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大友の姫巫女

第四十二話 南予侵攻 あとしまつ

 伊予長浜上陸から六十日

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をしている珠です。

 西園寺領の制圧は結局一月半ほどかかりました。
  ……だから山野の領地ってのは……
  この一月半の八割が移動です。
  まじで動くのに一仕事……。

 あの後、南北同時侵攻となった西園寺領は、各城主が個々に戦う道を選び、次々と落とされていきました。
  まず、包囲していた八幡浜元城の摂津親安が開城、降伏。
  次に、同じ宇都宮の流れらしい白木城主の宇都宮乗綱が内応。
  そして鳥坂峠に侵攻。
  内部ががたがたになっている西園寺勢にこれを支える力なく、ついに本拠黒瀬城を眼下におさめる事に。
  後継者を討たれ、自らも病魔に苦しんでいた西園寺実充はこれで降伏を決意。
  ここに名族西園寺家は滅ぶ事になる。
  ただ、西園寺家は特に豪族の力が強く、各城主がどれだけ従うかが疑問視されていて。
  黒瀬城が落ちた事により、城主が討たれた三滝城はそのまま開城し、 竜ヶ森城は逃げ帰った魚成親能がやはり開城、降伏。
  残りの諸城は結局、落さないといけない破目に。

 一条領に派遣していた大友先遣隊に姫巫女衆を加えた五千で残りの城を掃討です。
  なお、鳥坂峠合戦で損害を受けた宇佐衆はこの時点で戻しています。
  御社衆と香春岳城城兵も八幡浜駐屯の後、徐々に帰還させていますが予備兵扱い。
  既に、宇都宮に内応した白木城と萩之森城は、宇都宮家に編入する事で話がついています。
  残りは伊予方分を設けて、加判衆になる一万田親実とその弟高橋鑑種に任せる予定。
  代わりに、筑前太宰府の高橋鑑種の領地全てと、豊後にある一万田氏領地の半分にあたる鳥屋山城近辺を直轄領に。
  現状で西園寺実充が統治していた三万石分に、現在攻めている城々の領土まで入れたら五万石は行くかなと。
  更に一条領の監督がこれに付与され、加判衆の中では最大規模の領国になります。
  まぁ、毛利と長宗我部に挟まれて戦うので、これ位でかくしておかないと…
という本音もあるのですが。
  あと、奥さん連れてっていいよという事は既に言っているので、これで父上に奥さん奪われるフラグは折りました。
 
  で、最後まで残っていた法華津本城を総攻撃中。
  ここを治める法華津前延は以前の大友家侵攻時にも徹底抗戦しており、こうなるのはある種覚悟はしていました。
  なお、法華津氏は西園寺家の水軍衆を抑えている一族なので、制圧後は安宅冬康に任せて残党を取り込んで水軍の再編成を任せる予定。
  こうして、宇和海を完全制圧した新生大友水軍は、その根拠地を伊予日振島に置くつもりです。
 
「姫様。
  ここにおられましたか」

 本陣から離れ、四郎を連れて法華津本城が見える場所に。
  補給が届いている攻め手に対して、援軍も無い守兵はただ必死の抵抗をしているだけにすぎない。
  落城は時間の問題だった。

「どうしたの?
  高橋鑑種。
  貴方の隊は一度下がって休むはずでしょ」

「はっ。
  そのまま下がるのも失礼ゆえ、こうして挨拶をと」

 一人でふらふら歩くほど、わたしも馬鹿ではない。
  四方に薙刀を持たせた姫巫女衆が立ち、更に離れた所で舞がじっと私達のやり取りに耳を傾けていた。

「そうだ。
  貴方の名前、一万田に戻さない?」

 ふと思い立ったように私は高橋鑑種に告げる。

「また突然に……理由を聞かせていただいてもよろしいですか?」

 その言葉に含みがあるのを分かった上で、私は口を開く。

「実を言うとね、この戦の本当の目的は貴方にあったのよ。
  高橋鑑種。
  貴方を筑前太宰府から遠ざける為だけに、伊予くんだりでこれだけの大戦をしたんだな。
  これが」

 やっと種ばらしができた私が清々しい笑顔で笑うのに対して、高橋鑑種は私を敵を見るかのように鋭い視線で射抜く。

「どこまでお知りなのですかな?
  姫様?」

「全部。
  貴方が毛利に内通しているのも、立花鑑載と組んで独立しようとするのも。
  もっと前に、秋月種実の侵攻に内応しようとしていたのも全部ね」

 実は、彼、兄の一万田親実が奥方欲しさに父上に粛清される前から、毛利に内通していたりする。
  あくまで、兄の粛清うんぬんは謀反の口実に過ぎない。
  とはいえ、その謀反の口実にまたとんでもない色をつけてしまった父上も父上なのだが。

 とてもにこやかに笑う私に対して高橋鑑種は刀に手をあて、それを見て四郎も刀に手をかけ、姫巫女衆が高橋鑑種に薙刀を向ける。
  私は手をあげて四郎や姫巫女衆に手を出させない。
  もっとも、この手が勢い良く振り下ろされた時に高橋鑑種の首と胴体が分かれる事になるのだけど。

「ずっと疑問だったのよ。
  毛利の侵攻と謀略があまりに決まりすぎていた。
  いくら豊後が離れていたとはいえ、安芸と比べたらこっちの方が近いわ。
  にもかかわらず、毛利側の計略が常に蠢いていた。
  何故か?
  内通者がいるとその時に思った。
  で、後は秋月・筑紫と潰している時にね」

 と、ほざいているけど、実は前世知識で立花鑑載とあんたの二人が謀反の首謀者であるのは知っていたからだったりするのは内緒。

「筑前方分の臼杵鑑速は優秀よ。
  しかも、大友の外交全てに関与している。
  その彼が気づかずに、これだけ筑前で蠢動できる才能と権力があるとしたら、貴方しか浮かばなかったという訳」

 高橋鑑種は掛け値なしで優秀だ。
  一万田一門の中でも突出した才を持ち、今回の西園寺攻めでも多くの先陣を願い、その殆どを成功させたのだった。
  なお、史実でも彼は毛利内通後も殺されず、毛利側の九州方面軍司令官みたいな地位に立つぐらいなのだ。
  むざむざ毛利に渡してなるものか。
  第二戦線うんぬんはあくまで結果。
  主戦線の安定化の為に高橋鑑種を粛清するのが、今回の戦の本当の目的だったりする。
  まぁ、気づいたのかそれとも気が変わったのか、しっかりと結果を出したからこうして抱き込みにかかっているけど。

「試していたという事ですな。
  そして、それに適ったと」

 刀から手を離して高橋鑑種は苦笑する。
  彼も馬鹿ではない。
  ここで彼を切る選択肢がない事が分かったから。

「こちらからも一言よろしいですかな?
  そこまでわかっておいでなら、姫様自身の立場もご存知かと。
  それがしをそのままにしていたたければ、姫様が立たれた際に一番にて駆けつけまする。
  田原殿も、宇佐衆も、筑前・豊前の国衆はもとより、毛利も姫様を……」

「言うな。
  それ以上言えば、私は貴方を斬らねばならなくなる。
  助けた命は大事にしなさい」

 私の一喝で高橋鑑種は平伏し、頭を下げた。
  それにあわせて私は手をゆっくり下ろす。
  平伏した彼を斬るつもりはない。

「はっ。
  口が過ぎました。
  ご無礼、お許しくださいませ」

 私は大典太光世を抜いて、高橋鑑種の首筋に当てる。

「今回の一万田の知行替えは、貴方への罰よ。
  西園寺領と一条領、二十万石の代償に一万田は毛利と長宗我部に挟まれて苦しむ事になるでしょう。
  それで、一万田の家を保たせなさい。
  それが貴方への罰」

「はっ!
  寛大なるお裁きに感謝する次第……」

 その言葉を刀をしまった私の指で止める。

「あと、この事は私の胸にしまっておきます。
  それと、伊予がやばくなったら遠慮なく一族を連れて逃げること。
  豊後の一万田城を取らなかった意味を忘れないように。
  いいわね」

 ぎりぎりまで粘って、やばくなったら一門連れて逃げろという意味を高橋鑑種は間違いなく理解する。
  それは使い捨てにしないという私の暗黙の保証でもあるのだから。

「ははっ!
  一万田鑑種、今から姫様に死ぬまで忠誠を誓いまする!!!」

 この瞬間、私の南予侵攻作戦は本当の意味で終わった。

「じゃあ、帰りましょうか。
  豊後へ」

 まだ、法華津本城が頑張っているのだけど、それは私にとってどうでもいい事だった。

 なお、高橋鑑種に捨てさせた高橋の名前は、褒賞として吉弘鎮理に渡す事に。
  彼は以後、高橋鎮理と名乗るようになる。


 


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