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大友の姫巫女

南海死闘編

第ニ話 ある家族の家族旅行

「海ぃ」
「うみー」
「zzz」

 珠姫丸に乗っておおはしゃぎの黒耀と琥珀を眺めている珠です。
  もちろん、手には翡翠が眠っていたり。
  この時代、生まれた村から出ない人の方が多かったのですが、現在私達は家族旅行中だったりします。
  目的地は安芸国、吉田郡山城。
  老いて、最近は寝たきりらしい毛利元就に孫の顔を見せておこうかと思い、四郎と共に家族旅行としゃれ込んで……

「しかし、南蛮船というのは凄いな」
「本当ですね。
  ほら、波があんなに」
「家畜室が凄いらしいって。
  楽しみね」

 何でいやがる。
  父上に母上に養母上よ。

「何、孫と旅に出るのに置いてきぼりなどひどいではないか」
「そうですよ。
  ほら。
  黒耀と琥珀があんなにはしゃいで」
「船員の皆様の慰安をと話したら……ごめん」

 あんたら、今現在戦国時代って分かって言っているのか?おい。
  あと母上、それは私の仕事だ取るんじゃない。
  そんな私の言葉を口に出さずに、目で突っ込んでみたが流石は父上。いう事が違う。

「愚か者め。
  わしがふらりと出てゆくのは家中誰もが知っておる事。
  それが、少し遠出をするだけの事よ」
「そうですよ。
  わたしも居ますし、長寿丸は府内に残しているから困りもしませんよ」
「私はいつもの事だから問題ないし」

 そうだった。
  この父上は私より放浪癖があるのを完全に忘れていた。
  というか、養母上も一緒なら、

「また、あの三人外でまぐわっているんでしょ」
「いい年して、姫様が色狂いなのはご両親の血を引いているからのぉ」
「まぁ、戦もなし、急ぎ片付ける用件もなし。
  姫様や長寿丸様と親貞様もいるし、問題なかろうて」

 こんなのりである。
  この父上、すっかり隠居モードに入ってやがる。
  とはいえ、大友家の主要政策における決定には父上の加判は、絶大な威力を発揮するのもまた事実で。
  家中で猛反対のあった唐芋の全国普及の決定を支援してくれたのは、この大友義鎮である事は忘れるつもりもない。
  今頃、内政担当の志賀親守殿や一万田親実殿は青筋を立てて探しているんだろうなぁ。
  とりあえず、船長たる安宅冬康を手招きして尋問タイム。

「何であれがいるのよ?」

 親をあれあつかいというのもいかがなものかと思うが、とりあえずあれでこちらの怒りが分かったらしい安宅冬康は顔から汗を出して弁明する。

「そ、それが……
  姫様、今日は家畜室を使うと聞いて準備をしていたら、どこから聞きつけたかあのお三方が……」

 な、なんですと?
  改めて、あれあつかいの三人をまじまじと見て。
  うわ。
  父上さり気なく尻触っているし、母上も養母上も振り払わずに頬を赤めているし。

「安宅冬康ぅ~
  どうして、追い払わなかったのかな?かな?」

 ちょっとL5の顔で問い詰めると、汗だらだらで安宅冬康が弁明を。

「ひ、ひめ。
  それがしにどうお館さま方を追い払えと」

 いや、八つ当たりって私が一番わかっているけど、言わずにはいられないのだ。
  というか、一言も発せずに置物と化して危険から身を避けている四郎にも八つ当たる。

「四郎だって、一家を率いる身なんですから、父上ぐらい追い出す気概を持たなくてどうします」
「いや、姫。
  一家を率いるからこそ、無用な争いは避けるべきかとそれがしは愚考するに」

 こんちくしょう。
  最近私の扱い方を覚えてきたからって、官僚的答弁といい笑顔で私がごまかされると思って……

「母上怒ってる」
「おこってるぅ」
「…ぅぁ」

 やばい。翡翠が泣いちゃう。
  大急ぎであやす私を一同楽しそうに見やがって。

「翡翠おねむ~」
「おねむぅ」
「zzz」

 娘達が翡翠をつんつん触るのを見ながらため息を一つ。
  ほっとした矢先に父上が更なる爆弾を。

「で、お前が南蛮人からしつらえた服があるのだろう。
  早く見せろ」

「安宅冬康ぅぅぅ!!!
  なんで、父上達にばれているのよっ!!
  あんたまさかちくったわねっ!」

「それがしではございませぬ!
  何しろあれは島井宗室殿がお持ちになられたではございませんか。
  妙に大きな箱だとは思っていましたが……」

 汗だらだらで安宅冬康の弁明を聞いて、全てのからくりが解けた。
  あの御用商人、あれを母上達にも送ったな。 

「実に楽しみだ。
  お前が特別にまぐわう為に作ったというのだからな。
  翡翠はわしが預かるゆえ、着替えてくるがよい」

 きっと、夜は家畜室で母上達とお楽しみなんですね。わかります。
  ちくしょう。
  四郎に種付けしてもらおうと色々手をかけたのが裏目にでやがった。

「どんな服を用意したのかしら?
  あなたの服だから破天荒なんでしょうねぇ」
「どうせ裸になるとは思うけど、服で男どもを魅了するのも悪くないわね。
  実に楽しみだわ」

 やっぱり、あんたらのもある訳だ。
  島井宗室には今度何か報復を考えておこうと心に決めながら、両脇を母上と養母上に抱えられて船室に引っ張られていったのだった。

 

「ほぅ……」
「……」(ごくり)
「これは、なんと……」

 父上、四郎、安宅冬康の三人の感想の他、水夫達の口笛がこの服の評価を物語っていた。
  いや、かつてクリスマスで来た服を揃えようと頼んでたのだけど、あれ、『聖女というか性女』とか『勝負服ならぬ娼婦服』と公表直後から突っ込まれていたから欲しいとは思っていたのだった。
  そんな服の最新モードが出来たというので一式作らせたらこの様である。

 母上が着ているのが、かつて私が着ていたハイプリ服。
  なお、三人とも胸のサイズが違うのでカスタムしているあたり、島井宗室抜かりは無い。
  両足から丸見えの太もものストッキングは当然白である。
  この服で妖艶に微笑むのだから、そりゃ『性女』とか『娼婦服』とか呼ばれる訳である。
  神様だけど。母上。
  なお、真ん中の前掛けは十字ではなく大友の家紋である杏葉にかえていたり。
 
  で、少し恥じらいがあるらしい養母上はプリ服である。
  藍色で片側スリットから覗く黒のストッキングが大人の女を醸しだすのだが、着た後で我に帰ったらしく、「やっちまった」的に顔を赤める姿が実に色っぽい。
  もちろん両肩の紋章を杏葉にかえてある辺りいい仕事してやがる。

 で、私は今回のメインとして「アークビショップですね。わかります」と思った人はちょっと待って欲しい。
  なんとあんな破廉恥な服ではなくシックな修道服を着ているのだ。私は。
  スリットも太ももも出さないロングスカート修道士服なのですよ。
  まぁ、ネタをばらせば、某戦国ゲームの父上の衣装だったりする訳だ。
  当然前掛けは杏葉に変えているけど。
  『盲目の狂信者』って何だよ。狂人である事は否定しないが。
  この父上がそんなキャラな訳ねーだろと大爆笑しながらも、その衣装は素敵だったのでこうして採用をば。
  もちろん、この清楚な修道士服の下は……である。原作的に考えて。

 なお、この三人のちちくらべをすると、

 神乳(母上)>牛乳(養母上)>巨乳(私)

 に、なるのだが、養母上はぽこぽこ子供生んでいるから乳の出がとてもよく、黒耀とか私の乳より養母上の方を好んで飲んで大ショックだった事も。
  まぁ、こうやって並ぶと母上と養母上の見事な年増園ぶりが。
 
「珠。
  なんて服を用意したんですかっ!」

 うわ。
  手で片方のスリット隠して真っ赤になって怒る養母上が可愛すぎる。
  これで、私より子供生んでいるって信じられない。

「あー、前掛け外せばこのままできるのか。
  よくできているわね。この服」

 母上、機能美に感動しないでください。
  一応その服、高位の聖職者が着る服なんですから。

「姫。
  か、かわいいですよ」

 な、
  なに、赤くなって真顔でつぶやきまくりやがりますか。四郎。
  そんな顔されたら照れるじゃない……」

「声に出ているんだが。娘よ」

 父上、いらないこと言わないでください。
  せっかく三人揃ったので、爆乳音頭を踊ってみたらえらく受けたので今度杉乃井の出し物にしよう。
  まぁ、そんなのんびりとした航海は続いたのだった。

 

「で、何を企んでいるんです。父上」

 夕食後、甲板に上がって一人佇んでいた父上に声をかけた。
  ウェールが髪と共に潮風になびき、手で押さえながら私は父上の本心を尋ねてみた。

「さしたる策があってここにいる訳ではないが」

 月夜に照らされた父上の顔は何処と無く寂しそうに見えた。

「会ってみたくなった。
  弟を死に追いやった毛利元就にな」

 父上の弟である大内義長は大内家を簒奪した陶晴賢によって担がれ、厳島にて彼が敗死した後に毛利元就によって滅ぼされた。
  だが、彼の破滅の裏には冷徹にその破滅に手を貸して、豊前筑前の領国化を狙った父上の存在も大きい。

「あれは、お前と共にこの西国の繁栄を築いた柱だ。
  あれが居なくなった後で、お前一人でその繁栄が支えきれるのか、あれに尋ねたくてな」

 その声になんとなく父上が過去を向いている事を悟った私はあえて声をかけなかった。
  波の音しか聞こえない夜の甲板で、父上は重くなった口をゆっくりと開く。

「わしは、お前を育て間違えたと今でも思っている」

 その言葉に衝撃を受けなかったといえば嘘になる。
  帆柱に添えた手が自然と柱を掴む。

「大名として生きるのならば、身内をこの手にかける事は避けては通れぬ。
  本当ならば、わしがお前の手にかかって、それを教える事ができたらと思っていた」

 淡々と語るがゆえに、その言葉に口を挟めない。
  着ている修道士服と相まって、懺悔を聞いているように錯覚してしまう。

「お前は、毛利元就亡き後、西国を継ぐ事になるだろう。
  大友だけならそれでも構わぬ。
  だが、お前が継ぐ西国、いや天下はお前の甘えや優しさなどに見向きはしないだろうよ」

「……それは、分かっているつもりです」

 かろうじて声を出したが、父上までかつて信長に痛罵された言葉を私に送るとは思っていなかった。
  実質的な大友毛利連合の総指揮を、毛利元就亡き後に私が取る事になるのも規定路線である。
  桁違いに膨れ上がる利害関係と複雑怪奇に入り組んだ統治、そして織田信長との対決に向けてやらねばならぬことはいくらでもある。

「人が助ける事ができるのは、目で見えるもの、手でつかめるものでしかない。
  天下などは、その全てを見る事はできず、お前の手でつかめるのはほんの少しだ。
  それを知らずに天下を継げば、いずれお前も壊れるのだろうよ。
  かつてのわしみたくな」

 闇が晴れたとは言え、父上の心の傷が癒えた訳ではない。
  その傷が大名大友義鎮としての原点でもある以上、それは決して消える事無く死ぬまで疼き続けるのだといやでも理解した。

「もっと、傲慢になれ。
  もっと、腹黒になれ。
  戦国の世では、お前の優しさは害にしかならぬ」

 真顔で誠実に、だからこそ否応無くその言葉は私に突き刺さる。
  その言葉に何も答える事はできず押し黙っていると、楽しそうに父上が笑った。

「だから、お前は子供なのだ。
  子供がいる身でそこで即答できぬようなら、まだわしが手助けせねばならぬではないか」 

 何でだろう。
  父上の姿がぼやけるし、頬の一部に何か液体が伝わるのだが。

「天下と子供を秤にかけるぐらい傲慢にならねば、子供など守れはせぬぞ。
  『子供のため』その大義無くば、人を殺し続ける事はできぬ。
  だが、それを行える者のみが大名として家を背負ってゆけるのだ」

 父上は月夜に照らされた海を見続ける。
  泣いている私を見るのが照れくさいのか、言っている自分の言葉が恥ずかしいと自覚しているからなのか、あるいは両方か。
 
「今だから偉そうに言う事ができる。
  今の大友はわしが作った。
  親を叔父を弟を殺し、多くの兵や民を殺して作ったわしの国だ。
  その業を背負って、お前の前に居る」

 父上は私の方を振り向いて、静かに私の手を取った。
  その手から伝わる父上の温もりが暖かく、そして優しい。 

「わしの血塗られた業で作られた大友という家をお前に渡す事ができる。
  それがもの凄く嬉しいのだ」

 そう言って父上は笑った。
  その笑顔は忘れる事はできないだろう。
  あの父上がこんなに優しく笑ったのだから。

「だから、少しだけ手伝ってやる。
  そのために毛利狐に会おうと思ってな」

「父上……」

「親は、いずれ子供に越えられて行くものだ。
  だが、それまでは子供を助けるものだ。
  わしが親を語るか。
  世も末だな」 

 声を殺して泣く私に、父上は私の頭に手を置いて優しく撫で続けた。
  私はその手の大きさと暖かさを忘れないようにしようと心に決めたのだった。

 

「ところで、先ほどから母上達が見ていますが」
「……」
「まさか、このあと、家畜室でお楽しみなんてこのいい空気ぶち壊しだと思うのですが」
「……」
「どうオチをつけてくれるのか娘としてとても楽しみではあるのですが」
「……」


  結局、家畜室は父上達のお楽しみで使われましたとさ。
  ちくしょう。


 


 

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