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大友の姫巫女

第八十五話 縁は世につれ世は病につれ 

 お元気ですか?
  絶賛戦争と謀反の後片付け中の珠です。
  新設分家の話から少し話をしようかと思っています。

 現在の私の領地が筑豊・香春・宇佐・別府の約十四万五千石。
  これに現金収入を足すと軽く三十万石超えます。
  で、三家謀反で空いた筑前約十七万石の差配も任されており、合計にて四十七万石なり。
  わっぽう。
  何処の国持ち大名ですか何処の。
  しかも、父上隠居後にリリーフとして後を継げととか言いやがるし。
  とりあえず、筑前十七万石の処分から先に片付ける事にします。
  確定なのは博多近隣の旧立花領はある程度は本家直轄にする事。
  これがちょいと難儀だったりする。

 博多に屋敷を構えてもらう大内輝弘の為に一万石。
  これは領主という事でなく、直轄領より渡すというサラリーマン侍であるという事。
  旧立花領十万石ちょっとの内半分は本家直轄にさせ、これで残りは十一万石。
  うーん。
  誰を動かすかちょっと面倒である。
  そういえば、小金原合戦で肥後の大友一門である託摩貞秀が討死にしていたんだよなぁ。
  配下も尼子勢の突撃を食らってボロボロになっているし。
  残された幼い息子の親義が継ぐ事は認められるだろうから、功績がわりに筑前に移すか。
  大友三大支族と呼ばれているけど、その領国だった肥後は菊池義武や小原鑑元の度重なる乱によって疲弊していたし。
  元々肥後は島津の通り道だったから関与を避けていたのもあるし、残っている託摩領を小金原合戦に出向いてくれた阿蘇家に渡すか。
  で、彼にも一万石渡して博多に屋敷を構えてもらおう。
  私や臼杵鑑速が常に博多にいない以上、一門の誰かは博多においておかないと。
  ついでだ。
  立花の黒殿姫を彼とくっつけるか。先の話だけど。
  立花の名前は四郎にやって、託摩と立花の血を復興させると。
  先の謀反で立花家は内紛の果てにこっちについたはいいが、その後立花家内で謀反が発生して立花鑑載以下家老連中以下まとめて死んでいたりする。
  とはいえ、小金原合戦に参加していない事もあって下の家臣がかなり温存されていた。
  すだぼろの託摩家家臣団の再編には一番手っ取り早そうだ。

 あ、小金原合戦の参加者に恩賞として銭を渡さないと。
  恵利暢尭は、かつての主君を討ち取った功績もあるから、遺児による秋月再興許可と筑豊に一万石渡してやろう。
  そのまま自分の領地に組み込めばいいのにしないんだよなぁ。彼は。
  ついでだ。ある種一番身分が浮いている彼に原鶴遊郭と玉名遊郭の御社衆を預けよう。
  今回の一件における御社衆の体たらくは流石に見過ごせないわ。
  二日市遊郭は筑紫広門に任せるか。
  内野・水城と連続で合戦やったし、私兵として筑紫家に組み込んで構わないと伝えておこう。
  こうなると、中洲遊郭の御社衆も誰かつけたい所なんだけど……
  戦後始末の書類を漁りながら候補者を捜索していたら目を引く項目が。
  岩屋城代の怒留湯融泉が職を辞したいと言ってきたらしい。
  まぁ、太刀洗合戦からの不手際は全て彼のせいに片付けるのは無理だけど、組織としては責任を背負わせないとどうしようもないんだよなぁ。
  更迭確定だった事もあって、自ら職を辞して責任を取ったという事らしい。
  ちょうど良い。
  中洲遊郭の御社衆を彼に預けるか。
  城代から遊郭の私兵隊長だから左遷という責任を取っているし。
  忠実であるがゆえに、博多における大友側の監視として働いてくれるだろう。
  
  後は……と。 
  降伏して命と宗像大宮司の職だけは許してもらった宗像氏貞だけど、その際に妹の色姫を人質として戸次鑑連に差し出しているんだよなぁ。
  そのままいけば戸次鑑連の側室になるんだけど、せっかくだから彼女に子供を孕んでもらって宗像完全に乗っ取るか。
  待てよ、側室が先に男孕んだらお家争いになるし、女にしとこう。
  というか、既に戸次鑑連の弟である戸次鑑方の長男戸次鎮連を養子にという話があるから、下手に子供を作るとお家争いが……orz
  よし。戸次鑑連を動かさずに、戸次家を分けてしまおう。
  一万田家と同じように、戸次家の本城である鎧ケ嶽城はそのまま、松尾城は大友本家が接収して筑前白山城三万石。
  史実で立花家臣に組み込まれた、薦野・米多比の両家もつけてしまおう。
  飛び地の統治は戸次鑑方やその子戸次鎮連に任せるだろうから、仁志の方呼んで神力使って男孕ましちまおう。
  男の方はいらないと思うけど八幡神の加護つきで。
  無いと、政千代や男勝りな誾千代にいじめられそうだし。
  内緒だけど、これが戸次鑑連にとって一番の褒美なのかもしれない。 

 で、残り六万石か。
  高橋鎮理に今、任せている香春に一万石つけて今度こそ家を興してもらおう。
  次男坊だからって、いつまでも私の陪臣扱いでいいはすがない。
  とはいえ、気づいてみると、彼私の家での次席家老格なんだよなぁ。
  宇佐や杉乃井はちょこちょこ戻って政務を見ていたけど、香春や筑豊は彼に任せっぱなしだったからなぁ。
  ちなみに筆頭家老は爺こと佐田隆居。
  そういや、高橋鎮理は今度斎藤鎮実の妹さんと祝言あげるんだっけ。めでたいから是非領地を押し付け……げふんげふん。
  プレゼントしてあげないと。

 ん?

 何か頭に引っかかるのが……

「姫様。よろしいでしょうか?」

 ひっかかりを思い出せずに、私は政千代の声に応じる。
 
「ん?
  なに~」

 紙の海で思考を泳がせていたら、頭に角が生えた政千代が見えた。
  最近、このあたり麟姉さんに似てきたな。

「また、だらしない格好で、こんなに書類を散らかして!
  もう、麟様が見たら嘆きますよ。
  ちゃんとするって約束したじゃないですか!」

 ちなみに、戦が終われば人というのは生命の営みに従ってわっふるするものらしく。
  麟姉さんもめでたくおめでたとなって実家に帰らせたのだった。
  また、その時一悶着あって、

「孕んだまま裸で踊ったり、孕んだまま戦に出ようとしたり、孕んだまま政をこなす姫様ががんばっているのに、何で私が休めましょうか!」

「私はいいの!
  姫様だもん!!」

 という壮絶主従バトルが勃発。
  あまりの頑固さについに私が父上に泣きついて、大大名大友義鎮直筆の命令書。

「休め」

 と書かれた休暇命令を持たせて一件落着したのだった。
  ちなみに、この一件を耳にした吉岡老や角隈石宗が、

「因果応報というのがありまして、己の所業は己に帰るものなのです」

 と、ちくちくと嫌味を私や父上(今回については完全に被害者)を言いやがって。
  この一件から、どうも私の無茶を止められるのは麟姉さんだという事が大友家中に知れ渡り、
  『姫様苦情受付』なる役所がこっそりと杉乃井に作られたとか何とか。
  なお、その次席は瑠璃姫で、四郎や政千代もそのメンバーだったり。
  近く、こいつを解体しようと考えているのだが、中々実行できずにいたりする。

「大丈夫。
  明日から本気出すから」

 働いたら負けみたいな台詞をほざいたら、政千代が深くため息をついて本題に入る。

「一万田鑑種殿が姫様にお会いしたいと」

 おや?
  彼、毛利側の要請で村上水軍を帰らせる為に、河野家に喧嘩をふっかけたその後始末の報告に来ていたんだっけ。
  たしか、その後の和議で伊予由並城は宇都宮領という手打ちは済んでいたと思うけど。

「まぁ、いいわ。
  会うって伝えておいて」

「はい」

 とてとてと去ってゆく政千代を見ながら、何かが引っかかるのだが分からずに一万田鑑種との面談に。
  で、その第一声が、

「それがしを買いませんか?」

 と来たもんだから、私も隣に控えていた政千代もポカーン。
  その顔がよほど面白かったのだろう。
  笑いながら、一万田鑑種は言葉を足す。

「姫様が次期当主になられるのが既定路線となり、姫様の抱える領地が増えたのもそれがし知っておりまする。
  で、それがしを姫様の家臣にしていたたきたく」

 深々と頭を下げる一万田鑑種に見事なまでに固まる私と政千代。
  とりあえず頭を再起動させた私は一言。

「あんた、伊予で罰ゲームさせていたんだけど?」

「げえむ?
  それはともかく、姫様が毛利と和議を結んだ以上、敵は長宗我部のみ。
  他の者に任せても問題ないかと」

 うわ。
  いけしゃあしゃあと言いやがって。

「他の者って誰よ?」

「兄上の長男である鑑実殿もいるし、伊予ならば佐伯惟教殿に任せても大丈夫でしょう。
  姫が口説いた土居清良殿もおりますし、一条家を差配している土居宗珊殿も知勇兼備の良将でございます」   

 なんというか、笑顔で淡々とこっちの手を塞いできやがる。
  それでいて腹に一物持っているあたり、某マッガーレを想像してしまう。
  そういや、彼子供できなかったというけど、ガチホモじゃねーだろーな。

「という訳で、姫様の期待に答えられない以上、姫様の下で苦労をと」

「で、本音は?」

 すごんで見せて核心を突いてみた。
  けど、小娘の凄みなんて彼の笑顔に一蹴される。

「私もよそに出されたり、謀反をたくらんだりで上に上がれそうもないので。
  ならば、仕えるにおいて、姫様の下が一番面白そうという理由はいかがでしょうか」

 ああ、とってもいい笑顔。
  マッガーレどころじゃないな。こいつ。
  「みんなで幸せになろうよ」と言いながら、辺境の埋めたて地に島流しになった正義の味方だ。
  『使える』んじゃない。
  『切れすぎる』。

「いいわ。
  とりあえず一万貫出すけど、きりきり働いてもらうから」

「ありがたき幸せ」

 猛毒っぽいが、薬にもなるから注意して使わない……ん?

「……どうなさいました。姫様。
  じっと私を見て」

 政千代を見て、浮かんでは消えていた一件が、薬の一言で繋がった。

 

「あああああああああああああああああああああああああああっっっっ!
  忘れてたっっっっっ!!!」


  
「何事ですか!
  姫様!!」

「どうしました!
  姫!」

 私の大声に控えていたくノ一の舞や、声が聞こえたので慌てて駆けつけたらしい四郎が部屋に入ってくるが、私はそれに見向きもしない。
  何でこんな重大な事を忘れていたんだ。私の馬鹿野郎!

「舞!
  今から九重や城島の牧場に文を書くから大急ぎで届けて!
  四郎は病院に行って、疱瘡の患者がいないか調べて!」

 私が出した疱瘡の一言に一同顔が真っ青になる。
  それだけこの時期の疱瘡――天然痘――は人に恐れられていたのである。

「姫様、その事をどちらで?」

「お告げよ!」

 いや、便利だわ。神の言葉。ありがとう母上。

「一万田鑑種。
  初仕事よ。
  人を集めて、疱瘡対策の指揮をとりなさい。
  患者がいたら一箇所に隔離する事。
  看護人は過去に感染している人間、瘢痕があるからわかるでしょ。
  死者は焼いて、死体や患者に触れたら手洗いとうがいを絶対にする事。
  また、素手で触らず、口と鼻は手ぬぐいで覆うように、その手ぬぐいは必ず使ったら熱湯につけて干す事。
  みんなも家に帰ったら手洗いとうがいを徹底させるように。
  いいわね!」

「はっ」

 そして、調べてみると流行寸前だった事に愕然とする。
  南蛮人の府内・別府攻撃による治安と生活環境の悪化で貧困層が感染。
  段々と全体に広がる前にこうして発覚できたのが幸いだった。
  そして、舞に持たせた手紙『牛痘の牛はいないか』だが、城島高原にそれに良く似た症状の牛がいたので、即座にその牛の膿を府内の民に予防接種させたのだった。
  府内に病院があってカルテが作られていた事と、病院を作った事で患者がそこに来ていた事が早期予防の決め手となった。
  いざとなったら肉壷で万能薬作れるけど、万の病人全てに行き渡る訳も無く、こうして早期に押さえられたのが本当に助かった。
  『火事は煙のうちに消せ』というのはまさしく金言に値する。
  この豊後における疱瘡予防と予防接種の発想は府内の病院に記録されて広がり、日本を疫病からかなり救う事になるのだがそれは別の話。

 

 
一言
  種痘の使い方が間違っていたので修正。

 

 

地理メモ

松尾城  大分県豊後大野市松尾字城山
鎧ケ嶽城 豊後大野市大野町田中北



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