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大友の姫巫女

第九十五話 覇王対姫巫女 覇王的女の口説き方  

 珠です。
  現在織田軍と一緒に京に向かっています。
  で、隣にご機嫌な覇王様。
  反対側には不機嫌の極みの四郎に挟まれて、馬に揺られてぽっくりぽっくりと道を進んでいたり。
  政千代と白貴姉さんは後ろではらはらして見ていたりするのだが、声をかけれる訳もなく。

「その馬、まだ乗っていたのか」

 あ、我が愛馬のサードステージは信長のプレゼント品だった。
  何だか殺意まで含んでいそうな四郎なんか気にせずに、信長は楽しそうにと笑う。

「そろそろそれもお役ご免だろう。
  新しい馬を用意してやるから乗ってゆけ」

「あら、ありがとう。
  気が利くけど、私は馬ごときで靡く女じゃないわよ」

 とりあえず気にしないそぶりをしながらも、内心は「『ウマドルファースト』きたー!」と喜びまくっているのだが。
  そんな私の内心を知ってか知らずか、信長は楽しそうに話を続ける。

「それぐらい分かっておるわ。
  百万石でそなたを雇わなかったのは、我が生涯最大の不覚よ。
  しかし、そなたの奇妙奇天烈な南蛮衣装は気に入ったぞ」

「お褒めに預かり恐悦至極。
  これでも自重したのよ。色々と」

 南蛮の娼婦服を魔改造して作らせた、某○リームクラブの歌が上手くてエロい人(何でも教師だとか)のコスチューム。
  太ももどころか腰まで見せるその深すぎるスリットに、黒のストッキングと蝶々結びの紐パンという一撃必殺悩殺コスチューム。
  下着を売るためにというか私が着たかったからなのだが、着ようとした時の四郎や政千代の大反対が。

「南蛮鎧とマント姿で陣取っているあれ(信長)に負けない服が他にあるの?
  なんなら、天鈿女命よろしく……」

「「わかりました。それで結構です」」

 なお、なんで天鈿女命の一言でこの二人が前言を撤回したかというと、引きこもったニート女神様を引っ張り出すためのストリップ以外に、この女神様かなり愉快な事をやらかしていたりするからなのだ。
  あまり詳しく書くと色々まずいのだが、気になる人は猿田彦との出会いの話を調べてみよう。
  凄いよ日本。
  この話、原点『古事記』や『日本書紀』だから、日本古代から未来を突っ走っているよ。
 
  で、かろうじて隠す所は隠れている(という事になっている)私の隣の覇王様は、南蛮鎧に赤マントなんて羽織ってかっぽかっぽとキセルを口に咥えてみたり。
  あと、陸上でその船長帽はどうかと。いや似合っているのですが。これがまた。
  キセルには火をつけてないらしく、南蛮からの献上品であるそれを私に見せつけているだけと見た。
  合戦も終わっているというのに負けず嫌いな奴である。
  まぁ、この手の勝負は外見もはったりの一つゆえ負けられないのは私も同じなわけで。

「左介を使い番に走らせたのに、何故さっさと京に上がって来ぬ?
  待ちくたびれたではないか」

「あんた、近江で戦やってて待ちくたびれたも何も無いでしょうが!」

 たまらず突っ込んでしまったが、信長は楽しそうに笑うのみ。
  そこに一騎の武将が駆けてきて、おべんちゃらを。

「まぁまぁ。
  殿は、姫様が来るのを楽しみにしていたのですぞ。
  それぞ、近江の戦など浅井勢を鬼神のように蹴散らして、疾風のごとくこの地に駆けつけた次第で」

 一城の城主が小姓の仕事奪ってどーするよ。羽柴秀吉。
  信長馬廻り衆の中で、立派な鎧着てそのおべんちゃら聞くとものすごく目立つ。
  しかし、弱兵とか言われているけど、流石に信長の馬廻りは精鋭とみた。
  考えてみると、尾張から付き従っている連中だろうから当然か。
  土地によって兵の強弱というのは確実に存在しているのだが、それを補うだけの経験をこの信長馬廻り衆はしてきているはずなのだ。
  伊達に尾張から畿内を押さえるまで、合戦を繰り返してきた訳じゃない。 
  そんな事を思っていると、ひどく目立つ大男が一人。
  また旗指物が『大ふへん者』って馬廻り衆でひどく目立ちやがる。
  あれ、もしかして前田慶次?
  で、そんなカブキ者を殺さんがごとく睨みつけている長い槍を持っている赤母衣衆って……まさかあれ槍の又左かよ。
  そういえば、漫画じゃ若く描かれていたけど、あの二人同世代なんだよなぁ。
  なお、この槍の又左さん(結婚時21歳)の奥方であるまつさん。
  結婚当時の年齢が12歳だそうで。
  その翌年には娘をこさえていたという、アグネス真っ青な逸話が。
  それを後で知った私の感想が、

「しまった。もう少し早く(ナニを)すればよかった」

 だったりするあたり、まぁいつもの事である。
  話はそれたが、前田利家と前田慶次は前田家の家督をめぐって因縁があって、慶次が出奔していたはずだったが……
  あ、いつの間にか秀吉が下がって利家に話しかけてる。

「どうした又左?
  戦は終わったのだぞ。
  もっとほがらかにせねば客人の姫が怯えるではないか」

「藤吉郎。
  なんであれがここにいる?」

「滝川殿がつけたのだ。
  おかげで姉川で殿の命を救ったので強く言えぬ」

「それで俺を赤母衣衆に推挙したな。
  おやじ殿や三左殿が押すのは分かっていたが、貴様が押したのは腑に落ちなかったのだ。
  難儀なものよ。
  城持ちになっても滝川殿と張り合うか」

「それも少しあるが、まつ殿とねねに一緒に頼み込まれてどうして断れようか。
  お主、俺の立場になって同じ事が言えるか?」

「……悪かった」

 仲いいのか?お前ら。
  何か親友というより、妻同士の仲に引きずられた旦那の腐れ縁というかなんというか。
  とにかくあれが元凶らしいのは間違いないらしい。
  信長の上洛そのものが早まっているから、地味に歴史が変わっているな。
  もしかしてと、信長そっちのけできょろきょろと周りを見ると、いやがった。
  四郎よりちょっと若そうな小姓のようでも馬廻り衆に入っているって事は、あれが掘久太郎なんだろうな。
  黒母衣衆に鉄砲を持って馬に乗っている奴発見。多分佐々内蔵助なんだろう。
  さすが信長馬廻り。
  石をなげたら有名人にぶち当たりやがる。

「何を見ている?」

「あんたの家臣よ。
  いい人間集めているじゃない」

 不審に思った信長の言葉に私は彼を見ずに答える。
  姉川での詳細はこっちにも届いているが、単機脱走なんて落ち武者狩りの格好の餌食だ。
  必死になって、彼ら馬廻りが信長を逃がしたのだろう。
  それが出来る兵が弱いはずが無い。
  うわ。
  いい笑顔で笑ってやがる。この覇王様。

 そんな無駄話でゆっくりと京へ向けて上洛中。
  また魔王様が不意にこんな事をおっしゃった。

「で、だ。
  あの南蛮船をくれ」

 ストレートですね。覇王様。
  最初はそう来ましたか。

「やだ」

「何隻もあるならいいではないか。
  十年で三十隻と堺の商人どもに大見得を切ったのだ。
  わしにも一枚噛ませろ」

 ちっ。
  堺の商人から聞き出したな。

「何であんたに船をやらないといけないのよ。
  こっちの利が無いじゃない」

 まぁ、大嘘なんだが。
  そして、しっかりとそれを信長は見逃さなかった。

「ふん。
  知らぬ振りか?
  大陸や南蛮にまで船を出す貴様が、伊勢湾を無視する訳が無かろう」

 やっぱり突いてきやがった。
  織田家の富の象徴であり、濃尾平野の穀物以上に織田家を支え続けた伊勢湾の海上交通利権。
  これが現在の西国物流網とリンクすればその富は更に大友や毛利、そして織田に転がり込む事になるのだが。

「あんた、分け前三分割で我慢できるの?」

 そこなのだ。問題は。
  彼が目指す天下布武において、大友も毛利も勢力をでかくさせ過ぎた。
  これで、信長が天下人としての地位を確立できるならまだ話は別だが、まだ過程でしかない彼に入れ込む事は家中が賛同しないだろう。
  しかも、その果てに待っているのは領地削減か、明徳の乱の山名か応永の乱の大内のような粛清である。

「構わん。
  貴様にこの日ノ本全てくれてやるわ。
  だから俺の所に来い!
  姫巫女」

 ちょ!
  なにストレート剛速球のデットボール投げてやがりますか。
  ああ、四郎の方から殺気のオーラまで漂っているし、政千代と白貴姉さんが止めに入るって珍しい光景が。
  それに反応して、慶次や又左や久太郎に内蔵助がさり気に刀に手をかけてやがりますし。
  秀吉あたりはフォローに回る為か、こっちに口出しするタイミング計っているみたいだし。
  こんな所で殺し合いなんて真っ平御免こうむるから何とかして話をそらさないと。

「また、日ノ本全部って剛毅に出たわね。
  足利義輝公擁する上杉すら倒せないというのに」

 的確に信長の痛い所をついたらしく、その大言壮語を吐く口元に僅かに歪みが生じたのを私は見逃さなかった。
  実にわざとらしくため息なんかをついて、信長を挑発する。

「とりあえずは、浅井を餌に朝倉の後詰を叩くつもり?
  何年かかるか分からないわよ」

「西が静かなら半年もかからぬわ」

 その信長の負け惜しみなんてこちらは手に取るように分かる訳で。
  頭の中に畿内の地図を思い描いて、信長が取るであろう一手をそらんじてみせる。

「浅井側に朝倉後詰を引き付けて、琵琶湖西側から若狭・越前を突く腹ね。
  先鋒は柴田、それとも丹羽かしら?」

 あ、私の一言で秀吉が固まったって事は図星だったか。
  けど、私を見る信長の視線は、獲物を前に喜ぶ狼のような視線をしているのですが。

「まるで見てきたかのように、我が陣立てを語るか。
  姫巫女のお告げでは、我が戦はどうなるのだ?」

 おーおー。
  この問題解けるなら解いて見ろって顔で睨んでくれちゃって。
  こっちは、あんたが十分チート人間だって事を知っているんだから、遠慮するつもりはない。

「あんたが勝つに決まっているじゃない。
  西はこうして足止めして、東の武田は今川攻撃という奇策で完全に関東に足を取られる。
  徳川支援に、北条と武田の外交関係を破綻させて北条を上杉と組ませて、上杉の主戦線を関東から信越に限定させる。
  で、本願寺をけしかけて北陸一帯で一向宗を蜂起させれば、動員兵数で優位に立っている織田が負ける事はありえない。
  よくこんな非道な策を考えたわね」

「あっはっはっはっは!
  聞いたか!皆の衆!
  霊験あらたかな大友の姫巫女が、我らの勝利を約束してくれたぞ!」

 涙まで流して大笑いしすぎです。覇王様。
  大体、これあんたがけしかけたんだろうが。
  言わなくても顔に出ていたらしい。
  信長が笑い涙を指でぬぐいながらぶっちゃける。

「俺のは精々二番煎じよ。
  お前と毛利公が九州でやらかした戦に比べれば、まだ詰めが甘いわ。
  それに……」

 信長の声が変わった。
  これだから歴史的チート人間はいやなのだ。
  こっちは、精々過去を知っているだけでしかないのに、その過去に気づきやがるんだから。

「貴様があげた策で、西がどう動くが一言も言っておらぬだろう。
  で、どう邪魔する?」

 それを言わせますか。
  今、この場で。
  四郎の殺気が、信長の覇気で吹き飛んだ。
  秀吉が、慶次や又左や久太郎や内蔵助も、四郎や政千代や白貴姉さんまでが私の次の一言を待って息をのむ。
  下手な事を言えば切られる。
  そう思わせるだけの張り詰めた空気が辺りを包んでいたのだ。
  私と信長を除いて。

「あんたの覇道を邪魔するならば、私は動く必要は無いわよ」

 なぜならば、私と信長はただ同じ物を見て、同じ言葉で語っているだけなのだから。
  毛利という緩衝地帯が存在する限りにおいて、私と信長は敵対する事は無いと分かっているからこその会話。

「策を考えるのは私ではなく毛利元就。
  あの西国の巨人は私なんて簡単に弄ぶから、気をつけることね」

「虎に翼を与えた貴様がそれを言うか。
  毛利元就に銭を与え続けて、俺と食い合わせるつもりだろうが、あの老人より俺は長生きするぞ」

 よく分かっていらっしゃる。
  毛利元就の寿命が尽きた場合、手ごわいだろうが結局毛利は織田にとって草刈場に変わる。
  もちろん、吉川元春や小早川隆景の両川は良将ではあるが、毛利輝元が居る以上前線司令官の立場から離れる事は無いだろう。
  つまり、対織田戦が勃発した場合、和戦まで含めたグランドデザインを描くのは私なのだ。
  それを見越して、信長は私に言葉を投げかけている。

「ぶっちゃけると」

「ぶっちゃける?」

「こっちの言葉よ。
  気にしないで。
  ぶっちゃけると、天下なんて要らないのよ。私にとってはね」

 本心から出ている言葉なのは、信長も理解しただろう。
  門司で毛利元就と語り合った時と同じ言葉だ。
  けど、その言葉を聞いた信長は見事なまでにはっきりと不機嫌という顔になる。

 

「傲慢だな。
  それは」

 

 しばらくの沈黙の後、不機嫌の極みから出た信長の言葉は私の想定外のものだった。
  傲慢って、天下なんて求めないって謙虚極まりない言葉なのに、傲慢と返しますか。
  目が口ほどに語っていたらしい。
  私の沈黙に、信長が怒鳴る。

「当たり前ではないか!
  応仁の乱から天下は乱れ続け、乱世は何時果てる事無く続いている。
  姫巫女。
  お前は何をしたか理解しているのか?
  西国をその手中に収め、かつての山名・細川・大内を超える大名家を西国に作り出したのだぞ!
  それは、麻のごとく乱れた天下が再び一つになる兆しだ!
  お前が作り出した西国を軸に、各大名家は一つになろうとしているのだ。
  天下は既にお前を選んでいる。
  そこから逃げるな!!」

 その信長の激昂に、私は目をぱちくりぱちくり。
  色々突っ込みたいのは山々なのだが、とりあえず……

「あのさ、あんた私に勝って欲しいの?」

「何を言っているんだ?姫巫女。
  俺は貴様については既に言っているはずだぞ」

 話がかみ合っていないのに、いつの間にか上機嫌に戻っている覇王様。まじわけわからない。

「天下。
  この戦国の世を纏めるに相応しい言葉だと思わないか?
  だが、それは所詮この日ノ本のみの言葉よ。
  それをぶち壊し、南蛮の果てに喧嘩を売ったうつけを知った時、俺は井の中の蛙だったと思い知ったわ」

 ちょ!
  誰よ。このチートに世界の概念を与えた奴はって……私だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!
  絶対、これスペイン人の府内襲撃の事だよね。
  頬が引きつり、嫌な汗が胸元に落ちるのがわかる。
  秀吉が凶器の果てに見た夢、その元になった信長の世界への思いの元が私だったなんて。
  その秀吉も今の話聞いているし。
  いや、この情況は史実よりもっとたちが悪い。
  人身売買で交易路が完成し、スペインに喧嘩を売ってルソン侵攻計画を立て、保険による海洋交通のリスクヘッジを私が打ち出している。
  そう。海外進出については、既に夢物語ではない。
 
「知っているだろう。姫巫女。
  唐、南蛮の果てに広がる天下の事を。
  俺は、この日ノ本だけでなく、この天下の果てまで眺めたいのだ!」

 ああ、やっと信長の言葉が理解できた。
  そりゃ、世界を我が手にするのならば、日本なんてちっぽけなんだろうな。
  そんな私の絶望などまったく気にせずに、信長は私にどどめの言葉を投げつけてくれたのである。

 

「俺の下に来い。姫巫女。
  貴様が見る天下を、俺が全て実現させてやる」


 


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