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大友の姫巫女

試験作 宗太郎茶屋異聞

「坊様、ここ空いてるかしら?」

「おう。これは娘、いや、母親になる身の者に席を譲らぬは拙僧の不徳。
  ささ。こちらに」

「ありがと。
  しかし、坊様は何でこんな所に居るのよ。
  あ、お団子三つに水も同じだけ。
  私のおごりで」

「おお、ありがたや。ありがたや。
  日向美々津より船で上がっての。
  島津の殿様の頼みで、大友の殿様の鷹を届けに」

「またなんで、中途半端な所で降りるのよ。
  そのまま府内なり臼杵に入れば良かったじゃない」

「まぁ、聞いておくれや娘さん。
  ……船酔いが酷くての。
  で、こうして一人、老体に鞭打って山を登るという訳よ。
  しかし、うまいのぉ。この団子」

「でしょう。
  あとふかし芋なんてものあるのよ。
  けど、鷹って、何でそんな所に行ったんだか」

「それは鷹に聞いてみる事じゃ。
  鷹の目にとっては、豊後も日向も薩摩も関係あるまいて」

「そりゃそうよね。
  畜生のほうがこの世は幸せかもしれないわよ」

「ほほう。
  娘さんは、畜生道がいいと?」

「いや、これがはまると以外にやめられ……げぶんげふん。
  四足で歩いて見るだけでも以外に物が見えるものよ。
  人の嘲りや、関係ないふりをしながら、ちらちら覗いたり。
  同じ畜生である人をあえて分けた次点で人は奢っているのよ」

「ほほう。
  娘さん、中々学がおありのようで。
  拙僧もこのような場でこのような話がきけるとは思わなんだ」

「えへん。
  ほめてほめて。
  私、誉められると有頂天になる娘だから」

「勝って兜の緒を締めよという言葉はご存知か?」

「私の辞書に自重はないわっ!
  まぁ、ご存知だけど、ほめられた後でそれを言うかなぁ」

「ほっほっほ。
  坊主というのは、説教をするのが商売ゆえ」

「うらやましいわ。
  この末法の世だと商売大繁盛でしょう。
  何しろ、何時でも何処でも死体が転がっているからね」

「何、豊後に鷹を届けたら筑前にでも出向こうかと。
  かの国はこの間の戦で、かなり人死が出たらしくての。
  坊主は行けば歓迎されるだろうて」

「ほんと、世も末よねぇ。
  騙し騙されて親兄弟まで信じられないような世の中なんて。
  ぽいずん」

「ぽいずん?」

「気にしないで。
  異国の言葉よ。
  薩摩国、鳥神尾の合戦では、負けた方がほとんど溺れ死んだとか。
  世も末よねぇ……」

 


「まったくじゃ。
  筑前国、小金原合戦では、参加した宗像の兵が鉄砲と大筒で吹き飛ばされたとか。
  鬼畜の所業と思わぬか」

 


「本当よね」

「はっはっはっはっ……」

「おほほほほほほ……」

「しかし、この団子はうまいの」

「最近は飢饉も起きなくなったし、何か南蛮人が攻めてきたけど蓄えは村々にあるらしいし、毛利とも和議ができるとか。
  九州北部からは戦がなくなるわよ」


「それは凄い。
  わしの商売あがったりじゃの」

「あがったりなのよ。
  で、南はどうよ?
  まだまだ戦は続くの?」

 

「人というのはいろいろな物に縛られておる。
  ましてや、過去、それも持っていた栄光や誇りなんてものが家を支えているから簡単に止められん
  娘さんもそのあたりはご存知かと思うが」

 

「そうなのよねぇ。
  わかっちゃいるけどやめられない。
  お坊様には関係ない話と思うけど、豊後の国の殿様は、南の戦には関わりたくないけど、つきあいは止められないらしいわよ」

 

「つきあいか。
  まぁ、菱刈が滅んでしまえば、相良・伊東が敵に回り、『次はうちだ』と肝付が寝返るぐらいじゃからのぉ。
  島津の殿様は鳥神尾で勝ちすぎたのかもしれんのぉ」

 

「まだ、鳥神尾ぐらいなら問題ないわよ。
  問題なのは、連続で鳥神尾をやられて、今あげた三家が滅んでしまうと本気で心配しているのよ」

 

 


「そんな世迷い事を豊後の殿様は恐れているのか?」

 

 


「恐れているのはその殿様の娘らしいわよ。
  『あっこと戦火を交えるならば、十万の兵を用意しても勝つ自信は無い』
  って公言しているくらいだから」

 

 

 

 

 

 


「正気か?
  その姫様は?」

「正気で本気で、マジでしゃれでなく、
  大友の珠姫は島津の殿様を、その息子達を恐れているわ」

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、娘さんや。
  こんな所に身重の体を押してまで何をしているのじゃ?」

「そのお坊様が持っている鷹を探しに来たのよ。
  豊後の殿様がけっこうなDQNでさぁ」

「どきゅん?」

「異国の言葉よ。
  気にしないで。
  で、殿様いわく、
『鷹を逃がしたのは世話役の責任だから、見つけたら見つけた者の前でその世話役を斬ってやる』ってぐらいご立腹で。
  で、その鷹を見つけた人に、『持って帰ってくれ』と頼む為にこんな所に出張っている訳」

 

「ほほう。
  最近、豊後の殿様は娘さんと大喧嘩をした後は丸くなったと聞いていたが?」

「丸くなったのは事実よ。
  鷹の話も『気にするでない』とお叱りなしだったから。
  ただ……」

「ただ?」

 

 


「ただ、その鷹を名目に間者に豊後国内を歩き回られるのは癪だなぁとは思っていたわけで。
  まさか、こんな大物が釣れるとは思っていなかったのよ。私も」

 

 

 

 

 

「ただの拙僧でしかありませぬよ。
  ひ、いや娘さん」

 

「そうよね。
  まったく心が狭いわよね。この姫様は。
  お坊さん、姫様にあったら説教してやってよ」


「ほっほっほ。
  自覚のある者に、説教など無駄じゃよ。
  ところで頼みがあるのじゃが、この鷹を豊後の殿様に返してやってくれんかのぉ。
  どうも、この山を登りきるのはこの老体には無理なようじゃ。
  このまま、薩摩に帰ることにするでな」


「そっか。体に気をつけてね。
  豊後の殿様もきっと、薩摩の殿様に文を書くと思うから」

「どっこいしょ。
  さて、行くとするかの。
  よき出会いであった。娘さん」

「ええ。
  もう会う事はないと思うけど、体に気をつけてね。
  お坊さん」

 

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「姫様。
  間者達の気配が消えました」
「追撃はなし。
  向こうが引いてくれているんだから今回はそれでいいわ。
  追っかけて釣り野伏せなんて食らいたくないから。
  しっかし、チートじじいの臭いがしたと思ったら、案の定チートじじいじゃねーか……」
「ちなみにあの僧はどなたで?」
「ただのお坊さんという事にしておきなさいな。
  無粋だから。
  たしか、お坊さんの名前は日新斎って言うみたいだけど」
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「殿。
  追手はいない様子。
  間者一同無事に山を降りました。
  向こうも間者がかなり張り込んでいた様子」
「老体に鞭打ったかいがあったの。
  いいものが見れた。
  島津にとってこれからの敵は、大友の珠姫になるぞ。
  そして、かの姫は島津が肝付、伊東、相良を滅ぼして大友の脅威になると確信している。
  これほど嬉しい話があろうか。
  息子や孫達が、大隈や日向を奪い取って、島津の悲願を達成できると敵が認めているのだからな」
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作者より一言。
  試験作。
  会話のみで描写ができるかやってみた。
  ちなみに、宗太郎峠はその呼び名の由来が幕藩体制になってから見たいだけど、それまでの呼び名がいまいち分からないのでこのままで。
  なお、掲示板で指摘を受けた筑豊ですが、珠の一人称ならそのまま、三人称で記述があるならそこは旧秋月領に変更する予定です。

地理メモ
宗太郎峠 大分県佐伯市宇目大字重岡字宗太郎3542番地 (宗太郎駅のある場所を目安にしています)






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