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大友の姫巫女

第二十三話 ファーストキスは百万石 

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をやっている珠です。
  魔王の城で謀将倒れるの報告を聞き、私は私の休暇が終わった事を知ったのでした。
  ……ひっそりと信長や秀吉に抱かれてもいいかなと思ったのは内緒。
  けど、残念。
  イベントと好感度がちょっと足りなかったと思うのよ。うん。
  かといって、いきなり少女が二人の前に現れてくぱぁでは何処の恥女かと。
  あと、私が捕らえられて、麟姉さんや舞も捕まって三人仲良く陵辱調教ポテエンドもなんとなく想像したり。
  それをしなかったのは自分が背負っている大友百万石の重みを自覚しているから。

 ローマの休日をふと思い出す。
  姫って立場を自覚している者には重い枷でしかないという事が。

 さて、元就倒れるという報告で私が帰還を決意したのは以下の理由があったり。
  隆元亡き後に元就が病で倒れるのは私も知っています。
  問題なのはその病が回復する事を私は知っていたから、リアルタイムでそれにうろたえている人の事をすっぱり忘れていたのです。
  時は戦国時代。
  弱みを見せたらフルボッコなこのご時世にボンバーマンの所にまで元就の病の情報が伝わっている。
  特に、筑前統治に自信を深めて、戦をしていない我が大友がこれを知ったらどうなるか?

 うわ。考えたくねー!

 毛利領逆侵攻ってアムリッツァフラグが立ちかねんぞ。
  またこれが杞憂に終わらないだけの史実が残っているから困る。
  あと数年先に起こる史実の立花合戦、その大友勝利を決定付けた大内輝弘の周防逆侵攻がそれだ。
  この逆侵攻は毛利の九州撤退を代償にして、大内輝弘見殺しという形で幕を閉じる。
  こういう結果になった理由のひとつに、大友水軍が最後まで瀬戸内の制海権を握れなかったのがあげられる。
  ちなみに、大内輝弘周防上陸時の時でさえ、大友の謀将吉岡長増が瀬戸内水軍の村上氏に買収攻勢をかけ、見なかった事にしてもらっているという裏事情もあったり。
  で、周防長門を荒らされて本気の毛利は、この後きっちりと瀬戸内水軍に圧力をかけて瀬戸内海を封鎖。大内輝弘を見殺しにという結果になっている。

 けど、毛利に謀略を仕掛けるには最高のタイミングではあるんだよなぁ。
  隆元が死んで輝元に代替わりしているし、大内輝弘は第14代当主・大内政弘の次男・大内高弘の子という血統の良さもある。
  しくじった大内義長(大友晴英)より国衆の支持は集めやすいし、元就倒れるで旧大内領の国衆は動揺しているのが手に取るように分かる。
  それでも、駄目なのだ。
  この作戦の中核である瀬戸内水軍の掌握はこの段階でも行えない。
  それは、元就から智謀を引き継いだ彼の後で私の前に立ち塞がる男が瀬戸内水軍を掌握しているからに他ならない。

 小早川隆景。
  それがその男の名前である。

 手に取るように周防・長門を舞台にしたアムリッツァが見える。
  北部九州六カ国から兵を集めた、大友軍四万が門司侵攻。そのまま長門上陸。
  豊後水軍の手により大内輝弘が周防上陸。そのまま大友軍と合流して山口を開放。
  このあたりで毛利が水軍を使って反撃に出て、補給に支障をきたしだす。
  で、大友侵攻軍は防長制圧後に侵攻進路を巡って対立するだろう。
  多分、この戦で父上は門司までは行くが、海を越えるとは思わない。
  で、派遣軍諸将と大内輝弘が揉める。
  大内領の掌握と尼子支援を考えての石見侵攻か、毛利滅亡を視野に入れた安芸吉田郡山城攻めか。
  石見に突っ込んだ場合、待っているのが吉川元春。
  多分、勝ち負けのつかない戦に引きずられて奥地へ奥地へ引きずられる。
  安芸で待っているのは小早川隆景。
  水軍を潰せないから補給の枯渇で先に撤退するのは大友の方だ。
  これで尼子が挟み撃ちにできるのならまだ話は速いが、既に尼子は出雲を維持するだけの力しか無く、石見逆侵攻など夢でしかない。
  飢えて敗走する大友軍を待ち構えているのが関門海峡。
  当然耳川より広くて流れが速い。しかも毛利水軍つき。
  侵攻軍の内戻れるのは三割以下になるかもしれない。
  いや、一万も戻れたら御の字かも。

 考えたくねー!!!!!

 元就の事だから、絶対罠張ってる。
  あの謀将が自分の死すら罠に使わない訳が無い。
  ここで大友が壊滅すれば必然的に毛利家中は安泰だし、大友壊滅後に起こる大友領の大反乱祭りで毛利は西国の覇者として君臨できる。 
  多分、豊前・筑前・肥前あたりは毛利に臣下の礼を取るだろう。
  耳川起こしたくないのに耳川前に耳川以上の壊滅フラグが見えるってどういう事だ?

 とにかく戻らないと。
  せめて堺まで戻って情報の裏を取らないと。
  寝床で寝ているふりをしながら私は床下に潜む舞に話しかける。
「私を逃がせる?」
「霞・あやねもこちらに来ております。
  既に手はずも整えておりますゆえ」 
  派手な事はしたくないが、贅沢言っていられない。
「逃げるわよ」

 小牧山城の裏手でぼやが発生する。
  この時代の建物は木造ゆえに火をとてつもなく恐れる。
  皆が消火にてんやわんやの隙を見て、私は舞の手引きで城門まで逃れる。
  見ると、元から立っている兵がおらず、忍び込ませた御社衆が代わりに立っていたり。
  うん。織田方足軽だから疑われないわな。一応。
「で、元居た足軽は何処よ?」
「あちらに」
  物陰の奥で何故か下半身丸出して白目を向いている足軽が三人ほど。
「何をしたのよ」
「少し、この体で極楽を味あわせたのみで。
  お急ぎを」
  こうして、私は小牧山城から脱出する。
  もっとも、あっさり逃がしてくれるほど、信長も優しくはなかったのだが。

 私と舞が取り囲まれたのは小牧山城の町の外れ。
  ぐるりと囲む十数人の足軽の向こうに馬上の信長と指揮する藤吉郎が見える。

「逃げるのは、分かっていた。
  お前の正体、吐いてもらうぞ」

 冷酷に告げる声が、かえって己の勝利を面白く思っていないのが分かる。
  そりゃそうだろう。ここまででは小物のする事だ。
  西海で謀将と遊ぶ大友の姫巫女はこんな小物ではない。

「動かないで。信長。
  囲んだのはこちらの方よ」

 私が吐いた言葉で囲んでいた足軽の数人が躊躇わずに信長と藤吉郎に槍を向け、その状況の一変に他の足軽たちはついてゆけない。

「どういう事だ?これは?」

 うわ。面白そうに笑っているよ。信長。

「たいした種じゃないわ。
  私が逃げるのを読んでいたように、私も貴方が捕らえに来るのを読んでいた。
  で、大げさにしたくなくて情報に精通している者の手駒を使うと考えたら、藤吉郎の手の者しか考えられない。
  幸い、彼出世して足軽募集かけていたしね。
  手の者をそこに潜り込ませた。
  ね。簡単でしょう?」

 ここまで、手が打てるのは信長や秀吉が常人以上の頭を持っていたからに他ならない。
  彼らは状況を作れるから、自分が状況に誘導されているとは気づけないのがこの人種の欠点でもある。

「このまま切り合っても構わんが?」

「貴方はそれをしない。
  それをして、私を殺しても無意味な事を知っている。
  私という存在がどれだけの価値か調べたいからこういう手をくんだ。
  それに、私、手は二手、三手打つのがあたりまえの世界の住人なのよ」

 私が片手を挙げると臭ってくる火縄の臭い。
  これで、信長には分かるだろう。
  自分が火縄銃で狙われている事を。

「はははははははは!
  面白い!
  面白いぞ!!」

 大笑いする信長。
  どうやら、私への評価はなかなかのものだったらしい。

「どうだ。
  千貫出すから、お前の上司、手下も含めて俺に仕えないか?」

「せっ!千貫ですと!!」

 信長の一言に絶句する藤吉郎。
  なお、彼の知行はこの前の出世によって、三百貫だったりする。
  おまけに秀吉のライバルだった滝川一益はこの時期二千貫。
  いかに破格の待遇か分かろうというものだろう。
  一石=一貫で考えれば千石取り。
  何処の誰とも分からない小娘に千石をぽんと払うその気前のよさに感服する。普通の小娘ならば。

「ごめんなさい。
  千貫じゃ、安すぎるわ」

 その予想外の回答に信長の顔がきょとんとする。
  こんな顔できたのね。信長。かわいい。
  藤吉郎にいたっては絶句したまま顔が真っ青だ。

「ほぅ。ではいくらいるか言って見ろ」

 我に戻った信長が顔を引きつらせて尋ねるが、それを私は切り捨てた。

「百万石」

「ひゃ!百万石ですと!!!」

 なお、最盛期の今川がちょうどこれぐらい。
  これでもまけているのが笑える。
  大友家現在百十万石(新田開発で更に上昇中)なり。

「お前だけなら、いくらだ?」

「十万石」

 そうなのだ。秋月騒動で秋月旧臣を押さえ、私の所領は香春・筑豊に十万石を越えているのだ。
  これに、コークスや鋼の輸出、遊郭経営の金を入れたらその倍は軽く超える。
 
「高いな。まけろ」

「貴方が天下を取ったら考えてもいいわ。
  その時に私の正体、教えてあげる♪」

 悪戯っぽく笑う私に釣られて信長も笑う。
  
「気に入った。
  俺が天下を取ったらこの値でお前を買ってやる。
  とりあえず、見逃してやるからこの馬持ってゆけ」

 単騎、そのまま馬で近寄って馬から下りる信長。
  その仕草が、自然だったから何も警戒していなかった。私も舞も。

「んっ!?」

 だから、
  馬から下りた信長がそのまま私の唇を塞ぐのを、
  ただ見ていることしか出来なかった訳で。

「な、ななななななななななななななななななななななななななっっっっ!!!!
  何するのよッっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!」

「百万石の手付けだ。
  天下を取ったらお前を奪いにゆくからな」

 何もいえない。
  顔が赤くなるのが分かる。
  舞とか藤吉郎とかにやにや笑っているし。

「どうした?
  逃げないのか?」

「分かっているわよ!
  舞!行くわよ!!」

 私は舞の背に捕まり、駆けてゆく。
  御社衆や、信長の後ろに火縄を置いた霞やあやねも後からついてくるのだろうが、何も考えられない。

 

 私のファーストキスは第六天魔王でした。
  そして、私の休暇は終わり、姫としての修羅の道に戻ります。



 

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