――――――――――――――――有馬義純 (若くして死去)
  有馬晴純―|                                                   |
         |                                             |
         |――千々石直員 (千々石家養子)       |――有馬晴信 (現有馬家当主 竜造寺家に従属中)
         |                         |
         |                         |
         ――松浦盛  (相神浦松浦家養子)   ――波多鎮  (波多家養子)

 

 

 

相神浦松浦家家系図

 

 松浦親====松浦盛(実父 有馬晴純)======松浦信脇(実父 竜造寺信周)
       |
       |
       |
       |
       |=松浦鎮(実父 少弐資元 少弐滅亡後廃嫡 幽閉)
       |
       |
       |=松浦親(実父 松浦隆信)

 


松浦家内紛関係図


  相神浦松浦家       有馬家 大村家(丹坂峠合戦にて大敗) 

   ×           ×

 平戸松浦家        竜造寺家(相神浦松浦家に龍造寺信周の三男を養子を出す)
  (当主 松浦隆信)

 

 波多鎮(藤童丸 有馬からの養子) 竜造寺家 有馬家(竜造寺家に従属中) 

  ×

 日高喜(養子反対派)       松浦家 

 

 

 さて、ちらちらと名前が出ているので再度没落した相神浦松浦家家の事情もついでに語っておこう。
  というか、この相神浦松浦家こそが、実はこの問題の裏の真実になっているのだから。
  元々本家筋だった相神浦松浦家は平戸松浦家(以後こっちを松浦家とする)に敗北したのはいいのだが、勢力維持のためにあちこちから養子をもらい過ぎていた。
  少弐から来た松浦鎮は少弐家滅亡後に廃嫡・幽閉されたのはいい。
  だが、松浦盛と松浦親(養子の方)は両方とも生家があるので無下に廃嫡なんてすると生家を敵に回す。
  その為、松浦親は家を割って松浦盛には領地を松浦親(養子)の方には本城と名前を渡すという苦肉の策を取って事態を沈静化させたのである。
  で、気づいただろうか?
  あちこちで漁夫の利を得まくっている竜造寺の事を。
  肥前において、竜造寺と対等な関係なのは松浦家しかなく、その松浦家にも竜造寺の魔の手がじんわりと伸びているという事に。
  同時に、有馬の血脈から竜造寺家に従属させられた有馬家や大村家は、その反撃のために松浦家の助けを必要にしているという事に。
  衰えたりとはいえ、相神浦松浦家家は松浦一族郎党の本家筋に当たる。
  そこに竜造寺の血を入れる事に成功したならば、松浦攻略の為に竜造寺はどう動くか?
  それが、この騒動の本質である。
  松浦家は松浦家で、竜造寺家の目標が自分達である事を十二分に認識しており、緩衝地帯として後藤家は是が非でも抑えておきたかったのだ。
  後藤家の大村家攻略を竜造寺家に邪魔された事で敵対関係にあったから、松浦の助けはこれ幸いだったのである。

 そう。
  後藤晴明という実子が生まれてこなければ。

 こうして、事態は急変する。
  後藤家内部では、後藤惟明を擁する松浦家に組する一派と後藤晴明に後藤家を継がせたい一派で内紛が勃発。
  後藤貴明自身が養子で涙と恨みを持っていた経緯から大部分の家臣は後藤晴明の方についてしまい、後藤惟明の廃嫡は時間の問題だったという。
  事、ここまで来た事で松浦家も強硬手段に出ざるを得なかったのだ。
  後藤惟明とその一派に後藤貴明の殺害を指示し、その支援の為に兵を動かしたのだ。
  だが、後藤惟明とその一派は後藤貴明という武将の器を見誤っていた。
  機先を制されて、このままでは負けると判断した彼は単身脱出して黒髪城に逃亡。
  自派の家臣を集めながら敵対していた竜造寺家に助けを求める。
  この助けの求めは竜造寺にとっては棚からぼた餅に等しく、了承すると同時に後藤家の所領に対して兵を進め、後藤惟明とその一派は松浦家に逃亡する始末。
  事態の急変に松浦側も黙っておらず、後藤家に送っていた兵を持って竜造寺軍と対峙しながら内部工作を進めて、有馬晴純が藤津党とと呼ばれる後藤家の有力家臣を寝返らせる事に成功。
  が、これが更に事態をややこしくする。
  後藤家に隣接する嬉野家(有馬家家臣)の所領を一部割いて藤津党に与えた事に嬉野家当主嬉野通久が激怒。
  後藤貴明側(つまり竜造寺家)に寝返ってしまったのだ。
  これは、松浦家にとってもやっかいな事態だが、竜造寺家にとってもやっかいな事態となった。

「謀反を起こした嬉野家とその協力勢力である後藤貴明(と援軍に来ている竜造寺軍)を討伐する」

 という介入の大義名分を有馬家が入手できるからだ。
  従属しているとはいえ、自領内についての自治に竜造寺家は介入する実力も能力も無い。
  これは我が大友も同じなのだが、家臣領への介入は全ての国人衆を敵に回しかねないタブーなのだ。
  そして、国人衆の自治を前に出した場合、他を敵に回しかねないから竜造寺もその論理を尊重せざるを得ない。
  だから、後藤貴明討伐にて援軍に来ている竜造寺家を相手に戦ったとしても何も問題は無く、むしろこの一件をもって従属を解消しても構わないほどの大義だったりする。
  それが分かっているだけに、嬉野家討伐を名目に有馬家と大村家が兵の動員をかければ、大村家と敵対し竜造寺家に従属した西郷家(ちなみに、この家は有馬家の準一門家だったりする)も空き巣狙いを企んで反応して肥前大乱の様相に。
  この急展開に後藤家のお家騒動としか松浦も竜造寺も用意していなかったので、事態の沈静化に走る事になる。
  松浦側にとっては大村家と有馬家の謀反は朗報なのだが、松浦内部にいる相神浦松浦家や波多家などの親竜造寺派がどう動くか読めておらず、竜造寺側も肥前大乱なんて事態になったら隣で牙を研いでいる九州探題である大友家が介入する事が目に見えている。
  松浦と竜造寺の双方の陣の間を使者が走り、互いの本城にて兵を動員しつつこの事態の仲裁に竜造寺・松浦の連名で九州探題である大友家に仲介を依頼。
  かくして、関係者一同が新設された福岡城に集まって、詮議を受ける事になったのである。

 

 ……しゃれでなく本気で長かった……

 

「では、双方の申し出を確認いたす。
  松浦側は後藤惟明に後藤家の相続を認めよと。
  竜造寺側は後藤惟明の廃嫡と後藤貴明の復帰。
  これでよろしいか?」

「然り」
「同じく」

 四郎の言葉に、松浦側の松浦隆信と竜造寺側の鍋島信生が同時に声を出す。
  さて、ここからが本題である。
  双方とも譲らず、合戦も辞さないように見えてぎりぎりの段階にてこの調停に乗ったのだから、回避の目はある。
  同じぐらい決裂の目もあるのだが。
  それゆえ、この場の詮議は裁判ではなく政治となる。
  そして、政治の本質とは根回しと妥協にこそ心髄がある。
  だから私が呼ばれた訳だ。
  大友家次期後継者引きずり出した調停ならば、それだけでも価値がある。
  なお、ここから先の話は、二十世紀後半の某国におけるヤのつく自由業の作法を知っているととても解説が楽になる。
  というか、まんま手打ちをするだけだったりするのだが。
  違うのは、指をつめるのではなく腹を切る程度なあたりでいろいろとやるせないものがこみ上げてくるのですが。が。

「で、何処まで取るつもり?」
「姫に対抗する為にも肥前一国は」

 互いに何度も腹の探りあいをしている鍋島信生をまず呼んで、互いの落しどころを探る。
  既に双方背後に殺気を漂わせながらにこにこ笑顔で語るあたり、まんま極道と変わらない。
  ここから先、楽しんでもらうために()による本音解説もつけるので、互いの言葉のドッチボールを堪能してもらいたい。

「だったら、大村と有馬に目光らせてなさいよ。
  あれのせいで嬉野が絡んで話ややこしくなっているんだから」
(後藤家についてはおいといて、従属している有馬家と大村家の管理責任問うからよろしく)

「申し訳ござらぬ。
  九州探題の威光に逆らうとは我らも思ってはおらす」
(お前ら大友家が裏で糸引いてこの事態を引き起こしたんやろうが。ぼけ)

「ならば、詮議の結果については従うと受け取っても?」
(だったら、拡大政策やめやがれ。
  何うちの舎弟(松浦水軍は大友家と私にとっての大事な大事な金づるである)に手ぇだしてんじゃ。われ)

「後藤家の騒動は既に調べはついているはず。
  九州探題は公正明大な裁きをすると期待しておりますゆえ」
(前の約束どうり『大友家』には手を出していませんが?
  何よりも、双方納得済みの養子縁組。いらん口は出すんじゃねぇ!)

「……」(やんのか。われ)
「……」(やったろーやないかい)

 実に先が思いやられる楽しい会話である。
  だが、第一回交渉とはこんなもので、お互いの目標点を出さない事には妥協のしようもない訳で。
  恫喝こみなのは、そこから別の選択肢(たとえば暴力とか)があるというサインでもある。
  ヤのつく自由業相手の交渉術はまずはこの脅しに乗らない事が大事である。


  で、だ。
  今度は松浦隆信を呼んだのだが、こっちはこっちでいろいろと駄目さ加減に磨きがかかっている。

「で、いくら用意したら、有利な裁きを頂けるので?」

 松浦隆信の第一声がこれである。
  ものごっつ頭が痛くなるのだが、ぐっと我慢。

「一応、自分が不利という自覚はあるんだ。
  銭に困っていない人間に買収持ちかけても効かないから覚えておく事ね」

「でしょうな。
  でしたら、玄海の波に揉まれた屈強な男安宅船一隻分というのはいかがでしょう?」

 いやさ。
  私が男狂いというのは自ら流しているし、それを否定もしませんが、安宅船一隻って百人ほどいらっしゃるのですが。
  どんだけ私が男狂いと思われているんだか。
  いや、一応私の恋人というか私と子供作っている四郎さんの視線がものごっつ冷たいのですが。
  ほら。
  四郎って博多奉行だから半年以上単身赴任というか、鶴姫って正妻(と言う名の現地妻)いるじゃん。
  昼間の団地妻状態な私のストレスと欲望は発散させないとね。ね。
  それでも、遊ぶときはちゃんと四郎の子供を孕んでからと筋を通しているし。

「ごほん」

 わざと咳をして空気を変える。
  あまり変わってないようが気がするが、強引に押し通す。

「正直、そっちに有利な裁きを出すのは難しいわよ。
  打つ手、打つ手が全て杜撰過ぎるじゃない」

「いや、姫様のご指摘には返す言葉もござらぬ……」

 松浦隆信の顔に汗が浮かぶが、この一連の騒動の杜撰さ加減は呆れるばかりであった。
  後藤貴明の暗殺に成功するどころか失敗し、竜造寺からの援軍が来た時点で後藤惟明とその一党は松浦に逃亡する始末。
  まだ、これで後藤領内にとどまって対峙でもしていたのならば手が打てない事もなかったのだが、ここまで下手打たれると松浦よりの裁きなんて出したら竜造寺が反発しかねない。
  そうなれば、火は肥前だけでなく筑前筑後にまで一気に広がる。 
  仲裁を買って出て双方が納得する形で裁きを出さないとこっちにも火がつく以上、私も既に当事者である。

「後藤家については正直、どうにもできないわよ。
  で、その上で聞くけど、そっちの譲れない条件って何?」

 愉快な枕詞はひとまずおいといて、ここから本題に入る。
  松浦一族を表すのに面白い言葉がある。

「陽気で人懐っこく、好奇心旺盛で、腹黒い」

 何か混ぜるな危険なものが入っているのだが、そんな二面性がないと難破率が高い交易(海賊)を営む水軍衆の一族なんて率いていられない。
  そして、松浦隆信の腹黒さが滲み出る。

「それがしが求めるものといえば、唯一つ。
  松浦の家の安全のみにて」

 つまり、後藤家についてはどうでもいいらしい。
  緩衝地帯としての魅力はあるが、竜造寺家が攻撃を躊躇う大友家の後ろ盾があるならば後藤家については妥協して構わないという事だ。
  まぁ、あれだけの失態をしておいて、己の主張が全部通るとは思っていなかったくせに、買収をしかけるあたり陽気というか腹黒いというか。
 
「中はどうするの?」

 松浦内部の竜造寺派の事を暗に尋ねてみる。
  松浦に安全保障を与えても、中から崩されたならばどうにもならないからだ。
  そして、既に絡みまくった血脈は松浦一家だけの問題ではなくなっている。

「扇の要があるのならば」

 松浦家を差配するたげの権威を寄越せときたか。
  ……ふぅん。
  それで何を言いたいのかわかってしまうので口に出してみる。

「少弐家を復興ねぇ……」

 肥前守護にして竜造寺が滅ぼした少弐家を復興させる事で、三家の求心力を高めるか。
  で、その少弐家なのだが血族が残っている上に、大友が保護していたりする。 
  少弐政興がそれで、竜造寺家が滅ぼした少弐資元の三男にあたり、彼の母が大友親治の娘だった事から大友一族の血を引いていたりする。
  事実、お家再興を旗印に竜造寺家相手に戦をしかけたはいいが敗れて降伏し、現在は大友家の庇護下にて暮らしている。

「さすれば、鎮殿の幽閉を解く事ができ申す」

 松浦隆信の狙いは本家筋の相神浦松浦家を更に分裂される事によって、竜造寺の影響力を抑える事にあった。
  だが、復興ともなると領地が必要な訳で。
  水軍衆にて生活を行っている、これら三家は裏返すと土地収入が少ない。
  下手に土地をやったら嬉野家謀反の二の舞である。

「座屋で復興で構わない?
  それと、松浦で抱え込むとさすがに優遇過ぎるから、大村領に置くわよ。
  ついでだから、逃げ帰った後藤惟明とその一党をここにつけてあげる」

 座屋、要するに商人達への投資による配当収入にて土地を持たぬ武家として復興させようというのだった。
  とはいえ、その屋敷内においては完全な自治権を保障するように私が制定する事で武家としの格を維持させている。
  それゆえ、座屋武将という呼び名の他に、領地が屋敷のみという意味で屋敷武将という名前も広がりつつある。
  だからこそ、その屋敷のみで武家の格を維持できるから、かなり自由に配置ができるというメリットがある。
  同時に、銭収入によって生活を賄う為に商家、特に決済ができる大店が必要というデメリットもある。
  おまけに居場所がないであろう後藤惟明とその一党の再就職先も斡旋してあげるのだから、われながら至れり尽くせりである。

「構いませぬ」

 松浦隆信が頭を下げた時に、私はあげた飴を舐めようとした松浦隆信に鞭を打つ。
  今度は鍋島信生を納得させるだけの飴を用意しなければいけないからだ。

「嬉野家の一件、竜造寺に任せるけどいいわね」

 後藤家の一件が解決しても、後藤家の一件がそのまま嬉野家に飛び火しているのも処理しなければならない。
  だが、まだ有馬家も大村家も竜造寺家に従属しておりその裁定は竜造寺家が行うのが筋である。
  つまり、竜造寺家に後藤家だけでなく嬉野家まで与えるのという私の決定に松浦隆信が固まるのも無理も無い。
  固まった松浦隆信が動き出すまでのしばらくの間、『陽気で人懐っこく、好奇心旺盛で、腹黒い』どの顔が出ていたのかは知らない。
  だが、表をあげた松浦隆信の顔は好奇心旺盛な顔を私に向けていた。

「南蛮船を松浦でも運用したく……」

 転んでもただでは起きない一族。松浦一族。
  もちろん、その申し出を私は了承したのだった。


  後藤家の一件が竜造寺の全面勝利なだけでなく、嬉野家の一件を竜造寺家が裁く事を伝えた時の鍋島信生の顔はそりゃもう不機嫌の極みだった。
  それはそうだろう。
  竜造寺の全面勝利なんてものを私が与えるという事は、別の所で帳尻を合わせると言っているに等しいからだ。
  だから、私が少弐家の復興を通達すると、松浦隆信と同じように固まったのである。

「大村家が自領の長崎に港を作り、その地の屋敷の一つ少弐政興に与えるそうよ。
  いずれ、そちらにも通達はあると思うけど依存はあるかしら?」

 鍋島信生の顔がこれ以上無いぐらいに歪む。
  大村家は竜造寺家に従属しているがその自治には介入する事はできない。
  しかも私が伝聞系で少弐政興の事を伝聞系で話したという事は、表向きは少弐政興は大友の紐付きではないというアピールなのだと気づいたからに他ならない。
  そして、私がこの話を振ったと言う事は、その港の建設資金は私が出すという事に気づかない訳が無い。
  少弐復興だけでなく実質的な大友家直轄の港なんぞ作られたら、いやでも有馬家や大村家は大友に靡く。
  そして、こんど何かあった場合、少弐を媒介にして大友が最初から介入するのは目に見えている。

「どうかした?
  後藤家の裁きもそちらの言い分を聞いたし、嬉野家についてはそちらに任せたから文句はないと思うのだけど?」

 にっこりと笑みを見せて首を傾げてみせる。
  笑顔に言葉をこめて、鍋島信生に叩きつける。

(肥前における竜造寺の優位は認めるけど、肥前の海上利権に手を出すな)

 という私の限界線を。
  それが分からない鍋島信生ではない。
  大村に話が通っているという事は有馬家や松浦家もこの話を知っているに決まっているし、表向きは竜造寺家は後藤家と嬉野家を傘下に収めるという全面勝利を勝ち取っている。
  おまけに、いつ裏切るか分からないけど、有馬家と大村家はまだ竜造寺家に従属している。
  これをひっくり返すならば、それこそ大友家との全面対決となる。
  地味に『今山合戦フラグか?』と内心びびりまくっている私を尻目に、しばらくの沈黙の後に表面上取り繕って見せた鍋島信生は、こう言ってこの場を終わらせたのだった。

「いいえ。
  姫様の寛大な裁きに、感謝の言葉もありませぬ」 

 と。


 

戻る 目次