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大友の姫巫女

南海死闘編

第二十話 日向侵攻 島津間者始末顛末 

 現在佐土原城に居ます。珠です。
  なお、絶賛ゲキド・オブ・タマモードだったりします。

「で、何か黄泉路に向けて言い残す事ある?」

 切れています。
  ぶちぎれています。
  そりゃそうです。
  当人の知らぬ間に、踊りのためにやってきた恋を囮にして島津の間者を一掃する作戦なんて取られたら、激怒するしかありません。
  大慌てで佐土原城にすっ飛んできて、ででんとガイナ立ちで容赦なく睨み付けている私の視線の先には、囮となった恋とその囮作戦を指揮実行した鍋島信生が。
  ちなみに、問い詰めたら佐田鎮綱や麟姉さん、四郎や囮役の恋も承諾済みというから腹が立つ。
  何?
  私はのけ者ですか?

「姫様。
  まさかと思いますが、御身を危険に晒すことを……」

 皆を代表して佐田鎮綱が念を押すが、私もそこまで馬鹿ではないので佐田鎮綱の言葉を途中で遮る。

「私もそこまで馬鹿じゃないわよ。
  私が怒っているのは、この策そのものをする必要があったのかという事!
  護衛の姫巫女衆にも死者が出てるし、私もやられるほど前に出るつもりはないって再三言っているじゃないのよ!」

 すっと頭を下げた鍋島信生が響く声でとんでもない事を言ってのけた。

「一つ訂正を。
  姫様。
  姫巫女衆を斬り捨てたのはそれがしでございます」

「はい?」

 素で声がでる。
  怒りより、何で彼が私の護衛たる姫巫女衆を斬ったのかという疑問の方がはるかに大きかったので、思った以上に大きな声が出てしまい、詳細は一同も知らされてなかったらしく一様に皆が鍋島信生の顔を見つめる始末。

「かねてより、姫巫女衆の中に島津の間者が居る事は分かっておったゆえ、この策はその間者をしとめる為。
  失礼ながら、姫様および一同の手を身内の血で汚す事も無かろうと。
  これが、姫様によって証文を捨てて頂いた、竜造寺家の恩返しでござる」

 その言葉は凛として堂々と皆の耳に響く。
  それゆえ、怒りを一時置いて、私は事の詳細を彼に尋ねざるを得ない。

「とりあえず、全部吐きなさい。
  処分はそれを聞いてから下すわ」

 ひとまず怒りを納めた私の言葉に、鍋島信生以外の連中が安堵の息を漏らす。
  鍋島信生は一度四郎の方を見て、アイコンタクトを交わしたらしく、四郎が軽く頷いたのを確認してから口を開いた。

「まず、姫様もご存知かと思われますが、先の木崎原からこれまで一方的に我らが押されていたのは、地の利と人の和を島津が抑えていたからに他なりませぬ。
  つまり、島津の間者に大友の間者が押されていたという事実がございます」

 その間者組織の頂点の人間に容赦なく言ってのける鍋島信生。
  くやしいが、間者の投入については事実だけに私も首を縦に振らざるを得ない。
  四郎の報告書に寄れば、木崎原戦前後で五十人近い間者が既に日向の地で消えており、その再編にかなりの時間と手間がかかると頭を抱えていたのだから。

「このまま押せば、また木崎原のような負け戦を行うは必定。
  それゆえ、島津の間者を日向より消す必要がございました」

「それについては理解したわ。
  で、その必要性と今回の囮はどう繋がるわけ?」

 私が続きを促したので、鍋島信生が淡々とその先を語る。

「桶狭間合戦しかり、厳島合戦しかり。
  寡兵が大軍を破るには本陣を突くしかございませぬ。
  そこで、総大将が討ち取れるのならばなおよし。
  ですが、逆に言えば総大将一人討ち取れるのならば、寡兵でも構わぬ訳で」

 まぁ、真理である。
  当然、それを狙っているのはこっちも分かっているから、十重二十重と護衛を固めるわけで。
  なんて考えていたら、それを読んでいたらしく鍋島信生はすっとこんな言葉を私にぶつけてきた。

「姫様。
  万の兵を寡兵で相手にするより、数十人を数人で相手にする方が容易いのです」

 あ、凄く納得。
  ようするに、視点の問題だ。
  私は極力大局から物を見るように意識しているが、その大局ですら末端ならば数人・数十人の集合体である。
  そして、万を越える大友軍の中枢部、特に私の周りだけを見るならば、その護衛は百人を超える必要はない。

「だから、私を狙うために間者を送り込むか。
  言わんとする事は理解したけど……」

「姫様。
  まだお解かりになってございませぬな。
  島津は、姫様一人を斬る為だけに、この戦を組み立てておりまする」

「はい?」

 また素で声が漏れる。
  というか、おちつけ。
  深呼吸。深呼吸。
  私は、島津をどういう認識で捕らえていた?


『やつらの一番たちの悪いところは、戦場の勝利がそのまま戦争の勝利に繋がっている所よ。
  それまでどれだけお膳立てをしても、一回の敗北で全てをおしゃかにしかねない。
  やってらんないわね。
  あの『戦略級戦術兵器』は』


  ちょっと待て。
  という事は、あいつら、更に視野を狭めてきたという事か。
  私一人の命を絶つ為に合戦すら利用するって……肥後大畑合戦や日向侵入はその前準備!?
  いや、こっちが木崎原に全軍突っ込む事すら想定して、その隙に私を討つつもりだったという事か!!!
  今、自分の顔が真っ青になっている事が嫌でも分かる。
  何気に周りを見ると、私の顔を心配しているだけみたいで、鍋島信生が何を言っているのか理解できていないんだろう。
  当たり前である。
  鍋島信生が言っている事が事実ならば、島津は私を討つ間者数人の為だけに、島津全軍を危険に晒したと言っているのだから。
  これはもう戦ですらない。

「此度の囮は、恋姫という義妹君が美々津に不意に来られた事で急遽組み立てました。
  それゆえ、姫様付でない姫巫女衆に声をかけて護衛を整えさせたのです。
  姫様がまだ殺されていないとはいえ、ここまでの島津の動きを見るに必ず姫巫女衆に間者がいると確信しておったゆえ。
  ご存知でしたか?
  此度の戦、全て島津が先手を取っている事を」

 分かっている。
  島津の先手に、事実私は振り回され続けている。
  それゆえ、最後でひっくり返すべく大兵で押して……


『やつらの一番たちの悪いところは、戦場の勝利がそのまま戦争の勝利に繋がっている所よ。
  それまでどれだけお膳立てをしても、一回の敗北で全てをおしゃかにしかねない。
  やってらんないわね。
  あの『戦略級戦術兵器』は』


  あー
  なるほど。
  はっきりとその罠にはまった訳だ。私は。
  そう言えば、島津のお家芸の釣り野伏は九州の武将は皆承知していたというのに、何故か引っかかると評判だったな。あれ。
  その種がこれか。
  黙りこんだ私をそのまま話を続けろと受け取ったらしい鍋島信生は、その先を淡々と語る。

「姫巫女衆を護衛に、竜造寺の手勢を更に外周に置いて佐土原にお忍びで行く陣触れを出しました。
  この時点で、我らの一行は囮である事は明白。
  同時に、姫様付ではない姫巫女衆が功績を立てる絶好の機会でもあったのです。
  案の定、夜盗に身を装った間者が我らを襲い、それを討ち取ると共に、その夜盗を討つのに功績大だった姫巫女衆の一人を斬って捨てたのです」

「一応聞くけど、襲った夜盗が本物だったという可能性は?」

「日向の民が大友軍に逃れれば食と職を保障するのに、何故夜盗になる必要が?
  本物の夜盗ならば、万の兵を動かしている我が方に襲う事は考えますまい」

 立て板に水。
  よどみなく、すらすらと答える鍋島信生に一同声も出せない。
  鍋島信生。
  呼んで正解のチート武将ではあるが、ものすごく釈然としない。

「あなたが斬って捨てた姫巫女衆が島津の間者でない場合は?」

 一番聞きたかった事を声を押し殺して尋ねたが、それでも鍋島信生の顔も声も崩れない。

「それでも構いませぬ。
  重要なのは、姫様の中にいる島津の間者の排除。
  それを斬って捨てようとも、警戒している事を知って動きを止めるのも同じ事。
  この日向での戦の間おとなしくして貰えるならば、間者の命など次の事でございまする」

 恐ろしい割り切りである。
  その冷徹さこそ、戦国に名を残す名将の資質だろうが、やっぱり納得はしない。

「後で、斬った娘の家に見舞いの銭と私からの感状を書きます。
  手配して頂戴」

 その言葉を鍋島信生は待っていたらしい。

「既にそれがしが手配しております。
  それがしが斬って捨てた娘は、日向国三徳院の僧の紹介状を持っていたとか。
  いずれ、家も分かりましょう。
  あればの話ですが」

「……」

 つまり、最初から彼女が怪しいとあたりをつけていた訳か。
  状況証拠からして真っ黒である。
  畜生。
  借金帳消しにしただけの働きをちゃんとやりやがった。
  ため息をついて私は腰を下ろし、それが処罰無しと分かったのだろう。一同から安堵の声が漏れる。

「最後に一つ聞かせて。
  なんで、あなたは島津の手が分かったの?」

「簡単な事。
  我ら竜造寺が大友に謀反を起こした場合、その総大将は姫様でしょうから、島津と同じ事を考えていた故に」

 あ。
  凄く納得した。
  ちなみに、鍋島信生は今山合戦で島津と同じような事をして、見事総大将だった大友親貞を討ち取っているわ。
  長期対陣で気が緩んでいた大友軍は宴会を開き酒と女を買ったとあるが、当然その酒と女は地元調達な訳で。
  そんな彼らから情報を仕入れていた鍋島信生は、迷う事無く大友軍本陣を突く事ができた訳で。

 と、言う事は、竜造寺も間者を姫巫女衆に入れているな。
  後で、舞や麟姉さん・白貴姉さんと図ってチェックしておかないと。

「この話はこれまで!
  二度とこんな事を私抜きでしない事!!
  いいわね!!!」

 私がこの話の打ち切りを宣言した時に、鍋島信生がいたずらっぽく微笑むのを見逃さなかった。
  それに気づいたのだろう。
  明らかに先ほどとは違う肩を抜いた口調で、その笑みの種明かしをして見せたのである。
  
「はっ。
  ですが、非礼を承知の上で申し上げます。
  此度の策、恋姫様の方が、姫様らしく見えるゆえに成功した次第で」

 はい?

 えっと、りぴーとあふたみー?

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 ねぇ、どうして誰も私の目を見ないのかな?かな?
  きょとんとする私に、どこからか現れた知瑠乃がとどめの一撃を。

「あたい知ってるよ!
  『男の上で嬉しそうに腰を振るのが姫様で』、『男の上で恥ずかしそうに腰を振るのが恋様』だって!
  姫様。何で腰を振るの?」

 つうこんのいちげき!
  たまは9999のせいしんてきだめーじをうけた。


「どこのどいつじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
  大典太光世で三枚におろしてくれるわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「姫様!おちついて!
  皆が見ています!!」

「姫様。三枚におろすのは魚だよ。
  あたまわるいなぁ」

「知瑠乃!
  あんた余計な事言わないのっ!!!」


  最後が無ければマジメナハナシダッタノニナー





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