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大友の姫巫女

第三十話 豊後大友家加判衆評定 

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をやっている珠です。
  この台詞もとても久しぶりのような気がします。

「では、これより評定を始めたいと思います」

 さて、何で私は、こんな場所で、こんな声をあげる羽目になっているのでしょう?


  わっふるわっふると別府に篭っていたら、父上から呼び出しを受けて府内ですよ。
  で、四郎を乗せて野望の車中わっふるといきたかったのですが……ぉぇ。
  府内の鍛冶屋に賞金を出して、この振動何とかするように頼もう。うん。
  誰かがナイスなアイデアを出すだろう。きっと。

 で、府内城なのですが、来てみると父上に加判衆六人(戸次鑑連、臼杵鑑速、吉岡長増、田北鑑生、吉弘鑑理、志賀親守)揃い踏みですよ。
  というか、なんで引退していない!吉岡長増に田北鑑生。

「それを話すためにここに集まっているのだ。とりあえず座れ」

 はいはい。末席にお邪魔させていただきますよ。
  できれば、旅行中に後継を決めてくれるとありがたかったのですがね。

「そこじゃない。
  お前の席はここだ」

 父上。何で父上の後ろ隣を指差しているので?

「うむ。
  珠。今より、お前を右筆に任ずる。
  なお、これは加判衆全員の承認を得ておるから拒否は許さんぞ」

 は、はかったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!父上!!!!!

 右筆ってのは、21世紀風に言えば大名の秘書長。
  特に重要なのが、大名が書く公式文書の代筆などをする仕事で、松永久秀がこの職についているといえばこの職がどれほどおいしいか分かるだろう。
  もう少し分かりやすく例えるなら、江戸時代における側用人。
  うん。柳沢吉保や田沼意次なんて名前が出てくる人は、この二人が後に大友家における加判衆に抜擢されるのも知っているよね。きっと。

「父上。
  女として子供生みますから、帰っていいですか?」

「駄目だ。
  お前、それでは色々と我慢できないだろう。
  政に口を挟むなら、潔く責任をかぶれ」 

 いや、まったくその通りだけどさぁ。
  なんでこんなに粛清フラグ立っているのかなぁ。まじで。

「あと、加判もお前に任せるから。
  わしは奥にひっこむ」

 待て。くそおやじ。
  あんた本心はそれだろう!
  加判。つまりサインの事。
  国の重要政策決定に重臣一同がサインをするから、大友家では評定参加者を加判衆と呼ぶ。
  それすらまかせるという事は、政策立案に一から加われと言っているようなものじゃないか。

「父上。
  まさかとは思いますが、仕事私に押し付けて遊ぼうとは考えていませんよね?」

「安心しろ。
  お前が謀反を起す前に、きちんと切るぐらいの影響力は保持しておいてやる。
  わしが父の死を知ったのは、別府だった事はお前も知っているだろう」

 このあたり、腐っても戦国大名だよなぁ。父上も。
  私を実質的な加判衆に押し上げて、豊前筑前国衆の要望に答え、何か妙な事をしたら即粛清するつもりらしい。
  加判衆になったら何とか日帰りできる宇佐はともかく、香春は完全に戻れなくなるしね。
  わざわざ、お爺様が死んだ時に別府に居たなんてアリバイまでぶっちゃけて、モロ犯人と言っているようなものじゃないですか。
  少年探偵達が今の台詞聞いたら即アウトですよ。父上。

 ため息をついて冒頭の言葉を吐いて、議題の確認と書類を取り上げて……

「父上」

「どうした娘よ。そんなに笑みを浮かべて」

 父上もいい笑顔じゃないですか。ええ。
  議題にはこう書かれてあったのだから。


  吉岡長増・田北鑑生の後任について。
  毛利領に対する進攻について。


  評定は私の議事進行の元、淡々と進みます。
  で、二人の後任ですが田北鑑生は弟鑑重を推挙し、吉岡長増は『息子がまだ若輩者である』と言って、後任を推薦しませんでした。
  だから田北鑑重を通すかどうかが最初の議題になる。
  田北鑑重は兄鑑生を支え小原鑑元の反乱鎮圧や、秋月文種討伐などに功績があり、門司合戦でもそつなく兵を操っている良将である。
  父上も私も加判衆も異存はなく、この案は承認された。

 さて、問題は次。
  誰を加判衆に推挙するかだ。
  
  重臣間では推挙の調整が済んでいたらしく、一同を代表して戸次鑑連が口を開いた。

「一万田(一萬田だけど、以後こっちで)親実殿を押したいのですが」

 妥当な選択だわな。
  かつては加判衆を出すほどだった有力一門衆である一万田氏の当主なのだが、親実殿の弟でかつて父の寵臣だった一万田鑑相が小原鑑元の謀反に加担して粛清され、一万田氏そのものが謹慎状態みたいなものだったのだから。
  また、彼を出す事により弟である高橋鑑種にも面目を施すことになる。
  だが、私は知っている。
  一万田親実の嫁がとても美人な事を。
  父上が親実殿を粛清して妻を奪った結果、高橋鑑種を謀反に走らす結果になる事を。
  この一万田親実登用って絶対フラグだよな。
  案が無い訳ではないんだよなぁ。
  父上が出したがっている、寵臣田原親賢を加判衆に入れる事を私が提案すればいい。
  けど、それは加判衆との対立を意味し、私が重臣から恨まれる事になるし。
  私をこの場の席に入れたのは、私の口から田原親賢推挙を出す腹積もりなのだろうから。
  現在豊前松山城に詰めている田原親賢は、私と共に彦山川合戦にも参陣しており、私が功績を譲り知行を与え、何より私の知謀を高く評価してくれている。
  私が馬鹿娘よろしく、「田原殿をいれてぇ(はぁと)」とねだり、「しょうがないな。功多い娘の頼みだしな」と馬鹿親の振りして加判衆を押さえ込む腹か。
  ああ、父上がにやりと笑っていやがる。
  お返しに、にぱぁと笑い返してやろう。

「娘よ。
  何か言いたい事があるのではないか?」

「いえ、私はこの場にて発言する事などできぬ身ゆえ」

「構わぬ。
  わしが許す。
  申してみよ」
 
  父上の筋書きに乗ってやる。
  だが、私を乗せた事を後悔させてやるからね。父上。

「されば。
  加判衆の座は新たなる功績の報奨にすればよろしいかと。
  そうすれば、皆毛利攻めに奮闘いたしまする」

 父の顔色が変わる。
  予想外の問いに戸惑っていると見た。
  加判衆の顔色も変わる。
  やはり、毛利攻めは反対だったのね。

「ふむ。
  娘の言う事も一理あるが、防長を渡る大戦であるがゆえに、先に決めて安心して戦の準備をしたい所なのだが」

「父上の言う事。ごもっとも。
  ですが、功にて決める戦にて大戦より小戦でよろしいでしょう」

 一同、「何言っているのだ?こいつ?」的顔になってきたな。
  さぁ、この茶番をひっくり返してやる。

「珠。
  防長は海を渡るゆえ、小戦で終わらぬぞ」

「ええ。
  ですから、私が言っているのは伊予西園寺攻めです」

 その瞬間、一同の顔に衝撃が走っているのを確認しつつ即座に言葉を放つ。

「ご報告の通り、土佐一条殿が都に帰るとの事。
  で、土佐一条家と京一条家に管理を依頼されましたが、伊予西園寺家に不審な動きが出てります。
  で、先に伊予に兵を出して西園寺領を抑えれ、乱を未然に防ごうと。
  既に、一条氏に従っている伊予宇都宮氏も西園寺攻めに同意しており、こちらの若林・佐伯、そして、逃れてきた安宅氏の水軍衆に守らせつつ伊予に上陸すれば、西園寺は手も足も出せませぬ」

 口を閉じた私に質問をかけてきたのは臼杵鑑速だった。

「姫、佐伯を使うと申しますが、佐伯惟教は小原鑑元の謀反に加担し、伊予に退去して……」

「うん。だから帰参を条件に彼にも参加してもらうの」

 臼杵鑑速は途中でさえぎった私の言葉に押し黙る。
  そして、父上は明らかに不機嫌顔だ。

「娘よ。
  一応聞くが、元鎮がいるから毛利と戦をしたくないという訳ではないよな?」

 そう来ると思ったので、にぱぁな笑みのまま父に向かって朗らかに言ってのける。

「問題は水軍衆なのです。
  門司攻めの折、我が方はついに門司城の後詰を防ぐ事ができませんでした。
  瀬戸内、特に村上水軍を何とかしないと防長攻めはうまくいきませぬ。
  この戦の目的の一つに水軍衆の強化があります。
  若林・佐伯・安宅の水軍衆に南伊予水軍衆を束ねてもらい、彼らに対抗できる勢力になってもらうのです」

 あれ?おかしいな?
  にぱぁな笑みのはずなのに、加判衆が引き始めているのだが??

「更に、伊予宇都宮氏は我らが南を押さえたら北に攻め込むしかありませぬ。
  で、北は河野氏。
  村上水軍と繋がっており、宇都宮が河野と戦をしている限り村上水軍は全力ではこちらにこられないでしょう」

 父上。何で父上までそんな目で見るかなぁ。

「最後に、この戦私も元鎮殿と共に出ます。
  正直、いきなり毛利との戦では、元鎮殿が寝返りかねませぬゆえ。
  確かめる場所が欲しいと思った次第で」

 にぱぁな笑みなんだけどなぁ。
  なんでみんなそんな目でみるのかなぁ。

「まぁ、この戦、水軍衆をお借りできるなら、私の手勢でも片付く戦ゆえ、後で上申しようと思っておりました。
  ですが、誰が加判衆に相応しいかを量るには都合がいいと思い、こうして話をした次第。
  この戦、二月で片付けるので、その後私も防長に渡って毛利と戦をするつもりですのでご安心を」

 あ、なるほど。
  このにぱぁは鷹野三四なにぱぁだったか。
  ちょっと自重。

「いや。
  よく言ってくれた。娘よ。
  筋は通っているし、毛利の前戦でもあり、加判衆に相応しい者を見極めるにちょうどいい戦だ。
  皆のものはどうだ?」

 加判衆からも反対意見は無く、この西園寺攻めはめでたく本決まりとなった。
  毛利が守る防長よりははるかにましだし、勝ち目は確実にこっちはあるしね。
  総大将は私。
  つまり加判衆選定の試験官も含めてという事か。
  さて、評定も終わったし別府に戻って四郎といちゃいちゃ……またあの馬車に乗るのか……orz

 

「少しよろしいかな?戸次殿」

「どうなされた?吉岡殿」

 それは、評定が終わった後の府内城の廊下にて。
  去り行く者が残る者にかけた一言の忠告だった。

「気をつけた方がいい。
  殿が姫を見る目、亡き大殿が殿を見る目と同じだった」



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