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大友の姫巫女

第二十四話 永禄騒乱 堺にて 

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をやっている珠です。
  ファーストキス奪われちゃいました。
  あと、貰った馬は遠江鹿毛である事が発覚。
  順調に歩く身代金と化す私です。
  あれ?

 さて、大慌てで尾張から伊勢に逃げ、海路慌てて堺に戻ったのですが、そこは最初と大違いの熱気に包まれていました。
  私以上に儲けの種が畿内で発生したからです。

 そう。戦争です。

 事の発端はボンバーマン久秀でした。
  彼は私の策に乗り、淡路を治める安宅冬康追い落としを狙い三好三人衆を唆して兵を集めだした所で驚天動地の事態に遭遇します。

 将軍足利義輝の失踪です。

 身の回りのものと数本の刀しか持たず、供も連れずに失踪した義輝に二条御所の人はしばらくいなくなった事に気づかなかったらしい。
  そして発覚後、幕府は大混乱。
  形骸化しているとは言え、幕府のトップが失踪。
  問題にならない方がおかしい。
  とりあえず、三好三人衆は久秀と謀り阿波に居た足利義親を後継者に据える事で一致。
  だけど、今度は空白となった京の掌握に近江六角氏が色気を出し、淡路の安宅攻めは一時中断となる。
  ボンバーマン、あの将軍を殺す手まではまだ考えていなかったらしく、表に出ていない。
  久秀がいない三好三人衆に畿内を治める力など無く、京都を押さえた三好三人衆はここで大失態をやらかす。
  鹿苑寺院主周嵩を殺したのに一乗院門跡覚慶を逃してしまったのだった。
  覚慶は足利義秋と改名し、逃亡。近江に逃げこみ、ここに六角と開戦する事となる。
  で、その六角攻めに兵や物を集める最中だったりするのだ。

 え?
  久秀どうしたって?
  彼、これをいい事に大和の実効支配進めていますよ。
  手を汚さずに己の権勢はちゃっかり握って離さない。
  そこにしびれ(以下略)

 さて、堺まで戻ってきた我々ですが、実はまだコークスと鋼を残しているのですよ。
  最初に来た時に三分の一、尾張で三分の一、帰りに残りを売るという用意をしていたのですが。
  いや、今回商人連中の目色が変わっております。はい。
  だって、うちの鋼、そんじょそこらより上等だし、うちのコークス、そんじょそこらの燃料より火力あるし。
  かくして、血走った商人達から逃れるようにまた今井宗久殿のお屋敷に。

「まぁ、こんなご時世ですから確実に利になる商品は言い値で引き取れますからな」

 はっはっはと笑う今井殿。
  彼、私のコークスと鋼の三分の一をこの期に高値で売り払って巨万の富を得たとか。
 
「で、その商品についてお話を」

 目が獲物を品定めする目になっていますよ。今井殿。

「ほぅ。
  私に出来る事でしたら力になりましょう」

「近く、私は安宅殿を九州に招こうと考えています。
  で、残る安宅の人を畿内交易に使いたいと。
  それで、彼らを今井殿の名前で雇ってもらえないでしょうか?」

 物流は必要なものを必要なだけが基本ではある。
  だが、情報がリアルタイムで届かない以上、複数拠点に物資溜りを作らないと対応できない。
  私の提案は、今井殿を畿内御用商人に指名するという提案であり、代わりに三好三人衆に攻撃されかねない残る安宅水軍衆を今井殿名義で雇って欲しいという取引でもある。
  堺の有力商人を相手にするほど三好三人衆も馬鹿ではないだろう。

「私の名前でよければ喜んでお貸ししましょう。
  ですが、できれば宿毛以外にも港が欲しい所なのですが」

 今井殿の言葉に私も苦笑するしかない。
  豊後から土佐宿毛を通り、堺では少し遠距離過ぎるのだ。
  阿波か土佐に港が欲しいという今井殿の要求は当然だろう。
  となれば浦戸がちょうどいい位置に在るのだが、ここで問題となってくるのが後に勃興してくる土佐長宗我部氏である。
  勃興後に宿毛と浦戸は長宗我部氏の勢力圏に入る。
  この交易路の拡大は中継地である長宗我部氏にも金が転がり込む事を意味しており、一条兼定を京に持ってゆく形で空白地になる旧一条領と絡めて長宗我部急成長を促しかねない。
  一条と婚姻関係にある伊予宇都宮氏に一条領を任せるか?
  駄目。宇都宮は下手に動かすとかえってまずい。
  城井氏、爺やハヤテちんの佐田氏も宇都宮だし、筑後筆頭の蒲地氏も宇都宮だったり。
  また、宇都宮氏は妙に同族意識が強いから拡大後に同族で何かされるのはあまり望ましくない。
  じゃあ、一条領の隣の伊予西園寺氏に任せるか?
  これも駄目だ。大友と西園寺はあまり仲が良くない。
  一条氏は西園寺とは揉めているし。
  史実では西園寺を大友は攻めている。
  となれば、大友が兵を送って、西園寺領+一条領を握れる人間で宇都宮と有効関係を築いて、南伊予掌握か。
  しかも長宗我部と喧嘩して負けない人間。
  安宅殿かなぁ。
  水軍の若林殿と佐伯殿をつけての南伊予侵攻。
  彼なら三好家という事で四国内の情報に精通しているし、南伊予水軍衆を大友の支配下における。
  なによりすばらしいのは、豊後水道の南だから陸からでないと毛利は圧力をかけられない。
  かわりに近い内に長宗我部の圧力受けるけどね。
  父上が進めているかもしれない毛利逆侵攻よりましか。
  帰ったら父上に提案しておこう。
   
「浦戸でしょうね。
  あそこが使えるよう、一条殿を通じて話をしておきましょう」

 長宗我部の拡大は歴史上止められないし、私がそれを止める意味が無い。
  ならば、利でしばらくは操ってそれから考えるとしましょう。
  
  なお、残っていたコークスと鋼も売っぱらって笑いが止まらないほどの銭を手に入れましたよ。
  ただ、この銭は綺麗さっぱり無くなるハメになるのですが。

 

「おぅ。
  遅かったな。姫よ。
  そんな事では、厳島に取り残されるぞ」

 わざわざ堺に来てとっても嫌味な挨拶ありがとう。ボンバーマン。

「ご心配なく。
  私は叔父上と違って長門で切腹なんてしませんから」

 つんと澄まして毒を吐き返す。
  これぐらい毒を吐いてもこいつに効きはしないだろうし。

「で、将軍様逃亡の黒幕はあんた?」

 一応、確認。
  案の定、返ってきたのは否定の言葉だった。

「残してどうする?
  わしならきっちりと首を取る」

 ですよねー
  分かっていましたけど。

「姫と会ってから、何か変わったらしい。あれ。
  姫、何か言ったか?」

 じと目でにらまれるが、こっちだって身に覚えは無い。

「何も言ってないわよ。
  あれ殺す段取り前提で安宅殿もらうつもりだったんだから」

 将軍様あれ扱い自重。私もだけど。
  そうなのだ。
  私という歴史介入のせいだろうが、徐々に歴史が狂いだしている。
  おそらく永禄騒乱とでも呼ばれる畿内一円の大騒動は、

 足利義輝 安宅冬康の逃亡
  三好三人衆と六角の合戦
  松永久秀の大和征服

 三好内部の御家騒動と絡んで史実を大きく逸脱している。
  あまり歴史を弄ると、前世知識が役に立たなくなるからいやなのだけど、仕方ない。

「で、安宅殿は?」

「殿がもう長くない」

 少しだけ寂しそうに三好長慶殿の容態を伝えたのは気のせいだろうか。
  それ以降の言葉はいつもの謀気が戻っていた。

「姫が淡路に行けば落ちるだろうよ。
  三好三人衆は阿波を掌握しているから、淡路に立て篭もってもじり貧だ。
  で、安宅の残り者に姫が手をさし伸ばしたと聞いたが?」

「今井殿の下で働けるよう手はずを整えているわ。
  豊後―土佐―堺で交易をするつもり」

 その言葉に何故かあざ笑うボンバーマン。
  あれ?
  私、答え間違えたか?

「瀬戸内は使わないのか?」

 当たり前の事のように尋ねる久秀。
  何を言っているのだろう?

「あっこ毛利の勢力圏じゃない。
  毛利とは一戦しないと収まらないから、安宅殿引き抜きという手を組んだの忘れてないわよね?」

「その毛利のじじいがくたばりかけているそうじゃないか?」

 おかげで大慌てで帰りますよ。
  けど、伝えた久秀にはお礼を忘れない義理堅いつもりの私である。

「聞いたわよ。それ。
  だから慌てて帰るんじゃない」

 そう言って、私は蔵の鍵を久秀に渡す。

「何だこれは?」

「今井殿の蔵の鍵よ。
  堺で売った物の代金で、私が使い切れなかった分が全て入っているわ。
  私は、お礼は忘れない主義なの。
  大和征服の資金にでも使ってちょうだい」

 くるくると鍵を手の中で弄んでいた久秀はそれを私に投げ返す。

「小娘に礼をもらうほどまだ落ちぶれてもおらんよ。
  そうだな。半分だけもらっておこう。
  代わりに頼みがある」

 半分はしっかりもらうのね。さすが久秀。
  なんて感心していたら、久秀の声を聞いて一人の男が入ってくる。

「彼を届けて欲しいのだ。
  曲直瀬道三。医師だ」

 その名前を聞いた瞬間、私は久秀に完全にはめられたと悟った。

「つまり、
  大友の姫が安宅水軍引き連れて、
  毛利の庭たる瀬戸内海を突っ切って、
  名医曲直瀬道三殿を連れて、
  病の毛利元就に会いに行けと?」

 震える声で確認をとるが、ボンバーマン笑うんじゃねぇ!

「姫。怒るのか、笑うのかどっちかにすればどうだ?」

 なんだろう?
  この心から溢れるドス黒い衝動は?
  ああ、これが殺意ってやつね。納得。
 
「理由が無いわけではないぞ。姫。
  畿内はこのザマで一人旅は危険だからな。
  曲直瀬殿の身を守る為にも強力な護衛を連れている姫の船団はうってつけなのだ」   

 たしかに。
  安宅氏と供に帰るなら、帰りは安宅船だろうし。
  で、久秀に素直に聞いてみる事にした。

「何で、あんたが毛利元就生かすために動いているのよ?」

「決まっているだろう。
  あの爺と姫の勝負を見たいからだ」

 ねぇ。
  殺っちゃっていい?
  このじじい。

「姫。
  大友がかつての大内よろしく畿内で覇を唱える為には、瀬戸内水軍の掌握、つまり毛利との戦は避けられませぬぞ。
  あのじじいから多くの事を学びなされ。
  わしは姫の事を買っていますからな」

 それは奇遇ね。
  私は天下なんてごめん蒙るけど。
  と、そこまで吐き捨てようとして気づいた。

「大友、もしくは毛利、もしかして大友毛利連合が畿内を制圧した時の畿内奉行があんたの狙いか」

 だから食えないんだ!
  このじじい。
  全部の罪を三好三人衆に押し付けて、彼らの排除を私か毛利にさせる腹だな。

「さぁて。
  まぁ、大友にも毛利にも恩は売りましたからのぉ。
  毛利も姫みたいに恩を返してくれると信じておりますゆえ」

 考えてみれば、こいつ信長が上洛した時にもにたような事をしていたな。

「私はともかく、毛利は信じられるの?」

 尋ねた私に久秀は奥に声をかけた。

「あの爺は信用できませぬが、彼は誠実で信用してもよろしいかと。
  姫の旅の供にいかがですかな?」

 入ってきたのはいつかの好青年だった。

「毛利少輔四郎と申します。姫。
  父が貴方の婿にと差し出した者です。
  どうぞ、お見知りおきを」



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