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大友の姫巫女

第五十三話 別府大茶会(前編)

 前回、フルボッコにされました珠です。
  やっぱり雷神つえーわ。

 ガチでするなら、長篠合戦ばりの弾幕……でも突破されそうだな。
  野戦陣地構築と九州を縦断する塹壕を築いて、あの機動力を封殺してくれるわと出来ない事を考えていたりします。
  確実に財政破綻するって。
  第一次大戦の塹壕戦で列強がそりゃ経済崩壊したのもわからんではない。
  戦わないという手段もある事にはあるのですが。
  結局、私は相手の正面をどうやって逸らすかを、常に考える人間みたいです。
  前世での話、友人とこんな話をしたのを思い出します。

「人が王道、覇道を行くのを別に気にしない。
  だが、獣道を通ってゴールするのは私だ」

 すっげぇいい性格していたなぁ。前世の私。
  まぁ、某スペースオペラの不敗の魔術師に憧れていたからの思考なのだけど。
  あれ、当人も言っていたけど、ペテン師や詐欺師って呼称の方が似合っていると思う。

 で、そんな大友の詐欺師候補な私が考案した光景が眼下に。

 うららかな春。
  そよぐ若草。
  陣幕の中には畳が敷かれ、釜から湯気が立ち上る。
  珍味を集め、茶を楽しみながら管弦の音に風情を感じる。
  そんな大人数の男女を集めた大茶会。
  別府大茶会が開催されていたのでした。

 ちなみに、これは父上こと大友義鎮の仕掛けです。
  集められた客人は九州・四国九カ国にわたる大友支配領域の商人や国人層、更に南蛮人や寺社・公家までと千人を越えています。
  大友家の威光を見せつけようという企みなのでずが、会場警護は戸次鑑連と旗本鎮台が参加。
  私は姫巫女衆と遊女を連れての接待役です。
  で、父上はというと、

「ぁ、あの……」

 狼狽しまくりな遊女の恋が何か言う前にばっさりと切り捨てる。

「あげませんよ。
  それ」

「……そうか」

 あんた、恋の持つ高麗象嵌青磁を欲しそうに眺めているんじゃないわよ!
  目が口ほどにものを言ったのか、胸を張って父上も言い切る。

「娘よ。
  数寄者というのは、どうしてもいいものを見ると欲しくなるのだ」

「だから?」

 エターナルフォースブリザード並みの絶対零度な視線で睨んであげるけど、そこは父上。
  弟見殺しにして茶器を欲したという愉快な逸話を持つお方は、空気を読んでいなかった。

「くれ」

「帰れ」

 これで、とぼとぼ近習引き連れて帰るのが最近の父上だったりする。
  なんだか、凄く人間味が出てきたな。近頃。
  まぁ、その半刻後に自分の茶席で母上と養母上の両花はべらせて、私の畿内土産の『松島』を来客者に自慢していたりする。
  こんな馬鹿父上だが、仕事はちゃんとしていたり。

 来るわ、来るわの来客者。
  何しろ豊後・豊前・筑前・筑後・肥前・肥後・日向・伊予・土佐の九カ国にまたがる領国の主だけに、色々と群がる輩も多い。
  そんな彼らに何がしかの影響を与え、それが大友にとってプラスになるようにするのが今回の茶会の目的である。
  前世でも、パーティに顔を出す輩がいるが、そんな人付き合いは縁とコネを生み、ビジネスチャンスに繋がってゆくのは戦国時代でも変わらない。

 なお、二番手に来客が多いのが私の茶席だったりするのだが、今回は恋のお披露目も兼ねている。
  え?影武者じゃなかったのかって?
  武田信玄だって、その死がすぐにばれた戦国時代ですよ。
  そんなのばれるに決まっているじゃないですか。
  それよりも影武者を堂々と公言して、迷わせた方がまだましです。
 
「しかし、良く似ておる。
  双子ではないのですな?」

 恋は微笑んで、その客に茶を差し出します。
  この客人、安国寺恵瓊というお坊様だったりしますが。
  ええ、毛利の公式外交使節ですよ。
  現在毛利とは休戦中ですので。はい。

「私がこんなので、戦場には彼女と元鎮殿におまかせしようかと。
  まぁ、毛利と戦などないと私は信じておりますが」

 おっきなお腹をさすりながら、茶菓子のカステラをはむはむと。
  そんな私を慈愛の顔で見る限り、ただのお坊様に見えるから不思議だ。

「まったくですな。
  姫も毛利の縁者ゆえ、互いの家が争う事は心が痛むでしょう」

 けど、それ以前に毛利の大使として目が笑っておりませんが。彼。

「まぁ、私は大友の姫ですわ。恵瓊様」

「おや、これは失礼」

「ほほほほほ……」

「はっはっはっはっ……」

 寒いよっ!
  極寒だよ!エターナルフォースブリザードだよっ!!
  私も安国寺恵瓊もとてもいい笑顔で語り合っているのに、恋がめっさ引いているよ。
  恋の表情が普通だよなぁ。本来なら。
  なんで私の茶席にこんなのがやってきたんだよって、門司がらみの話をしに来たのだから当然なのだが。

「門司の一件ですが、お館様は『姫の好きにするがよい』と。
  町を皇室御料所として寄進し、それぞれ大友と毛利から奉行を一人ずつ出す事で問題はないとの事」

 からくりはこうだ。
  町衆の自治は町衆が行うが、大勢力である大友と毛利の国境線上にある門司ゆえ、完全中立なんぞ受け入れられるわけも無く。
  頭に朝廷を持ってくる事で、権威で両勢力に自制を求め、朝廷には銭を払う事で双方の顔を立てる。
  更に、双方一人ずつの奉行(大使)を町衆に加える、つまり交戦中の外交チャンネルの確保に成功した訳だ。
  かくして、

「いらっしゃいませ!!野郎ども(ファッキンガイズ)!!」

な、門司中立地帯は無事に成立する事になる。
  
  茶を楽しむ安国寺恵瓊がぽつりと言葉を漏らす。

「しかし、姫が大友を継ぐのであれば、毛利は全面的な支援をしますが?」

 恋なんて体ががくがく震えて小動物のようだ。かわいい。
  私も、けっこう内心がくぶるなんだけど、色々あって慣れた。
  ボンバーマンとか、覇王とか、剣豪将軍とか、チートじじいとか。
  あの連中と付き合うって、そういう意味でも人間味が消えるよね。うん。

「ご冗談を。
  まぁ、私が継がなくても、大友は博多を毛利にさしあげる用意がありますが?
  その時、私は博多代官毛利元鎮の妻という役回りで」

 ころりと、安国寺恵瓊の手から高麗象嵌青磁がこぼれた。
  それ高いんだから。割れなくて良かった。
  陰謀って密室よりこんな場所の方がばれないから不思議だ。
  立花・宗像・原田をどうしても粛清・討伐するいい手が見つからなかった事前の策だったりするのだが、毛利が「珠は毛利の身内」の噂を流すのでそれを逆利用する手でもある。
  さて、この三家が毛利側に内通しているとしたら、その後起こる対大友戦において毛利一門の出撃を望む事になる。
  なぜなら、その一門は前線司令官という役割のほかに、現地勢力に対する人質という側面も出てくるからだ。
  そういう意味でも、大友の人質だった四郎は都合がいいのだった。
  そして、毛利(四郎の名前で私が)の手でこの三家を粛清する。
  大友はまったく手が汚れない。

「まるで、博多を失っても惜しくない言い方ですな。
  門司ができるからこその提案なのですかな?
  それとも、博多はまた大友の手に戻るとわかっての話なのですかな?」

 鋭いな。
  さすが毛利の外交僧。
  毛利が博多を保持する事ができないと、こっちが踏んでいるのを見抜いてやがる。
  当初の門司中立化構想で毛利軍殲滅を考えていた私ですが、予想外の事態に計画を修正する為に。

 織田信長の美濃征服完了です。

 早い。
  本来の歴史より早すぎる。
  ボンバーマンこと松永久秀(なお、彼が作り上げた足利義栄の最大のスポンサーが我が大友家だったりする)の手紙でこの事態を知り、一日中呆然としてみんなを心配させてしまったり。
  こうなると、毛利の殲滅どころか毛利両川すら殺せない。

 理由は簡単。
  圧倒的な動員力とそれを維持できる兵給を持つ織田が相手だと、毛利を滅ぼして九州を統一した大友でも勝てないからです。
  大友は、まだ一門・国衆の力が強すぎる。
  この間の模擬戦フルボッコも、豊後国衆あたりは「増長した豊前国衆に冷や水をかけた」と喝采したのだから。
  それぞ本願寺戦並の長期戦闘の果てに、織田に降伏するのが目に見えている。
  そうなると、織田信長最後の敵となる毛利は潰せない。
  これを潰して、信長と直接対決なんて悪夢は見たくない。
  もちろん、これは裏面もある。
  織田が対毛利戦を仕掛けた場合、大友がその勢力を維持できていたら自然と彼らは大友に寝返るだろう。
  その時に博多奪回の兵をあげて織田と対毛利同盟を組むという理由も作れるしね。
  まぁ、先の長いはったりだったりするのだが、毛利はしばらく私の真意を測りかねて疑心暗鬼に落ちるだろう。
  豊前や筑前での流言を流した報復はこれで十分かな。

「さぁ?
  茶の席で無粋なお話はこれぐらいで。
  おほほ」

「はっはっは。
  たしかに。
  雅な席で、大内の遺児が居なければ九州で戦をする必要が無いなんて、無粋な話は無しですな」

「本当ですわ。
  こんなにいい日ですのに。
  あ、恋、手止まってる」

「ぁ!姫様申し訳ございませんっ!!」

 恋が、慌てて茶を作り、隣で待っていた別のお客であるお侍さん二人に相次いでお茶を差し出した。
  そのお侍二人ってのが、浦上家家臣宇喜多直家と、龍造寺家家臣鍋島信生って言うのですが。
  何?この腹黒実務者協議。
  そんな二人は礼法に則って、恋のお茶を飲み、抑揚の無い声でこう告げたのだった。

「結構なお手前で」

 と。


 

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