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大友の姫巫女

第二十八話 毛利二の矢三の矢 

 祈祷の日当日。

 祈祷用の衣装に身を包んだ私は、おでこに指を当てながら己の姿を鏡に映す。
  分かる人にだけ、私の衣装を教えておく。

『顔の無い月』の倉木鈴菜といえばおわかりだろう。月待ちの儀の姿の。

 いえね、上質の薄絹使っているのは分かるのですよ。
  頭の飾りの前天冠やかんざしも金細工ですし。
  神楽鈴もちりんちりん鳴ってかわいいし。

 けどね!
  スケスケなんですよ。これ!
  千早一枚のみって何の罰ゲームですか!!
  千早って腋の部分しかとめられていないから、横から見たら丸見えですよ。
  前だって透けてるから胸のぽっちが立っているの丸見えですよ。
  良かった。胸大きくなって。
  これでぺったんだったら、犯罪行為ですよ。
  おまけに、飾り紐で前を止めるから前全開ですよ。
  どこのやらないかですかこれは!
  良かった。少しだけど毛生えてて。
  裸より恥ずかしい衣装があるって身を持って体感していますよ。ええ。

 まぁ、戦勝祈願ストリップと考えればこの衣装はある種当然かもしれない。
  どちらかといえば、鬼畜王ランスの酷い鬼畜作戦(シーラ姫裸磔)の可能性も高かったり。
  陵辱エロゲなら間違いなく序盤の捕縛調教寸前である。
  周防長門に上陸してきた大友軍が見るのは、裸で色々された後に磔られた私とか。

 ……やばい。興奮してきた。
  KOOLになろう。KOOLに。

「姫様?」

「ちょ、ちょっと待って!
  今行くから!!」

 ふぅ。
  とりあえず、拭いてから出ないと。
  女性の体は一度火がつくと止まらないからなぁ……

 部屋から出た私は麟姉さんから大典太光世を受け取る。
  自分の身は自分で守らないとね。
  今は女中しかいないので効いてないが、既にテンプテーション発情中(字間違っていない)だったりする。
  万もの将兵を魅了しようというのだ。
  力を最大限に高める為にも己の体の疼きは我慢しないといけない。
  顔は能面のように表情を消しているが、体は火照っており珠のような汗が浮き出ているのがごまかせない。

 館を出ると駕籠の担ぎ手が手を股間に当てる。
  うわ。ちょっと出しすぎたか。
  それでも駕籠をかつぐあたり、仕事にプライドを持ってくれて助かった。

 で、着いてみるとそこにいたのはどう見ても三千以下の毛利軍。
  しかも、士気はゆるみきっていて、耳を澄ますと「これ見て村に帰るのだ」と。
  主力はもう出雲に出て、私は完全に慰問かよ!
  毛利軍将兵が奇異の視線で見つめる中、私の祈祷と呼ばれるストリップは幕を開けた。
  これもスキル極めると、天照を引きずり出すほどの魅了スキルになるのだけど、己のレベルの低さが悔やまれる。
  視線が色気に惑わされて、男達の見る目が欲情に変わっていくのが手に取るように分かる。
  一応祈祷台には柵を設けて、その外に毛利女中が薙刀を持って近づけないようにしているみたいだが、いつ襲うのかと思うとひやひやものである。
  汗が千早に張り付いて肌が更に透ける。
  このスキルの問題点は視野で有効範囲が決まるから、後ろの方は効果が弱く、前は効果が効きすぎるという点。
  とにかく、ここでは最低限将兵達を欲情に染めておかないといけない。
  捕まって陵辱されても命があるならまだ手は打てる。 

 長い長い祈祷の時間が終わった。
  時間にすれば十五分も無いはすだが、幸いにも襲ってくる輩はいなかった。
  で、あまり具体的に話すと色々問題なので結論だけ。

 とりあえず、私の前に居た一部の連中については、しばらくは帰れないんじゃないかな。
  色々と。森に消えていった二人連れとか居るし。
  一番強力なものを浴びたはずだから。
  「あっー」とか「うほっ」も華やかなご時世ですから。ええ。
  もう少し神力があったら私の魅了下に置けるのだけど。

 そういえば、祈祷時に毛利元就や両川はきていなかったな。
  露骨に罠の気配がぷんぷんするが、毛利軍一万を無力化するにはこれしか手が無かったのも事実。
  見事に空振りだったわけだが。
  後は、少輔四郎殿が手配した駕籠に乗り込んで三原に逃げるだけである。

「さぁ、はやくこれに」

 出迎えた駕籠に少輔四郎殿が乗っていた。
  え?一緒に乗れって事?

「この駕籠は毛利一族専用です。
  ですから私が乗っていれば余計な詮索はしないでしょう」

 分かりましたよ。乗ればいいんでしょ。
  乗れば。

「ちょっと、もっと奥に行って……狭い……
  ぁ、何処触っているのよ!」

「す、すいません……動けなくて……」

 すったもんだのあげく、馬のある場所まで駕籠はゆっくりと進んで行く。
  さて、彼を含めて何処の段階で出し抜きますか。 

 

「ありゃ、何だ?
  小娘の色気に狂いやがって」

 二人の乗る駕籠を遠目で見送りながら、兄の吉川元春が帰還兵を見て嘆息する。
  出雲出兵の指揮と、珠姫陥落の手はずを整えていた彼は彼女の裸を見る暇がなかった。

「兄上。
  で、手はずの方は?」

 それは小早川隆景も同じであるが、彼はあえて色気にかかるのを恐れて見なかった口である。
  このあたり自制できるだけ、この兄弟は元就の息子達と呼ばれるのだろう。

「三原まで、手勢を伏せている。
  お前の方は?」

「尼子につながりのある夜盗や流れ者が、駕籠を襲うように仕向けてあります。
  『大友と毛利の講和を望んだ姫を、尼子の手の者が殺した』
  そのように触れ回る手はずは整っています。
  姫と四郎が屍となっても、大友と尼子の連携攻撃は行えないでしょう」

 隆景が見る駕籠の視線は優しい。
  弟の恋路を応援する気持ちは二人とも持っているのだった。
  だが、二人は毛利一族である。
  恋路も何も利用して、毛利の繁栄に繋げるのが彼らの勤めだった。

「さて、ぎりぎり殺されない程度の敵を用意してやったのだ。
  うまくお姫様を守れればいいが。我らの弟は」

 元春とて駕籠を見ながら笑っている。
  弟の幸せは、毛利に害にならない限り願っているのだった。

「で、姫の従者はどうする?」

 思い立ったように元春が尋ねると、隆景は手を顎に当ててつぶやく。

「無事に三原に着いた報告が届いたら送り出そうかと。
  まぁ、姫と四郎が三途の川を渡っても後を追わせるつもりですが」

 とても朗らかな声で言ってのける隆景。

「もっとも、三原に着いても元の姫かどうかは保障しかねますがね」




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