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大友の姫巫女

第八十四話 戦争芸術 あとしまつ 

 1565年 12月 門司

 その日、門司は戒厳令下にあった。
  彦島の毛利水軍はいつでも動けるように水夫が位置につき、大友の南蛮船も近くで何かあったら駆けつけられるように停泊していた。
  大友と毛利の双方の間者が門司の町に大量に入り込み、互いを監視しながら不審人物がいないかを探している。
  とはいえ、これは全て闇の中の仕業。
  裏方の緊迫感とは裏腹に、この街は自治都市として栄え、華やかな賑わいを醸し出していたのである。
  博多と違い互いの勢力圏の境にあって、大友と毛利の主権が意図的にあいまいとなった結果、門司は倭寇や南蛮人の海賊や犯罪組織も潜り込んでオリエンタル極まる町並みを醸し出していた。

「意図はしていたけど、北丹になっちゃったわね。
  世界は広大だわ」

 南蛮船から降りた後、出迎えの馬車に揺られて、珠姫は何気なく呟く。
  南予侵攻後に計画され、南蛮人の府内攻撃から始まる戦から加速度的にこの街は人が集まり、戦が終わり大友毛利連合の成立が確定してから三ヶ月、この街で建物を建てる木槌の音が途切れる事は無い。
  海の方を見ると土蔵が立ち並び、人足が沖合いの船から積んできた荷物を積み出したり、下ろしたりしている。
  博多と堺の大店は必ずここに店を出しているし、出さないと大店ではないと言われるぐらい。
  何しろ、大消費地である畿内と瀬戸内海で繋がっている街だ。
  北は蝦夷や沿海州、西は大陸、南は呂宋や南越にまで、海を経由して集められた物資は必ずこの港を通らないと畿内に届かない。 
  倉庫と物流を握った大友家と毛利家はこの街から上がる莫大な利益に目を丸くした。
  できればそんな利益を独占したい所なのだが、双方とも何故この街がこれだけの利益を上げているのか良く分かっていない。
  物流と倉庫を握る、つまり、消費地に必要なものをこちらの都合でコントロールできる、市場操作の概念を駆使して巨万の富を築き上げた珠姫の手法を侍達はまだ把握できなかった。
  もちろん、目聡い商人はうっすらと仕組みを理解しつつあったが、それゆえに口を硬く閉ざした。
  美味しい話は、知っている人間が少ないほど美味しいものなのだから。
  街中に入ると、朱色の建物や大陸風の楼閣が目立つ。
  唐人が屋敷を立てている証拠だ。
  かと思えば、大陸とも違う異国風の建物の建造も目立つ。
  ポルトガル人で、この地を終の棲家にした者達の屋敷なのだろう。
  そのうち、石造りの洋館もできるかもしれない。
  既に人口の激増を見越して、珠姫は紫川を水源とする水道建設計画を立てており、インフラ支配で門司への影響力を強めようとしているのは内緒である。
  彼ら異邦人の殆どが珠の遊女を身請けして、故郷に帰る事を捨てた者達だった。
  そんな彼を、この街は受け入れた。
  そして、この街は異国の風を身にまとってさらに華やかに変わってゆくのだろう。
  もちろん、光あるところには影もある。
  不意に馬車が止まる。

「どうしたの?」

 馬車の御者をやっている護衛の舞に珠姫は問いかける。

「辻が混雑しているみたいで、少しお待ちください」

 見ると、積荷を降ろしている馬車とかちあったらしい。
  向こうが引く事で珠姫の乗る馬車が相手の馬車とすれ違う。
  その馬車に積まれていた荷物とは、生まれたままの姿で鎖に繋がれ、皆お腹を膨らませた異国の女達だった。
  最初見たあまりの嫌悪感で吐いてしまい、彼女達を買い取った珠姫だが、その後彼女達は定期的にこの国に送り続けられた。
  スペイン船団の敗北はそろそろスペイン本国にも届いているだろう。
  彼らの思い通りに手に入らない商品として大友女は認知され、イスラム商人と大陸商人が手を組んで流通ルートを確立したらしい。
  あの馬車に乗っていた数人の女達の後ろには、百倍以上の女達が異国の土や海の藻屑ととして消えているはすである。
  そして、商人達の望みどおり調教を終えた彼女達が、故郷に戻れるのも今の航海の成功率から考えて百人に一人のはずである。
  なお、珠姫が買い取った女達だが、産後に体を崩して亡くなった者を除いて、彼女達の殆どは出産後に遊郭で働いている。
  女から母になったからなのだろうか。
  狂っていた彼女達は出産によって我に戻り、狂ったままの女も子供の為にその体を開いて働き出した。
  いずれ、彼女達も杏葉紋を彫られた最高級遊女の代名詞である大友女に成る者が出るだろう。
  スペインの府内攻撃を含め、既に大友女は裏社会の一商品の枠を超えた国際問題となる商品に化けていた。
  それは、そのシステムを作り出した珠姫が背負う責である。
  だが、それを珠姫は止めるつもりは無い。
  労働環境の整備等、社会面のサポートは更に進めるつもりだが、文化的後進国である戦国日本において、国際競争力を持つ商品というのがどれほど社会に寄与できるか分かっていたからである。
  もうすぐ生まれてくる娘がいるお腹を珠姫は無意識に触る。
  その顔が、我に返り子供の為に体を開いた異国の女と同じ目をしているのに珠姫自身気づいていなかった。
  その珠姫の目に、目的地である茶屋が入る。
  そこで、彼女は夏から起こった戦の最後の詰めをする予定だった。
  相手だった毛利元就と会う事によって。
  


  『たまたま』門司に買い物にきていた珠姫と、『たまたま』長門の視察に来て海の都合で門司に停泊した毛利元就が同じ時間、同じ場所にいる。
  そんな奇跡的偶然が起こるわけもない。
  安国寺恵瓊と臼杵鑑速が何度も顔を合わせ、小早川隆景や珠姫が何度も文を交わし続けてやっとまとまった和議の最後の実務者協議。
  それがこの会談なのだった。
  なお、この会談において、四郎と鶴姫は人質として南蛮船内で待機させられている。
  珠姫の身に何かあったらという事だが、もうこの時点で何も無い事を珠姫は確信していたりする。
  何しろ、表向きはともかく、この会談によって大友毛利連合が表に出ることになり、西国十六カ国という巨大勢力圏の出現は日本の歴史にかなり大きな波紋を投げかける事になる。
  茶屋の奥座敷の縁側に毛利元就は佇んで、庭を眺めていた。
  いつの間にか空は灰色で、ちらちらと雪が舞っている中、火鉢の中で炭が燃やされて暖をとれるようになっていた。

「おお、久しいな。娘よ」

「吉田郡山で会った時以来でしょうか。
  幸いかな、こうして生きながらえております。義父上」

 珠姫の笑顔の嫌味など、この戦国における化け物には効くわけが無い。
  好々爺の笑みで、珠姫を手招きする。

「四郎との子か。
  うまくやっているようで、嬉しいぞ」

「もうすぐ生まれます。
  わが子に戦を見せる事無く、終われたのは上々でした」

 毛利元就のしわがれた手が、緋色の着物を着た珠姫のお腹を布越しに触る。
  その布越しに手に伝わるのは、確かな新たな命の躍動だった。

「尼子の件で世話になった。
  大内の残党もあらかた片付いたし、これで安心して地獄に行ける」

「あら、てっきり極楽に行くかと思っていましたが?」

 珠姫のお腹を触っていた手がそのまま上がって、珠姫の頭を優しく撫でる。

「己のした事は自覚があるよ。
  だから、こうして新たな家族が見れるのが嬉しいのだ」

 毛利元就はその生涯において他の大名とくらべて異常なほどに一門の調整に力を注ぎ、兄弟達が争う事を諌め続けた男だった。
  そんな彼にとって、息子である四郎は当然の事だし、その嫁となる珠姫も本来は彼にとっては一門であり、家族にもなりえたのである。
  珠姫が大友の家を捨てる事ができたのならば。
  だが、珠姫は大友を背負ってここに来ている。
  その因果の不思議さに二人とも何気なしに笑う。

「尋ねるが、この同盟いつまで続くと思っている?」

 好々爺の笑みで珠姫の頭を撫でていた元就だが、口から出る言葉には凄みがあった。
  同じように、笑みを浮かべて撫でられるままの珠姫の口から漏れた言葉も、穏やかな口調の下に毒を忍ばしている。

「こちら側からは破るつもりはありません。
  そちら次第ですが、とりあえず五年。
  長ければ、二十年あたりという所でしょうか」

 


「そうか。
  それほどまで織田は伸びるのか」

 


  その毛利元就の何気ない一言で、珠姫は完全に凍りついた。
  その青ざめた顔から『何でばれた』とありありと物語っているが、好々爺の笑みのまま、毛利元就は珠姫を撫でていた手を引っ込めて呵呵と笑う。

「青いな。
  互いに利があるから同盟などは続くものだ。
  お主の方から破らぬというのなら、それをしなくていい理由があるはず。
  それは、畿内を押さえつつある、あの織田の若造が伸びるという理由だ」

 小金原合戦の後にやってきた、本多正行の報告からはや三ヶ月以上たち、既に織田信長は足利義昭を奉じて京に入っていた。
  尾張・美濃を押さえ、北伊勢を支配しつつあった織田信長の元に、足利義昭が転がり込んできたのは奇貨といってよかった。
  足利義昭を保護していた越前朝倉家が、越後にいる足利義輝を旗印とした上杉家主導の北陸一向一揆制圧戦に協力した為なのだが、これによって朝倉家中にて居場所を失った足利義昭が頼れるのが畿内近隣では織田家しか残っていなかったのも大きい。

 そして、彼にとっての奇跡はまだ続いた。
  現在京を押さえているのは三好家だが、その正当性が著しく揺らいでいた。
  三好家は越後に逃れた足利義輝の代わりに足利義栄を擁立したが、実権は三好三人衆(三好長逸・三好政康・岩成友通)が握ったままで、三好家当主である三好義継も傀儡と化していた。
  そして、三好家の内部対立は三好三人衆対足利義栄・三好義継となり、三好三人衆が勝利。
  二人を監禁し完全に実権を掌握したように見えたが、その際背中に腫物を患っていた足利義栄はそれが悪化しついに死去してしまう。
  そして、間抜けな事に足利義栄死去という衝撃に三好三人衆が混乱している隙を突いて三好義継が脱走。後に河内国高屋城で蜂起。
  それを支援したのが、紀伊・河内の守護大名畠山高政であり、三好義継脱走の手引きから裏で糸を引いた松永久秀だった。
  三好三人衆の正当性が無くなった今こそ、彼らを一掃できるチャンスではあったが、松永久秀にはその正統性がない。
  よって、三好義継を旗印に三好家の内紛という形にしたのだが、彼にとってその正当性も開戦さえすれば後はどうでもよかった。
  重要なのは、正統性無く京を押さえている三好三人衆に対して反旗を翻した事。
  ここまで仕込んで、松永久秀は織田信長に本多正行を送って同盟交渉を持ちかけたのである。
  そして、織田信長はこの奇跡を逃すつもりはなかった。

 六万の兵を集め、同盟国である徳川家にも協力を求めて、美濃防衛の二万の手勢を残して、伊勢から鈴鹿越えで近江六角家に雪崩れ込む。
  北近江を支配する浅井家とは同盟交渉の途中であったが、時間を惜しんで同盟交渉中の独断行動が後に浅井を反信長に走らせるのだが、それは後の話。
  既に観音寺騒動にて国人衆から見限られていた六角氏に織田の大軍を防ぐ力は残っていなかった。
  甲賀に逃げ込んだ六角軍を捨てて観音寺城を占拠した織田軍は、大和から上がる松永軍と共に京都に雪崩れ込む。
  兵を三好義継討伐に向けていた三好軍は京を守れずに逃走。
  ここに、織田信長と松永久秀によって擁立された、十五代将軍足利義昭が誕生したのである。


  それに激昂したのが、足利義輝を庇護する上杉輝虎である。

「義輝様を京に戻し、政道を正すのが筋なのに、織田は三好の真似事をするかっ!!」

 その激昂は政治的動きを嫌った足利義輝自らの説得をもはねつけ、対織田戦に向けて急速に戦備を整えようとしていた。
  もちろん、上杉の激怒は織田信長も最初から分かっており、貢物を大量におくって時間を稼ぎ、甲斐・信濃を押さえる武田家に牽制を依頼していた。
  また、松永久秀も、越後にいる足利義輝は一度は排除を考えたほどの危険人物である。
  珠姫の下に来た本多正行は、彼女に足利義昭の承認を求めたのである。
  それで西国からの脅威を減殺した織田・松永軍で上杉軍を迎え撃つ腹らしい。
  足利義輝を旗印とした上杉軍は、既に越前朝倉家と能登畠山家と共同で北陸の一向一揆勢を制圧している。
  上杉家は越中の過半を、朝倉家は加賀の大半を、畠山家は越中と加賀の一部を領有し、近江まで出るのに何も問題は無い。
  そして、甲賀に逃れた六角家は足利義輝のかつての庇護者であり、能登畠山家とは縁戚でもあった。
  そんな彼らがもし、京に攻め上るならば、兵力は朝倉二万、畠山五千、上杉一万の三万五千は確実に率いるだろうし、六角も五千程度は出してくる。
  更に動向がまだはっきりしない浅井家は、朝倉家と縁が深いからここも義輝側についたら五千程度の兵を出すと予想していた。
  これに対し織田家は徳川家や松永家等を率いて六万から七万ほどの兵で迎え撃とうとしていた。
  久方ぶりの畿内大乱において、西国からの脅威を排除する必要に迫られていたのだった。

 とはいえ、大友も毛利もこの畿内の動きに何もしなかった。
  双方とも合戦で疲れていたし、内部の体制固めに精一杯だったというのもある。
  だが、珠姫は信長の爆発的膨張を知っていたし、それに対する壁としての毛利家を使うつもりだったのであえて手を出さなかったというのもある。

「五年というのは、わしの寿命の事か?
  最初の危機は、輝元がこの門司の富に目がくらまないようにさせる事かのぉ」

 珠姫は顔が青ざめているどころか震えだしている。
  改めて、彼女の前にいる好々爺が戦国随一の英傑である事を思い知らされたのだった。

「言葉は選ぶべきだ。
  娘よ。
  ただこの程度の言葉があるのみで、賢者は推察できてしまうものだ」

「はい。
  肝に銘じます……」

 既に会話の主導権が元就に移っているのを珠姫は自覚しているが、それを取りもとせない。
  とはいえ、その主導権を使って元就は何かをするわけでもなかった。
  精々、犯人の目の前で、犯行の手口から動機まで淡々と語る探偵となって、犯人をいたぶって遊ぶぐらいの事しかしない。

(生まれてくる娘には、絶対にこのチートじじいに会わせないようにしよう)

 そんな事を考えつつ、それすら見抜かれているとうっすらと珠姫は頬に汗を浮かべてがんばって笑みを浮かべた。
  
「で、その織田の小僧に対抗するために、わしは何処まで国を切り取ればいい?」

 事、ここまでくると隠すのが馬鹿らしくなる。
  珠姫も吹っ切れたような顔で、西国切り取りの絵図面を広げる。

「最低でも、播磨と淡路までは取ってください。
  水軍衆が対織田戦において重要になります。
  それと、浦上家の宇喜多直家にはお気をつけて」

 何か考え込む振りをしながら、珠姫を鋭く見つめ、元就は殺気をこめて一言。

「お主が持つ南蛮船が欲しいのぉ」

 だが、その言葉を珠姫は待っていた。
  視線を逸らさずに即答する。

「必要ならお渡ししましょう。
  大将に四郎をつけて」

 毛利元就は、彼女の最重要戦力と目されていた南蛮船譲渡を珠姫があっさり認め、しかもその大将に四郎を返しても構わないと言った事で、織田の小僧が容易にならざる敵である事を理解した。

「で、お主は島津を潰すのか?」
「いえ。
  返り討ちに合うので、なんとか取り込みたいと。
  できなければ国境を硬く閉じて、貝のように篭っていようかと」

 さっきとは裏腹に、その珠姫のおどけた口調に毛利元就も笑う。
  十二カ国を支配する大友家が、まだ薩摩を統一したばかりの島津家をこんなに恐れている。
  まぁ、鳥神尾の大敗の詳報は間者の手から聞いていたので、それも理解できると元就は思っていたが口には出さない。
 
「四国はどうする?」
「阿波の三好はいずれ、織田か松永が潰してくれと頼んでくるでしょう。
  長宗我部を使います。
  敵に走られるより味方に取り込むべきです」

 四国は山ばかりで瀬戸内海の制海権が安堵されるなら、これ以上の拡大はすべきではないと元就は判断していた。
  それは珠姫も同じで、長宗我部を取り込み、恩を売る事で対織田戦の尖兵にする腹積もりだった。
 
  そして、二人は暫く口を閉じ、庭に降る雪をなんとなく眺める。
  互いに語ることはもう無いかもしれない。
  それが分かっていたからこそ、互いの知恵と言葉を使った戦は最後の段階に来ようとしていた。

 

「で、西国を手中に収めて、その全てを織田の小僧にくれてやる訳だ」

「はい。
  我らは安芸一国、豊後一国にまで領地を減らされるでしょうね。
  天下を望まないならば」


  この二人の絵図面どおりに進んだら、毛利は周防・長門・安芸・石見・出雲・備後・備中・備前・美作・伯耆・因幡・播磨・但馬・伊予(一部)・讃岐の十五カ国、三百万石近くを領有する超巨大大名に成り上がる。
  大友も既に、豊後・豊前・肥前・肥後・筑前・筑後・日向・伊予(一部)・土佐(一部)・隠岐・壱岐・対馬と十二カ国を支配する大大名であり、島津や長宗我部を取り込むなら、大友主導で薩摩・大隈・土佐・阿波が加わるのだろう。
  西国は完全にこの二大勢力に分割される。
  それを中央の幕府(とそれを操る織田信長)が許す訳がなかった。

「明徳の乱の山名か、応永の乱の大内か」
「そして、果ては応仁の乱。
  また百年ほど戦をするかもしれませんね。
  今の幕府に力がないのは、幕府の持つ領地が少なすぎ、大名が持つ領地が多すぎるからです」

 朗らかに微笑む珠姫に、毛利元就も同じように微笑みながら尋ねた。

「わしは、天下など求めはせぬが、お主は天下はいらぬのか?」

 それは、吉田郡山城で珠姫がした質問の裏返しでもあった。
  その答えを珠姫は謳う。

「『唯春の夜の夢のごとし』。
  この場所にぴったりの答えだと思いませんか?」

 それが『平家物語』冒頭の一節である事が分かって、毛利元就は庭越しに降る雪の先にある壇ノ浦を眺めた。

「『おごれる者も久しからず』か。
  たしかに、一族全て海に身投げはしたくないな」

「天下を掴む人は、いずれそれに相応しい報いを受けるでしょう。
  わたしは、義父上と同じで、天下を抱くのには『少しばかり』小さすぎますので」

 その矮小なたとえにたまらず毛利元就も噴き出して笑う。

「『少しばかり』ときたか!
  日ノ本六十六カ国の上で腰を振るかと思っていたが」

 その笑い声に実に愉快かつ不機嫌そうな声で、珠姫が怒る。

「まぁ!
  私、まだ四郎にしかお腹を許していませんよ」

「他は?」

「……細かい事はいいんです!」

 そして、二人して笑う。

「よかろう。
  所詮、『偏に風の前の塵』ならば、大いに集めてくれようぞ」

「その塵に、いっぱい幸せをつめてあげます。
  童が歌い、百姓が心配なく畑を耕し、侍が戦がないと嘆くような幸せです。
  大友と毛利が組めば、最短で五年、最長で三十年ほど続く、そんな幸せな塵をたくさん作りましょう。
  きっと幕府も、それを吹き飛ばすのは躊躇う程度に」

 そして、二人して別れるまで笑い続けたのだった。

 

 年が変わり、大友毛利連合が成立し、正式な和議要請を出すために双方の使者が京に向かう事になる。
  毛利側は、安国寺恵瓊と小早川隆景。
  大友側は、臼杵鑑速と娘を産んだ珠姫。

 


  こうして姫巫女は毘沙門天の化身と戦う第六天魔王と京で再度対峙する。 


  地理メモ
  柑子岳城 福岡市西区草葉 臼杵家筑前飛び地
  高屋城  大阪府羽曳野市古市5丁目 三好義継 本拠
  飯盛山城 大阪府大東市北条(飯盛山山頂) 三好家本拠地
  信貴山城 奈良県平群町信貴山2280-1  松永久秀本拠
 

 

 


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