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大友の姫巫女

第三十六話 南予侵攻壷神山の一夜 (前編) 

 伊予長浜上陸から 一日目 慶徳寺合戦の後

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をしている珠です。
  まぁ、色々ありまして、母親にもうすぐなるみたいです。

 そんな情況に感慨湧くような事も無く、現在我々は宇都宮領の長浜城にいます。
  慶徳寺合戦が終わると、そのまま一日兵を休ませました。
  で、その日はもちろん飲めや歌えの大騒ぎ。
  本来、ここで私が景品にというプランはめでたく賢女(麟姉さんと瑠璃姫)二人に邪魔されたので、仕方なくこの土地の土地神である三島神社でストリップ神楽を行い士気高揚です。
  流石に吉田郡山城で敵である毛利兵に観音様を拝ませたのに、味方にご開帳しないのはいかがなものよという理論で賢女二人を押しきりました。
  いつになったら鏡華ちゃん路線に行けるのでしょうか。ちょっと急がないとまずいのですが。
  戦が終わって皆昂奮しているので、私の裸身は実に受けがよくほっとした次第。
  その分、昂奮した男達の処理で白貴姉さん率いる姫巫女衆は大変だったとか。
  「うほっ」もいるので一概には言えませんが、今回の遊女・歩き巫女連中のノルマは十六人です。
  また、こまった事に港町とはいえ元々が博多や府内や別府と比べて小さい長浜です。
  意外に遊女がいなくて……というか、近隣の村々の奥様方が応募に来て、私の度肝がぬかれたり。
  ああ、この当時の貞操感はこんなものだったなと。私もいいじゃないかと言いたい。言わないけど。賢女二人が怖いから。
  うちの軍勢、金払いだけはいいですから。まじで。
  戦争は立派な公共事業です。

 で、与えられた部屋に戻ると四郎がいてそのまま朝まで……。
  うん。首三つも取ってきたんだって。凄い。
  四郎が浴びた戦の獣性を全部私の中で受け止めましたよ。
  四郎のに慣れて、ちゃんと後始末に舐めるまでしちゃう私です。

「ひ、姫……くすぐったいです……」

 うーん、やっている時は珠って呼んでくれるけど、終わると姫に戻るんだ。楽しい。
  こういう時、神功皇后の力をもらえたのを凄く感謝。
  ポテ腹渡海までした戦女神様の加護です。
  私については、不安定期など関係なく精を受け止められると思っていただきたい。


  で、次の日。
  私は雪山登山なんかをやっていたり。

「何でこんな所を登るのですか?」

 ぶつぶつ言いながら厚着をして私の後をついてくる政千代。
  なら来なきゃいいのに。

「仲間はずれはひどいです!」

「そういう事。
  仲間に入りたいお年頃なんだから。精一杯大人ぶって」

「白貴姉さん!
  姫様に余計な事を言わないでください!!」

 いいコンビだな。
  白貴姉さんと政千代。
  つーかあんたもついてこなくていいのに。
  厚着でごまかしているけど、雪に白い液体がたれましたよ。
  私も同じなので良く分かる。はい。

「姫様といると楽しそうだからね。
  そういう所でのけ者はないでしょ」

 白貴姉さんは飄々とした物言いといい、一種の脱力系キャラだな。
  知瑠乃がなつく訳だ。

「しかし、姫様が壷神山の事をご存知とは知りませんでした」

 妙に感心する八重姫。しっかりと手には護衛用の八双手裏剣が握られていたり。
  無口系キャラらしい九重姫は舞と共に先導して警戒してくれていたり。下手な忍びより忍だったりする。
  なお、政千代はこの二人に八双手裏剣を教えてもらう約束をしたそうな。
  さすがに日帰りは無理だろうと判断して今日は御社に泊まるつもりで、地元の村人に薪や食料や藁あたりを届けてもらったり。
  このあたりの手配りも九重姫の差配だとか。
  口より先に手を動かすあたり萌えポイントも高いです。

 あ、そうそう。
  霞とあやねだけど、今回は菜子・里夢と共にお留守番です。
  理由はこの二人、子供ができちゃったので。
  種誰よと問い詰めたら、今回の戦にも来ているハヤテちんこと佐田鎮綱と発覚。
  伊勢で私の身代わりやっている時に親しくなって、二人が元々姉妹関係だったこともあって、大友家内部の有力者に抱かれるのならと引き取ったのが真相だったり。
  二人の子供にりっぱなくノ一になるようにと加護の力をあげましたよ。
  まぁ、父上に抱かれてお家騒動起こされても困るし、ハヤテちんなら私の有力支持者宇佐衆筆頭の佐田氏の次期当主だし問題はなし。
  けど、うらやましいぞ。F超えおっぱい姉妹丼。

「ちょっとね。
  ちゃんと地元の神様にはお参りするのが私のジャスティスなの」

「じゃ、じゃすてぃす?」

「異国の言葉よ。
  気にしないで」

 この壷神山、標高970メートルとえらく高いのですが医薬の神・少彦名命が山頂に祭られ、かの神が薬壷を置き忘れたことに由来するそうで。
  こんな場所私が逃す訳無いじゃないですか。
  壷神神社は少彦名命の本社でもないのですが、伝承が残っているのが強み。
  残った伝承は模倣に使え、それは神力の制約と誓約に流用できる。
  医療系スキルのゲットはこれからの戦に絶対に必要です。
  ちなみに、この地の三島神社の伝承を元に、安全に船を停泊できる神力をゲットしていたり。
  これも条件が岩の上で船の艫綱を繋ぎ、岩戸神楽を舞うというもの。
  字で分かった人は鋭い。天宇受売命の例のストリップです。はい。
  では、岩が無い場所で安全な停泊を望む場合は?
  はい。己の体を縄で縛って船の艫綱を繋ぎます。
  じゅ、呪縛ストリップ……
  日本神話との絡みがあるとはいえ、とってもいい感じにビッチの道を突っ走っているのに、清純お姫様路線は無理があると賢女二人に主張したいけど言わない。怖いから。

「ですから、いくら勢いとはいえ……」
「殿方なのですから、こういう時は姫を諌めて……」

 で、その賢女二人は、当然のようについてきた四郎にこんこんと説教タイム中。
  なんで私の暴走を止めなかったのかと、えらく怒られています。
  女はこういう時にねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちと説教するので怖いです。はい。
  私も昨日それを味わいましたから、爽やかに見殺しにします。
  四郎なんて薪背負って雪山登っているのに。ごめんね。
  このうっぷんは、夜、私の中に放っていいからね。
  なんて言葉も言えるわけも無く。

「大体、姫様も姫様です!
  四郎殿が優しいからと無茶ばかり申して……」

 あ、こっちに飛び火した。
  歩きながらだけど、賢女二人を説得してみるか。
  多分この機会を逃すと、私はビッチになれないような気がするし。

「はいはい。
  四郎をいじめないで。
  元々は、私が悪いのだから」

 口を出して二人の攻め手を私に引き付ける。

「大体、今回の戦もそうですが姫様は無茶が過ぎます」

「うん。
  今回については自覚しているわ。
  だからこそ、己の体を差し出して全てを捨てる腹つもりだったのだから」

「まだ、そういう事をいいますか!」

 怒り出す麟姉さんを宥めるように、白貴姉さんが口を挟む。

「無茶って言うけど、昨日の戦みたいにうまくいくって。
  姫様が心配しすぎ」

「あれ、あと最大で十八回はしてもらわないと、私達帰れないんだけど」

 ぴたりと一行の足が止まった。
  そりゃもう綺麗に皆、呆然という顔つきで。
  四郎だけは昨日聞いていたので「あちゃー」と片手をおでこに乗せていたり。

「ひ、姫様。
  助けに来ていただいたのはとても感謝しておりますが、もう一度、戯言無しで、今の言葉をお聞きしたいのですが」

 瑠璃姫の顔から表情が消えて、抑揚のない声ばかり返ってくるので、もの凄く怖い。

「だから、この手勢八百のみで鳥坂峠を越えて、西園寺十五城を全て落として、土佐一条領に入り大友軍と合流して、対峙している長宗我部勢を撃破しないと帰れないと言っているの」
   
  沈黙がめっちゃ痛い。

「皆には秘密にしてよ。
  知ったら間違いなく士気崩壊するから」

「「な、な……何考えているんですかっ!!!!!」」

 うん。麟姉さんと瑠璃姫が大爆発するのが目に見えていたから言わなかったのだけどね。 

「分かっている。
  ちゃんと説明するから。
  少し早いけど山頂に着いたし、お昼にしましょうか」

 ちらりと見た、古びた社に目礼して謝罪する。
  ちょっと騒ぎますがごめんなさいと。


  で、雪積もる山頂のお社の境内で昼食会兼戦略ミーティング開始です。
  まず、棒を持ってかりかりと雪面に西日本の地図を書きだしたらびっくりする一同。

「姫様の頭の中には、日ノ本の地図がはいっているのですか!?」

「そうよ。じょーしきでしょ」

 流石にこれからの話をどう言おうか考えているので、政千代の驚きを一言で切って捨てる。
  それがまた凄みを与えたらしく、瑠璃姫とその娘二人は半ば呆然としているし、四郎や麟姉さんはなんだか嬉しそうだ。
  白貴姉さんはあいかわらずにやにや見てる。なんかいいな。

「今回の戦、いや、今西国で行われている戦の元凶の根底から話すわね。
  そうでないと、さっきの『最大十八回勝て』とか、『戦の報奨に体を差し出す』という言葉が荒唐無稽にしか見えないから」

 アカギ浦部戦の後の解説のようにゆっくりと間を取って、私は地図上のある場所を指しそれを語った。

「すべては、応仁の乱の唯一の勝者と称えられし西国の覇者、大内氏が陶氏に謀反を起こされ滅んだ所から始まっているの。
  けど、陶氏は大内領を継承できずに滅び、やがて広大な大内領は、東西二大勢力に分裂していくわ」

 私は北部九州と中国に丸を書く。

「それが豊後大友氏と安芸毛利氏よ。
  この二者が大内の遺領を食い合い、互いが互いの持つ領土を奪い合っている。
  大友六カ国、毛利六カ国、計十二カ国を巻き込む大戦の最中に居るのよ。私達は」

 皆の顔を見る。
  まだ、脱落者はいないらしい。

「大友と毛利の主戦場は当然豊前筑前と周防長門が最前線になるわ。
  ちなみに、私の初陣は門司合戦ね。
  その後秋月騒動なんか経て『大友の姫巫女』とか呼ばれるようになったけど、この戦線で活躍していたのよ。
  では、問題。
  政千代。この戦で相手の国に攻め込むには何が必要?」

 不意に当てられて露骨にうろたえる政千代。何だかかわいい。

「えっと……兵士、兵糧?それとも鉄砲??」

「船」

 ぽつりと横から口出しした九重姫に私は「正解」と微笑み、瀬戸内海を丸で囲む。

「毛利が抑えている瀬戸内水軍、特に村上水軍が邪魔で大友は攻められてばかり。
  で、大友が打った手は海では無く、陸から毛利を攻める事だった。
  その一つが尼子支援よ」

 毛利の丸の横に、小さな丸を書く。 

「尼子が毛利を引き付けている限り、毛利は全力で大友に攻めてゆけない。
  でも、尼子は風前の灯。
  大友は新たな第二戦線を構築する必要があった」

「それが伊予という訳ですね。
  伊予河野氏は来島氏を通じて村上水軍と繋がっています。
  我々宇都宮を助けたのは、河野を攻めてもらう為ですね」

 口を挟んだのは瑠璃姫。
  さすがに、伊予の情勢だけに理解が速い。

「その通り。だから南蛮船を使って、兵を積めるだけ積んで助けに来たのよ」 

「では、何故西園寺を攻めるという事になるのですか?」

 麟姉さんの質問に、今度は地元ゆえに瑠璃姫が答える。

「近年、伊予は土佐一条氏の侵入を許してきました。
  それは、姫様のご実家の大友家の支援があったからですが、西園寺を屈服させたのです。
  ですが、西園寺は一条氏の武力で服従しているのみで、いつ反旗を翻すか分からない状態なのです」

 瑠璃姫の説明に今度は私が口を挟む。

「その一条だけど、内紛が起こっているって知ってる?」

「何ですって!?」

 瑠璃姫とその娘達の驚愕の顔を見ながら、やはり知らなかったかと嘆息する。

「一条の殿様は本来京で帝に仕えるのがお仕事でしょ。
  京に上がった後の一条領の管理をめぐって一条内部の重臣の意見が分かれているのよ。
  大友は、これまでの支援もあって一条領の管理をしたいの。
  もちろん、一条領を簒奪するのじゃなくて、一条領の管理の名目で不穏な動きをする西園寺を討って西園寺領を頂くつもりだったのよ。
  ところが、これに一部重臣が反対して、一条に従属している武名名高い長宗我部氏に管理を任せようと。
  で、今土佐は大友家の先遣隊と長宗我部の軍勢が睨みあっているのよ。
  そんな中、貴方達から河野襲来の報告が届いたって訳」

 瑠璃姫はさっきまでの気丈さとは裏腹に顔が真っ青だった。
  気づいたのだろう。
  自分達がどれほど危険だったのかを。
  多分、私が一条の方に行っていたら、攻めてきた河野軍を相手にしている背後から西園寺軍が襲いかかり、宇都宮は滅んでいただろう。
  そこまで想像できてしまったが為に、瑠璃姫の体は寒さではない別の震えをしていた。

「ところが、私が宇都宮を助けている間に大友先遣隊と長宗我部が開戦し、長宗我部が勝った場合、大友はこの四国における正当性を失うわ。
  宇都宮支援で宇都宮氏はこちらにつくだろうけど、河野・一条・長宗我部・西園寺が同じ勢力についたら宇都宮は風前の灯火。
  で、こんな仕掛けを組んだのが……安芸の毛利元就。
  この四郎のお父様って訳。
  で、伊予と土佐が毛利勢力になったら大友の庭だった宇和海も毛利勢力圏に入りかねない。
  もう、この戦は大友と毛利の代理戦争になっているのよ。
  本国豊後を襲われたら、大友は豊後の守りを固めないといけない。
  それは、主戦線である筑前豊前の弱体化にも繋がるわ」

 四郎をちらりと見ながら、棒は安芸国を指し、私は淡々とその事実を告げる。
  棒は小気味良い音を立てて雪面の伊予に突き刺さる。

「大友の荒廃はこの一戦にあるわ。
  ね。私が体をくれてやるのに相応しい戦でしょ」

 私はほぼ確信している。
  毛利ホイホイとして伊予の戦場を準備していた私の裏をかいて、大友ホイホイにしたて直したのは、あのじじいだと。

「体をくれてやるについてはおいとくとして、大事な戦である事は理解しました。
  ですが、それが、何故今の手勢で西園寺を攻める事に繋がるのでしょう?」

 麟姉さんがまだ納得いかない顔で私に質問する。

「これ以上長浜に船が呼べないのよ。
  後一回、長浜に来させるつもりだけど、それで打ち切り。
  それ以上船を来させると、このあたりで毛利水軍が張り込んで船戦になっちゃう。
  今の大友水軍では毛利水軍に勝てないわ」

 絶対に避けないといけないのがこの海戦だ。
  最大動員で三百隻を越える毛利水軍と戦って勝てるとは思えないし、大友水軍が殲滅されたらそれこそ私は帰れない。
  長浜ではガダルカナル戦における東京急行よろしく、高速の出る南蛮船で少ない兵や物資を運び込む事しかできない。
  何としても西園寺領に攻め込んで八幡浜を落とさないといけない。
  それができないと我々は立ち枯れる。

「最大十八回の根拠はこの西園寺十五城の事よ。
  まぁ、野戦を一回すれば数城はこっちに寝返ると思うけどね。
  だからこそ、西園寺も出せる兵力全てで宇都宮に攻めてくるはずよ」

 棒を引き抜いて、ある一点に刺し直す。

「伊予鳥坂峠。
  西園寺領と宇都宮領の境にある交通の要衝。
  次の戦はここよ。
  河野はしばらく戦の痛手から立ち直れないから、宇都宮勢も加えて一大決戦をこの地で行うわ」




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