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大友の姫巫女

南海死闘編

第四十話 姫の帰還 赤肩騎兵隊 

 
  九重高原からこんにちは。
  珠でございます。

「お馬お馬~」
「おうま~」
「ぉ……」

 娘達を引き連れてのお馬見物……というわけではないのですが。
  ちなみに、四人目の瑠璃が生まれ、政千代が抱いていたり。
  我が娘も馬を見て大喜び。
  で、私はというと……

「んじゃ、これからこの馬について使い方について講義を始めるわよ。
  分らない事があったら、どんどん質問するように」

 大友武将連中を前に、騎兵についての授業をするはめに。
  本気で切実に士官学校が欲しい。
  杉乃井で田北老と吉岡老に頼んで老後の楽しみ学校を開いて若手に教えを受けさせていたけど、あの二人が黄泉路に行ったので自習みたいな形になっているのだ。

  とりあえず軍事と内政を教えられる暇そうな爺が居ないのがちょっと難点……
  爺ではないがおやじでちょうど暇になったのがいたな。
  吉弘鑑理と臼杵鑑速ってのが。しばらくは暇だろうから土下座してこの二人に講師を頼んでみよう。

 で、しょっぱなからこの話全否定の質問をふっかけてきやがったのが若手NO1の小野鎮幸だったり。
  なお、ここに集めている将の中から騎兵隊を率いてもらう予定である。

「失礼ながら、騎馬を集めて隊を作るという事ですが、その必要がそれがしには良く分らないのですが……」

 これは少しだけ説明しよう。
  戦国の合戦というのは集団戦というのはご存知かと思うが、乱戦時においても基本はユニット編成で戦っていた。
  どういう事かというと、侍一人について従者三・四人というユニットで常に集団で戦っていたのである。
  意外と思う人と納得する人がいると思うが、合戦時で飛び道具以外で殺される瞬間というのは倒した敵の首を取る瞬間だったりする。
  また、馬上の侍に足軽達が群がるから、どうしても足軽を蹴散らす為に従者としての足軽が必要だったのである。
  このあたり、戦車と歩兵の運用に近いものがあったりする。
  だが、騎兵と歩兵の混同は騎兵の足を殺すだけでなく、馬そのものが財産(しかもステータス)であるこの時代において、騎兵のみ運用という発想は出てきていなかった。
  騎馬が集まるのは大将周辺の馬周り(これも従者つき)ぐらいだし、騎馬の足を生かすのは物見と伝令という所ぐらいしかないのが戦国の戦場風景だった。

「んじゃ、とりあえず言うよりも見てもらった方がいいわね。
  おねがいするわ」

 私を含めて武将一同がぞろぞろと牧場の柵のところに移動。
  で、全員柵に手を置いて離すなと命じた所で、十騎ほどの騎馬がこっちに突っ込んでくる。
  わざわざ大陸から取り寄せた大柄の馬が、土を撒き散らして集団で猛スピードで突っ込んでくる様子に数人が思わず手を放してしまう。
  なお、私なんて手も離したしびびって数歩後ろに下がっていたりするのだが。

「ね。
  怖いでしょ。
  こんなのが、突っ込んできたら隊が崩れるのよ」

 その昔(2)(緑)(緑)(緑)ソーサリーでラノワールエルフが4/4トランプルで突っ込んでくるトラウマは未だ健在だったりする。
  もしくは、(赤)(赤)(赤)で突っ込んでくるボール・ライトニングでも可。
  まぁ、恐怖の理由が分れば対抗策もあるというのが世の常で。

「しかし姫様。
  これは、槍隊が長槍を構えて押さえれば問題が無いかと」

 柵から手を離す事無く今度は由布惟信が疑問を提示する。
  この時代の近接戦闘は槍こそが戦場の王だった。
  テルシオの陣形を見れば分るが、5メートル以上の長槍で隊列を組まれるとまず騎馬の槍が届かないからだ。
  騎兵が本格的にその真価を発揮するのは、銃の進化で銃剣がついて槍が不要となった後で、それでも騎兵を防ぐために長槍の方陣は存在し続けたという。
  つまるところ、この長槍を崩さない限りこの騎兵隊は不要というのがこの場に居る武将達の認識なのである。

「そのとおりね。
  こいつらを槍衾の中に突っ込ませても無駄なのは分っているわよ。
  こいつらには、横や後ろに回ってもらう役目を期待しているのよ」

 正面から突っ込ませるのは犬死でしかないが、その足の速さや長さを使って横槍を入れるのだったら悪くない選択肢だろうと武将達の幾人かに納得した顔が浮かぶ。
  今度は、佐田鎮綱が疑問を提示する。

「とはいえ、山や森が多いこの地においてこの騎馬達が横や後ろに回れるのでしょうか?」

 豊前や筑前筑後の平野部ならばまだ分るのだが、私の執事たる佐田鎮綱はこの騎馬隊が対島津戦における切り札という事を知っている。
  そして、島津相手の戦場だと山あり森ありの戦場が前提となる。

「後ろや横に回るとしたら、渡河になるでしょうね」

 大友没落の運命の一戦となる耳川合戦だが、あれは大友軍の渡河によって始まった。
  そして、先ほど語ったユニット編成を思い出してもらいたい。
  足軽と騎馬が『同時』に渡河できるポイントというのは限られるのだが、『騎馬のみ』ならばその選択枝は一気に広がる。

「言わんとするのは分るのですが、これらの騎馬が首を取る場合馬から下りねばならぬと思うのですが」

 今度は高橋鎮理が侍として当然の疑問を口にする。
  功績の証拠である首、もしくは耳でも鼻でもいいのだがを取る場合どうしても下馬しないといけない。

「基本、彼らには首は打ち捨てを厳命してもらいます。
  むしろ、首を取った場合処罰されると思ってもらって構わないわ」

 騎馬が下馬する最大の理由の一つである首とりそのものを否定した時に諸将の顔に渋みが走る。
  兵の評価基準になる手柄の決定が出来ない以上、その統制をどうするかを考え出したからに他ならない。
  もちろん、そのあたりも考えている。

「この騎兵隊については足軽の中から募集し、馬は私が管理するわ。
  三年を区切りとしてその足軽には乗っていた馬をつけて隊から出てもらう」

 それを聞いた諸将の顔に納得の色が浮かぶ。
  ここへの配属そのものが足軽の抜擢の褒章なのだと。
  馬は私持ちだが、三年経ったらその馬ごと放出する事で馬という最大級の褒章が手に入る。
  そして、馬持ちの足軽は基本的に侍扱いになり、そのまま戦に出なくても馬宿なり、田畑の開墾なりで食っていける訳だ。
  ならば、無理して首をとる必要はないし、横槍前提ならば兵達も従うだろう。

「現状では三百騎。
  最終的には五百騎を考えているわ。
  で、ここからが本題。
  こいつを率いたいと思う人いる?」

「……」
「……」
「……」
「……」

 あれ?
  何で誰も手を上げないの?
  首をかしげた私に戸次鑑連がぽつりと一言。

「姫様。
  この隊を指揮するにはこの隊におらればなりませぬが」

 あ。
  重大な盲点を見落としていた。
  小野鎮幸や高橋鎮理みたいに既に鎮台を率いている連中はかえって邪魔になるのか。
  私の執事たる佐田鎮綱も実質的な旗本である宇佐衆を率いる訳で。
  んじゃ、由布惟信あたりに任せようかと思ったら先に断られる。

「それがしは既に息子に家を任せて一線を引いた身。
  このような隊には若武者がよろしいかと」

 ちなみに、由布惟信は元々一城の主だったのだけど、息子に家を任せて一線を引いたという理由で戸次家の家老なんてやっていたりする。
  ぜひともその理由で大友本家にカムバックして欲しいのだが駄目だろうなぁ。
  ならば、城主級で郎党を率いる必要の無い連中かぁ……
  御社衆からの抜擢にならざるを得ないか……

「仕方ないわね。
  御社衆あたりから引っ張ってくるわ。
  それにしても、騎兵隊って使いにくいんですぅ。 
  ぷんぷくり~ん♪」


「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 あ、あれ?
  この台詞で女子力を磨けるって聞いたんだけど……

 

 数日後。
  同じく九重高原の牧場にて。

「で、だ。
  この隊を率いたいと思う人いる?」

 御社衆を率いている恵利暢尭・野崎綱吉・小林吉隆三人の前で同じ事を言ってみる。
  けど、帰ってきたのは三人のため息だった。

「姫様。
  多分お気づきになられてないと思う故、言わせていただきますが、この隊は兵の錬度をあてにできませぬぞ」

 あ!
  野崎綱吉の指摘で私が彼が何を言わんとした事を理解した。
  三年で兵を放ち、新人を常に入れるこのシステムだと錬度不足で統一運用ができないという構造的欠陥を指摘されたのだ。
  決戦戦力として期待していた騎兵だが、これでは本末転倒じゃないか。
  すっと手が上がったと思ったら、このあたりに領地を持っているので今回の案内役を買って出た志賀鑑隆が低い声でぽつりと。

「このままならば、これらの兵を馬廻りに置いた方がまだ使えるかと」

 そうなると大名直轄になるのだけど、私が大名の座を降りたらそのまま解体されるのが目に見える。
  そこに容赦なく小林吉隆の追い討ちが。

「それに、この騎馬衆、姫様直轄となると御社衆と同じ扱いに。
  兵が集まるかどうか……」

 うわ。
  西国最弱を自負している御社衆と同じなんて、そりゃ集まる兵の質に期待できないじゃないか。
  出で来る問題に頭を抱える私。
  声が聞こえたのは、騎馬の実演を率いた若武者からだった。

「何をうだうだ悩んでいるんだ?
  突っ込んで、かき回せばいいだけの事だろうが」

「無礼者!
  姫様に向かってなんていう物言い!」

 恵利暢尭が声を荒げるのを止めて、私は彼の方をじっと見つめる。
  やさぐれた仕草だが、そこには苦労を超えた歴戦の凄みが感じ取れた。
  こんなのが御社衆に残っていたとは。

「名前は?」

「薦野増時。
  太刀洗合戦で落ちぶれた家の息子さ」

 その苗字でなんとなく納得する。
  薦野家は元は四郎が継ぐ前の立花家の家老であり、彼の初陣である太刀洗合戦で父親である薦野宗鎮が討ち死にしてから没落。
  御社衆に入ってお家復興を目指し、以後の御社衆の主要な合戦に全て参加した歴戦の者である。
  その為に立花家から侍大将格でスカウトがきていたのだが、立花(大友)の血が流れていない事からこれを断ったのだった。
  私が本格的に騎兵隊の立ち上げを計画した時に御社衆の中で馬に乗れる者を募集したので応募し、その才能で当然のようにこの雛鳥の騎兵隊のまとめ役となっていたのである。
  彼が私に対して言った一言はまさに核心をついていた。
  敵陣に突っ込んでかき回すだけならば、少数で横槍を突き続けるだけでいいので隊列を整えての突撃すら必要ない。
  本当に必要なのはその敵陣の弱い所を突き続けるだけの機動力のみ。

「いいわ。
  薦野増時。
  あなたにこの騎兵隊を預けます」 

「承知。
  だが、俺にできるのは敵陣に突っ込む事のみだ。
  合戦の絵図面は姫様が考えるんだな」

 その投げやり姿勢というかクソ真面目さ加減がなんだがとてもある男を想像するのですが。
  ぽん。

「どうしました?
  姫?」

 不意に手を叩いた私に、皆を代表して志賀鑑隆が尋ねたので思いついた事を口にした。

「この騎兵隊の名前よ。
  鎧の左肩だけを赤く塗りましょう。
  赤肩衆とでも名づけましょうか。
  この隊に入る場合、希望者同士で馬上試合をしてもらい、勝った方のみを入れると」

 まぁ、最精鋭部隊どころか、誰も引き受けるのを嫌がった最弱部隊だから最強部隊にあやかろうとした訳で。
  島津相手に吸血部隊に化けるのならばそれはそれでもうけものである。
  さすがにまるまるぱくるのもおこがましいので、肩の色を塗る場所だけは変えておこう。うん。
  そのうちアイドルユニットに進化する事を密かに期待したのは内緒。
 
「それにしても、騎兵隊って使いにくいんですぅ。 
  ぷんぷくり~ん♪」


「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 あ、あれ?
  この台詞で女子力を(以下略

 


 

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