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大友の姫巫女

南海死闘編

第四十八話 アトラス遊戯 高城 劇的ビフォーアフター

「また偉くごつくなったわねぇ……」

 もはや城ではなく要塞と化したそれを見て感慨深く呟いています。珠です。
  ちなみに、この城は日向国高城。
  対島津戦の迎撃地点の陣地作り作業の視察に久々に四郎と一緒に来て見たり。
  まぁ、船の中での痴態はいつもの事なのでおいておくとして。
  日向国人衆と対島津の防衛で揉めたのだが、佐土原鎮台設置(鎮台大将 高橋鎮理)と同紋衆の入田義実の高原城転封で妥協が成立している。
  とはいえ、基本迎撃計画はこの高城川から動かすつもりはなく、高城川以南の諸将には『寝返り赦免状』を交付していたり。
  まぁ、それだけならばまた日向国人衆からの反発が出る所なのだが、今回はこの赦免状の存在を非公式に島津に伝えてあると言った瞬間みんなどん引き。
  そりゃそうだよなぁ。
  恨み心髄の日向国人衆が戦う前からそちらに寝返りますよと非公式に伝えた時の上井覚兼の顔が引きつってたから、最近私の中で当たりの策かなと思っている。
  話がそれた。
  で、高城川の決戦地域防衛の要となる高城なのだが、わざわざ私が見に来たのは高城防衛の為の新兵器である大筒を運んできたからである。
  この城は川の合流部に位置し、高台となっているので本丸からの大筒攻撃が対岸の島津軍まで届くのだ。
  次に注意してみたのが火薬庫。
  事故はもちろん火力戦に移行すると確実に火薬庫が狙われて火薬庫爆破がそのまま城の失落に繋がるから、間者関連の排除は今より更に重要になる。
  たった一人の間者を見逃した結果、その間者がクリーパー先生にジョブチェンジしてリフォームなんて目も当てられない。
  今度は城を出て対岸の松山へ。
  ここは陣城を築く予定で、屋敷などを建てる訳ではなく空掘が掘られて周囲が見渡せるように木々や雑草を取り払っているのみ。
  私や四郎をはじめ一同馬でずらずらと。
  なお、今日の私のファッションは某銀河の妖精の水着花魁スタイルだったり。
  この衣装前がモロ出しになっているから馬にまたがって乗れるのだ。
  まぁ、衣装が汚れるから走らせるのは却下なのだが。
  で、最近は馬に乗れる遊女を育成してデリヘルを別府や博多ではじめていたり。
  着飾って村々を尋ねるので己のPRにも繋がり、このデリヘルは結構遊女にも人気があったりする。

「良くここまで仕上げたわね」

 私の褒め言葉に馬上から頭を下げたのが高城城主の山田宗昌。
  元々日向新山城主だったのだけど島津軍の侵攻時に伊東家が従属したのを機に大友側についた将の一人である。
  なんで彼が元の新山城に残らなかったのかといえば、島津の焼き働きで領地の荒廃が酷すぎたからで、知り合いだった佐伯惟教を頼って佐伯家家臣となったからに他ならない。
  佐伯惟教は先の戦で日向国財府城を得た事もあり、彼を城主に指名して現地の統治を任せていたのである。

「山田殿がこの城に篭り、それがしが財府城を守っている限りは島津をこれより北には進ませませぬ」

 付き添いの佐伯惟教が嬉しそうに胸を叩く。
  彼が実質的な高城川決戦地域防衛司令官となる訳で、逃れてきた大友軍と延岡鎮台の後詰に本陣が来るまでの実質的な全権を私は書状にて先に与えている。
  ここ日向においては同紋も他紋も関係はない。
  ……と、言えないのが政治の政治たるところで。

「豊後の方では、それがしに鈴をつけろと囁く者が多いとか?」

 佐伯惟教の一言に私は苦笑するしかない。
  事実そう言われているからだ。
  私の政権下で加判衆に入るだろうと言われているのは爺こと佐田隆居で、もはや確定というか諦めの境地で豊後国人衆はそれを認めている。
  だが、その次に入るだろうと言われているのがこの佐伯惟教で、三番手に来る四郎こと立花元鎮も含めた二人の入閣だけは阻止したいと考えており、あの手この手の嫌がらせが。
  このあたりの嫌がらせは私が直に顔を合わせるクラスだとまったくといっていいほどないのだが、下っ端でしかも府内に顔を出す必要がない下級層にじっとりと溜まっているから始末が悪い。

「そのあたりはこっちで何とかするわ。
  貴方にはただ、この地で島津に勝つ事のみを考えて頂戴」

 豊後内での反感というか警戒が解けないのは、私の政権が公言しているにも関わらず長期政権になるのではないかと怯えているからである。
  この日向をはじめ豊後外での私の知名度は笑えないぐらいに高い。
  長寿丸に政権渡したら、豊後以外が独立しましたなんて悪夢が実現する可能性は高いのである。困った事に。
  で、その為に一人の男を日向に呼ぶ事に。

「それがしは何用でこの場に呼ばれたので?」

 この場所に来て貰った大友親貞がぽつり。
  大体見当はついている顔なんだが、これは私が言わないといけない事だろう。

「日向防衛の飾りの大将として」

 円滑な権力継承を目指す時に、実に邪魔というかやっかいな場所にいるのがこの大友親貞なのだ。
  父上の弟にあたる大友一門だが、父上の血を引いている訳ではない。
  そして、長寿丸の下に当たる新九郎(大友親家)も育ってきたので後継者のバックアップとしての価値も下がっていたのである。
  で、この場合は養子に出すか新設分家を作る事で大友の苗字を捨てさせるのが慣例となっていた。

「それがしに日向で家を興せと?」

「大友の苗字は持っていって構わないわ。
  というか、それに価値があるんだから」

 日向は従属したとはいえ伊東・土持という土着の名家があり、入田義実・高橋鎮理・佐伯惟教と大友家本流でない武将による統治が行われる予定なのだ。
  その為発生するであろう対立の調整役として大友一門、特に大友の苗字のままである大友親貞はうってつけなのだ。

「ちなみに、他にもいくつか候補を用意したのだけどここが一番まともだと判断した訳。
  選考理由も聞きたい?」

「是非に」

 で、長い話をこちらでまとめると、用意した国は筑前・肥後・日向・四国の四つ。
  筑前は立花家が四郎に乗っ取られた事による大友一門の旗頭の意味合いがあり、博多近辺に大領を持っていた臼杵家が領地を返上して豊後に帰還した事もあってその後釜としての赴任となる。
  ここの領主達は既に戸次家分家が乗っ取った宗像家や、領地分割したけど影響力は絶大な田原鑑種がいる田原家、そして四郎の立花家など。
  彼らをまとめるのが仕事だが、何しろ影響力絶大な私の金城湯池なのだから言う事を聞かない可能性が高い。
  という訳で筑前は除外。
  次に肥後は没落した菊池家復興させてもいいし、同じく復興なら没落した大友一族である琢磨家でもいい。
  ここを選んだ場合、阿蘇家をはじめとした肥後国人衆を監督できるかどうかに全てがかかっている。
  だが、筑前は私という要石が邪魔という欠点があったが、肥後の場合その要石がないというのが問題となる。
  要するに、国人衆内部がばらばらなのだ。
  このあたり粛清をして統制をはからないといけないのだが、今まで肥後は放棄という方針を私がとっていた事もあり今からの方針転換は確実に肥後に深い傷を残す。
  で、これは皆には内緒なのだが、日向の荒廃から対島津の主戦線は肥後だろうと確信していたりする。
  理由は簡単。
  日向でもう略奪できないし、肥後は間違いなく豊かだからだ。
  対島津戦にて肥後国人衆を消耗させた上で再編成という方針を取りたいので肥後もパス。
  四国は最初一条家に養子に入ってもらう案と、伊予宇都宮家への養子、西園寺家の復興という三案が出ていた。
  一条家については既に長宗我部との関係から放棄を決めているので却下。
  西園寺家復興は現領主である一万田家が非公式ながら領地返上の打診をしたから出てきた案で、放棄後の四国統治を任せるある意味捨石である。
  という訳で、これも対長宗我部戦に引きずり込まれるから却下。
  実は一番迷って候補に残っていたのが、伊予宇都宮家の養子である。
  このまま放棄すると長宗我部に滅ぼされるのが確定なのだが、放棄前提の一条家や西園寺家とちがって宇都宮家については滅ぶと少し問題が出るのだ。
  まず、瑠璃御前をはじめ宇都宮家の人間が私の下におり、この時点で宇都宮家というのは大友家というより私の下に従属しているとみられかねなず、滅亡のダメージがダイレクトに私に届くというのが一つ。
  もう一つは宇都宮家をはじめとした宇都宮一族の都合で、豊前城井家や筑後蒲池家と同祖である宇都宮家の滅亡は彼らに『大友頼りにならず』という感情を与えかねないからだ。
  宇都宮家の方もこちらの事情を察したらしく、それゆえに大友一門の養子による家督相続を持ちかけてきたという経緯がある。
  ただ、この話は気乗りしない私と大友の介入を避けたい宇都宮一族の都合から、一万田家の領地放棄後は宇都宮家が管理をし城井家から養子をもらう事で解決。
  ちなみに、領地に依存せずに商人と結託した武士の事を『座屋武将』と呼んでいるらしく、その上位種である『座屋大名』なるものも存在しているらしい。
  ……私の事なんだが。座屋大名って。
  かくして、宇都宮家の案件も没となったので日向に大友親貞を呼んだ次第。

「貴方のために都於郡城を用意しているわ。
  自分で日向を動かせると思うのならば、飾りでなく実権をあげるけどどう?」

 私の問いかけに、大友親貞は笑顔で一言。

「寝ていて功績が転がり込んでくるのに、わざわざ起きて働けと?」

 成長したなぁ。彼。
  こっちの表裏をちゃんと理解していないと今の一言が出てくるはずがないのだ。
  もう少しかまかけてみるか。

「じゃあ、私が貴方に期待する事と言えば?」

 どう答えるかと期待していた私は大友親貞の回答に思わず虚を突かれる。
  ほぼ即答で彼はこう言い切ったのだから。

「入田・高橋の二将の首に縄をつけてこの地まで引っ張ってくる事」

「……パーフェクトよ」

 私の上げた感歎の声に大友親貞は目をぱちくり。
  見ると四郎以下佐伯惟教や山田宗昌も同じような顔をしていたり。 

「ぱ……なんです?
  その言葉?」

「異国の言葉よ。
  気にしないで」

 大友親貞の質問をさらりと流しながら、まじまじと考える。
  こりゃ、彼の才能もあるが誰かがそこまで仕込んだと見た。
  今は亡き吉岡老の下で庇護されていたとはいえ、彼がいなくなった後にも目をかけていた者がいるはず……あ。いた。
  彼、寺社奉行をしていた時に補佐に田原親賢とコンビ組ませた覚えが。
  納得。


  佐伯惟教や大友親貞を先に帰して、四郎と二人でのんびりと高城川を探索する。
  まぁ、正しくは護衛を引き連れてなので二人ではないのだが。

「姫。
  この戦において、それがしはどの場面にてお役に立てばよろしいので?」

 なんとなく続けられる四郎との会話が心地よい。
  最近は博多奉行としての仕事から半年は確定で博多に居るからな。四郎。
  私も大名として府内から中々動けなくなるし。

「とりあえず、旗本。
  期待しているんだから」

「御社衆よりは役に立つ所存で」

 二人して笑う。
  その先の私の台詞が判っているからだ。

「あら、御社衆貴方に任せるつもりだったんだけど?」

「立花家郎党のみで精一杯ゆえ」

 二人して笑った後、私は真顔に戻る。
  それを見た四郎も真剣に私を見つめる。

「木崎原で戦った四郎に尋ねるわ。
  島津と五分で戦った時にこっちは勝てると思う?」

 唯一島津を見て戦った者の証言だ。
  このあたりの客観的に見る四郎の目については私は信頼を置いていた。
  その四郎からかえってきた言葉は私の予想と違っていた。

「その前提は多分成り立たぬと思います。姫。
  姫が今行っているように、島津もまた手を尽くしているはず。
  島津が姫の策の中に納まるのならば、姫の勝ち。
  姫の手から逃れたならば、島津の勝ちかと」

 うわ。
  むちゃくちゃ高評価じゃないか。
  四郎も最初島津に怯える私を疑問視していたけど、木崎原から粥餅田まで大友軍が島津に翻弄され続けた一部始終を見ていたから評価を変えたのか。
  うれしい。


  まぁ、そんな四郎の成長を喜ぶより、その島津からの手が容赦なく美々津に戻った私達に襲い掛かった訳で。

「肥後水俣城の筒井家家臣島清興殿より内密の文が。
  島津の仲介で織田家家臣滝川一益の手の者が支援を約束した上で大和帰参を進めており……」





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