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大友の姫巫女

第三十二話 南予侵攻 準備編 その二

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をしている珠です。

「それがし肥後国○○荘の……」
「われは筑前国△△生まれ……」
「戦があると聞いて」

「金と米やるから帰れ」

 現在、戦の準備中です。
  九州六カ国を支配するというのはこういう事でもあり……

 唐突ですが、私、この地で生を受けて前世知識があてにならぬ事を悟っております。

「姫。これについて……」
「姫。この書類ですが……」
「姫。奉行衆がこの間の裁きについて……」

 官僚って凄く大事です。
  決められたことを、決められた事しかしないという人がどれほど大事なのか、痛切に思い知っています。
  誰だよ。『官僚なんていらない』なんて前世でほざいている輩は!
  いる。絶対にいる。
  そうでないと私の前にあるこの書類の山が減らない。

「これは、加判衆の臼杵殿に。この書類は私が決裁します。その裁きは条々との兼ね合いがあるから父上に持ってゆくように」

 私の右隣に四郎が書き物をして、私の左隣で佐田鎮綱が陳情を聞いていたり。
  そして、麟姉さんは陳情者や奉行衆を整理しつつ、お茶やお菓子を出して先に要望を聞きだしたり。

 何処の社長秘書室だよ!!!ここは!!!

 戦国大名というのは究極的な所、大名独裁体制に移行しなければなりません。
  なぜなら、それによって地方国衆が持つ軍事・行政権を握らないといけませんから。
  我が大友家は、各国国衆の同意による連合政権からまだ脱していません。
  結果どうなるかというと、国衆や豪族、果ては村々の争いの調停に追われまくる日々に。
  更に筑前や筑後、豊前や肥後あたりの報告書もやってくる訳で。

 奉行衆は今回の南予遠征に大反対だったりします。
  というより、私が府内を離れる事について大反対だったりするのです。
  何しろ書類処理の作業効率が格段に変わりましたから。
  右筆というのは大名の秘書長であり、こと書類関連については必ず私の所にやってくるという、実質的な決定権を握る強大なポストだったりします。
  なんでここまでこのポストが強大なのか?
  これも前世感覚で見事に落とし穴に落ちた体験でしたが、全員が文字を読める・書ける訳ではないという事です。
  成り上がりの家などは重臣でも字が読めなかったという笑い話があるぐらい。
  識字率はこの時期においてまだ高いのですが、全員が全員読める世界だったらしい前世の世界とはもう感覚がまったく違います。
  一度、大友義長条々を、字の読めない国衆に伝えるのにえらく骨の折れた事と言ったら……


  で、困るのが今は戦国という事。

「ワレ、刀で勝負しようやないけ!」
「望む所じゃ!オラ!!」

 これ、結構というかもの凄くあります。
  そして、争いの調停に大名が出た場合、確実にやってくるのが双方からの賄賂攻勢。
  ……欲望に忠実な戦国って素敵(何かを遠く投げ捨てるような目で)。

 宇宙の覇者となった金髪の小僧はこんな事をおっしゃいました。

「体制に対する民衆の信頼を得るには、ふたつのものがあればよい。
  公平な裁判と、公平な税制度。
  ただそれだけだ」

 ああ、あんたは偉大だよ。
  そこが分かっているから。それができる地位にいるから。
  だが、その二つを得る為にどれだけのものがいるのか。
  わかりやすい法律に、それを運営する買収に負けない官僚群、そして領地内における軍事・警察権の掌握に、法律を遵守させるだけの体制への支持もしくは畏怖。
  この時期の戦国大名は、織田家以外は誰もこれらを持っていないのですから。

 とりあえず、人を派遣して今川仮名目録や朝倉孝景条々や大内家壁書を取り寄せて大友義長条々の再編纂中。
  この時期の分国法がある種家法になっているのも、大名家という利益共同体を大きな家族に見立て、運命共同体にして統治を楽にしようという表れでもあります。
  秀才顔の若造が偉そうな事を言っても中々聞きませんから。皆。
  体制が固まるにつれて必ず起こる、文治派と武断派の対立はこんな感じで発生します。
  けど、武功もあって、文官にも物分かりがいい武田信繁や羽柴秀長とかがそういう事を言うと、みんな納得するでしょ。ね?


  あれ?
  いま、凄くどつぼフラグを自ら立てたような……

 父上大友義鎮の娘で、門司合戦や彦山川合戦で武功(作られたものだけどね)をあげ、文字が読み書きできて、法律に詳しい。

 …………おーけーおちつけくーるになろう。

 なんですか!
  この過労死フラグは!!!
  二十四時間働くジャパニーズビジネスマンですか!!!!

 ごほん(我に帰ったらしい)。
  そして、大友家では複式簿記と算盤を一斉導入。
  数の把握こそ、国家の把握の第一歩です。
  奉行衆の若手も数人習わせる為に博多に出向させました。

 そして次は軍事力。
  今回みたいな勝手働きはしばらくは止められないけど、常備軍に向かうと各国国衆が離反するのが目に見えているから下手な導入はできない。
  とはいえ、危機時の動員が遅いのが国衆任せの動員の致命的欠点でもある訳で。
  遊郭警護の名前で私が雇っている御社衆を拡大させて、緊急展開部隊みたいな位置づけにしておくしかないでしょう。
  国衆が文句を言わないのも、金と女への期待と、宇佐八幡という、武家とは違う権威で、ある種の治外法権になっているから。 
  己の権力の源泉が、大友にとっての治外法権という障害になっているって何の皮肉よ。これは……

 とりあえず、遊郭を筑前二日市と肥後玉名に建設する予定。
  二日市の遊郭は博多中洲の遊郭と連動させて、博多で何か起こった時の為に。
  玉名の遊郭は肥後の監視と、こっちが本命ですが肥前龍造寺氏への警戒です。
  既に、肥前神代氏を下して勢力拡大中の龍造寺ですが、表向きはまだ大友に従属している形を取っている。
  実を言うとここは手を出したくないという本音が。
  龍造寺隆信はいいのよ。ぶっちゃけると。
  敵に回したくないのが、二人いる。あっこは。
  一人はみんな見当ついたと思うけど鍋島直茂(この時期、信生と名乗っている)。
  今山フラグのキーパーソン。
  小早川隆景と同じぐらい戦いたくない相手だったりする。
  で、もう一人はその直茂の母慶キン(立花キン千代と同じ字)。
  はっきり言うと、女傑。
  同じ女になったからこそ分かる。このママ怖い。
  鍋島直茂の夜襲案をただ一人、評定(女なのに出ていられるのが凄い)で主張して押し通したって、何この人。
  この人調べれば調べるほど伝説が出てきやがる。
  私なんぞ、きっと小娘扱いだな。
  どうせ島津に討たれるのだから、それまで筑後川以東をがっちり守れればいい。
  というか、今山でしくじらなければ問題ないわけで。

 けど、そうなると御社衆を率いる人間がいるなぁ。博多あたりに。
  四郎はうってつけの人材だけど、手放すと今度は宇佐別府の御社衆を誰が率いるかという問題が出てくるし。
  四郎を私が手放したくないしね。うん。
  流れ者や盗賊上がりだから、ちゃんとした統率できるやつでないと使えないだろうし。
  募集かけておこう。

 で、その島津ですが、ついに国境が接しました。
  肥後相良氏(元々従属していたけど、遠距離ゆえ独立勢力扱いでした)が正式に府内に使者を送ってきたのです。
  多分これを受ける方向なので、これからは島津と相良の小競り合いも気にしなければなりません。
  まぁ、まだ島津は伊東とガチバトル中なので静観するつもりですが。
  肥後どうするかなぁ。
  島津に龍造寺と支配者がころころ変わるしなぁ。
  阿蘇氏を大友側につけ続けていれば、それ以上の脅威は無いのも事実なんだよなぁ。
  対毛利戦で頭がいっぱいだけど、そろそろ九州三国志の主役たる島津や龍造寺の事も頭に入れないといけない。

 そうなると、迅速な動員体制は絶対に必須だよなぁ。
  そういや、南予攻めで長宗我部を思い出したけど、あっこの一領具足を参考にして兵農分離を図るかな。
  完全な兵農分離は現在の大友では無理だから、税制改革の一環として『軍役につく者は年貢免除』を法制化しとこう。
  これで、勝手働きを押さえ、こっちは動員の判断基準ができる。

 

 だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!

 

 人がっっっっ!!!
  人が足りんっっっっっ!!!!!
  今回戦準備の話をしようと思ったのに、大友家の内政で終わっちゃいますよ!!!!
  まだ、戦準備何もしていないのに書類は溜まっていきますよ。
  ええい。誰か使える人間は……田原親賢……今回の試験者じゃねーか。
  下手に仕事任せて贔屓と言われたら公平性にかけるし。
  戸次鑑連は加判衆だからもう仕事いっぱいだし。
  吉岡長増……引退する奴に仕事押し付けるほど私も鬼畜じゃない。

 ぽん。

「父上!!!!」

「な、何が起こった!」

 血相変えて飛び込んできた私に、父上は何事かと刀を持って尋ねる。

「角隈石宗殿を貸してください!」

 その時の父上の顔はとてもかわいそーな娘を見る顔だったけど、南予攻めの最中に襲ってきた書類攻勢に娘の言葉を思い出して納得したそうな。


 


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