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大友の姫巫女

南海死闘編

第九話 木崎原合戦 あとしまつ

 後に『珠姫の三千人抜き』と艶話で有名になる美々津での乱交話は、大友文書や佐田文庫に残された書簡によって創作である事が判明している。
  と、同時にこの乱交話を作り、広めたのも珠姫自身であった事も判ってしまい、史家達に混乱と波紋を広げる事になるがそれは当の珠姫は知る訳が無い。
  現在まで伝えられている珠姫色狂い伝説のほとんどが、珠姫自身の流布であり、その理由が彼女自身が大友家当主という大名の地位をショートリリーフに限定しようとしていたという事が考えられるだろう。
  父である大友義鎮の大友二階崩れや、幼少時に体験したであろう小原鑑元の乱の回避に、珠姫が全力をあげて阻止して円満な家督譲渡を企んで彼女自身を貶める必要があったというのが、現在一番説得力がある理由の一つである。
  事実、この珠姫色狂い伝説は図に当たり、現在でも彼女の名前は稀代の色狂いの代名詞となっている。
  だからこそ、多くの人は珠姫の闇の部分に目を向けない。
  そして、珠姫の生涯の中で『最高傑作の謀略の一つ』と史家が口を揃えて言う、木崎原合戦の後始末から彼女の色狂い伝説が始まっているのは何かの偶然なのだろうか?

 
  珠姫の三千人抜き

 木崎原合戦の惨敗後、美々津まで逃げ戻った大友軍に対して、出迎えた珠姫が、
「今回の敗戦は私の責任であり、その責めを負わねばならぬ」
  と、言って己の体を兵士達に差し出した大乱交の事。
  その時逃げ戻った大友軍三千の将兵全てに珠姫は抱かれたとされ、その情事の痕で珠姫自身が白くなるほどだったという。
  以後、このように乱交して白くなる女の事を『珠姫衣装』と呼ぶようになった。
  実際にそのように抱かれたのかと言われると疑問符がつくのだが、美々津で珠姫自身が穢れを払うために祈祷の舞(ストリップ)を踊ったのは美々津史にも残っており、何だかの慰安行為は行っていた可能性は高い。
  なお、似た記述に『水鏡』の藤原仲麻呂(恵美押勝)の娘である東子姫の『千人に陵辱された後に斬首』という記述があるが、本当かどうかの信憑性は不明である。

――民明書房刊「日本史闇の真相」より抜粋――

 


  杉乃井御殿の奥で、珠姫は鍋をつついていた。
  もうすぐ初夏というのに何故鍋と思うのだが、汗をかきながら実においしそうに鍋を食べる珠姫に島井宗室も神屋紹策も口を出さない。いや、出せない。
  はふはふと珠姫が食べる鍋の火元に二人の視線が向けられていたからだった。
  彼ら二人が大損を出した伊東家向け証文がぱちぱちと音を立てながら燃えているのだから。

「あなた達も食べないの?」

「いえ。
  我らは別に」

「ふーん。そっか」

 島井宗室の言葉を気にする事無く、また食べ始める珠姫。
  何気に一枚証文を手にとって、それを火鉢の中に入れる。
  ぱっと明るくなった証文は、そこに書かれている数千貫の価値と共に炎と消えてゆく。
  二人ははっきりと悟っている。
  少なくとも、彼ら二人が何のために来たのかを珠姫は間違いなくわかっていると。
  木崎原合戦によって発生した大金融恐慌に対する対処を、商人を代表してお願いにあがった事を。

「で、いくらほどいる訳?
  銭が?」

 豆腐をはふはふとほうばりながら話の核心に入る珠姫だが、まったくもって威厳が無い。
  とはいえ、その話をしに来たのだからと神屋紹策はその金額を口にした。

「それすら判らぬのが実情で。
  姫様の財全てを出しても足りるかどうか……」

 物流の拡大による証文市場と手形取引が西日本で広がり、南蛮遠征によって倭寇や南蛮人の取引でも証文が使われたこの時期、西日本は証文バブルに踊っていたのである。
  何よりも大きかったのは、永禄の大飢饉といわれる飢饉で大友家が大陸からの米の買い付けまでした事で、アジアの大国である明帝国の銀決済にリンクしてしまった事が事態を悪化させた。
  日本から台湾・大陸・マカオにまたがる巨大流通システムに大陸から莫大な銀が流れ込み、それが更に付加価値をつけて証文相場を暴騰させる。
  そんなバブル真っ只中に起こった木崎原合戦大敗の報告に市場は急激に反応した。
  伊東軍の壊滅が日向伊東家の債務不履行と見なされて、伊東家証文が大暴落。
  その損失穴埋めに基軸通貨となっていた大友家証文も暴落し、それが引き金となって全ての証文が大暴落するという大金融恐慌が発生していたのである。
  この時にバブルの泡と消えた証文の価格価値は数百万石分に相当すると今では言われ、この金融恐慌が南蛮商人および中華系倭寇の没落と後の明帝国崩壊の遠因になる。

「まぁ、なんとかしましょうか。
  麟姉さん。彼を呼んできてくれない?」

 珠姫の一声で、麟姉さんこと豊後太夫が誰かを連れてくる為に部屋から下がる。
  それを見送った後に、珠姫が葱を箸でつつきながら口を開く。

「ところでさ。
  こんな話を知ってる?
  ある男が、ある証文を借りまくったそうよ。
  『数日後に返すから』と言って、その数日借りる為に手間賃まで払って。
  で、かき集めた証文をその男は全て叩き売った。
  市場に一気に溢れた証文で、その証文の価値は暴落。
  数日後に価値が地に落ちた証文を男は買いなおして、借りた相手に全部返したそうよ。
  男の手元には手間賃を差し引いても残った甚大な銭の山ができたとか」

 珠姫が何を言っているのかよく分かっていなかった二人だが、話が進む内にその話を理解して顔が見る見る真っ青になる。
  つまり、それを珠姫が行ったと言っているのだった。
  それならば、この金融大恐慌の理由がわかる。
  木崎原での大敗は別にして、その後に起こった全証文・手形の大暴落はそれを大量に保有していたか、かき集めるだけの銭を持っていないとできない。
  そして、そんな事ができる人間とそんな事を考え付く人間は、全世界においても珠姫しかいない。

「と……という事は姫様、あんた……」

 島井宗室が唖然とした顔で呟く。
  大商人たる彼だからこそ、わかってしまったのだった。
  引き金を引いたのが珠姫ならば、その引き金を知っていないといけない。
  つまり……

「やっぱり、私は商人にはなれないないわね。
  四郎を殺せなかったし」

 決定的な一言を言って珠姫は自虐の笑みを浮かべた。
  彼女がやったことは、所詮禿と呼ばれる人々の、特に某国政府から告発された何か竜の名前のつく国民的RPGのモンスターに出てきそうな名前の会社の二番煎じでしかない。
  ただし、珠姫は某金色石人形と違って、プレイヤーではなく、ゲームマスターであり、ゲームデザイナーであった。
  はっきりと言おう。
  彼女がやった禁断の一手。それは、


  中央銀行自らが行ったインサイダー取引


  なのだった。
  何より、珠姫は最初から最後までこの木崎原合戦が島津の勝利に終わる事をまったく疑っていなかった。
  だから、彼女は木崎原前に保有する伊東家の証文を放出し、他の証文をかき集めさせ、四郎を止められずに日向に送ると同時にその情報までも市場に流したのである。

「兵力二十倍で、ましてや珠姫の愛人の出馬。
  これで負ける方がおかしい」

 案の定、彼女が放出した伊東家証文は高値で売れ、それを原資に他の証文もかき集めさせる。
  他の商人に珠姫が関与している事を伏せる為に家臣を使っての隠密行動は、バブルに踊っていた他の商人に気づかれる事無く進む。
  そして、木崎原合戦敗北の一報が入ると同時に、大友家証文を含めた全ての証文を叩き売ったのだ。
  かくして、大金融恐慌によって泡と消えた数百万石は全て珠姫の手元に納まった。
  なお、四郎を含めた一条派遣軍まで壊滅していた場合、その桁は一つ跳ね上がっていただろう。

「姫様」

 豊後太夫が二人の男を連れて部屋に戻ってくる。
  その内一人はまだ元服もしていない子供だった。

「紹介するわ。
  今回の立役者である、佐伯改め大神惟教とその息子甚四郎君よ」

 元々佐伯と名乗っている事からわかる様に、彼らは佐伯家の人間である。
  が、地場国人衆大神系の頂点である佐伯家を大友家が放置するわけも無く。
  大友義鑑時代に大神惟治を謀反の罪で粛清、父上の時にも小原鑑元の乱に連座して現当主である佐伯惟教が伊予に亡命していたりする。
  ちなみに、その佐伯惟教の大友帰参を手助けしたのが、南予侵攻を行った珠姫だから彼女と佐伯氏の縁は以外に深かったりする。
  で、そんな佐伯氏傍流の大神惟教だが、豊前国中津に居を構えてひっそりと生活していたのだが、ここが珠姫の本城となる中津城建築と山国川治水事業にて功績をあげ、彼女の目に留まる。
  また、その息子である甚四郎が文字通りの神童で、しかも胆力がある出来物なので珠姫が杉乃井に連れてきて英才養育を施したのである。
  事、算術においては大谷吉房も舌を巻くぐらいで、大谷紀之介と良く学問を争う姿が目撃されていたりする。
  これが、珠姫の隠し玉だった。
  この仕手戦はどうしても隠密にやる必要があると同時にかなりの人手を必要とする。
  幸いにも珠姫の手元にはその手の隠密行動を得意とする姫巫女衆がいるのだが、その彼女等に指示を出す頭が珠ではすぐばれてしまう。
  珠姫の代わりに仕手戦の指示を出したのがこの二人だった。
  珠姫の指示を大神惟教がきっちりやり通し、その伝達は子供である甚四郎が引き受ける事で糸そのものを露見させない。
  だが、実際には大神惟教名義で甚四郎が全てを操作したのだった。
  もちろん、功績は親である大神惟教に行き、褒賞として大神姓改姓と中津奉行就任が内定していたりするのだが、それはここではどうでもいい話。

 ついでに、木崎原合戦大敗の報告から四郎生存が伝えられるまで、彼女が部屋から出てこなかったのも本当にどうでもいい話。

「で、姫様は何をするつもりですかな?」

 種明かしをしてもらった珠姫に神屋紹策が恐る恐る尋ねる。
  巨万の富を得たとはいえ、その信用回復と再構築にはそれ以上の富と時間がかかるはすである。
  それをしても何かを得る事が珠姫にはあったと二人は確信していた。
  だが、その何を得たのかまでわからないから尋ねたのだった。

「惟教。
  例のものを」

「こちらに」

 甚四郎の手から二人に渡されたのは一枚の証文だった。
  発行者は大友家ではなく、珠姫自身になっている。
  その内容は、無担保・無制限で博多・門司・府内の座において必ず珠姫の名前において支払われると但し書きがついているのがポイントだった。
  信用不安の最大の問題は、信用によって成り立っているからいったんそれが崩壊すると、損がどこまで膨らむかわからないという所にある。
  この証文は、明確に損が確定できるというメリットが存在し、珠姫自身が最後の貸し手となる事を宣言していたのだった。
  そして、金銀米遊女などの換金物との信用補完があるこの戦国経済で、損切りができた店から信用が回復して他者より多く儲ける事ができると二人は気づいたのである。
  日銀特融ならぬ珠姫特融は、徳政令を想定して真っ青になっていた商人連中に歓喜と共に迎え入れられるだろう。
  同時に、商人ならば日本はおろか東アジア一円で珠姫に逆らう事ができないという事も意味していた。

「なぁに、ちょっとしたお願いを聞いてもらえたらなと思って」

 天真爛漫な珠姫の笑みだが、世が世なら絶対こういわれるに違いない。
  悪魔の囁きと。

「これから島津に荷卸する時は市より一割高く卸してほしいだけよ」

 つまり、島津から物を買う場合、一割安く買え。
  物を売る場合、一割高くして売れと言っているのだった。
  これは、龍造寺に対して行った経済封鎖の拡大版である。
  龍造寺は所詮肥前の一部を領有していた国人でしかないのに対して、島津は薩摩一国を有し、立地上海上交易に有利な場所にあるから経済封鎖が中々機能しないのが難点だった。
  だが、この珠姫特融が行われた後で、珠姫の命に背いてまで島津に荷を卸す馬鹿は誰もいなくなるだろう。
  それだけの目的でこの大金融恐慌を引き起こして、商人連中を逆らえないようにした事に否応無く二人は気づかされるのだった。

「ですが、この証文には一つ問題が……」

 島井宗室が言いにくそうに口ごもる。
  木崎原合戦の大敗は、珠姫自身の信用にも傷をつけていた。
  このままでは、この証文そのものが信用されない可能性を島井宗室は指摘したのである。

「わかっているわ。
  だから、この証文は……」

 そして、珠姫は紙くずでしかない伊東家証文を火鉢にくべながら全貌を語ったのである。
 
 

 

 

 大友家評定は、木崎原合戦大敗後より病と称して休んでいた珠姫が、久方ぶりに顔を出すという話で持ちきりになっていた。

「姫様が久方ぶりに評定に出るそうな」
「という事は、日向での釈明を御館様にするのだろうな」
「いくら我等の兵を動かさなかったとはいえ、伊東家の負けは甚大。
  『真幸大崩』と呼ばれる始末はつけてもらわねばならぬ」
「できれば、この責を取って次期当主を辞退して頂くのが一番なのだが」

 評定衆の付き人達の囁きは総じて珠姫に冷たく、相変わらず珠姫の豊後内での評価はあまり高くない。
  彼女の与党が佐田家を始めとした豊前衆というのが豊後国人衆を刺激しているのだった。
  何しろ豊前は大内や毛利との戦で寝返ったり日和見をした敵国という意識が豊後国人衆には強く、勢場ヶ原合戦での大友本陣壊滅は間道を教えた宇佐衆の大内軍協力が決定打になっていた事もあり、感情的しこりは簡単には払拭できない。
  リリーフとはいえ、政権が珠姫とその与党である豊前・筑前衆に渡る事に、豊後国人衆は上層部はともかく下層から中層部では大反対だったのだ。
  そして、彼らが担ぐ旗も存在していた。
  大友親貞である。
  寺社奉行として頭角を現していた彼に期待する声も多く、彼をリリーフにという声も少なからず存在していたのである。
  だが、珠姫の圧倒的な功績でそれが押さえ込まれていただけに、木崎原合戦の大敗という失態で一気にそれが吹き出したのだった。
  なお、大友親貞自身は現状で珠姫と争う事をまったく望んでいないし、望んでも勝てない事をとてもよく理解していたりする。
  そのあたり、彼の後見人である吉岡長増の教育が良く行き届いている証左だろう。
  広間が静まり、一同が平伏する。
  入ってきた、大友義鎮とその後ろにいた珠姫が広間中央に座り、評定が始まった。
  そして、第一声を義鎮に向けて放ったのは珠姫だった。

「此度の日向における御社衆の負け戦の全ての責任は私にあり、その責を取りたい次第で」

 場が大きくざわめく。
  珠姫自らが責任を認めたのだ。
  あえて正面突破を図ったように見えた珠姫に評定衆一同が驚きの顔を隠せない。

「ふむ。
  その責とやらをどう取るつもりだ?」

 ただ一人面白そうな顔で大友義鎮が珠姫に尋ねる。
  珠姫は義鎮の顔をまっすぐに見上げて、実に妖艶に微笑んでその責任の取り方を告げた。

「問題は、負け戦で大友の旗に泥を塗った事にあるはずです」

 あえて珠姫はここで言葉を切る。
  異論が無い事を確認して、珠姫はその責任の取り方を口にした。

「百戦して百勝とも行きますまい。
  次の戦は私自らが出て、勝って汚名を返上したい次第で」

 場がざわめく。
  もし、珠姫出陣なら、南予侵攻以来の遠征となるからだ。

「『真幸大崩』と呼ばれる大敗をお前が出ることで取り戻せると?」

 既に義鎮の目には笑みが浮かんでいる。
  こういう言い方をする珠姫は、必ず裏に何かを潜ませているのを知っているからだ。
  だから、言葉はあえて叱責するかのように厳しく言い放つ。
  それに対して珠姫は答えずに、あえて別の人間に話を振ってもらう。

「実は、日向内部にてお家争いの気配があり、伊東義祐殿から支援の文が」

 珠姫の振りで横から口を出したのは臼杵鑑速。
  彼は大友家の外交官であり、珠姫から先に今回の仕組みの説明を受けていた。
  その時に驚愕しているので、今の評定で語る彼の顔に感情は無い。

「伊東家は木崎原での負け戦の責任をめぐって、伊東帰雲斎を排除せよという声が。
  ですが、伊東義祐殿はそれを断り、兵にて鎮圧を図ろうと考えましたがその兵がいない状態。
  我等に支援を求めております」

 評定衆の顔に理解の色が浮かぶ。
  この支援を申し出る事で姫は汚名を返上すると。
  だが、珠姫の言葉はそれをはるかに超えたものだった。

「父上。
  いい機会ですので伊東家を滅ぼしましょう」

 と。
  時が止まった。
  その時を動かしたのは、動揺しつつも何かあると覚悟していた大友義鎮の声だった。

「理由は話してくれるのだろうな?」

 珠姫がにこりと微笑む。
  了解の合図なのだが、後に珠姫の笑みと呼ばれる代名詞の悪辣さを笑みを崩さずに語る。

「まず、伊東家の横柄な態度です。
  渦中にあり、頭を垂れて我等に助けを求めるのが筋なのに、支援を求めるのみ」

 その伊東家の間違えた外交判断を下した直接の原因は珠姫なのだが。
  頼まれもしない一条派遣軍を送って勝手支援を出した事が、伊東家に『大友は既に味方』という判断を下していた。
  溺れる者は藁をも掴むが、所詮藁で助けられる訳が無いのだ。

「次に、彼らは木崎原にて疲弊しています」

 諸将は言葉も出ない。
  それは分かっていた事なのだ。
  だが、珠姫が伊東家を支援した形で、日向侵攻ができないというロジックで珠姫を攻めようとしていた豊後国人衆は見事に梯子を外される形となった。

「そして、最後。
  島津も木崎原の痛手から立ち直っておりません。
  更に、あれだけの死傷者を出した伊東家は島津に助けを求める事はできますまい」

 多方面に敵を抱える島津にその余力は無く、おまけに親兄弟を皆殺しにされた島津に助けを求めるなど屈辱以外の何者でもないだろう。
  もう一つ、助けを求める相手に肥後相良家があるが、この家は既に大友家に従属している上に、木崎原では偽兵に驚いて敵前逃亡の大失態をやらかしている。
  珠姫の笑顔のお話でそこを突っ込まれた相良義陽は、顔を真っ青にして伊東家を生贄に差し出したのである。
  伊東家は既に孤立無援だった。

「既に、伊東帰雲斎より所領の安堵と伊東義祐殿の命を助ける事を条件に、内応に応じてもらっています。
  延岡鎮台にも動員がかけられ千五百の兵が待機し、美々津には私が派遣した三千が帰る為に集まっています。
  旗本鎮台と大野鎮台、臼杵鎮台からも兵を出して、一万五千の兵を一週間の内に集める事ができます」

 誰一人、珠姫の話を止められない。
  止められるロジックを持ち得ない。
  日向救援が日向征服の前振りだったなんていくらでも突込みが入れられるのだが、実際に征服される日向の富に皆目がくらんでいる。
  これを持って、やっと珠姫は豊後国人衆を掌握したのである。

「私が大友の杏葉を背負うに当たり、皆の不安を払拭するためにも、木崎原の責を日向一国で返したいと思うのだがいかが?」

 その言葉に異を唱える者は誰もいなかった。

 

 作者より一言
  『水鏡』の記述は資料では見つかりませんでした。
  ですが、ネット(特に戦火スレ)では耳にしていたので、ネタに使わせていただきました。


 


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