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大友の姫巫女

第三十九話 南予侵攻 鳥坂峠合戦 あとしまつ 

 伊予長浜上陸から 八日目 鳥坂峠合戦の後


  さっく……さっく……さっく……

 ぽくぽくぽくぽくぽく……

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をしている珠です。
  え?
  なんでお経よんでいるんだって?
  ちょっと、鳥坂峠で人を殺し過ぎましたので、その後始末です。
  宇佐八幡宮は国家仏教の擁護者だった事もあり、神仏融合もいち早く成し遂げました。
  宇佐八幡宮の麓に弥勒寺ってお寺もあるのですよ。
  ですから、これぐらいちょちょいのちょいです。
  ……いえね。
  最初読み物がお経しかなかったの……マジで……
  文系の知識欲のリビドーがそりゃ数百のお経に向かいますって。
  弥勒寺の方でもちょっと神童ぶり発揮しちゃった(てへ)。
  解釈や教義は「珠姫に聞け」と。
  坊さん達よ。世俗化して特権階級になったとはいえそれはどーよ?
  更に、マイケル買いで買いあさった各宗派のお経や、果てにキリスト教の聖書まであるこの充実ぶり。
  もちろん、娯楽に飢えていた私は源氏物語から古今和歌集、十八史略に至るまで、堺や博多で手に入るありとあらえる書物をかき集めたり。
  宇佐の書庫が一杯になったので、別府の杉乃井御殿に大学と名付けた図書館を作りましたよ。
  どこぞの白黒魔法使いが盗みに入りたくなるような充実ぶりです。えへん。
  という事は、私は動きまくる大図書館かしらん?
  ……ぁ、その配役だと、私おぜうさまじゃないか。
  凄く納得。
  毛利のじじいに勝てないわけだ。
  逆補正がかかっていたんだな。きっと。
  うー。
  あ、お約束ですから門番は女性であの服着せています。
  あの服、この時代に無いから特注で作ったんですよ。
  ちゃんと、門番=中国という認識が別府では広がりつつある今日この頃です。
  あと、年などで仕事の出来なくなった遊女の皆様に写本をさせて雇用も作っています。
  え?学の無い遊女に写本なんてできるのかって?
  できるんだなぁ。これが。
  理由は判子。
  そう、活版印刷の一歩手前の作業です。
  見本を見ながら、ひらがなを明朝体で彫った判子でぺったんぺったんと。
  崩し字が主体だった書物で史実では廃れたのですが、勝算はあります。
  本というのは、とにかくばら撒いてしまえば勝ちです。
  村々にひらがなの本が普及し、それが教育水準を押し上げ、そこで生まれる秀才を抜擢する事で、勉強できれば出世できるという事を周知させなければならないのです。
  また、そうやって作られる本は和紙産業の発展に繋がり、扇や和傘などの技術革新に繋がっていきます。
  あ、ついでにアラビア数字も導入。
  目で見て分かるというのは本当に凄いわ。
  博多商人即座に取り入れたし。これ。
  府内から宇佐までの街道工事が進展しているのと馬の飼育が順調なので、博多から府内までの郵便制度も試験的に始めているのですよ。
  幸いかな、二日市・原鶴・香春・宇佐・別府等の遊郭がこの主要街道沿いにあるので、そこを中継地にしています。
  これが馬鹿受け。
  馬を使えば一日で博多-府内間の手紙のやり取りができるというので、情報が命の商人達から面白いように依頼が殺到。
  もちろん、更なる整備を前提に金をもぎ取りましたよ。

 話が逸れました。
  まぁ、そんな訳で後始末の為のお葬式をやっているのですよ。私が。
  だって坊さん呼ぶのめんどくさいし、お金かかりますし。
  なお、この時期の仏教は宗派間でも揉め事が多かったりしますが、大概は私が各宗派のお経をあげると見事に黙ります。
  普通、十五の小娘がお経を唱える事はしないわな。たしかに。
  で、冒頭のさっくさっくという音ですが、墓穴を掘る音です。
  掘っているのは、捕虜となった西園寺家の足軽としてやってきた農民の皆様。
  「穴掘って、一人埋めたら帰っていいよ」という事で仕事をさせています。
  これで来年のこの地は豊作になるでしょう。
  なお、帰る時には手弁当と少ないけど給金つき。
  “労働には報酬を”が、モットーの私です。
  何で捕虜をそのまま足軽として使わなかったって?
  農民の皆様は畑を耕すのが仕事です。
  下手に戦で失うとその後の統治が大変じゃないですか。
  それに、彼らを慰撫して帰す事で西園寺家の内部崩壊が誘えますしね。
  事実、八幡浜方面に向かう夜昼峠は西園寺兵が一兵もいなくなり、八幡浜萩森城の宇都宮房綱が内通の使者を送ってきたばかり。
  八幡浜は手に入ったも同然です。

 

「お、姫様じゃねーか!
  今日は裸にならんのか?」

「ならないわよ。
  代わりに、あんたたちの傷の手当てに来たの」

 四郎と白貴姉さんを連れて宇佐衆の陣幕にお見舞いです。
  佐田鎮綱が一礼する前に宇佐衆の足軽から下品な声が出るが、私はそれを笑い飛ばす。
  戦をすれば敵に死傷者が出るだけでなく、味方にも死傷者が出るのは当然の事です。
  この鳥坂峠合戦で出たこちらの死傷者は三百人ほど。
  なお、この死傷者の半分は寡兵で戦線を支えた佐田鎮綱率いる宇佐衆から。
  後方にて再編成をしないと戦えない損害を受けたからこそ、私が見舞いを決断した理由の一つです。
  損害比というのは、死者:その他で大体1:2の割合になる事が多い。
  この鳥坂峠合戦も例外でなく死者が百人ほど、残りは負傷者です。
 
「ほら。傷を見せて。
  洗ってあげるから」

「ありがてぇこって……
  姫様は観音様の生まれ変わりじゃ……
  なまんだぶなまんだぶ……」

 拝みながら差し出す腕の槍傷を、沸騰させてから冷ました水で洗い流す。
  白貴姉さんや、他の遊女連中も同じように傷口を洗い、ヨモギ汁を塗って包帯を巻いてゆく。
  しかし、包帯が高いなぁ。
  質のいい足軽には代えられないから仕方ないけどね。 

「なぁ、姫様よぉ。
  あんなに裸で俺達を挑発するなら抱かせろよぉ」

「あら、私では不満?
  姫様ご所望なら、遊女差し止めしちゃうけど……」

「悪かった!
  白貴様。俺が悪かったから、遊女差し止めは勘弁してくれ。
  あんたの肌が俺には馴染むんだよぉ」

 白貴姉さんの一言で、笑いと共に私に迫ってきた足軽が退散します。
  白貴姉さんと一緒だと、ほぼ私に話が来ずに終わるから、私は苦笑するばかり。
  これが麟姉さんだと、大説教大会に突入するのが目に見えている。
  この手のあしらい方は白貴姉さんなれているなぁ。
  勉強になる。
  あと、白貴姉さんと四郎が私についたおかげて、麟姉さんが後ろで事務作業に専念できるというのも大きかったり。
  今回の戦は宇都宮側に瑠璃姫もいるから、後方作業に滞りはありません。
  まぁ、宇都宮含めても全軍で三千と少ないこともあるんだけどね。

 壷神山で万能薬作成の神力を得たから使ってもいいんだけど、制約と誓約の結果、肉壷から出るお汁でないといけない。
  それ、なんのSMプレイですか?
  そんな訳で、お汁をこっそり集めて使うという使い勝手の悪いスキルに。
  万能薬のスキルだから、それぐらいの条件は当たり前といえば当たり前なんだけどね。
  で、私が考えた頭悪いお汁採取手段というのが、戦意高揚ストリップを潮吹きショーに代えて用意した桶にお汁を放つ。
  それを捨てる振りをして包帯につけて治療。
  ……すさまじく頭悪いな。まじで。
  というか、道理でこれぐらいの制約と誓約で万能薬なんてチートスキルが取れた訳だ。
  万能薬。怪我も病気もぴたりと治る神の薬ゆえ効果は絶大だけど、その作成手段と使用にえらく制限がある。
  しかも数作れないから、身内にしか使えない。
  とどめに何から作られたか知ったら皆ドン引き。
  それでも使うけどね。必要なら。

「姫様!
  ここにいらっしゃったのですか!!」

 仕事が終わったのか、麟姉さんが私の方に駆けて来る。
  心配性だなぁ。
  顔に出ていたのか、麟姉さんの雷が落ちる。

「そうじゃありません!
  姫様一人の命じゃないのですから、もっと御身を大事に……」

 その一言に回りの人間が驚く。
  そーいや、まだ言ってなかったな。

「おめでとう!姫様!」

「つーか、孕んで踊っていたのかよ!」

 揉みくちゃにされて歓迎される私。
  あ、四郎は宇佐衆にいる嫉妬団に可愛がられている。

「畜生!ねたましい!」
「祝ってやる!!」

 何故かぼこすかと肉体言語が聞こえてくるが気にしない。
  後で四郎にはお汁を塗って治しておこう。
  今回は一手の大将として十分な活躍をした上で、また首をいくつか取ったとか。
  けど、四郎が無事なのが一番嬉しかったりする。
  戦でいつ四郎が討ち死にするかと思うと、考えただけで怖いけど今はお腹に四郎の子供も居るしね。
  四郎も大将として育てられた侍だ。
  いつか戦で死ぬと分かっているから、一回一回の逢瀬が激しく、そして切ない。
  今日の夜はいっぱい可愛がってあげるからね。

「姫様。
  そろそろ夕餉の時間にてお戻りを」

 麟姉さんの言葉にふと空を見上げると茜色になっていた。
  もうそんな時間か。

「いいわ。
  ここでみんなと食べるわ」

 その一言に回りで歓声があがり、麟姉さんがため息をつく。

「分かりました。
  夕餉をこっちに持ってきますから……」

「あら、ここで食べるのだから宇佐衆の皆と同じ物を食べるわよ。
  誰か、後でお椀をかしてね」

 更なる歓声に湧き上がる宇佐衆の足軽達。
  兵と共に同じ食事を取るのは、兵掌握の第一歩です。
  同じ場所で眠るまでいきたいのだけどさすがにそれはね。

「おい、今日の飯は味噌粥だったよな?」

「誰か、魚でも取って来い」

「酒、残っていたろう!
  全部持って来い!」

 普通の夕食が、いつの間にやら大宴会に。
  私も琵琶を持ってこらせてオンステージを。

「♪討ち取ったりと~組み付いたら~
   返り討ちにされる~~~
   あああ~~~~ぁぁ、あ~し~がる~~~」

 この手の宴会でえらく受けがいいのは嘉門達夫だったり。
  人間を見て皮肉る歌が多いから、替え歌も作りやすいしね。
  みんな、こうして大いに笑い、そして死んでいった者への追悼を済ませていったのだった。


「珠……」
「もぉ、寝屋まで待ってよぉ……」

 で、最後は四郎へのご褒美タイム。
  できたのに注ぐのは……まぁ、人の性なので。はい。
  野外プレイと意気込んで草むらへと思ったら、すでに先客が。

「あれ?
  もしかして瑠璃姫……」

「しーっ!
  静かに」

 すっかりデバガメ常態の私達二人。
  たしかに、史実でも男子産んでいたから、やる事はやっていたんだろうなとは思ったが。
  なんだ。みんな一緒か。

「あのしっかり者の瑠璃姫があんなに乱れて……
  ぁ、こら、四郎、だめ……」

 瑠璃姫夫婦に燃えたのか、四郎の手つきがいつもより激しくて旨いから、ついつい声が。

「誰ですっ!」

 感づいた瑠璃姫が吹き矢を持って叫んでしまい、私達も出る羽目に。

「ひ、姫様……」
「や、やっほー……」

 いや、それでもしたけどね。
  二組とも。

 次の日、瑠璃姫は私と目を合わせようとはせず、めちゃ居心地が悪かった。
  ほんとごめん……




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