戻る 目次 

大友の姫巫女

南海死闘編

第十八話 日向侵攻 美々津オンステージ

「よせて! あげて!」


「よってないぞ~」


「誰じゃぁぁぁぁ!
  今、言うたやつは誰じゃぁぁぁ!!」

「鶴姫様おさえて!おさえて!!」

 なんだか舞台の上で修羅場中ですが珠です。
  ちなみに、鶴姫センターで、私と恋の三人で、

『鶴姫罰ゲーム慰安ツアー 爆乳音頭コンサート IN美々津』

 を絶賛開催中。
  この歌なのに、鶴姫がセンターな時点で、足軽の突っ込みは想定どおり。
  この歌は本当にひん……いや、つるぺっ……いや、慎ましい胸をお持ちの方にとって板板……げふんげふん。痛々しいらしく、現在激怒な鶴姫を恋が必死に抑えているあたりで将兵達の大歓声が。
  私は指差して笑っているのだけど。
  まぁ、どこかのフルフラットな鉄壁武将を敵に回したようだが、こっちには居ないから問題ないはすである。
  あのお方、場合によっては軍神持ちだから敵に回すと怖い怖い。
  ……既にその胸で喧嘩を壮大に売っているのはあえて言わない方向で。
  何でこんな事をしているのかというと、鶴姫がやらかしてくれた毛利水軍の南蛮船投入という事態に激怒した私が、げんこつぐりぐり攻撃で腹の虫が納まらなかったからである。
  ちなみに、その時のゲキド・オブ・タマの行動は、

 府内より珠姫丸で出港。
  翌日博多到着。鶴姫げんこつグリグリ。鶴姫を連れて博多出港。
  その翌日広島到着。毛利輝元とOHANASHI。
  次の日小早川隆景到着。毛利水軍借受。
  その三日後、毛利水軍府内到着。
  それからまた三日後、大友軍を乗せて美々津到着。

 という神速ぶりを発揮。
  もっとも、激怒した私が船が崩壊しないぎりぎりの所で、神力で風を吹かせまくっていたというのがあるのだが。

 

 回想シーン IN 博多

「あわわわわわ……ど、どうしたのじゃ!?
  そ、そんなに怖い顔をして?」

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。
  鶴りん。ちょっとお話しようか?」

 

 回想シーン IN 広島

「お、おおおおおおおおおお、叔母上!?
  ど、どどどどどどど……どうしてこちらに?」

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。
  TERU。ちょっとお話しようか?」


  三原から小早川隆景がすっ飛んで着た時に彼の目に映っていたのは、

「ガクガクブルブルゴメンナサイナノジャァァァァ……」
「ァハハハ……ホシガ……ピカットヒカッタンダ……」

 何でか空ろ目で、壊れたカセットテープのごとく謎の言葉を吐き続ける二人だったそうな。
  ちょっと、チートじじい毛利元就ゆずりの長文説教独演会(白雪先生+メガネ(友引高校ラムちゃん親衛隊隊長)アレンジ)を朝まで聞かせてあげた(鶴姫は博多でもやったので二回目)だけなのに。

 

 毛利元就ゆずりの長文説教独演会(白雪先生+メガネ(友引高校ラムちゃん親衛隊隊長)アレンジ)の一説

 私達末法の世に生きる煉獄の家である大友と毛利は、共に手を携えて生きねばならないのです。
  たとえ、互いの手が血に染められてその衣が汚されようとも、比翼の鳥となった我等は離れる事ができぬゆえ、痛みも共に味わうほかない。
  しかし、それゆえに愛は、互いの体を越えて魂に届く真理の言葉は必ず届いて、私達を更なる高みに導いてくれるのです!!
  ああ、天下よご照覧あれ!!
  西海に咲いたこのささやかな果実、大友と毛利が築いた平和という儚い幻想は、こうして私達の心に魂に末法というこの戦国の世に対する反逆として燦然と輝き続けるのです!!!
  にもかかわらず、あなたたちが起こした行いは大事に至らなかったとはいえ、罪の果実を口にするに等しい愚かで無垢な行為!
  私はこの西海の幻想の守護者として貴方達の行為を咎めるつもりはありません。
  それは、その幻想が分からぬ事を理解していなかった私の罪でもあるのです!!!
  悲しまないで鶴姫。
  恐れないで輝元。
  人は間違いを犯す者。
  生きる事、それだけで修羅となるこの戦国において、聖者は隠棲し愚者が哂うものなのです。
  大事なのは、その間違いを正す勇気を持つこと。
  そして、笑って明日を受け入れる事なのです。
  私も己の愚かな行為を消えることの無い心の傷として刻み、笑って貴方達と共に明日を飛びたいのです!!!

 

 うん。
  そろそろ限界。
  正直、私が空ろな目で笑いたかったぐらいダメージが。が。
  なまじ、姫様や殿様ってのを説教するのは色々と大事になるとはいえ、一応『何を言っているか良く分からないが、とにかく怒っているらしい』と周囲に認識させたのでよしとする。
  身振り手振りは某関西の歌劇団アレンジで緩急をつけて、会話の静動を印象付けで歌って踊るがごとくの説教に、周りの従者も悶絶中。
  というか、一番悶絶したいのは私だって言うのに……やっている最中は自己陶酔の中二病が悪化してノリノリだったのだが。   
  で、小早川隆景到着後の後始末時に後ろに控えていた連中が笑いを堪えていたのは、まぁ、見なかった事にする。 

「で、姫様はこの一件のあとしまつをどうつけるおつもりで?」

 探りを入れる小早川隆景だが、表面上は実に穏やかである。
  あれだけの醜態を見ても笑いも嘲りもせずに何事もないように本題に入るあたり、さすがチートじじいの血を引く毛利の柱石である。

「どうしようかしらね~
  とりあえず、『私が激怒して広島にすっ飛んだ』ってのが大事だから、粗方終わっているのよね~」

 以外にこれが馬鹿にならなかったりする。
  人間関係ってのは、『何処で怒るか?』ってのが大事で、その沸点が分からずに双方致命的な所に手を出して破局ってのは結構多い。
  だから、こうやって取り返しがまだきくあたりで、互いの基準点みたいなものを設定しておく必要があるのだ。

「……」(我に戻ったけど、何か言いたそうに口をぱくぱく開く鶴姫)
「……」(我に戻った私を見て、さっきまでのあれはなんだったのかと大混乱中で目をぱちぱちさせる輝元)

「二人とも、何か言いたい事があるの?」

「「いえ。何もありません」」

「よろしい」

 当分はこれで安泰だろう。
  とりあえず二人はそのまま無視して、私は小早川隆景に探りを入れてみる。

「こっちに戻ってきたって事は、宇喜多直家への根回し終わっている訳ね。
  で、彼いつ寝返るのよ?」

 あ、事情を知っているらしい毛利輝元が後ろでビクッってしやがった。
  カマかけ大成功である。
  こっちの視線が輝元を捕らえていたのに気づいた小早川隆景が一つため息をつく。
  かわいそうに。
  私が帰った後、もう一幕説教だろう。

「浦上支援で播磨に兵を入れた織田が、上月城を落とせずに兵を引いたのはご存知で?
  先ごろ、美作岩屋城が落城。
  戦の焦点が津山に移っており、ここも近く抜く事ができるかと。
  そうなれば、備前に侵入する事は容易。
  既に人質も預かっております」

 手が早いな。小早川隆景。
  そこまで決まっているなら浦上の崩壊は決定事項だろう。
  では、それを前提にお願いしてみましょうか。

「宇喜多が寝返るならば、そっちの水軍が浮くわね。
  今、日向でやっている戦で船が足りないから出してよ。
  お代はちゃんと払うから」

 何を鳩が豆鉄砲食らったような顔してやがる。
  元凶の鶴姫に輝元よ。
  あんたらがやらかしてくれたポカをフォローする為に決まっているでしょうが。これ。
  ただでさえ、南蛮船を戻したおかげで日向戦は船が足りなくて、後詰が送れない状況になっているというのに。

「それで、南蛮船をいくらご入用で?」

 さすが小早川隆景。話が速い。
  狙いが毛利の南蛮船である事を見抜いてやがる。

「そっちも始めたばかりでしょうから、言を翻すのは差し障りがあるでしょ。
  一隻はそのまま商人どもに貸して、残り二隻をこっちに回せないかしら?
  後は、伊予・安芸・周防・長門あたりの空いてる船はまとめて持って行きたいわね。
  どうせ、塩飽水軍には話通しているんでしょ?」

 じっと私を見つめる小早川隆景の顔にふっと笑みがこぼれる。
  大友と毛利の同盟継続に日向戦における毛利水軍派遣は、これ以上無い政治的メッセージである事に気づいたからだろう。
  しかも、毛利水軍徴用で毛利に金が入るという利もある。
  もちろん、大友にも利はあって、博多・門司―堺の南蛮船航路の船数は大友三隻に対して毛利一隻となり、ドル箱は大友が寡占状況を維持できる。
  そこまでこっちの狙いを見抜いての笑みである。

「姫様にはかないませぬな」

「次は無いと思いなさい。
  まぁ、頭がサシで話すならば、聞く耳は持つからそのつもりで」

 次に何かやらかしたらそっちが府内にきやがれと言下に言い含めて、私と小早川隆景は互いの手を握る。
  これで、南蛮船は六隻となり、更に他の船でなんとか当初計画どおりの兵給が確保できる。
  安堵のため息を吐いた私にその声が聞こえてきたのは、そう言う運命なのだろう。きっと。

「あ!
  もしかして、伯母上のお怒りの原因は、先に送った文にあったのでは?」

「そうなのか?珠姫よ?」

 TERU。
  てめぇ、そのまま正座で小早川隆景の説教オンステージ追加。

 


  というわけで冒頭に戻るわけだ。
  わざわざオンステージをする為だけに、恋まで杉乃井から呼んだかいがあったというもの。
  大盛況でコンサートは幕を下ろしたのだった。
  で、現在麟姉さんと佐田鎮綱率いる十重二十重の護衛に守られながら陣幕慰問中。
  御大将自らの慰問が士気をどれぐらい高めるか知っているだけに、この手の行為は疎かにはしない。
  ちなみに、現在の大友軍は先陣が高城に出向いて攻城戦の準備をしており、第二陣がその高城に向けて出発する予定だったりする。
  ちょっと誤算だったのは、木崎原戦の功労者である雑賀衆が帰国を願い出ている事で、本国からの指示らしく契約延長ができなかった事である。
  まぁ、本陣が出張った事で、雑賀衆が抜けた分の火力は補えるので返す事にしたのだが。
  ちなみに、肥後国大畑の大敗の報告はこのあたりで届いており、即座に日向向けの後詰を肥後に送り、代わりに証文を破棄する事を餌に竜造寺家(というか鍋島信生)を召喚。
  こうやって本陣が到着した事で四郎もこっちに戻せる(後任は斉藤鎮実)し、四郎が戻ったら私・恋・鶴姫の三人で色々と慰労をば。
  四郎は飫肥の後詰という任務をしっかりとやりきり、更に伊東家従属に関するこちらの条件である『伊東帰雲斎の追放』と『伊東義祐の出家、隠居』をしっかり飲ませての帰還である。
  実に渋くいい仕事をする男になってうれしい限り。
  なお、伊東義祐と伊東帰雲斎の二人は共に出家して京にいる親戚にあたる一条家のお世話になる事に。
  もちろん、こちら側も彼ら二人に扶持を与えて生活が困らない程度の支援をするつもりだが。
  伊東家は飫肥城主だった伊東祐兵がそのまま継ぐことになり、現在の飫肥とその周辺五万石を安堵。
  とはいえ、日向三十万石の内二十万石近くを支配していた伊東家にとって1/4の大幅減である。
  木崎原からここまで落ちたかと嘆くべきか、そこまでして家を残せた事を喜ぶべきか、伊東家の心中は私には分かる訳が無い。
  これで、財府城が抜ける。
  とりあえず、あのあたりで島津と死闘をしなくてすむだけにほっとする。
  だが、気になる事が一つ。
  財府城が抜けるという事は、そのまま佐土原城まで押さえられるという事で。
  現在、穂北城まで迫っていた島津軍の行方が分かっていない。
  あいつら、何処で我々と戦うつもりなんだろう?

「姫様。こちらにおられましたか!」

 声の方を向くと、武者姿の戸次鑑連が同じく武者姿の由布惟信と小野鎮幸を連れてこちらに向かってくる。
  たしか、高城攻略に向かう準備で三人とも忙しいはずなんだが、何かあったか?

「何かあったの?」

 私の問いかけに、複雑そうな顔をした由布惟信と小野鎮幸を無視して真顔で戸次鑑連がその何かを告げた。

「松山砦の佐伯惟教より文が。
  南から次々と村を追われた民がやって保護を求めていると。
  聞けば、南は島津が乱捕りを重ねて食うに食えぬ状況。
  そして、島津自身が『大友側に行けば食える』と吹聴して回っているとか」

 その報告に足元がふらつき、そばに居た麟姉さんにもたれかかる。
  島津の奴等、焦土戦術をしかけてきやがった。


 


戻る 目次