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大友の姫巫女

南海死闘編

第十七話 日向侵攻 島津四兄弟の思惑 

「忠平。もう一度木崎原ができると思うか?」

「無理ですな。
  あの場には大友の援軍がいた。
  その援軍に我等は手も足も出なかった以上、次に木崎原で躯を晒すのは我等島津でしょう」

「ならば、頭を下げるか?
  今ならば、竜造寺よりはましな座を用意してくれるだろうよ」

「何だ。何だ!
  兄上達や家久までしょんぼりとして、戦はこれからですぞ!」

「ご苦労だった。歳久。
  大隅の方はどうだ?」

「おとなしくはするでしょうが、兵として使うのは難がありますな。
  ですが、こたびの戦は今までと比べて格段に楽でござるな。
  何しろ、ただ一人を相手にすれば良いのですから」

「歳久。
  何を考えている?」

「説明してくれるのだろうな。歳久」

「たいした事ではござらぬ。
  大友珠姫一人討ち取ればこの戦は終わると考えたまでの事」

「歳久兄上。
  かの姫は大友の大兵に守られて、とても手が出せぬではありませぬか」

「だから、その大兵から珠姫を引き剥がしてしまえば、珠姫は間者一人で討ち取れると言っておるのだ」

「「「!!!」」」

「歳久。
  どうやって、かの姫を守る兵を引き剥がす。
  かの姫の兵は十二単より分厚いぞ」

「守っていては、大兵に押し切られます。
  ゆえに、こちらから攻める事が必要」

「日向でか?」

「肥後でもですよ。
  忠平兄上。
  相良は鳥神尾と木崎原の失態で大友に弁明せねばならぬ立場にある。
  誘って叩くには格好の相手」

「では、肥後を主戦線にするのか?」

「いえ。殿。
  叩くのは退く為。
  水俣・大口につけている兵を下げる為に、相良を叩くのです。
  これで二千程度の兵が確保でき、大友は肥後に後詰を送る為に、かの姫の薄絹数枚程度を剥ぎ取る事ができましょう」

「かの姫は日頃裸を周知に晒しているのに、いざ脱がすとなると大変だな」

「それは世の女全てにおいて言える事。
  忠平兄上。
  兄上は家久を連れてできるだけ日向の奥まで攻めてくだされ」

「遠くって……歳久兄上。
  もう少し具体的に言ってくださると助かるのですが……」

「……そうだな。
  大友が大兵ゆえに、足を止めるとそのまま居座ってしまうあたりまでかな」

「よけいわかりませぬ。歳久兄上」

「できるだけ長く大友の大軍を日向の地に留めさせるのだ。
  大兵ゆえ、一度止まれば士気は緩み、警戒はいやでも薄くなる。
  で、忠平兄上と家久は攻め取った地で乱捕りをして、できるだけ多くの民を大友側に追い立ててくだされ」

「民を追い立てるの……何故止める!忠平!!」

「殿。
  今のままでは、大友に負けるは必定。
  にもかかわらず、歳久は策があると言うのです。
  それが外道であれ、お家の為ならば最後まで聞くのが主君のつとめでござろう」

「……悪かった。忠平。歳久。
  続けてくれ」

「追い立てられた民に間者を紛れ込ませて、珠姫の命を狙わせます。
  そして、それを失敗させるのです。
  わが方の別の間者によって」

「見えてきましたぞ。歳久兄上。
  策の最初に間者を忍び込ませ、その間者に功績を立てさせて珠姫の信を得る策ですな。
  たしか、忠平兄上は木崎原の前に一人女間者を杉乃井に放っていたはず。
  それを使うのですな」

「そのとおりだ。家久。
  日向で派手に動き耳目を集めている間に、肥後の相良を叩いて目を逸らさせる。
  その後、兵を日向に集め、乱捕りで民を追いたてて大友に、かの姫にその全てを応対させる。
  間者に狙わせてそれを防がせれば、島津の策は尽きたと考えよう。
  そこを狙う」

「そううまくいくものか。歳久」

「ですな。
  とはいえ、ここまでは姫は乗ってくるでしょう。
  退く事で日向南部に空白ができ、民が逃れるほど乱捕りし尽くされた以上、日向を征服しに来た珠姫はその後の回復という民の掌握の機会を逃すまい。
  それゆえ、間者の潜入とその失敗までは確実に乗ってきます。
  ここから、姫を迷わせまする」

「迷わせるだと?」

「いかにも。殿。
  かの姫が佐土原に入ったという事は、真幸院以外全て大友に取られた状態になると考えてくだされ。
  そうなった時、かの姫には二つの道がある。
  真幸院を攻めて戦を終わらせるか、大隅に入って島津を滅ぼすまで戦を続けるかです。
  そして、かの姫は島津を滅ぼす戦は考えていない」

「歳久兄上。
  何故そういい切れるのです?」

「かの姫の此度の戦の目的が日向だからだ。
  日向のみ、しかも落ち目の伊東家だからこそ博多の商人どもは銭を出している。
  これが、島津征服に変わるならば、銭を出し渋る所がでるだろうよ」

「その理由を聞かせてもらっていいか?歳久」

「簡単な事です。忠平兄上。
  あなたが、木崎原で信じられない勝利を収めたからに他なりませぬ。
  あれで、博多の商家のかなりが没落したと聞く。
  それだけの事を忠平兄上はやってしまっている。
  たとえ、かの姫が大兵といえどもそれがかの姫を縛りまする。
  あの姫は『姫の皮をかぶった商人』であるゆえ、丁半博打に全財産を賭けるようなことは絶対にしない。
  たとえ、その目に細工がして姫の言い目が出るにしても。


  これが、それがしがかの姫だけを相手にすればいいと言い切る最大の理由です」


「……」

「……」

「……」


「かの姫については分かった。歳久。
  では、実際の大兵にはどう立ち向かう?
  間違いなく、大将に戸次鑑連が名を連ねているぞ。
  あれにどうあたるつもりだ?」

「それは忠平兄上や家久が考えてくださいよ。
  戦場では何が起こるかわからぬゆえ。
  まぁ、この様に戦が進むならば楽なのですがね。
  万が一、いや、億が一もないですな」

「ふん。
  那由他の果てでもいい。あるのならば十分だ」

「なるほど。
  我等に分からぬ理ならば、我等に分かる理まで持ってくれば良いか。
  さすが兄上」

「いいだろう。
  その可能性に賭けようではないか。
  その時のかの姫の顔が楽しみだ。
  歳久。
  ついでに尋ねるが、お前の策が破れ、兵にて決戦を挑む事になった場合、何処で槍を合わせればいい?」

 

「ここまで聞いておきながら、それがしにそれを言わせますか?
  霧島があるおかげで大隅に兵を進めても、薩摩に入る前にかの姫の兵を捕らえられます。
  そして、戦を終わらせるのを考えるならば、集った島津の手勢を絶対に姫は放置できませぬ。
  さらに、日向南部の乱捕りで大兵を率いる大友は否応なく飢え、一揆の心配をせねばならぬでしょうから兵を分けざるを得ない。
  だから、大友の最精鋭、おそらく戸次鑑連が大将の手勢が来る事になるゆえ、地の利は絶対に必須。
  ならば、ここしかございませぬ。

 

 日向国 真幸院 木崎原

 

 もう一度、がんばってくだされ。忠平兄上」






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