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大友の姫巫女

第五十六話 嵐を呼ぶ姫君襲来!

 

 それは、唐突にやってくる春の嵐のように、いきなりやってきた。

「……ここが、あの女の城ね」

「姫様。
  仮にも、これからご厄介になるかもしれぬお方をあの女呼ばわりは……」

「構わぬ。
  どうせ、閨では取り合うのだ。
  さて、我が君を奪った女に会いに行くとしましょうか」

 付いてきた侍女に言い捨てると、開きっぱなしの城門の前であくびをしていた三人の門番娘に言い放ったのだった。

「杉乃井御殿の主に取次ぎを願いたい。
  わらわは、来島通康の娘、鶴!
  我が君を取り戻しに参ったとな!!」

 

 珠です。
  今、とってもいい笑顔です。
  額に怒マークがついているけどそれは無視の方向で。

「で、わざわざ取り戻しにきたと。
  四郎を」

 お腹をさすりさすり四郎の子がいる事をアピール。
  なお、さり気なく隣に汗だらだらの四郎を座らせてしなだれてみたり。

「うむ。
  元々は、親同士の縁談とはいえ、わらわの所に四郎殿は来る予定だったのじゃ。
  返していただきたい」

 とりあえず、敵の容姿確認。
  一言で言えば、まこまこりーんの架空戦記姿。
  年は私より二つ三つ下か?
  船戦を意図したのだろう。髪は短く切られ、ほどよく焼けている褐色色の肌が健康的な姿をアピール。
  胸は、うむ。私の圧勝だ。えへん。

「四郎がここに来たのは、四郎の意思であって」

「それも家同士の縁談の方が重たいと存じますが、いかに?」

 わからんではないが、毛利と大友という大大名和議の切り札ともいえる、私と四郎の縁談を反故にできるだけのものが毛利と来島にあるのかしら……おや?

「ちょっと話を逸らすけど、鶴姫って、あの鶴姫?」

 あのがついた事で、彼女も自身のことではないと分かっていたのだろう。
  胸を張って、名の由来を語る。

「姫の言う、『あの』鶴姫とは大山祇神社の大宮司・大祝安用の娘の事であろう。
  大内から大三島を守りし姫の名をわらわももらったのじゃ。
  父は先ほどから言うた通り、河野一門の来島通康じゃ」

 あれ?
  その名前どっかで聞いたような…………
  来島通康の娘って???

「あああああああああああああああっっっっ!!!
  あんた、本物の四郎の許婚かぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 立ち上がって指差して叫ぶ私に、鶴姫は呆れ顔でぽつり。

「だから、言うたではないか。
  四郎殿はわらわの許婚なのじゃと」

「し、し、し、四郎!
  なんで婚約破棄してこなかったのよ!」

 かっくんかっくん四郎の首を揺らしながら少女妊婦大立ち回り中。
  神力の無駄遣いでお腹の子は無事なので。あしからず。

「ひ、ひ、ひ、姫。
  そ、そ、そ、それがしも、今聞いた次第で……」

「あんたのとこのチートしじいや、チートブラザースがこんな間の抜けた事する訳無いでしょうがっ!」

「で、ですが、尼子攻めや、兄上の逝去など毛利にも色々あった事もまた事実……」

 とりあえず、四郎を揺らす手を止めて深呼吸を二回。
  すーはーすーはー。
  おーけーおちつけくーるになろう。
  問題なのが、あの毛利一門の不手際なのか、策謀の一環なのか分からない所なのよねぇ。
  ちょっと状況を整理してみよう。

「あのさ、四郎の事は何処で知ったの?」

 鶴姫に尋ねると鶴姫もあっさりと口を割る。

「知るも何も、お主らこの間まで伊予で戦をしていたではないか。
  四郎殿が豊後であれだけ派手に元服した上、我らの土地である伊予であれだけ派手に戦をしておいて、分からぬと思っておるのか?」

 あ、なるほど。
  伊予の戦で河野ともやっていたわ。

「で、あんたのこの行動って、あんたの父上に了解とっているのよね?」

「……」

 何故黙る。
  とりあえず、鶴姫が連れてきた侍女の夏を睨んでみる。

「…………」

 あ、二人ともなんかいやな汗でてる。
  こう、やっちゃった感が漂う感じの汗がだらだらと。
  ちょっと、突付いてみよう。

「一応聞くけれども、これ、大友に対する開戦理由になるけどいいの?
  一部始終ばれたら、うちの軍勢河野に攻め込むと思うけど?」

 あ、侍女の夏さんがつんつんと鶴姫を突付いてる。

(どーするんですか。これ)
(ぅ……)

 小声で言っているんだろうけど、聞こえてますから。二人とも。
  あ、涙目になった。

「わらわのものなのじゃ!
  ずっと来るのを楽しみにしていたのに、残されたわらわがどれほど思うておったか知らぬじゃろう!!
  うえぇぇぇん!」

 あーあ、泣き出したよ。
  どうしましょう、これ?
  深く深くため息をついて、夏が鶴姫をあやすのを見るしかなかったのだった。

 

 で、現在鶴姫は泣き疲れてお休み中。
  後に残ったのは、夏と我々なのだが……。

「本当に、お騒がせをしてしまいまして……」

「いえいえ。
  わがまま姫の扱いは、慣れておりますゆえ」

 何故、こっちを見る?
  麟姉さんに瑠璃姫に四郎よ。

「正直、こんなに応対してもらえるとは思っていなかったのです。
  門前払いになって、九州まで来たら姫も諦めがつくだろうと」

 そんな事だろうとは思った。
  それならと疑問が湧く。

「もしかして、別の縁談でも上がった?」

 私の言葉に、夏もこくりと頷いたのだった。
  正確には、鶴姫と四郎は正規の許婚ではない。
  毛利家と河野家の縁組であり、それに選ばれたのが四郎と河野家一門の来島家という事である。
  だから、毛利と河野の名前がつくならば、ぶっちゃけると案山子でも構わないのだったりするのだが、四郎が私をたぶらかす為に畿内にあがる時に来島に寄ってしまったらしい。
  で、自分が嫁ぐ毛利の若君と勘違いするという事に。

「よろしければ、私が河野側に連絡をとりますが?」

 考えている私を、どう穏便に送り返すかと勘違いした瑠璃姫が申し出る。
  おそらく、元主君の宇都宮家を使うつもりなのだろう。
  敵対しているがゆえに、交渉のチャンネルは必ず持っているのがこの戦国の武家である。
  異民族戦をほとんど経験せず、同族間での争いに終始していたから、最後は話せば分かるという信頼が残っているのだった。
  けど、考えているのは別の事だったりする。

「私が奪った……か」

 あながち間違いでもないのがまた困る。
  史実ではこの二人が夫婦になっていたのだから。
  私というイレギュラーがこのような結果となって帰ってくるのは、因果応報としか言いようが無い訳で。
  四郎はいい男だ。
  それは認める。
  だから、彼に惚れる女は多いのだが、四郎は生真面目でもある。
  その上、独占欲がかなり強い。
  で、どうなるかというと、困ったぐらいの一穴主義人間に。
  父上並の淫蕩さを出してくれば、私や遊女総出でハーレム奉仕なんてするのに、あまり興味が無いらしい。
  まぁ、私も遠慮なく四郎の肉欲に溺れたのだからあまり強くいえません。はい。

 本当ならば、四郎をセフレの一人として扱って、母よろしく四六時中男に嬲られる肉欲生活を送る予定だったのだが……。
  神力、特に地母神系統の力を伸ばすのは数多くの男に抱かれるのは必須だし、そもそもそれを目的としたからこその遊郭なのだし。
  また羨ましいというか、困った事になりつつあるのが、替え玉として吉岡老達が作った恋という遊女。
  私の代わりに大友家若衆に抱かれているのだが、その人気ぶりに嫉妬と危機感があったりする。
  ぶっちゃけると、恋に抱かれた若衆が私ではなく、恋につくのではと恐れているのだった。
  身分の差なんて無かった前世の考えだと、平等であるという事は、誰にでもチャンスがあるという事でもある。
  となれば、そのリードを保ち、守るのは己の才能でしかない。
  私自身、大友珠という存在が大事なのであって、恋がそれに取って代わるならそれもありよねと吉岡老に釘をさしている。
  身分というもので己の安泰を図るつもりは無い。
  だからこそ、恋や、こうして何も考えずに飛び込んできた鶴姫に敬意を持つのだ。
  彼女達の思いに、四郎は答えてあげて欲しいと思う私がいる。
  と、同時に彼女達に負けてなるものかと思う私も確かにいる訳で。
  何言っているんだろう、私。
  考えがまとまらない。

「ちょっと、奥に引っ込むわ。
  とりあえず、二人はしばらく滞在してもらうから。
  いいわね」

 奥に一人入って、ふわふわ布団にぼすんと倒れる。
  妊婦だけど気にしなくていいこの神力はかなり便利だ。
  一人、転寝をしつつ考えると、行き着く所まで考えてしまうわけで。

「私、四郎に相応しい、いい女になれているかな?」

 思わず声を出してしまう。

「なれていますよ。姫」

「ふぁいっっっっっっ!?」

 びっくりして飛び起きましたよ。
  で、そのまま四郎に抱きつかれたり。

「いいい、いつからそこに居たのかな?かな?」

「声、かけましたよ。
  しっかり返事を頂きましたが?」

 私のあほぉぉぉぉぉぉ!!!
  何も考えずに返事なんかするなよぉぉぉっ!!

「私は、珠の為にここに居ます。
  いつも言っているのに、不安ですか?」

 優しく耳元で囁かれるのが心地よい。
  ああ、すっかり私、四郎にはまっちゃったなぁ。

「違うの。
  私が、四郎のお荷物になっていないか不安なのよ」

 私も前世は男だった身だ。
  美女よりどりみどりのハーレム願望ぐらい持っている。
  だから、私という鎖で四郎を縛りたくは無いのだ。

「珠は間違っている。
  私は、自ら珠にはまっているんです」

 そして照れくさそうに微笑む四郎を見ると、何を悩んでいたのか馬鹿馬鹿しくなって、噴き出してしまう。

「あははははっ!
  何だ。私達、互いにはまっているんじゃない」 
 
「今頃気づいたのですか?」  

 そのまま四郎は私の唇を塞ぐ。
  もうこれ以上の言葉はいらないとばかりに。
  私も気づいたら舌を絡めて唾液の交換をしていたり。

 あれ、いつもならここで麟姉さんか、瑠璃姫が出てきて説教タイムのような気が。 
  私の心を読んだかのごとく、四郎が先回りしてその答えを口に出す。

「珠自身がこの間、『大丈夫』と一同を丸め込んだではありませんか」

 あ……
  神力だけで説明できないから、うちの遊女三千人ほどにアンケートを取ったんだった。
  で、確率と統計を駆使しての説得に一同ドン引き。
  『なんでこのお方はその力を他の所にもっと向けないのか』と麟姉さんを呆れさせながら、Hの許可を取り付けたばかりだった。
  なお、この確率と統計の概念はしっかり他の部署にも広めるので、大友家は「文書化・データ化・ロジスティック化」の官僚主義の道を驀進する事に。
  さておいて。
  何だか、今日の四郎は凄く積極的なのですが。
  あっという間に、何も纏わぬ姿に剥かれてしまいましたよ。
  
「あ、あのね。
  四郎。
  今日の四郎、凄く積極的……」

「知りませんでした?
  珠が私を求めるのと同じぐらい、私も珠が欲しいんです」

 うわぁ。
  さすが、七十超えて子供を作ったチートじじいの息子。
  うすうす感づいてはいたけど、やっぱり四郎むっつりすけべだわ。

「もぉ、だから恋とか抱きなさいって言っているのに……」

「それが姫様の命令なら。
  ですが、わたしの子種は全て珠のものです」

「さすがにこれ以上妊娠できないわよ」

 そんな睦み事を言いながら四郎に身を任せる。
  久しぶりに私とお腹の娘は、四郎のミルクをいっぱいもらって安らかに眠れたのでした。


  次の日。

「居るのは構わないし、四郎を寝取ってもいいわよ。
  私もこんな体だし、四郎にも性欲の捌け口が必要だと思うし」

 一同の前で言い放つ私に、鶴姫は最初唖然としつつ、次に怒りで顔が真っ赤に。

「先にできたものの余裕じゃな!
  その挑発買った!
  絶対に四郎を寝取ってやるから覚悟せい!!」

 うん。
  お姫様の言う台詞じゃないわな。
  私も鶴姫も。

「あ、ちゃんと父上には連絡を取って滞在の許可を貰うように。
  いいわね?」

「…………はぃ」

 その後、吉岡老を呼んで顛末を話して、「姫が二人に増えましたな」と呆れられ、毛利側もこの顛末は想定外だったらしく慌てて安国寺恵瓊が飛んでくる始末。
  何しろ、戦争前だから、どんな細事で開戦になるか分かったものではない。
  大友と毛利の間に書簡が行きかい、河野の了解を取り付けて滞在許可が出るまで一苦労が。
  開戦間際の大友と毛利の間に行われた、これはそんな寸劇の一幕。


 



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