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大友の姫巫女

南海死闘編

第一話 立花家と杉乃井家と大友義鎮 

 お元気ですか?
  珠です。

 現在四郎はお仕事中で博多に。
  ひまな私はこうして娘達とともに杉乃井で自堕落な日々を……

「母さま~」
「ははさま~」
「は……」
「姫さま~」
「ひめさま~」
「ひ……」

 いつからここは保育所になった。おい。
  上の言葉を発したのは、上から順に長女の黒耀、次女の琥珀、三女の翡翠で。
  次女と三女は残念ながら双子ではないのであしからず。
  なお、全員四郎の子だったりします。
  まぁ、三連荘で女だったので豊後外の国人衆の絶望っぷりと、豊後国人衆の歓喜っぷりがもう。
  あ、琥珀は生まれたてなので私が抱いているのですが。

 乳母どうしたのかって?
  いや、居るけどね。麟姉さんとか、瑠璃御前とかがちゃんと。
  けど、親が子供を育てないのは子供がかわいそうだという私の主張を強引に押し通す事に。
  ……おかげでえっち減ったけど。
  なお、四郎の正妻である鶴姫は目出度く男子を出産し、チートじじいを大喜びさせたり。
  恋の方は娘と息子だったのだが、杉乃井御殿で遊女のおねーさん達にあやされて育てられていたりする。
  戦争終わって、やる事といったらそりゃあれな訳で。
  なお、このお話は戦国期に女性が頑張る話で、女性比率が高く年頃の娘さんが成長するので、愛と政治の結晶であるお子さんがぽこぽこ生まれて来た訳で。
  大友領はそんな訳で上層部の出産ラッシュで、どこからでも子供が泣く声が聞こえてくる始末。
  おかげで、私の直属の部下の姫巫女衆なんかも幹部連中が私をはじめ軒並み産休という笑えない事態に。

 具体的にはこの三年で。

 私 (毎年生んでる。まったく自重する気なし)
  鶴姫(男子出産。現在育児中)
  恋 (女子出産。この間男子も出産。現在体力回復中)
  麟姉さん(男子出産)
  政千代(男子出産)
  舞 (女子出産)
  霞 (女子出産。二人目)
  あやね(女子出産。二人目)
  奈多夫人(男子出産。四人目)
  八重姫(男子出産)
  九重姫(男子出産)
  白貴御前(女子出産)

 
  で、子供(男子出産)が生まれた武将とかでも、

 戸次鑑連 
  田原鑑種
  高橋鎮理 
  小野鎮幸 

 という新世代ラッシュが。
  補足を少し。
  八重姫の相手は木付家の木付鎮直。   
  別府湾海戦時に私に報告を届けようと城内を突っ走っていたら、戦準備中の彼とごっつんこのそれなんてラブコメって感じの出会いでお付き合いを。
  四国からの新参者の藤原家と同紋衆の木付家では家格がどうこうという話も出たけど、私の次期後継者内定でそれも立ち消えに。
  げに恐ろしきは権力と最近切に思い知る今日この頃。
  で、九重姫のお相手は土居清良。
  四国の山の中で農業に一家言持つ人なんで、大友領全体の農業政策を任せるつもりで府内に呼び寄せたらいつの間にかくっついてやがった。
  まぁ、同じ四国組仲良くしましょうという事での縁談だと後で聞かされたのだが。
  白貴御前は本当は子供ができない体なんだけど、そこは神様ぬかりはなかった。
  生み終えて、娘の顔を見た白貴姉さんのマジ泣きに知瑠乃をはじめみな貰い涙を流す始末。
  なお、商売柄相手が誰だかまでは不明という事になっているが、

「この娘は大友一門として扱う」

 と父上(事実種は父上だ)が豪快に認知公言。
  まぁ、最上得意客だったしなぁ。白貴姉さんの。
  これも、恋という前例があったこともあって受け入れられたのだろうけど。
  で、恋のからみもあって、杉乃井家という新家を立てる事に。
  どーいう事かというと話せばまた長くなるのだが、私と四郎と恋の複雑怪奇な政治権力関係の為である。

 まず、私なのだが本家を継ぐ身とはいえ、豊後・筑前・筑後・隠岐にまたがる大領を持つ以上、私直属の家臣団がいる。
  具体的には爺こと佐田隆居やハヤテちんこと佐田鎮綱とか、次男坊とはいえ何で私の所に居るんだろうと首を傾げたくなる猛将高橋鎮理とか、切れすぎる剃刀こと田原(旧名一万田)鑑種とか。
  これに私が経営する遊郭を運営する麟姉さんとか、白貴姉さんとか、瑠璃御前とかも私の家臣である。
  で、今まで私の家臣扱いだった四郎こと立花元鎮が立花山城を拠点に五万石を持たせて正式に独立する(けど、私の側から離れないらしい)運びとなり、彼自身の家臣団編成に着手しているのだ。
  その結果、毛利側から監視よろしく送られてきたのが、正妻鶴姫(毛利側、来島村上家の娘)の家から村上吉継と、まさかのビックネーム清水宗治。
  備中を支配していた三村家が明善寺合戦で宇喜多直家に一族郎党のあらかたを討ち取られたのを見て、毛利が備中を直轄領に組み込もうとして三村家を粛清したのだ。
  清水家はその三村粛清に早い段階から毛利側についていたらしく、四郎の家老格としての大出世となった。
  私の家臣団に口を出さなかった代わりに、四郎の付き添いにガチの良将をつけるあたりさすが毛利元就と感心するしかない。
  ここで困った事になったのが、私と同じく四郎の妾である恋。
  何しろ母上の血を引く準一門扱いなので、恋が男子を産んでいい機会だから別府を管理する家として一家興してもらう事に。
  実際の管理は麟姉さんや瑠璃御前がするけど、国衆の介入を避ける為には恋の準一門という身分は大きな効果があるのだ。
  で、白貴姉さんの子供も杉乃井家の娘として育てる(まだ双方赤子だけど、ほぼこの二人の婚姻は確定している)事で、この杉乃井家は正式に同紋衆(大友一門衆)として扱われる事になる。
  と、同時にこの杉乃井家を四郎の家臣に組み込ませる事で、四郎の実家である毛利家臣団の監視を兼ねさせるという訳だ。
  とはいえ、元が遊女の二人に武家を興せというのも無理な話で、麟姉さんと瑠璃御前も旦那持ちというのもあって最後まで手助けできるわけも無く、この家に武家の家臣をつける事に。
  誰かいい人居たかいなと大友諸家漁りまくっていた私の所にやってきたのが、父上の紹介状を持った寒田鎮将と雄城鎮景。
  寒田鎮将は、元加判衆で勢場ヶ原合戦にて大将だった寒田親将の一族で、大内軍相手に壮絶な討死をしてから家は鳴かず飛ばず。
  雄城鎮景は雄城治景の息子で現在の評定衆についており、小原鑑元の乱後に残った最後の有力他紋衆でもある。
  なお、雄城家そのものは史実では父上のキリスト教信仰に反対して、追われたか出たかは知らぬが最後は肥前あたりに流れたという。
  だが、私の存在の為に父上はキリスト教信仰に転ばず、雄城家はそのまま他紋衆筆頭の地位を保ちつつひっそりと評定に参加していた訳で。
  両方とも歴史の闇に消えた家が揃って私の前に出てきた辺り、己がやらかした歴史改変の業の深さを思い知る。

「「是非とも、姫様のお役に立ちたく」」

 私はそんな事を思いながら二人の仕官口上を聞いていたのだが、とりあえず口を開く。

「まぁ、それを決めるのは恋と白貴姉さんだと思うのだけど?」
「先にお二方を尋ねた所、『姫様が了解するのなら』と」

 丸投げしやがった。あの二人。
  まぁ、気持ちは分からないではないが。
  寒田鎮将は分かるのよ。
  杉乃井家家老の地位は、恋の息子が赤ん坊な事もあってうまく行けば一発逆転で返り咲きを夢見れるから。
  問題は、現評定衆に連ねる雄城鎮景の方。
  あんた、下手すりゃ加判衆狙えるのに、なんで陪臣に落ちるのを望む訳?

「お館様曰く、『立花殿について牽制しろ』と」

 なるほど。
  杉乃井家ではなくてその上の立花家の家老として彼を送り込むつもりか。
  良将ではあるが村上吉継も清水宗治も村上家と三村家で毛利本家の人間ではない。
  その二人に対する家格で優位に立とうという腹づもりらしい。
  四郎の領地である博多近隣の地において大友家評定衆のネームバリューは、地元国衆にとって高いのだから。
  そういえば、父上の弟である大内義長にも同じ形で随行させていたな。
  その随行員で大内家家老として辣腕を振るったのが一万田鑑種というあたり歴史の因果ってやつは……
  同時に、父上が言わなかった事もうっすらと見えてくる。

 私が大友家当主になったあかつきには、私がしていた加判衆扱いである右筆の地位が空く。
  そこに爺である佐田隆居が就くことがいつの間にかほぼ確定になっている。
  問題は、爺が大友一門ではない他紋衆であるという事。
  大友家に久しぶりに一族ではない人間が要職に就く事で、大友領内の一門外の人間が密かに、

「もしかして、俺も」

 という夢を持ってしまっているのだった。
  それは当然一門衆である同紋衆にとって面白いはすがない。
  そんな他家紋衆で次に加判衆の椅子につく可能性が高いのが、この雄城鎮景なのだった。
  彼を立花家家老に飛ばす事で、自然と他紋衆が加判衆につく事をさけた訳だ。
  何しろ、私の家臣団から爺の次に加判衆を出すならば高橋鎮理だけど、彼の父親は現加判衆の吉弘鎮理だし、その次の田原(旧姓一万田)鑑種もどっちの名前をとっても同紋衆なのだから。
  父上やる事がさりげなく抜け目ない。
  と、同時に父上は右筆の加判衆扱いを継続すると共に、ここを外様である他紋衆が座る加判衆の席にしたいのだ。
  元々右筆は一門である私がついたからからこそ、加判衆扱いとして父上がなし崩し的に扱ったポストである。
  だから、次の当主が右筆をどう扱うかで加判衆から締め出す事ができる訳で、同紋衆には彼等の独占席であった加判衆の椅子が脅かされない事をアピール。
  他紋衆はそれをふまえても、最高意思決定機関である加判衆評定に参加できる可能性がある事で更なる忠誠を誓うだろう。

「いいわ。
  雄城鎮景は立花家筆頭家老になってもらうわよ。
  寒田鎮将は、立花家家老になる杉乃井家家老として二人して毛利側の監視をするように。
  けど、粛清しちゃ駄目よ」
  
「「はっ」」

 二人の将が私に頭を下げるのを見て、私は娘達と共に部屋を出てゆく。 
  目的地は、隣の保育園と化している部屋だった。

「じーじ」
「じぃじ」
「じ」

 黒耀がとてとてとその部屋で子供にまみれていた父上こと大友義鎮に抱きつく。
  身内すら信じられなかった父上は、今はちゃんと親の顔をして孫を抱きしめていた。

「いいご身分ですね。父上。
  夜は閨で母上達と遊び、昼はここで孫達と遊びですか?」

「何、お前が仕事をしてくれるからこうして呆けていられるのよ。
  で、あの二人はどうだった?」

 ちゃんと戦国大名の顔をしつつ父上は私に尋ねる。
  このあたり呆けているようでしっかりしてやがる。

「父上の目論見どおりこちらで引き取る事にしました」

 とってもいい笑顔で答えてやる。
  これで父上には裏まで読んで引き取りましたって分かるだろう。
  同じようにいい笑顔で父上は黒耀と琥珀をあやしながら口を開く。

「そうだ。
  お前が出した鎮台の追加設置案だが、少し弄りたい。
  旗本鎮台をわしの直轄にする」

 その言葉を聞いて私は翡翠を抱いたまま首をかしげた。

「構いませんが、何故です?
  陣代の戸次鑑連殿にお任せすればいいじゃないですか」

 この鎮台の追加設置案とは、南蛮人襲来時に国東方面の兵の指揮が取れなかった事の反省と、大友領統治の進捗で豊前や筑前・筑後に更に鎮台を追加しておく事を目的とした軍事増強策と人事異動案である。
  と同時に私の大名就任を睨んで、私の家臣団の抜擢と指揮系統一元化も狙っている。
  具体的に、 

 豊後国 日出鎮台  定数千  吉弘鑑理(現加判衆兼務臼杵鎮台大将)
  豊後国 臼杵鎮台  定数千  未定
  豊前国 小倉鎮台  定数五百 城井鎮房(現中津鎮台付将)
  豊前国 香春鎮台  定数五百 高橋鎮理(抜擢)
  筑後国 柳川鎮台  定数千  蒲池鑑盛(現久留米鎮台大将)
  筑後国 久留米鎮台 定数千  小野鎮幸(抜擢) 
  筑前国 太宰府鎮台 定数ニ千 田原鑑種(抜擢)
  筑前国 宗像鎮台  定数千  戸次鑑方(抜擢)
  肥前国 唐津鎮台  定数五百 臼杵鑑速(現加判衆兼務)
  日向国 延岡鎮台  定数五百 佐伯惟教(現臼杵鎮台付将)

 という各国への鎮台設置と大規模人事異動を行う事が決まっていたのだが、現臼杵鎮台大将である吉弘鑑理の後釜が見つからず誰にしようかと迷っていたのだった。
  で、父上は旗本鎮台を大名直轄にして、陣代兼務で戸次鑑連を臼杵鎮台に横滑りさせるつもりらしい。

「娘よ。
  お前が人の心をまだ持っているのは嬉しい限りだが、大名としては少し甘過ぎる。
  またニ階崩れのような事態になった時に、己の手足となる兵を用意しておきたいのだ」

 このあたりの嗅覚の鋭さは父上だなと感心する。
  なまじ知っているだけに、戸次鑑連が裏切るような男じゃないと分かっている事に胡坐をかいていた。

「父上。
  少し驕っておりました」

「分かればいい。
  しかし、田原を追い出し、奈多が弱っている今、吉弘鑑理が国東を抑えるか。
  本気で寺社領に切り込むつもりだな」

 うわ。
  こっちの狙い全部わかってやがる。
  色に溺れていようと、孫に甘い顔をしていようと父上も戦国大名として名前を残すだけのチートは持っているという訳だ。

「そこまで読んでましたか。
  私の力の源泉ではありますが、宇佐八幡および六郷満山は力が強すぎます。
  私が大友家当主という位置に居る間に削っておかないと害をなすでしょうから」

 私という守護者の下、広大な寺社領と無視できない僧兵を持つ彼らの力を弱める為にも、万一の一揆を警戒して最強戦力を国東半島に戻したのだった。
  なお、話は変わるが小金原合戦時、総予備として臼杵に待機してもらっていた吉弘鑑理は、

「我が家はお家の戦に出る事で忠義を……」
  と、懇々と私と父上に『戦に出させろ』と説いて、私達をげんなりさせる始末。
  実は、大友家にとって戸次鑑連とその一党が出るまでは武闘派というのは吉弘家の方だったりする。
  なお、勢場ヶ原合戦で大将として出陣して寒田親将と共に討死にした吉弘氏直は吉弘鑑理の父である。
  血が騒ぐのもわからんではない。
  で、挙句に息子の吉弘鎮信に諭されて帰るのだからどうしてくれようかと。
  まぁ、大友の主要な戦に自ら一族総出で出ていたから、外されたと感じるのも分からんではないが。
  と、思ったら吉弘鎮信が吉弘鑑理が去った事を確認してこそっと耳打ちを。

「此度の出征に弟が出る事を聞いて、吉弘家の者で腕に覚えのある者をつけたいのですが」

 父ほど直情的ではないが、兄もやっぱり武闘派だった。
  そんな、吉弘家の手勢が高橋鎮理と共に小金原合戦で、山中幸盛率いる尼子勢の突撃を食い止めて勝利に貢献したのだから、

「さすが我が子よ。
  吉弘の武門の誉れよ」

 と親馬鹿ぶりを発揮して周囲に微笑ましい笑みを作らせていたのは内緒。
 

「おやかたさまだ」
「ひめさまもいる~」
「あそぼ~」

 いつの間にか、わらわらわらと杉乃井の子供達が。
  なお、遊女の子供も武家の子供も一緒くたに育てているのは我が母上たる比売御前だったりする。
  子供ができないのをいい事に、

「めんどうだから全部杉乃井に持って来なさい!
  まとめて面倒見るから!!」

 と、豪快に育児をやりだしたのだった。
  これが返って母上の政治的影響力を強める結果になるとは思っても無かった訳で。
  で、それを見た養母上の奈多夫人や白貴姉さんも訳隔てなく子供を育てる方針に。
  すっかり杉乃井の保育所は腕白小僧や小娘どもが大名や大名夫人と遊ぶというとても愉快な場所になっていたりする。
 
「ひめさま~
  お風呂に行って、一緒に『ぶりはまちたいそう』をやろ~」

 すっかり、子供達のいい姉御となった知瑠乃が私を誘ってくる。
  父上が私の方を見て、何だそれという顔をしているので説明してやる事に。

「ぶりとはまちを持って、脱ぎながら踊る事で、強くなる祈祷です。
  子供達も楽しみながら脱ぐので、評判いいのですよ。
  私と母上が考案しました」

「そうか。
  ……なに?」

 かすかに眉を顰める父上。
  やっている事がストリップと変わらない事に気づいたらしい。
  だが、わたしが狙ったのは某国営教育放送の『○ジャマでおじゃま』なのだ。

「で、温泉からあがった時は逆に踊りながら着物を着るんですよ。
  みんな喜びます」

「……ほどぼとにしておけよ」

 注意すべきか、メリットを取って見過ごすべきか考えたあげくの父上のお言葉は黙認だった。
  このあたりの父上の感覚もいつのまにかりっぱな親になっているんだなぁと素直に感動したり。

 なお、温泉でみんなと踊っていた所を知った麟姉さんの強襲によってこの『ぶりはまち体操』は永久封印された事をここに記しておく。
  とはいえ、評判はよかったらしく、保育所で代々伝わってゆくのだが、それは別の話。


  作者より一言。
  寒田鎮将と雄城鎮景ですが、双方一族が残っている事までは掴めたのですが、史料が見つからなかったのでオリキャラとして出しました。


 

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