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大友の姫巫女

南海死闘編

第二十七話 伽藍炎上 船女の駄目すぎる船旅 


  がしゃん!
  自己紹介前からHTT(ヒロイン投獄タイム)な元珠姫こと恋です。
  まだ替え玉中なのでこっちの名前なのですが、みんな『姫様』としか呼ばねーでやんの。
  まぁ、いいんだけど。

 さて、何で私は冒頭から投獄されているのでしょうか?
  ちなみに、ここは私の御座船となっている珠姫丸の牢獄なのだが、私をぶち込む事を前提にしていたらしく、えらく綺麗に掃除した後が……というか、床がまだ乾いてない。
  船長の安宅冬康も大変だっただろうに。

「自業自得ですっ!!!」

 監獄越しに激怒な顔を晒しているのが政千代。
  その両隣に久々の登場となる八重姫と九重姫の二人がうんうんと首を縦に振っていたり。
  この三人日向遠征時に留守番していたので交代でついたのだけど、どうも博多でのご乱交が目に余ると映っていたらしい。
  ちなみに麟姉さんは喪中で外れ、白貴姉さんはもう一つのお仕事である父上の愛妾の為に府内でお留守番である。
  笑えない笑い話だが、麟姉さんと白貴姉さんがある種動けない立場になり、白貴姉さんの友達で同じぐらいの才があった由良姉さんは島井宗室の妾となり、次世代のトップと目されていた恋が四郎の愛妾に収まってしまった為に、姫巫女衆の遊女派閥では熾烈な後継者争いが勃発していたりする。
  この場合の遊女閥のトップというのが何を指すかというと、『四六時中私と行動を共にできる遊女=珠姫の愛妾(おもちゃ)』を指す訳で、今それぞれ名前を挙げた人は男という鎖に繋がれちゃっているのでフルに動けないのだった。
  そもそも身代わりとして本来私の側にいるはずの恋ですら、評定で笑顔を振りまく毎日である。かわいそうに。
  次世代エースだった恋がある種『あがっちゃった』のでその跡目争いは熾烈を極め、その上彼女達の中で急上昇していた遊女が島津の間者として鍋島信生に切り捨てられたものだから身元チェックに大混乱。
  もっとも、遊女閥の混乱を笑っていられるほど武家の女出身派閥も安穏としていられなかったりする。
  理由は先の日向遠征で大量に流れてきた日向出身の女性達の大量加入。
  ネルトンパーティでも追いつかない彼女たちの働き場所として姫巫女衆は機能し、その数で大友家出身の女達を押し出しかねない状況になってしまったのだった。
  大友家出身の女達は帰るべき家があり、麟姉さんや政千代よろしく基本交代で仕事についている。
  だが、家が滅び(残ってはいるが雇える領地ではない)主人や恋人が島津との戦いで軒並み戦場の露と消えた伊東家の女達は、もう帰る場所すらない。
  で、どどめが一人の姫の姫巫女衆入りである。

「木瓜と及びくださいませ。姫様」

 いや、あんた誰?
  聞くと木崎原で戦死した伊東祐安の末娘で、父伊東祐安に兄伊東祐次が戦死し伊東家そのものが崩壊。
  ちなみに彼女の許婚もこの戦いで命を落としたという。そう。木崎原合戦である。
  辛うじて豊後に逃れた伊東家の女達は新たに生きる道を探すが、伊東祐兵の元で大友家に従属して辛うじてその命脈を保っている伊東家に、日向に栄華を誇った伊東一門全てを助ける事などできず。
  で、彼女が旗印となって姫巫女衆に皆で志願したという。

「この身どうなっても構いませぬ。
  ですから、何卒父や兄、許婚の仇である島津を……」

 いや、お願いですから鉈を獲物に淡々と能面のようにどす黒い復讐心を述べないで頂けないでしょうか。
  貴方、今のままでも能面ライダー般若になれると思いますので。もしくはナイスボート。
 
「姫様が島津を討っていただけるのでしたら、この身畜生に汚され、南蛮に売り渡しても構いませぬ。
  ですから何卒我らの恨みをかなえて頂きたく」

 と、言いながら裸になって大友女の象徴である刺青――しかも伊東家の庵木瓜紋――を見せられたら、NOといえないじゃないですか。
  伊東家出身の女達は皆この刺青をしているらしく、既に別府では客の要求を全てこなし、情に厚くて執念深い『伊東女』のブランドが確立しつつあったのである。
  ちなみに、そんな彼女達は今回連れてきていない。
  というか、連れて来ていたら今頃私を牢屋に押し込めて、木瓜姫がエロエロやっていただろう。能面顔で。
  そうなると私の出番が減……げふんげふん。
  島津戦に備えて杉乃井で待機してもらっている。
  なお、遊女閥も武家閥もこの新興勢力に危機感を抱いて一時停戦しようと画策しているとかしていないとか。
  で、その旗印が恋達の世代を越えた第三世代のトップである知瑠乃なのだから世も末である。
  たしかに私だけでなく父上や養母上の覚えめでたく武功もあり白貴姉さんについて学んでいるから、将来はパンツが空を飛ぶアニメのアホの子エンジェロイドになるのはほぼ確定している。
  長寿丸……振り回されるんだろうなぁ……
  大谷紀之介の為に漢方の胃薬を用意してあげよう。今から。
  閑話休題。

「というか、何で姫様自ら船女になるなんてたわけた事を言い出しやがりますか!!」

 政千代が私を牢屋に押し込めた理由を分かりやすく叱り付ける。
  この船女というのは、要するに遠距離航海をする南蛮船なんかに入れる女性の事で。
  まともに説明するなら慰安婦。
  エロゲーだと、肉とか牝の頭文字三文字の女性の事である。
  いやね、そんなエロゲー展開を期待していたんだけど、ちょっと現実舐めていた。
  エロエロアヘアへの果てに『ぽいっ』って捨てられるのは阻止する為にセーフティーネットを用意したら、女性が逆手に取る例が続出。
  今や遊女の中でも花形職業になりつつあったのである。
  どういう事か?
  少し真面目な話になるが、出港してしまえば閉鎖空間となる船の船員というのは必然的に共同体を組織する。
  そんな状況で性処理なんかに使われた女は、奴隷であり商品であって仲間ではなかったのだ。
  ところが、私が送り込んだ女たちは学があり過ぎた。
  何しろ読み書き算盤前提で飯炊きスキルがデフォで、男の上に何度も乗っている百戦錬磨の娼婦達である。
  私の直轄である遊女達を管轄する姫巫女衆は私という強大な最終責任者がおり、私の機嫌を損ねると港で縛り首という事もありえる訳でして。
  同じ仕事をするのだけど、送り込んだ女達は男の上に乗るだけでは飽き足らず、他の仕事もこなして彼ら海の男達に仲間と認められたのだった。
  なお、こんな職につく連中も筋肉のつきのいい白拍子や戦場専用の遊女(イメージするならば某エロゲーの筋肉ムキムキな土木工事作業主任)達が行ってしまい……どうしてこうなった。
  組織というのは面白いもので、少数の異性が入るとその組織は健全化する傾向がある。
  ましてや、希少価値がある異性が力をつけるのは、ある種の必然でもあったのである。
  で、ここからが想定外その二。
  南蛮船や櫂でこぐ舟ともなると百人以上の男性がいる。
  優位に立った状況でその百人と関係を持ったらどうなるか?
  人数が増えれば増えるほど相互監視が働いて乱暴に使われる事が無くなってゆくし、低賃金とはいえ奉仕に料金をつけているから銭はたまるし、そもそも交易後の儲けの山分けにも参加(というかその山分けを計算しているのが彼女達)できるといういい事づくめ。
  女王蜂の誕生である。
  だから、船女になると孕んでしか船から下りられないが、遊んで暮らすだけの財とハマって旦那になる男まで見つけてくるという、そろそろ引退を考える遊女達の最後のお仕事となりつつあったのである。
  元々は隷姫航路で運ばれる女たちの待遇改善策の一つだったのだが、船女が乗る船の女達の健康や正気度が目に見えるほど改善(船女が奴隷達の世話をするのと、船女が奉仕しているので奴隷に手を出す回数が減っている)しているから、この傾向を止めるに止められなかったりする。
  で、彼女達の乗る船の難破率の激減(そりゃ、彼女達が乗るのだから私のご利益つきお札貼るわよ)と相まって、粗雑に扱う男達は激減。
  海の男は迷信深いのだった。

 まぁ、こりあえずはこの傾向は放置するとして、私は私の道を行くという訳で。
  孕んでいるから問題なし。
  ちゃんと、『ぴくすわにも孕んでから参加するという四郎に操を立てる私いい女』なんて思っているのだけど、そんな私に何この仕打ち?

「駄目に決まっているじゃないですか!」

 八重姫の悲鳴に似た怒声が響き渡ると、九重がすかさず補足を入れる。
  相変わらずこの二人は息がぴったりである。

「出港前には立花様もお乗りになるという事なので、それまでは大人しくして欲しい」

 みんな変わってないなと思いながら、笑いながら降参する事にした。

「分かったわよ。
  四郎が来るまで大人しくするから、ちゃんとご飯は持ってきてよね」

 

 がしゃん。

「あー娑婆の空気はうまいわって、何で頭抱えているのよ。四郎?」

「いえ……まぁ、色々と察していただけるとありがたいのですが……」

 まぁ、ひとまず四郎の苦悩は脇に置いといて、船内を歩きながら真顔で四郎に話す。
  ちなみに、牢獄飯(お握りと漬物とお味噌汁)美味しかったです。

「で、岩屋城にはどれぐらいの兵を持ってゆくの?」

 ちゃんと真面目な話になると真顔で答える四郎が素敵。
  えらくやる気を出しているので、こちらとしては戦場でハッスルし過ぎないか心配なぐらいである。

「立花家の手勢と御社衆を含めて三千ですね。
  今回は毛利一門としての出陣なので、向こうの水軍衆が借りられたのが大きいです」

 やっぱり毛利水軍は侮ってはいけない。
  南蛮船はまだ数が足りない以上、彼らの協力は絶対に必要なのだ。
  ちなみに、本願寺は雑賀衆や畿内の門徒に集結を呼びかけており、石山本願寺に集るのは三万を越えるだろうと言われている。
  襲いかかってくる織田軍を迎え撃つには十分すぎる数であり、大友毛利連合は『商売として(建前はまだ中立なのだ。両方とも)』本願寺門徒に兵糧や弾薬を卸している。

「確認するけど、今回は本願寺勢として石山本願寺に入ってもらうわ。
  私は堺から見物する事になるけど、危なくなったら淡路国岩屋城に逃げ込むから」

「わかりました。
  それで、目的といつまで滞在すればいいのか教えていただけると助かるのですが」

 少し考えて、私は口を開く。
  どうせ長くなる対織田戦だからまともに戦う事はできない。
  今回は、『釣られたクマー!』と宣言する為の嫌がらせが目的である。

「今回は石山を攻める織田軍に一撃与える事が目的だから、その一戦までかな。
  私も長期間留守にするわけにもいかないしね。
  織田軍が出てこなかったら、御社衆をそのまま石山に残して撤退。
  一応一月を想定しているわ」

 聞いていた四郎の顔が苦渋に満ちて、その事を私に尋ねる。

「三好から要請のあった安宅殿の一件はどうなされるおつもりで?」

 讃岐・阿波・淡路の三カ国を支配する三好家からの要請というより、救援の悲鳴に私は深く深くため息をついた。
  つまり、『放置しておくにはうざ過ぎて、潰すには費用対効果が悪すぎる』長宗我部問題の事である。
  阿波白地城で激しく三好軍と当たる長宗我部軍は牟岐方面にも侵入。
  この事態に三好軍は即座に対応できずにかなりの城を失ってしまうと同時に、指揮を取っている三好三人衆に非難が集中。
  しかも、『彼らを討ったら長宗我部の攻撃を止めさせて領地は安堵する』という織田側の謀略が功を奏して、もはや三好家内部が崩壊寸前の所に追い詰められていたのだった。
  織田が長宗我部の攻撃を抑えさせる切り札が、近衛前久に託した『長宗我部元親に守護職もしくは土佐守の打診』という訳だ。
  今、三好に寝返られて長宗我部が土佐一条領に攻め込んだら、東瀬戸内海の制海権は大ダメージを受けて石山本願寺救援などままならなくなる。
  これを安宅冬康を戻す、つまり三好冬康にすると四国はほぼ固められ、畿内の三好党も我々になびく事ができるだろう。
  だが、彼を失うという事は呂宋まで伸びた南蛮航路の守護者を失うという事で、万一やけくそでスペインあたりが再度攻めてきた時に応対できる将がいない事を意味する。

「正直悩むわね。
  どっちにしろ、次は長宗我部だから御社衆の募集はそのまま続けて頂戴。
  そのまま土佐国宿毛に送るわよ」

 言いたい事は言ったので、私は四郎の腕を取って、その手を胸にあてさせた。
  真面目な時間は終わりなので、にっこりと笑って四郎の耳元に囁いたのだった。

 

「だからね。
  しよ」

 

 堕落しきった船旅を堪能していた私達を淡路国岩屋城で待っていたのは、まったく想定外の凶報だった。

 

「織田信長および松永久秀の手勢が比叡山延暦寺を襲い、これを焼き討ちにしたとの事。
  延暦寺は全て炎に包まれ、洛中の情報も錯綜して何も分かっておりません……」

 

 作者より一言。
  木瓜姫はオリキャラです。


 

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