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大友の姫巫女

第三十三話 南予侵攻 準備編 その三 

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をしている珠です。

「姫巫女様に歓呼三声!」

「ラー!」
「ラー!!」
「ラー!!!」

 現在、南予侵攻に向けて準備中です。
  なお、声をかけたのは御社衆で、四郎元鎮の元で使えるように訓練中です。

「姫様。
  ところでこの叫びは何なのですか?」

 既に奥様な麟姉さんが尋ねるので、ちらりと舌を出して種明かし。

「異国の軍の敬意の表し方らしいわよ。
  中々でしょ」

 刀や槍を持った侍や足軽達が、それを天に掲げて声を張り上げるというのは士気高揚にもいい。
  まぁ、「オールハイルタマージュ!」とか言わせないあたり、私も自重を覚えたのだ。
  しかし、サパタでこの声を聞いたトルメキアの白き魔女様(声:榊原良子)は、絶望の中何を思ったのか……
  そういや、あの姫様が握っていた第三軍って重騎兵というか竜騎兵部隊だよな。
  機動力こそ戦いを制するか。
  あの姫様だったら、この戦国をどう渡り歩くかな。
  鉄砲の火力が増大するとはいえ、鉄砲は接近されると脆いという弱点が存在しているし、機動力を駆使して迂回奇襲に特化させるなら、まだ十分に使い道はあるかも知れない。
  城島や久住高原の牧場は順調に馬を増やしているけど、騎兵の育成が間に合うかな。
  阿蘇氏にも協力してもらって牧場を拡大しておこう。
  今すぐ始めても使い物になるには、下手すれば十年かかるかも。
  辛うじて耳川合戦に間に合うか。
  五百、いや二百五十でいい。竜騎兵がいたら部分的に戦局を支配できそうだ。

「姫様?」

「ごめん。
  考え事をしていたわ。
  で、何?」

「私の後任についてです。
  次の戦の後、私を杉乃井の御殿代にするから後任を探しておけって言ったの姫様じゃないですか」

 あ、忘れていた。
  で、年は私よりも少し下と見た娘が、前に出る。

「戸次鑑連が娘、政千代と申します。
  姫様のお側に仕えるよう、父より申し承りました。
  どうかよろしくお願いいたします」

 なるほど。麟姉さんの後任は彼女という訳だ。

「珠よ。
  堅苦しいのは苦手だから、気楽に珠って呼んで。
  よろしくね」

「はい。珠様」

 握手をしていると、今度は麟姉さんと同じぐらいの女性が前に出る。

「麟様の推薦で、姫巫女衆を任される事になりました。
  どうかよろしくお願いいたします」

 あれ、この人どっかで見たぞ??

「ねーちゃん凄い!!
  姫様のお側にお仕えするのね!!」

 すっとんできた知瑠乃が、彼女に抱きついて思い出す。
  この人、杉乃井の保育所で知瑠乃達の世話をしていた遊女じゃないか。

「じゃあ、名前をあげないとね。
  白貴姉さんって名前でどうかな?」

 チルノには黒幕が必要だしね。
  白岩は源氏名でもひどすぎるし。

「はい。これからは白貴とお呼びくださいませ。姫様」
「ねーちゃんかっこいい!」

 年上なのでこれからは白貴姉さんと呼ぼう。
  彼女の周りで知瑠乃が嬉しそうに笑うので思い出した。

「知瑠乃。
  貴方へのおみあげはこれね」

 渡してあげるのは弩。

「わ!
  姫様ありがとう!!」

 連発できないのが欠点だけど、貴方に二発目は必要ないものね。

「うん!
  だってアタイはサイキョーだもの!!!」

 この言葉が後に現実になろうとは誰も(私ですらも)思っていなかった訳で。

 さて、この姫巫女衆って何をするのかといえば、戦場における私のお世話係というのが当初の理由だったりします。
  だって、一応女ですから男ではどうしてもまずいものが色々とありまして。はい。
  けど、彦山川合戦で一度修羅場をくくったので、それなりに武装を強化する方向に。
  さっきの知瑠乃への弩もその一環。

 最後方にいるからこそ、最後まで食い破った相手を一撃だけ止めるという発想です。
  一発投げ捨て。けど、その威力は十分なほど。
  あと、薙刀持ちは敵を常に三人で囲んで討ち取るように訓練をつんでいます。
  これも、同数以下でしかも傷つき疲れている相手を前提に組んだものです。

 まぁ、武装強化は所詮自衛のみで戦局に影響が出るのは後方の仕事です。
  飯炊きや治療に夜のお世話など。
  彼女達が後ろでこんな活動をしているのに、男が逃げられると思うかい?
  私も戦意高揚のストリップぐらいするし。
  仮想敵の毛利に見せたのに、味方の将兵に見せない訳にはいかないしね。うん。
  戦意だけでなく他のも高揚するけど、それはひとまず置いておく方向で。
  組織にある程度の女性を入れると効率が上がるというのは、ちゃっかりとこの戦国の世でも機能したり。

 ……男って馬鹿ね。本当に。

 けど、以外に馬鹿に出来ません。
  まず、軍法の徹底と絡めましたが、略奪(特に女)が減ります。
  金・米の略奪までは止められませんが、女については禁止を申し渡しています。
  破ったら最高刑は死罪、軽いのでうちの遊郭出入り禁止。

 その代わり、戦場では交代で無料御奉仕実施中。
  その地の遊女すら私がまとめて買い上げて、各陣に配分させたり。
  後の統治に影響が出ますからね。このあたりは。
  
  それと、畿内から連れ帰ったくノ一三人娘に遊女と白拍子・歩き巫女を選別させてくノ一にする訓練を始めました。
  これも本格的にものになるのは十年後でしょうが、筋が良い二人の姉妹に「菜子」と「里夢」と名付けたり。
  杉乃井の奥に忍び里を作らないとね。
  「楽天地」とでも名付けて。


  整列させていた御社衆を戻して四郎がこちらに駆けてくる。 
 
「姫。
  いかがですか?
  姫の手勢は?」

 若武者姿の四郎が凛々しくてかっこいいなぁ。言わないけど。
  視線を御社衆に向けたまま私は尋ねる。

「で、戦でどれぐらい使えそう?」

 戦場に出すからには使い物になってくれないと困ると言外に言うと、四郎も少し茶目っ気を出したらしく笑いながら口を開く。

「兄上達の軍勢とぶつけて負ける程度には鍛えておきました」

 その言葉の持つ裏の意味に、私はほうと感心する。
  兄上達、吉川・小早川勢とぶつけられるだけの兵の掌握を終えているという事に。

「戦えるまで鍛えたんだ」

 いや、元が流れ者や夜盗山賊崩れですよ。こいつら。
  彦山川合戦では戦う前に崩壊したしね。
  やはり四郎只者じゃないな。
  こっちが感心したのに気づいたらしく、四郎は笑顔を向けてくれる。
  その笑顔がちょっと凛々しいのがまたまたシャクだけど、出来る人間を褒めるのは上に立つ者として当然よね。

「編成はどうなっているの?」

 ざっと見で御社衆を眺めると、槍と鉄砲の存在は確認した上で四郎に数と陣形を尋ねる。

「長槍が三百。これが正面になります。
  弓鉄砲は百揃えました。
  五十ずつに分けて長槍の左右におく予定です。
  で、旗本に百という所です」

 敵正面は長槍で近づけないようにして、左右から弓鉄砲で射掛けるという算段らしい。
  旗本というのは予備兵力と思ってもらって構わない。
  長槍や弓鉄砲に配置された足軽が倒れた時に、旗本から兵を出して補充する。
  つまり、実際は四百人で戦をして、その背後に百人がその戦を継続できるよう待機しているという訳。

「組を分けて戦えるかしら?」

 私が訪ねたのはその隊列を預かる足軽組単位での戦情況。つまり分割して五十人、百人単位で戦えるかという事。
  その問いは聞かれたくなかったらしく、四郎の顔がもうしわけなさそうになる。

「申し訳ございません。
  組での投入では力が出せませぬ。
  この単位でやっと戦ができるようにしたのが精一杯で……」

 今回の南予進攻において、私の陣は本陣となるので正面から敵を討つという情況は起こりえないというか、起こったら負けである。
  で、前線を支える為に一万田隊や田原隊や田北隊に、組ごとに兵を送って前線を支えるという事は無理と言われてしまったが、それも仕方ない。
  結局、小魚の群れと同じで、ある程度の大きさで動く事はできるが、小さくなったら大魚に食われてしまう。
  流れ者が侍相手に戦うには数が大事という事だ。
  だからこそ、前線部隊が疲弊してきた時は、下がらせて代わりに前線を支えるという、戦術行動としてはかなり大きいロスを覚悟しないといけない。
  まぁ、私の本陣には執事なハヤテちん(佐田鎮綱)率いる宇佐衆と、帰参を条件に参加する佐伯惟教とその家臣がいるから、組ごとの参加は問題ないだろうけど。
  兵もまともなのにするのにはやっぱり十年はかかるなぁ。 
  それでも、張子の虎だが牙と爪はちゃんとつけさせた四郎の功績を私は素直に誉めた。

「ありがとう。四郎。
  これで、彦山川の時みたいに本陣が襲われる事はなさそうだわ」

 自然と笑みがこぼれるのを誰が咎められよう。ええ。


  むぎゅ
 

 むぎゅ?
  後ろから後ろから腰あたりに手が伸びて、抱きつかれたのが分かる。
  見ると、不機嫌な顔で長寿丸がしがみついている。

「あねうえさまはぼくのなの!」

 えっと……これは嫉妬なのかしらん?長寿丸君。
  にはは……
  ちょっと可愛くて、凄く嬉しかったり。
  そういえば構っていなかったなぁ。
  昼は書類仕事で、夜はまぁ色々あって。 

「はいはい。
  じゃあ、一緒にお風呂入りましょうね」

「うん!」

 うわ。むちゃくちゃ笑顔で返事しやがりましたよ。この子。

「あ、あたいも姫様と入るぅ!」

 負けじと知瑠乃が、長寿丸を押しのけて私に抱きついてくる。
  これはフラグか?今、フラグが立っているのを見ているのか?私は?

「うっさい!ばーか!」
「ばかじゃないもん!ばーかばーか」

 こうなると私は苦笑するしかなく。
  四郎にアイコンタクトで「ごめん」と謝っておいたり。
  四郎も分かったらしく、一礼してまた訓練に戻ってゆく。
  ああ、今自分が勝ち組であると実感する私はまだ十四歳。

「ぱーるーぱるりぱるりら~珠姫死ねばいいのに~」 

 なんて歌われそうで怖い。
 
「はいはい。
  けんかしないの。
  杉乃井の風呂は大きいのだからみんなで入りましょうね」

「うん」

 子供の頃は当然のように女湯に入っていたが、今にして思うとあれはイベントだよなぁ。
  長寿丸なんて、くノ一三人娘、白貴姉さん、麟姉さん、私、政千代、菜子・里夢、知瑠乃(ちちくらべ順)が一緒に入るんだからなぁ。
  ……父みたいに女好きにならなきゃいいけど。


 

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