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大友の姫巫女

南海死闘編

第十話 日向侵攻 府内城ブリーフィング

 珠です。
  現在、府内城大広間にて参加武将を集めてのブリーフィング中です。
  南予戦以来の出陣、しかも次期大友家後継者の出陣という事もあって、父上の無言の全権委任を背に好き勝手しています。

「まず、この場で今回の戦の目的および、戦における各隊の行動を説明するわ。
  分からない所があったら、必ず質問する事。
  いいわね?」

 ででんと中央に置かれた日向の地図に、参加各将の手元にはレジュメを配布。
  なお、ちょいと動きにくいので、いつもの服ではなくこのために新しい服を用意したり。
  まぁ鎧をつけていない腹ペコ騎士王の私服なのだが。
  なお、某ロリコンニュータイプに惚れていたクシャナ様の声と同じ人が演じたお方の衣装と最後まで迷っていたのは内緒。

「今回の目的は日向制圧。
  伊東家を完全に滅ぼして、大友家の領地にする事。
  成功したら、大幅加増を約束するから各自奮闘するように」

「はっ」

 私の第一声に集まった数十人の男達が皆頭を下げた。
  まずは報奨を約束して、参加者のやる気をUPと。

「本陣は美々津に置きます。
  佐土原を落したらそこに本陣を移すので気をつけるように。
  兵糧は美々津から荷駄を使って運ぶので、各自美々津への道は必ず押さえるように」

 そこで、手をあげる者がいたので私は発言を許す。

「どうぞ。志賀親守」

「兵糧が届かぬ場合は乱捕りをして構わぬのでしょうか?」

 いつもは内政の仕事ばかりさせているけど、今回は自領が日向に近い事から遠征軍に参加している志賀親守が確認する。
  その問いかけに私は当然のように答えた。

「それは現場に任せるわ。
  ただし、乱捕りした場合、そこを領地として与えるからそのつもりで」

 実にしらじらしく私が言ってのけたので、場の空気が和む。
  その弛緩した空気を使って私がたたみかける。

「乱捕りをすればするほと、負けた時の落ち武者狩りが激しくなるし、勝ったとしても一揆に悩まされるわよ。
  それは戦をする上で避けたいのよ。
  たとえ、荷駄の道が途切れても本陣から後詰を出して道を作ります。
  乱捕りは極力さけて頂戴」

「かしこまりました」

 私の約束に志賀親守が皆を代表する形で答える。
  ここまで釘をさしておけば乱捕りは大幅に減るはすである。

「次に、伊東家の戦力分析に行くわね。
  現在の伊東家は四十八の城を持ち、根こそぎ動員したらまだ一万ほどの兵を動員できるわ。
  けど、鳥神尾と木崎原で歴戦の将兵を根こそぎ失って後詰が出せない状態。
  ちなみに、この兵数を四十八で割ると一つの城あたり二百人ちょっと。
  これを前提に手勢を分けます」

 私は、つかつかと地図まで歩いて小さな大友の旗を美々津に刺した。
  そして、美々津と延岡に凸の木型を置く。

「既に一条派遣軍の名目で美々津に三千、佐伯惟教が率いる延岡鎮台千五百が先に展開しているわ。
  延岡鎮台は一条派遣軍を吸収後、先陣として美々津周辺の制圧を命じています。
  彼らの仕事は美々津以北の安全確保と美々津の保持です」

 続けて私は地図の北に当たる場所に凸をいくつか置く。
  位置関係から、これが豊後の二陣以降という事が分かるだろう。 

「第二陣は志賀親守率いる大野鎮台三千と戸次鑑連率いる臼杵鎮台三千の二つ。
  大野鎮台は陸路で、臼杵鎮台は海路で美々津に来てもらうわ。
  この時点で陣代の戸次鑑連が美々津に入るから、軍事的な事は以後彼に任せます。
  それと、今回きてもらう久留米鎮台は戸次鑑連の所につけるからそのつもりで」

 私の声に一同戸次鑑連の方を見るが、戸次鑑連は別に動こうともしなかった。
  今回の戦は実は私が総大将のくせに、私が戦場で指揮をする事はほとんど無い様になっている。
  私の仕事は、戦略レベルでの修正と兵給の確保、地元豪族の謁見という本当に楽な仕事なのだ。
  それもこれも、この戸次鑑連がいるおかげである。
  久留米鎮台の小野和泉を呼んで、久留米の防衛は今回日田鎮台の田北鑑重が出る事に。
  現役の加判衆の出馬は、対龍造寺に『何かやったら分かっているわよね?(にこっ)』という恫喝でもあり、小野和泉の参加は武官の次世代エースである彼の功績稼ぎという側面もあったりする。
  『人事は政治なり』とはよく言ったものである。

「そして、私の本陣である旗本鎮台とその他五千は海路で美々津に。
  後詰めとして、吉弘鑑理率いる日出鎮台三千は陸路で来てもらう事になるわ」

 私は話しながら全ての凸を美々津の所に持ってくる。
  今回の戦は二万近くを動員する大規模な戦なので、兵糧を運ぶ船舶の確保がかなり大事になる。
  流石の大友家でも全軍海路で運べるわけも無く。
  部隊の多くは陸路で日向に入る事になっていた。

「荷駄については私が管理します。
  実務は田原親賢が裁くので彼に通すように」

 田原親賢の名前を出した途端に数名がとても嫌な顔を。
  お前等、そんなにこいつが嫌いか?
  なお、父上だけでなく私も彼を重用しているから一部の国衆にえらく嫌われていたり。
  で、そんな彼らに「だったら仕事をやってみろ」と書類を渡したら黙りやがった。
  田原親賢の処理能力はかなり高いのだ。
  人望も同じぐらいあれば言う事無いんだけどねぇ。

「美々津集結後の最初の目標は都於郡城と佐土原城。
  この二つの城を落した後で軍を三つに分けます」

 凸の一つをそのまま南へ下げる。

「第一陣の延岡鎮台はそのまま南下して飫肥城を押さえるように」

 更に凸をもう一つ南に下げる。

「第ニ陣のうち大野鎮台は大隅国境を目標に。
  必要ならば後詰もこちらに振り分けます。
  なお、大隅には入らない事。
  今回の戦、そこまでの兵糧は用意していないわ」

 残念ながら木崎原合戦の後、肝付家は大隅国財部城(龍虎城)郊外にて大敗して島津家に既に降伏していたりする。
  財部城は肝付家の所有なのだが、ここを抜かれると都城平野側から侵入されるので島津と伊東・肝付が度々争っていた場所だった。
  今回の木崎原合戦前の状況で、伊東家が戦力を木崎原に集中する為に、肝付家は財部城に肝付兼純を大将とした兵千を送り出して島津軍を阻んでいたのだった。
  が、木崎原合戦で伊東軍が壊滅したという報告が届くと足軽達は我先にと逃げ出す始末。
  それを大隈方面の島津軍が黙ってみている訳が無かった。
  ちなみに、大隈方面の島津軍の大将の名前って島津歳久って言うらしいよ。
  手勢でそのまま財部城攻撃を開始し、動揺収まらない財部城は陥落。
  肝付兼純は討死、肝付軍が送り出した兵は逃げたか討ち取られたか知らないけど殆ど帰らなかったって言うんだから、これだからチートって奴は……
  で、ここで肝付家中の島津派が巻き返しに出る。
  その中心人物が肝付兼続の妻だった阿南夫人で、この人島津忠良の娘だったりする。
  で、島津家と肝付家が開戦状況になっても肝付家に残った剛の者で、やっぱりこの人もチート一族で、肝付家当主の肝付兼亮(義息にあたる)を敗北の衝撃から立ち直っていない家中を纏め上げて追放したのだ。
  これによって、大隅の国衆も軒並み島津の傘下となり、島津は大隅と何よりも貴重な肝付戦に振り分けていた兵力を予備兵力化させる事に成功したのだった。
  なお、いくら肝付が島津に降伏したとしても、この戦に限り大友は肝付を独立大名扱いする予定だったりする。
  これは、戦線拡大で日向以南に戦場が広がらない為の欺瞞なんだけどね。
  実際はもう対島津戦は避けられない状況だし。

「で、残りはここ真幸院に向かいます」

 その一言に場のざわめきが一瞬止まった。
  真幸院、木崎原合戦の衝撃はこっちにもしっかりと伝わっているからだ。
  そして一人の武将が手を上げた。

「姫様に確認したいのだが、真幸院に陣取る島津勢に対してどういう理由で戦に及ぶおつもりか?」

 その質問を口にしたのは久しぶりの登場であるハヤテちんこと佐田鎮綱。
  彼もすっかりダンディな良い執事になり、子持ちのパパさんである。
  今回の遠征には私の旗本として宇佐衆を率いる事になっている。
  私が本気であると見せるためには、この手の最古参最精鋭の出陣が一番手っ取り早い。
  これも、豊後国人衆がようやく黙ったからなのだが。
  同じ理由で、香春鎮台の高橋鎮理と手勢も引っぱって旗本に組み込む予定。

「そうねぇ。
  『伊東家への戦で伊東領を全て制圧する』というあたりでいいんじゃない。
  真幸院も領有を主張していたんだし」

 あえてこのあたりを乱暴にしているのも理由がある。
  今はまだ薩摩・大隅進攻――対島津戦――への本格介入をしたくないのだ。
  肝付が島津に降伏した事で戦線が拡大する可能性があるし、何よりも腹立たしいのが肝付戦に貼り付けていた兵力が予備として真幸院に投入できる状況になってしまったのである。
  その兵の数は千はあるだろう。
  え?
  その千に脅えるのかって?
  うん。
  多分、その千って某吸血麻雀で悪魔から血を抜くのと同じぐらい無理ゲーって分かるし。
  今の島津に木崎原で待ち受ける兵は三千は越えない。
  けど、その三千を指揮している連中が、島津義弘・島津歳久・島津家久の可能性が限りなく高い。
  何?このジェットストリームアタック?
  そんな内心をひた隠しにして淡々と私は説明を続ける。

「どっちにしろ、伊東家を滅ぼして日向を制圧する以上、日向国人衆を掌握する為にも真幸院には足を踏み入れないといけないわ。
  でないと、こっちが日向国人衆に舐められる」

 何しろ漁夫の利で弱った伊東家を叩くという中々素敵に外道な進攻計画なので、日向国人衆の支持率はそんなに高くなるわけが無い。
  で、彼らの支持率をUPさせるためには安全保障、つまり『島津から守ってあげます』というアピールが一番効果的なのだ。
  その為には我々が真幸院に進攻するのが一番手っ取り早い。

 たったニ万の兵で島津相手にガチバトル。
  そんな罰ゲームなんかしたくない。
  え?
  四郎がテルシオで島津破ったじゃないかって?
  島津なら対テルシオ戦術を考えて適応するでしょ。
  一番やりかねないのが、山岳地帯での小規模ゲリラ戦とか。
  テルシオは陣形が作れる平地がないとそもそも陣が組めない欠点があるしね。

「真幸院をこっちにくれたら大隅については関与しない」

 という外交アピールをする為だけに、実は今回のブリーフィングをやっていたりする。
  これだけ大々的にやれば必ず漏れるだろうし。この情報。
  まぁ、虫のいい話だろうと思うが、こちらに交渉の余地ありのサインは島津側に出しておかないと、追い詰められて死兵と化した島津軍なんてものと戦いかねない。

「各陣の編成はこのとおりに、大規模に動くから伝令は必ず確保する事」

 各人が再度レジュメに目を通す。
  そこには、文字通り大友にとっての乾坤一撃の決戦戦力が書かれていた。

 

大友家 日向侵攻軍

 総大将 大友珠

 先陣  佐伯惟教
            一条派遣軍  立花元鎮(配属武将省略) 三千
            延岡鎮台   佐伯惟教             五百
                      土持親成             五百
                      三田井親武           五百

 第二陣 戸次鑑連
            臼杵鎮台   戸次鑑連             三千
                      由布惟信
                      柴田礼能
            久留米鎮台  小野鎮幸             千   
            大野鎮台   志賀親守             三千
                      朽網鑑康
                      入田義実

 本陣  大友珠
            姫巫女衆    吉岡麟               五百
            宇佐衆      佐田鎮綱             千 
            香春鎮台   高橋鎮理             五百
            旗本鎮台   斉藤鎮実             三千
                      田原親賢
                      角隈石宗

 後詰  吉弘鑑理
            日出鎮台   吉弘鑑理             三千
                      木付鎮直
                      奈多鎮基

 合計                                一万九千五百

  

 何よりすてきなのが、この二万近い兵の殆どが常備兵およびそれに類する兵力という点。
  長い時間をかけて、やっとの思いで整備した職業軍人による常備軍なのだ。 
  つまり、一年中戦闘可能。
  ただ、この大友家を持ってしても二万までしかこの軍を動かす事ができなかった。
  理由は簡単。
  金がとてつもなくかかるからだ。
  略奪しないという事は、兵給がしっかりしないと兵の士気が落ちる事を意味する。
  火力重視という事は、弾薬を常に供給しないと戦力にならないという事である。
  そして決定的に大事なのは、これ以上の兵を動かすならば、幕僚団が絶対に必要になる。
  大友家の、大友珠の限界の手札なのだ。

 私の内心など笑顔の仮面で隠し、諸将を見渡してうんうんと頷く。
  少なくともここまでの話で分かっていない人間は居ないみたいだ。
  だから、私はぱんぱんと軽く手を叩き、両手を腰において一同をゆっくりと見渡しながら、開戦の言葉を朗らかに告げたのだった。


「さあ、戦争を始めましょう」


 

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