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大友の姫巫女

南海死闘編

第四十七話 アトラス遊戯 大友家加判衆評定 顔見せ





「娘よ。
  昨夜南蛮人と話していた事を説明してもらおうか」

 速攻でばれてーら。
  珠です。

 府内城加判衆評定の席だから言い逃れなんてできる訳も無く。
  おまけに、四人もの交代が行われた新規加判衆評定、ちょっと未来風に言うと私の内閣の初閣議の席なのだ。
  という訳で、この場の人間を軽く紹介しよう。
  まず中央に座る父上。
  一応父上が全権を握っているのだが、実際に政権を動かすのはその隣で右筆として座っている私である。
  だから、こんな父上の一言が言い逃れられない訳で。
  六人居る加判衆は首座になる田原鑑種を筆頭に陣代として大友全軍を動かす戸次鑑連が次席となり、
  田北鑑生・志賀鑑隆・木付鎮秀・朽網鑑康が同格という形になる。
  他にも人間が居て、私の反対側に座っているのが軍師の角隈石宗で彼は決定権はないけど、父上のアドバイザーとしてここにおり、その為評定衆の地位を得ている。
  また、実務系TOPの私が評定を主導するので右筆の仕事が滞る事を考えて右筆の下に側用人なる役職を置いて補佐させる事に。
  その側用人筆頭が私の爺である佐田隆居でこれは名目上のもの。
  要するに私が大名になった時に右筆として爺には加判衆に入ってもらうからその空気になれてもらおうという意図である。
  実務を取り仕切っているのは同じく側用人として私に仕えて長い麟姉さんや政千代をここに入れたのだが、子育てと仕事の両立の為フルに働く事は難しい。
  で、実際の実務を取り仕切ってもらうのは同じく側用人に抜擢した浦上宗鉄。
  浦上宗鉄は史実でも父上の右筆だった事もあり、能力には問題が無い。
  他紋衆である浦上宗鉄の側用人抜擢人事の発表で府内でかなり大きな波紋となったのだが、最終的に落ち着いたのが右筆という実務ができないと話しにならない地位であると同時に他紋衆の出世コースに入ったからで、万一彼が加判衆になったとしても右筆としてという事に豊後国人衆が気づいたからに他ならない。
  さて、そんな陣容で行われた顔合わせでしかない加判衆評定で爆弾投げつけやがったのだから私の狼狽振りたるや見事なまでに総崩れである。
  全員に『何かあった』と確信を持たせてしまった己の失態をどう取り繕うか途中まで考えてやめる。
  しょっぱなから閣僚に内緒事なんて政権運営にとっていい影響が出るわけない。
  まぁ、ため息をついて漏らしたであろう政千代をきっと睨んでみたり。
  こっちの視線に気づいた政千代はにこりと微笑み返しやがって。さすが雷神こと戸次鑑連の娘。いい性格してやがる。知っていたけど。

「姫様。
  そう政千代を責めなさるな。
  それがしが、『姫様が南蛮人と密談をするようならば知らせよ』と命じていたもので」

 ああ、めちゃいい笑顔で言いやがって。
  父上使って『話せ』と言われたら話さざるを得ないじゃないか。
  内心泣きたくなりながらも聞こえてくる戸次鑑連のフォローを耳に流しながら気になった事を尋ねてみる。

「なんで、南蛮人との密談なの?
  公家とか商人とかやばいのいっぱいいるでしょうに」

 その回答を言うだけの為に戸次鑑連の空気が戦場のそれに変わる。
  そして、出てきた一言に私は完膚なきまでに叩き潰された。

「簡単なこと。
  姫様のみしか知りえぬからでございます。
  姫様のお隠し事、もう少し我らに背負わせても構わぬのですぞ」

 あれ?
  いつからここは裁判所になった?
  しかも、私被告人席にいるみたいなんだけど。
  というか、何でばれた?
  私が隠し事をしているのが???

「姫様が正しすぎるのでございますよ。
  打つ手打つ手が理に適い、はるか先を見て手を打っておられる。
  既に同じ事を田北殿、田原殿も思っておりまするぞ」

 戸次鑑連に振られた田北鑑生も首を縦に振る。
  その言葉に私の頬に汗が浮くのを止められるわけが無い。

「戸次殿から振られたのは小金原合戦の折だったかと。
  『神仏の加護か先が見える』と話した覚えが。
  姫様の戦における痒い所に手が届く気配りは長く戦場に居るそれがし達を驚嘆させるに十分すぎるのですぞ」

 そんな所からばれていのかよ。
  とはいえ、南蛮人来襲からチートじじい毛利元就必殺の罠回避で全力を出さねばどうにもなになかった訳で。
  というか、田原鑑種なんてただ笑っているだけだけど、

(南予侵攻の目的がそれがしの粛清目的だった時点で、この姫に逆らうのはやめようと思いました)

 なんて目で言うな。お願いだから。
  あ、付き合いだけならば香春岳城城代からのつきあいの志賀鑑隆は無言でうんうん頷いているし。

「公家や寺社ならば伝もあります。
  毛利のことならば立花殿にも尋ねればいい。
  ですが、南蛮人の事だけでは、姫様以上に知る者がおらず、姫様が口を噤んでしまったら、真相を誰も知る事ができぬ。
  それゆえ、政千代に命じて南蛮人との密談のみ網を張らせて頂きました。
  今の姫様の狼狽を見るに、また異国が攻めてくる可能性は高いかと」

 駄目だ。勝てない。
  ちょっとチートで長生きしているからと言っても、本物のしかも生涯修羅場を潜り抜けきった武人相手に騙せる訳がない。
  だから、隠そうとしていた本音をぶちまける事にした。

「状況はもっと悪いわ。
  多分、織田と南蛮人が繋がる。
  織田の線で長宗我部と島津も繋がるはずよ。
  竜造寺は微妙かな」

「なるほど。
  大陸の富と南蛮船が争いの元でしたか」

 ぽんと手を叩く田原鑑種。
  彼は博多に長く滞在し、勘合貿易を行っていた大内家の中枢に居た事もあり、私の一言で全部を理解しやがった。
  私が集めたのだから自業自得だが、チートしかいねぇよ。ここも。
  ゲームの大盤は戦国期最先端の大国である明帝国の交易をめぐる大友家とスペインの争いに、日本という盤上では瀬戸内制海権と天下統一を狙う織田信長との争いがリンクしているのがこのゲームの特徴なのだ。
  スペイン帝国フェリペ二世。
  織田信長。
  なんで超ド級スーパーチート二人を相手にしてゲームしなきゃならないのやら……

「とりあえず、この戦については南蛮船の数と港が全てを決めるわ。
  ひとまず、それだけを頭に入れておけばいい。
  じゃあ、評定に入りましょうか」

 うん。
  実はまだ評定始まっていないのよ。
  始まる前からノックアウト寸前なのですが。ええ。

「始めに言っておくわ。
  私は長きに渡ってこの座の中央に座る事は無いわ」

 大規模な人事異動だからこそ、明確にこの政権が短期政権である事を提示しておかねばならない。
  実質的なスケジュールとして、長寿丸元服までの数年は父上の後見の元で私が大友家を動かし、長寿丸元服の暁には父上の隠居と同時に私が私が大友家当主につく。
  その後数年でその座を降りて長寿丸に譲るから、どんなに長くても私の政権は十年も無い。
  それゆえ、円滑な政権移譲は絶対条件となる。
  それは、皆の共通認識ゆえ誰も異を唱えない。

「それを前提に私の方針を言うわ。
  島津については長寿丸の初陣にさせるので、攻めて来た時のみ迎撃。
  四国は長宗我部が一条領についてちょっかいをかけるのならば放棄。
  伊予も迎撃が無理ならば捨てるわ。
  四国で失った分の石高は、残りの九州全土の開発でお釣が来る。
  これが私の方針よ」

 その恐ろしいまでの割り切りにさすがの一同も呆然としたらしい。
  朽網鑑康が震える声で私に確認する。

「姫様御自ら攻められて大功をあげられた四国を捨てるとおっしゃるか!?」

「うん。
  だって四国取ったの対毛利の為だし」

 その一言に、驚愕の顔を隠さない志賀鑑隆、木付鎮秀、朽網鑑康。
  そうか。
  西園寺討伐と一条領管理問題が建前で、本音は河野を脅かして瀬戸内水軍に圧力をかけるのが狙いだったの言うの忘れていた。

「四国で戦が起こり伊予河野家が戦渦に巻き込まれれば、その傘下という事になっている村上水軍は河野家救援に動かざるをえない。
  姫様は毛利が九州に上陸する事を見越し、彼らを干上がらせる為に瀬戸内水軍を足止めする事が真の狙いよ」

 南予侵攻の参加者だった田原鑑種がすらすらと淀みなく、理由を三人に伝えるのを見て苦笑せざるを得ない。
  普通気づかないよなぁ。
  もう一つ、当時太宰府近辺を統治しており、毛利側の九州諜略の前線指揮官だった田原鑑種こと高橋鑑種を粛清する事なんて。

「四国を捨てるのはいい。
  だが、田原殿の兄上である一万田殿は伊予に大領を封じているではないか」

 木付鎮秀の当たり前といえば当たり前の質問に田原鑑種がさも当然のように答える。

「領地ならば臼杵殿が返上した博多近辺があるゆえ問題はござらぬ。
  もっとも、兄上も臼杵殿を見習い、座屋に銭を貸しているので返上してもさして困らぬとは思いますが」

 基本的に四国というのは山ばかりであり、木材を売って食料を買うという事でなりたっている土地である。
  そして、ここ数年は大友領を中心に大規模土木事業に造船ラッシュと木材価格が高騰しており、一万田家は巨万の富を築きあげているのだという。
  もちろん、そんなえげつない事をいけしゃーしゃーとやりやがったのは一万田親実ではなく私の目の前に座る田原鑑種なのだが。
  博多に長く滞在し商人に顔が知れているというコネと、大内の中枢にいたという経験はこれほどまでにでかいかとつくづく思い知らされる。
 
「それと、この座を退く時は色狂いで退く事にするから、各自いい男を用意しておくように」

 私の一言に苦笑が広がるが、誰もそれに異議を唱えない。
  短期政権には短期政権になる理由があるのだ。
  その要因は二つ。
  政権担当者が死ぬか、失脚するかである。
  当然死ぬつもりは無いので失脚するしかないのだが、父上のように隠居スタイルが取れないのは、私の影響力を落とす必要があるからである。
  大名より影響力がでかい重臣なんて粛清か内乱の種にしかならない。
  で、無能を理由に更迭しようにも既に功績を挙げすぎているし、今から失政なんてしようものならば織田やスペインにつけこまれかねないのだ。
  結果、個人的資質による失脚という所に落ち着くわけで、また都合がいいように父上ゆずりの色狂いなんて趣味もあるわけで。


  男に狂って政を省みないので失脚。


  というのが、この短期政権のゴールとなる予定である。
  政治というのは実に魑魅魍魎としているものである。
  頂点に着くまでは、色狂いは控えろと家臣一堂泣いて懇願していたというのに、頂点についてからはいい男あてがうのでどんどん狂ってくれときたもんだ。
 
「じゃあ、今日の顔合わせはここまで。
  明日から本格的にがんばってもらうわよ」

 私の一言に一同頭を下げてその場から離れようとする。
  最初以外じっと黙っていた父上が口を出したのはそんな時だった。

「最後に一つ聞かせてくれ。
  お前にとって、その異国の王とはどのような存在なのだ?」

 父上の言葉に私は勘の赴くままに、それを告げた。
  そして、その勘は呪いとなる。

「私が生涯をかけて遊ばなくてはならない相手です」

 

 後に、スペインは新大陸経由で太平洋横断の後、日本(織田)を経て中国というルートで交易ルートが確立する。
  誰が呼んだかというか間違いなく一人なのだが、その航路をマカオからの報告で、『偉大なる航路』と呼ばれるようになる。
  それをイングランドの海賊提督が女王に報告している書簡が後に伝わっている。
  そこには『GRAND LINE』と書かれていたという。

 時はまさに、


  大航海時代


 

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