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大友の姫巫女

ぼつ話 オサレ剣術と剣豪 


  杉乃井御殿 道場にて


  ヤンマーニヤンマーニヤンマーニヤイーヤ……


「姫さま、何しているの?」

「話しかけないで。知瑠乃。
  気が散るから」

 オサレポーズ中の珠です。
  え?
  そもそもオサレポーズって何って?
  まぁ、今の私の姿を説明するならば、一言で言うとそうとしか形容できない訳で。

 巫女装束を身に纏い、片手に火のついていない短筒を持って高く掲げて、首は横を向いて、下ろした手も短筒を持つ姿は知瑠乃でなくても質問したくなる訳で。
  これ、神力発動条件だから仕方ない。
  剣豪将軍の剣術を目の当たりにし、夜盗に陵辱されそうになって初めて人を斬った訳なのだけど、己自身を守る力は必要だと痛感した次第で。
  信仰も増え、神力も増したのでちょっと自分の身を自分で守る力を手に入れようと考えたのだが、これが存外に難しい。
  たとえば戦場に出た場合、死傷率トップの矢を防げないと意味ないし、これから確実に増える鉄砲にも対処できないとスキルを取る意味が無い。
  で、そもそも私が戦場に出て刀を振るうなんてパターンは、本陣崩壊の果ての敗走時だから、大量にいる敵足軽をなぎ倒さないといけない。
  そんなえらく難しい想定条件に合う剣術とかあったかいなと脳内検索をかける事しばらく、出てきたワードが『ガン=カタ』とか『生涯無敵流』とかだったり。
  ……何かこの時点で色々とツッコミが入るだろうが、無視。
  あこがれたりしない?
  暴れん坊将軍みたいに、出てくる侍を斬って斬って斬り捲るって。
  実際に死人が出れば、また嫌悪感が出たり血の臭いで吐いたりするのだろうけど、考えるだけは自由だ。
  かくして考案され、神力を使って取った必殺剣術スキルが『ヤンマーニ』である。
  スキル発動条件がかなりシビアで、

 露出の多い衣服を着て、両手に銃を持ったままオサレポーズを『ヤンマーニ』(何処からとも無く鳴り続ける)が流れる六分三十秒とり続ける。

 うん。
  南北に日本が分かれた世界のペルシャ湾で沈んだ空母ミッドウェイに乗艦していたリチャード・バーグ中佐の言葉をパクルならば、

「敗走時における六分三十秒。
  永遠に等しいじゃないか!」

 まぁ、襲い掛かる対艦ミサイルよりはマシなのだろうが、まったく合戦時に役に立たないネタスキルである。
  とはいえ、その効果は絶大で、

 発動後の二分三十秒間、『無敵』になる。

 無敵ですよ。無敵。
  スターを取ったヒゲの配管工をイメージしていただければ分かりやすいだろう。
  矢弾は『それる』し、刀槍は『当たらない』。
  なお、孔明の罠は対象外。
  また、元のネタ元からの副次効果としてこの格闘技を極めることにより、攻撃効果は120%上昇、防御面では63%上昇という極めると無敵になる八幡神の加護の無駄遣いここに極まれり。
  あと、派生でついてきたおっぱいリロードも常備。
  ……火縄銃なのに何処で使えと?
  クナイでも忍ばせておこうかしら?

 もちろん、ガンスキルの当然のようにUP。
  特に狙撃スキルは、ゴルゴも真っ青な遠距離スナイプOKというステキぶり。
  ……その狙撃スタイルが、

「その綺麗な顔をぶっ飛ばしてやる」

 系のオサレスナイプポーズなのを除けば。
  まぁ、こんな感じのネタスキルなのだ。

 え?何で取ったかって?

 いや、溜めてた神力を交易路の安全に使い切っちゃって、神力の制約と誓約がえらくきつくなってしまったのだ。
  もうちょっとまともなスキルにしたかったのだけどね。
  ちなみに、我等が八幡神。
  軍神として崇められているだけに、その手の戦略兵器系スキルが恐ろしくエグイ。
  例えば、某三○志Ⅶで猛威を振るった落雷なんて所詮中級スキル。
  んじゃ、最上級スキルって?
  皆さん、歴史で学んだでしょう。

 神風で元の艦隊を二度も玄界灘の底に叩き込んだ事を。

 なお、信仰心MAXだと、レイテ沖で合衆国第三艦隊を太平洋に沈める程度の能力を持つとか。
  そこまで行くと当然人はやめているのだが。
  何が言いたいのかというと、元のスキルがえらく高度でレベルの低い私では使いこなせないって事なのだ。
  え?溜める事を考えなかったのかって?
  みんなも経験ない?
  ゲームなんかで、微妙に残って残すのも惜しくないけど、何かまともなスキルを取るには足りないって感覚。
  実は、そんな感じだから遠慮なくネタに走れた訳で。
  で、取ってみた以上は使ってみたい訳で。

 
  ヤンマーニヤンマーニヤンマーニヤイーヤ……


  で、知瑠乃と長寿丸が私と同じポーズ(流石に両手に持っているのは棒だが)を取っていたり。
  まねしたいのは分かるが並んでやってるとかなりシュールだぞ。これ。
  で、そんな二人の後ろで大谷紀之介は表情を出す事無く控えていたり。
  政千代も、「また姫様の奇行が始まった」と顔で語りながら側に控えていたり。
  で、私の眼前には私の奇行を気にしながらも、剣術の訓練をしている豊後国人衆の若武者達三十人弱が。
  何をするかお分かりだろう。
  ヤンマーニの音が消え、所定時間を経過した事を悟った私はオサレポーズを解除して、声をあげた。

「乱入御免!」

 そのまま突貫。
  驚愕している若武者三人が、私の短筒で打ち倒される。
  彼らとて戦国の世を生きる侍。
  この時点で私を敵と認識して、その木刀の切っ先を私に向けて襲い掛かる。
  だが、無敵な私に隙は無かった。

 心を捕らえているはずの短筒が不可解な軌道で私から逸れる。
  ならばと突いた木刀に私の体が謎の動きでかわす。
  その間にも短筒(撃たないから鈍器代わり)は更にニ人の若武者を地面に叩き落し、足払いで後ろから襲ってきた若武者を宙に飛ばす。

 やばい。
  これ、めっさ気持ちいい。

 

 


「姫さまかっこいい!!」
「あねうえさま……凄い……」

 知瑠乃や長寿丸が興奮した声をあげる後ろで、政千代は大谷紀之介と共に彼女の主君である珠姫の無双に唖然としていた。
  この姫はいつの間にこれだけの剣を学んだというのか。
  数人の若武者相手に無双する珠姫の姿を見て、麟や瑠璃御前でも勝てるかと結論を出そうとした寸前でその声を聞いた。
 
「いけませぬな」

 政千代が声の方に振り返ると二人の男が珠姫無双を眺めていた。
  政千代は二人のうちの一人で政千代の父親である戸次鑑連に声をかけた。

「父上。
  と、こちらの方は?」

「姫様に会いに来られた肥後国相良家の丸目長恵殿だ。
  丸目殿。貴殿から見て姫様の剣は危ないか?」

「危のう御座いますな。
  あの剣ではいつか命を落しましょうぞ。
  それがしでよろしければ、それをお教えいたしますが?」

 政千代はその言葉を聴いて我を疑った。
  今、その無双をしている珠姫の剣が危ないというけど、何処が危ないのか彼女には分からない。
  そして、丸目長恵と同意見らしい戸次鑑連が苦笑して言葉を漏らす。

「殿から、『負けを教えよ』と以前言われておりましてな。
  それがしが、面倒を引き受けますゆえ、お願いしてもよろしいか?」

 戸次鑑連の言葉に、丸目長恵が笑みを漏らす。
  その笑みが餓狼に政千代には見えた。
  丸目長恵は、戸次鑑連から木刀を受け取って、咆える。

「珠姫様!
  乱入御免!!」

 

 

 え?
  分からないけど、体は動いていた。
  明らかに若衆と違う殺気と剣が私を襲っていた。

「肥後国、相良家家臣、丸目長恵!
  姫様、お相手仕る!!」

 体が退いていなければ、袈裟懸けに斬られていた。
  違う。
  この男、さっきまでの若武者と何かが違う。
  ……丸目長恵!!

 剣聖上泉秀綱の弟子の一人じゃないかっ!!!
  やばい。
  足軽や雑兵相手にヒャッハーする程度には強いだろうが、このスキル、本物の剣豪に通用するのか?
  残り時間は一分半か。

「姫様の技も、あまり時間が残っていない様子。
  顔に焦りが出ておりますぞ。
  仕掛けてきなされ」
 
  何で分かった。
  というか、さすが剣聖の弟子。
  こっちの表情や仕草でそこまで読んで、挑発するか。
  退くか?仕掛けるか?

「その刹那、頂きますぞ」

 うそっ!
  真正面から突っ込んできた。
  まだスキルは発動しているから交わして……

「術に頼り、体がそれを知らぬから、その先で読める」

 木刀が飛んできたっ!
  何処から?!
  倒れた若武者の木刀を私に蹴り上げたっ!?
  体が木刀を交わす。
  突っ込んでくる丸目長恵の袈裟懸けの木刀は体が無理して動いてもかわし切れないと踏んで、短筒を交差して受け止める。
  それが丸目長恵の狙いだった。
  片手で木刀を叩きつけ、空いたもう一つの手は私の短筒をしっかりと握っていた。


「技に溺れておりますな。姫様」


  その刹那に私は宙を舞った。
  動きを抑えられての足払いからの背負い投げ。
  地面に叩きつけられたと同時に私は負けた事を悟らされたのだった。


「姫様。
  姫様は何の為に剣を取りましたか?」

 叩きつけられたまま天井を見上げていたら、丸目長恵から声がかけられる。

「そりゃ、自分の身を自分で守る為じゃない」

「それが間違っておられる」

 即答で否定されたよ。おい。
  けど、何も言い返せなかったり。特に打ち付けられたので体のあちこちが結構痛かったり。

「姫様は率いられるお方。
  そんなお方が負けた時に己の身を守る事を考える事が間違っておられる。
  姫様が手を尽くし、将兵を信じればそもそも負けませぬ。
  ましてや、民を慕い、将兵を慈しむならば、姫様の盾となり命を捨てる者が出るでしょう」

 ああ、何かこの話思い出したぞ。
  うわ。
  私が剣豪将軍に諭した話じゃないか。
  己の話で己が悟らされるか……

「我等の仕事を奪ってくださるな。姫。
  剣の道、世事に捕らわれたままで極めるには少々道は厳しいですぞ」

 


  追記。
  なんでこんな所に丸目長恵が来たかっていうと……

「我が相良家は鳥神尾合戦において甚大な被害を受け……
  その建て直しのためにも、姫様に無尽をお願いしたく……」

 剣の道を極めても島津に勝てねーのかよと暗澹たる気持ちのまま、その無尽を了解し、私はこのネタスキルの封印を決めたのだった。

 

 追記そのニ

 ついでだからと、若武者連中の指導もお願いしたり。
  何しろ彼ら相手に無双中だった私が、目の前で叩き潰されたのだからそりゃ目の色を変えるわけで。
  四郎や小野和泉や高橋鎮理等が剣を学んでいたり。

「姫さま、この格好でいいの?」
「あ、あねうえ……う、動けないのがつらい……」

 オサレポーズに憧れた馬鹿二人の為に、政千代と大谷紀之介の視線がめっさ痛いのですが……

 


  作者より一言。
  この話、珠姫が孕んでしまったのと、みんな信長を待っていたからボツに。
  こんな話をこっそりと出してみたり。


 

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