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大友の姫巫女

第七十六話 珠姫の戦国サラリーマン講座 

(とりあえず、もの悲しいBGMを思い浮かべてください)

 珠です。
  一応、この話の主人公やっています。

 珠です。
  けど、こうして語るのがひどく久しぶりのような気がします。

 珠です。
  というか、このギャグ分かる人居るのでしょうか?

 珠です……珠です……珠です……

 

 

 さて、世の中戦争だ合戦だと浮かれつつも、日常というものは常に存在しているわけで。
  非日常の極みである戦争の間でも、人は生活し、人を愛し、子を産み、お金を稼ぎ、埋立地でハゼを釣って干物にし、地下迷宮でワニに追いかけられたりするのです。
  うん。
  ロボットアニメだったはずなのに、ロボットが出てきていない話の方が大好きだったなぁ……
  何の事だが良く分かりませんが。ええ。

 ちなみに、現在私は府内城にて府内と別府の復興計画の全体指揮を取りつつ、謀反を起こした討伐軍への兵給の統括をするというかなり素敵な罰ゲーム中。
  いや、これがどれだけ異常か分かる?ねぇ?
  某スペースオペラでの役職で言えば、後方勤務本部長と工部尚書を兼務しているようなもの。
  体がいくらあっても足りやしねぇ……
  今回の一連の合戦で評価基準もいつの間にか変わってきています。
  以前は、合戦において功績がある者がそのまま評価されているのですが、今回の戦で別の評価面が見られるようになりました。
  内政官達の待遇上昇です。
  どういう事かといいますと、地位が上がったのではないのですが、彼ら内政官というのがおいしい職業であると気づいたらしいのです。
  合戦での功績はぶっちゃけるとハイリスク・ハイリターン。
  何しろ己の命をチップに博打をやっているものですから。
  その代わり、手柄を立てたら夢は城主という素敵な未来が待っています。
  で、内政官連中の場合はローリスク・ローリターン。
  武官には馬鹿にされるし、仕事は多いし、とはいえ死ぬ事はめったに無い。
  それを私が改めました。
  というより、流通機構の整備と貨幣経済の急速な進展で、経済規模が拡大したので彼ら内政官の取り分が武官が羨むほど増えているのです。

 まず、この時代の戦国大名の給料の支払い方をお話しましょう。
  多くの大名が国衆豪族の連合政権であるというのは以前からお話しましたが、多くの家臣は自領を持っています。
  とはいえ、そんな領地を持っていない家臣だって居ます。
  彼らはどうやって生活していたのか?
  大名直轄領の収入(米や銭)をもらっていたのです。
  サラリーマンですね。
  で、大名も生活があり、彼らサラリーマン侍は領地持ちの侍より収入が少ないのが常でした。
  ところが、貨幣経済の急速な発展で銭が力を持ち出すと、これが逆転します。
  たとえば、現在の杉乃井御殿奉行で瑠璃姫の旦那である藤原行春は、一万貫の大友家における最高位のサラリーマン侍だったりする。
  これ、現在時の木下藤吉郎や滝川一益が織田家重臣としてもらっていたサラリーが二千五百貫という事を知れば、これがどれぐらいの価値になるかお分かりだと思う。
  で、災害や一揆に関係なく、毎月約八百貫が入る藤原行春に対して、領地持ちは秋の収穫頼みで、毎月の遣り繰りは商人に証文を書いてもらうという不安定さ。
  そして、ここにきてやっとですが、読み書き算盤ができる人材が大友家中に新世代として入りだしています。

「武功を立てなくても、文才でちゃんと生活できるよ」 

 それがやっと大友家中に広がったのでした。
  彼らには奉行・代官職の他に関所役人をさせる事で雇用を促進させます。
  え?関所の通行料高騰で物流が歪まないかって?
  甘いです。
  通行料はこちらで抑える代わりに、彼らには別の方面で儲けさせるのです。
  つまり、関所前の宿場町運営や、関所間の馬借(もちろん彼らに運ばせると通行料割引あり)、武芸も才があるなら、街道間の盗賊討伐での盗賊が溜め込んだ財宝は彼らに全て与えたり。
  イメージは武力を持ったまま民営化された道路公団や国鉄がサイドビジネスを展開するような。
  やっている事は、某大陸の人民共和国と名のつく国の軍閥と変わらないのは内緒。
  まだまだあります。
  関所役人は大友本家直轄職にする為、改定大友義長条々を叩き込ませた上で簡易司法権を付与させます。
  つまり、国人達の手に負えない村々での大規模な揉め事が起こった時に、最初に仲裁するのはこれらの関所役人という事です。
  都合がいいのは、関所ですから、国人領の境とか邪魔にならない所にあるわけで。
  彼ら国人領の司法権を邪魔しないという所がポイントです。
  賄賂が当たり前だったこのご時世、丸く治めれば銭がウハウハです。
  で、その裁定が気に入らないなら奉行に申し立て、更にそこで収まらないなら加判衆の出番という事です。
  ただ、これをすると関所役人は地域と土着するので、任期は五年と決めて各地をたらい回しに、そして彼らの中で優秀な者が次の奉行や代官となる予定です。
  もちろん悪さをする輩もいるので、利害が対立する国人領主から監視役である大目付職を創設して相互チェックをさせますよ。
  そして、現在謀反討伐と復興事業で馬宿大忙しです。
  武官はとりあえず戦争が終わらないと褒美が確定しません。
  もちろん、戦の最中の衣食住や合戦時の即時褒美の銭などは支給しますが、彼らが望む領地が戦争が終わらないと絵に描いた餅だからです。
  しかし、文官連中が経営している馬宿はお構いなしに銭を生み出し続けています。
  中には、溢れる銭を領主に貸している才覚ありすぎる輩も居る始末。
  流石に豊臣政権末期の武官と文官の対立になりかねないので、私が立て替えて武家への貸金業は禁止する事を徹底させましたが。
  何しろ、私も彼ら窮乏する国人衆から領地を買い取ってサラリーマン侍に切り替える事で、大友家内部の国人衆統制を狙っているのですから。

 さて、サラリーマン侍が出てきたならば、彼らの出世のゴールも用意するべきで。
  まぁ前世で最高位の社長まで上り詰めた島○作までは行かないけど、サクセスストーリーは彼らサラリーマン侍の士気向上になるので。
  で、新設部署を作る事に。
  その名は評定衆。
  え?加判衆とどう違うのかって?
  説明しましょう。

 最高意思決定機関である大友家の評定は、加判衆と呼ばれています。
  つまり、決定について大名と共にその書類に加判(サイン)をするからで、意思決定=加判だったのです。
  これに目をつけました。
  評定というのは、話し合いであって、意思決定に参加できる権利と定義。
  加判衆の評定に彼らも参加させるのです。
  しかし、意思決定のサインをするのは加判衆のみ。
  当初は、取締役と執行役員みたいな位置づけを目指していたのですが、ノリは国連安全保障理事会の常任理事国と非常任理事国みたいな形に。
  で、評定衆には一門や譜代の他に他国の旗頭大名(阿蘇家や蒲池家等)を入れ、一門や譜代はこの職を経てから加判衆に就任させる事に。
  合議制のように見えて、迅速な決定は加判衆が出す加判書によってなされるから問題は無いはずです。
  この何も決まらないがゆえに、名誉職になりやすい評定衆が一応彼らサラリーマン侍のコールとなります。
  ついでだから、加判衆の引退ポストもここにしよう。
  吉岡老も田北老も元気なじじいだから、楽隠居させるのは少し惜しいし。


  分かりやすく項目を分けてみましょう。


  大名
   当然父上の出す命令は絶対ですので、父上の加判は大友領全域で効力を発揮します。

 加判衆 一門家より六人+右筆(私)
   我々が出す加判も大友領全域で効力を発揮します。
   また、数が奇数なのを良い事に、「加判衆の過半数の加判がある物」と「加判衆の半数以下で大名の加判がある物」で効力が出るように取り決めをしました。

 評定衆 大名と加判衆が参加して、更に一門や譜代、他国の旗頭大名(ノリは社外取締役)等が参加できる最高意思決定機関。
   ここでの決定に大名か加判衆が加判する事で、効力を発揮。
   サラリーマン侍のキャリアのゴールです。

 大目付
   領地持ちの国人衆より選抜。
   奉行衆や代官の監視。

 奉行衆・代官 
   地方の行政・司法機関
   サラリーマン侍達のキャリアの終点の一つ。

 関所役人
   ドサ回り前提だけど見入りの多い役職。
   簡易司法権と地域物流事業の長。

 
  大名独裁体制の道はまだまだ遠いですが、これによって他国国人衆の不満分子を意思決定に取り込んで暴発を防ぎ、組織が固まる事で突発時の崩壊を防げると。
  何しろ、史実の耳川合戦では、中枢部の武将達が軒並み討ち死にする羽目になって、その後の内乱と共に大友宗家の権力集中を促したとかいう間抜け極まるオチを知っているだけに、緩やかに狡猾に権力を掌握しないといけません。
  で、組織整備をかねて、これらの部署に人材をぶち込みました。

 具体的には、
  軍師というあやふやな地位にいた角隈石宗と、私の下で荷駄奉行をさせている父上お気に入りの田原親賢、次期加判衆の呼び声が私のせいで無駄に高い私の爺こと佐田隆居を評定衆に就任。
  バランスと現在合戦中なので田原親宏は見送り。だけど、彼も評定衆についてもらう。
  おなじく、旗頭大名として、蒲池鑑盛・阿蘇惟将・宇都宮豊綱の三人も評定衆に就任させます。
  位置づけからも土佐一条家も入れてもいいけど、向こうの方が格が高いので却下。
  龍造寺も謀反がなければここに入れたのだけどなぁ……数年は塗炭の苦しみを味わってもらおう。
  もちろん、府内に来てずっと評定なんてやっていたら領内が荒れるので、府内に来た時に評定に参加していいよ的な意味で。
  ただ、大友家最高意思決定機関にこうして参加できるという事は、彼らの箔付けにはいい効果が出るでしょう。
  そして、次期加判衆を狙う一門も彼らの合議に任せて推薦してもらいました。
  人数がそこそこ多いので割愛するけど、引退してもがんばる吉岡長益老の息子で麟姉さんの旦那である吉岡鑑興も評定衆にちゃっかり入れていたり。
  吉岡老引退後の加判衆就任は若すぎるという理由で国衆合議から落とされたみたいだけど、次期後継者候補の私に麟姉さん、後継者三位予定の大友親貞の保護者でもある吉岡家は、北浜夜戦で討ち死にした奈多鑑基のおかげで没落しつつある奈多家をしのぐ家になりつつあるのだった。

 で、暫定措置だけど、朝倉一玄と大谷吉房と藤原行春を私の権限で奉行衆に押し込み、復興計画の実務を担当してもらう事に。
  さらに財務と府内都市計画の顧問として、島井宗室と小西如清も奉行格として参加してもらい辣腕を振るってもらう事に。
  全権を私が持っているから、彼らの抜擢による国衆の不満も今のところ表に出ず、府内の町も復興は順調に進んでほっとしていたり。
  これで、謀反が潰せたら国衆の再編成を行って……制御された内乱は体制強化に繋がるってのは本当ですね。
  なんて仕事をしながら考えていると、

「ばーかばーか!」
「ばかじゃないもん!!」
「まぁまぁ。お二人とも落ち着いて」

 もはや府内城でもなじみとなってしまった、知瑠乃と長寿丸(現在後継者二位。元服したら私と交代予定)の喧嘩がって……
  そういや、治安が悪化した杉乃井御殿周辺の保育所を一時的に府内に持って来たのだった。
  なお、その府内の保育所も便利だと府内の町の奥様達が利用しだし、杉乃井移設後も使えるようにしてくれと嘆願が出たのは後の話。
  で、白貴姉さんについている知瑠乃は基本的にフリーパスだったのを良い事に、長寿丸(私の誘拐事件から護衛が強化されて鬱憤がたまっている)と更に喧嘩をする始末。
  そんな微笑ましい府内城の一コマだけど、誰かが二人をなだめている様な。
  顔を出してみると、三人とも似たような背丈で、長寿丸と知留乃をなだめている男の子が一人と、見事に返り討ちにあったのだろうぶったおれて泣いている男の子が数人。
  この辺りから、長寿丸にも近習を作る為に同じ年ぐらいの子供をつけるのだけど、その子供達が知瑠乃に喧嘩を売って返り討ちという所か。
  知瑠乃も傷だらけだし、ああ、立派にガキ大将してやがる。

「はいはい。二人とも何やっているのよ」

「あ!姫様だぁ!!」
「あ、あねうぇ……」

 私が出てゆくと、見る見るしょぼんとする長寿丸に、ガッツポーズの知瑠乃。
  既にこの時点で大体の想像がつくのだけど、仲裁に入っていた男の子に話を聞いてみる。

「で、どうしたのかな?」
「はっ。
  実は、小姓の者が『下賎の者が長寿丸様と遊ぶのは良くない』と知瑠乃殿に喧嘩を売り、知瑠乃殿が返り討ちに。
  で、事態を知った長寿丸様がこちらに来て、今度は知瑠乃殿が食って掛かっている次第で……」

 えらく礼儀正しいお子様だね君と、心の中で突っ込みながらため息を一つ。
  知瑠乃よ……ちゃんとさいきょーの道を歩んでてわたしゃうれしいよ……皮肉的な意味で。
  地味に彼女、私より初陣が早く(何しろ初陣がこの間の南蛮人の杉乃井攻めだ)、たまたま放った弩が南蛮人の大将に当たって落馬させるという功績を立てていたりする。
  私もあとで聞いて口あんぐり。
  しかも杉乃井連中皆同じに言うので、お子様だから褒めて終わらせようと父上にお目見えさせて功績報告を。

「さすがお前の下に仕える者よ!
  これからも励むが良い」

 と、父上も大笑いして褒美の菓子を知瑠乃にやったのだった。
  で、このさいきょーなお子様は、そのお菓子をその場で食べやがってまた父上は笑うわ、私を含めた回りは真っ青になるわで大変だったけど。
  私は功績を表に出すのが面倒(銭や領地はやるのに手続きが面倒なのだ)だったので、これで片付けたつもりだったのだ。
  ところが、同年代からすれば大名顔見せだけで重大事なのに、功績を認められて、褒美を賜ったという所が容赦なく嫉妬心を煽ったようで。
  おまけに長寿丸とのけんか友達まで話したら養母上まで、

「じゃあ、彼女このままいけば長寿丸の側室になるのね」

 と、ある種の公認になってしまって、同年代の女性からも嫉妬オーラが。
  まぁ、知瑠乃は知瑠乃ゆえにまったく気づいてないけど。
  で、半ば傍若無人を許され、強気を挫き弱きを助けるチビ大久保彦左衛門と化した彼女だから年下からの支持も絶大で、今や府内のおてんば娘として府内と別府の子供社会を牛耳っているのだった。
  こんな素敵な問題児に杉乃井から目付として小姓を一人つける羽目に。
  そこ、本末転倒って言わない。
  で、その小姓が今えらく礼儀正しい彼なのだけど、確か名前は大谷吉房の息子で紀之介と言った様な。
  何だろう?
  えらく名前にひっかかるんだよなぁ……

「どうなさいました?姫様」

「え?
  うん。ごめん。ちょっと考え事していた。
  知瑠乃。
  けんかはだめって言ったでしょ。
  長寿丸も小姓に弱いものいじめはだめって言わないと……」

 軽く二人を説教して三人を解放する。
  で、仕事戻ると書類が増えていた。
  ため息を深く深くついてその書類の処理を。
  荷駄奉行の田原親賢からで、原鶴遊郭からついに討伐軍本軍が動いた事で、これで戦は天王山を向かえる。
  ん?
  天王山?……いや、天下分け目……これも違うな……関が原……あ!!!
  さっきの礼儀正しい小姓がやっと繋がる。
  ゲームでは頭巾かぶった姿ばっかりだったし。彼。

 そりゃ、彼なら知瑠乃の相手もできるだろうなぁ。大谷吉継なら……


 

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