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大友の姫巫女

南海死闘編

プロローグ ○○年IFコンにて 

「戦国物のIFで、合戦に勝った負けた、もしくは謀反で死んだ生きたとあるけど、天災での状況変化って見当たらないよな」

「というと、あれか?
  時代が違うが元寇時の神風みたいなやつ」

「まぁ、そんなものだが、俺が言っているのはゲームで良く出るイベント的な天災さ」

「台風や洪水、疫病や地震とかか」

「そう。
  あれはゲームではイベント処理されてたいした事ない様に調整されているが、実際に起きると洒落にならんからな」

「ストーリーを作る上で難しいってのもあるんじゃないか。
  何しろ、天災は指定などできずにその地域全体に影響を与えるからな」

「あと、荒唐無稽なのもあるかもな。
  IF物というのは、行き着く所、人知を尽くしてこそ天命を待てる訳で。
  天災はそれこそ天命になりかねんというのもあるだろうよ」

「まぁ、凶作イベントならそうなるだろうよ。
  だが、豊作ならどうだ?」

「それぞ、収穫が増えただけで、歴史の流れは変わらんだろうに」

「まて。
  ……読めてきたぞ。
  要するに、史実での凶作を無くすと言いたい訳だな」

「ご明察。
  天命を消して人知を尽くしてもらおうという訳だ」

「そんな都合のいい年があるのか?
  話を振ってきたという事はあるんだろうが」

「そのとおり。
  1567年。
  この年は機内を中心に旱魃が発生し、歴史に轟くほどの大飢饉が発生している」

「何で、畿内の旱魃が歴史に残る大飢饉に繋がるんだ?」

「あの当時の畿内は消費地であると同時に日本でも有数の米の生産地でもあったんだ。
  何しろ、都が置かれて長年手間暇かけて整備されていたからな。
  そこが旱魃で壊滅的打撃を受けた」

「それだけじゃないだろ。
  その前年からの織田家の軍事行動で畿内の米の備蓄が食い尽くされ、合戦で人手を取られた事で田植えに影響が出たのも大きい」

「そう。
  軍事行動と天災というダブルパンチで消費地である畿内が飢餓に陥った。
  もちろん、濃尾を抱える織田家は全力で領内の米で占領地である畿内を支えようとしたが、足りるわけがない。
  そして、運が悪い事に、西国は巨大流通網を構築していた大友毛利連合が出来上がっていた」

「何で運が悪いんだ?」

「消費地であるという事は、金を持っていると同義語だ。
  彼らは飢えぬ為に、その流通網を使って米を日本各地からかき集めたのさ。
  それが飢餓の第二幕の引き金になる」

「不作知らずの九州米といえど、畿内の口を一年満たすほどの量が作られている訳ではない。
  九州に住む人間も食わねばならぬからな」

「かくして、九州米まで食い尽くした彼らは次に銭をばら撒いて、各地の種籾すら買い付けに走ったという訳だ」

「……人の欲ってここまで愚かになるのかよ……」

「大友毛利連合はこの事態に対応しようとしていたみたいだそ。
  南蛮船をかき集めて大陸まで米の買い付けに行っているし、この次期に唐芋、つまりさつまいもとかぶぜんいもとか呼ばれている芋の普及を全国規模で促進していたりする」

「飢饉に強い唐芋を全国に普及したって、いい話に聞こえるが馬鹿かあいつら。
  自領で抱え込めば笑いが止まらない戦略物資だろうに。唐芋」

「その見方は正しくないんだ。
  この飢饉で既に大量の流民が発生し、不作知らずの九州を目指していたらしい。
  いくら九州といえど、その流民を全て受け入れられる訳もない。
  そして、この飢饉で売れる最後の財産である人間の価格が大暴落している。
  それは、遊女に付加価値をつけて高級化路線を突っ走っていた大友珠姫にとっては看過できる事態ではなかったらしい。
  ただでさえ、大友女は既に偽者が出ておりその対処で頭を悩ませていた彼女だ。
  低価格商品が高価格市場を荒らすのを見過ごせなかったという訳だ」

「珠姫だが、唐芋の普及で特に力を入れたのが薩摩・大隈――彼女の天敵である島津領――というのも面白いよな。
  その後の大友と島津の対決とその結果を知っている身とすれば」

「それだが、当時ですら反対意見があったのを押し通しているんだ。
  その時の珠姫の言い回しが皮肉がきいてやがる。
  『飢えた鬼を相手にするぐらいなら、太った豚を相手にした方がいいに決まっているじゃない』だと」

「いたのか?豚?」

「民間伝承なんてそんなものさ。
  真実より、面白さが求められるから、この言葉を言ったように聞こえる訳で。
  で、何の話だったっけ?」

「飢饉の話だろ。
  西国は分かったが、東国はどうなったんだっけ?」

「キープレイヤーは武田だ。
  ただでさえ四方に侵略しないと国が成り立たないあの家は、流通面から米が決定的なまでに不足していた。
  金はあるが、それを買い付ける港がないんだ」

「だから、今川侵攻を決意した訳だ」

「その通り。
  長男義信すら犠牲にしてな。
  そして、その武田を後押ししていたのが、対上杉戦を抱えていた織田という訳。
  武田を取り込む為に、同時婚姻政策までに踏み込んでいるからな」

「信忠に松姫、義信粛清後の後継者となった武田勝頼に遠山夫人を差出したんだっけ?
  織田信長もよほど武田と上杉が怖かったんだな。
  徳川信康と五徳の婚姻と同時期に、妹の市を水野信元の長男信政に嫁がせてる。
  徳川だけでなく、尾張三河国境に絶大な影響力を持つ水野家を取り込む事で、万一の武田戦への二枚目の盾および徳川の寝返りを牽制した訳だ。
  がちがちに東を固めたからこそ、安心して対浅井朝倉戦に全戦力をつぎ込めた訳で」

「その後の近江横山城再奪還と、美濃群上八幡合戦での織田の勝利は何よりも濃尾平野を完全に固めていたのが大きいだろうな。
  と、同時に武田は今川侵攻で北条が武田の敵に回り、北条と上杉が手を組むという事態に。
  けど、織田もここまでだった。
  何しろ飢饉の中心である畿内を抱えているからな。
  能登畠山家で一向宗がらみで内紛が勃発。守護大名畠山義綱とその父の畠山義続が追い出され、それが起爆剤となって北陸一向一揆が再起するという織田にとって最高のタイミングを生かすことができなかった。
  ここで、浅井朝倉、上杉まで滅ぼせていたらこの時点で織田の天下になっただろうに」

「なるほど。
  たしかに魅力的なIFだな。
  この時西国の諸大名は何をしていたんだっけ?」

「四国の長宗我部は土佐の2/3まで支配しながら、一条領を管理している大友家に手を出せずに畿内進攻に失敗した阿波の三好侵攻を決意。
  中国の浦上は毛利の謀略で宇喜多家をめぐってお家騒動が勃発。
  独立の風潮が強い宇喜多家を粛清するか、懐柔するかで家臣間が割れて統一行動が取れず。
  そのくせ、備中で残存の三村家勢力を粛清して直轄領に組み込もうとしていた毛利の顔色を見ながらだから、宇喜多直家の台頭を許してしまう。
  薩摩を統一した島津は、北上作戦を企てると」

「そして大友家は、ポルトガルと組んでのルソン侵攻の前準備と称して、琉球と台湾に拠点を作る事を画策するか。
  島津との血みどろの因縁を知ってると、大友って夢見ているよな。あいつら」

「だが、このルソン侵攻がその後の日本の南下政策を決定付けたんだよな。
  しかも、この飢餓時のあおり文句で、『南にいけば米が食べれる』だっけ?
  いくら、九州に大挙した流民をさばく為とはいえ、南蛮船で台湾に半ば捨てるがごとく送りつけるんだからいい度胸しているよな」

「けど、あの時は大友ってスペインから目をつけられてなかったか?
  府内攻撃から報復に近いルソン進攻なんてやって、よくスペインがアジアに兵を送らなかったな」

「スペインは送る気満々だったらしいが、オスマン帝国のスレイマン大帝の崩御による地中海情勢の緊迫化がそれを許さなかったんだよ。
  しかも、『ヴェネツィアの屈服』でヴェネツィア共和国がオスマン側についたから、西洋世界の恐慌ぶりに巻き込まれて兵を出す所じゃなかったろうに。
  スエズ運河工事もこの時あたりに始まったんだっけ?」

「そう。たしか、開通したのが『ヴェネツィアの屈服』の十年後。
  このアジアにおける影響力の喪失と、スエズ運河開通でスペインは史上最悪のバンカロータを宣言しないとならなくなり、海洋覇権国家としての地位を失う事になる訳だ」

「そして、忘れちゃいけないオランダ独立戦争。
  これに反スペインとして介入しルソン進攻の大義を得て、アジアに植民地を広げるんだからなんともはや」

「案外、大友がスペインと喧嘩なんてしなければ、日本が朝鮮半島辺りを征服する為に兵を出していたかもな」

「で、また白村江で大敗すると」

「ありそうだよな。
  珠姫、神功皇后化しているからな。
  本人、比売大神の化身と言っていたみたいだけど、毎年毎年孕んで戦や政をやっていれば神功皇后の方を思い出すよな」

「しかも、残った絵なんて史実が史実だから、ありとあらゆる形で春画の材料になって、珠姫=ビッチ姫ってあだ名が」

「だってあの姫、葛飾北斎の手で触手にもやられているから言い逃れできねーだろ。
  南総里見八犬伝にも何故か敵役で出てるし、陵辱調教にハーレムに異種と純愛除けばイベントフルコンプって何だよ」

「けど、意外と史実は純愛路線だったり。あのビッチ姫」

「彼女のエロゲーを作ろうとした某メーカーのシナリオライターがぶっちゃけていたぞ。
  『史実を調べるだけでエロゲーができていた』って」

「あれだろ。
  某くそげーおぶじいやー三冠を達成したゲームなのに、あの姫のシナリオだけができがよかったのは史実丸パクリってまったく救いようがなかった話」

「まったくだ」

「わっはっはっはっはっ……」

 

 彼らが笑いながら語る少し後ろで、年齢不詳の美女が顔に怒りマークをつけながら彼等を眺めていたらしいが、彼女が何に対して怒っていたのかは不明である。


 

 

 

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