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大友の姫巫女

第二十二話 似たもの夫婦 

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をやっている珠です。
  魔王に遭遇してしまいました。
  これから一体どうなってしまうのでしょう?

 現在私は乗馬中だったりします。
  信長の馬に乗せられて。
  いや、なんつーか、色々混乱中だったり。信長から醸される血と硝煙と汗とか。
  で、馬を駆けている信長の横顔が凄く真面目でかっこよくって。
  やばいです。
  胸の鼓動が止まりません。

「って、ここ何処?」

「美濃だが」

 は?
  そうか。目の前の川は木曽川か長良川か。
  じゃなくて!
  おちつけ。
  KOOLになろう。
  まだ、この時点で美濃は斉藤氏のもので、信長が押さえているのは東美濃しか無いわけで。

「何で、こんな所に連れてくるのよ!」

「話が聞きたいからだ。
  お前は、何処の者だ?」

 はぁ?

 少女思考中。
  えっと、尾張については偽装工作をやっているから正体はばれていない訳で。
  そんな状況で歩き巫女という間諜の代名詞なんぞやっていたら、隣国のスパイと勘違いされる訳で。
  秀吉あたりと接触したという事で斉藤関係者と当たりをつけたから、美濃くんだりまで私を連れてきたということかしらん?

 あれ?

 身分隠したの裏目に出た?

「それを言える様なら間諜として失格だと思うけど。
  で、私が小牧山で取った行動から察してよ」

 とりあえず、信長の話に乗ってみる。 

「だから、ここまで来たのだ。
  そのままお前を連れて行って、こっちに寝返らせる」

 ちょ!

 おちつけ。
  私は何をした?客観的に見て。
  東美濃調略中の秀吉を助けた。
  つまり、織田側に有利な行動を織田側でないのにした訳だ。
  やばっ!寝返りたい斉藤側勢力の間諜と間違われている!!

「どうした?
  俺の顔に何かついているのか?」

「な、なんでもないわよ!」

 考えている間、じっと信長を凝視していたらしい。
  とりあえずこの場を切り抜けないと。

「墨俣」

 その一言に信長の顔に閃光が走る。

「東美濃を調略した後、西美濃を押さえる時に木曾川がどうしても邪魔になる。
  美濃を奪うなら、墨俣を握らないと。
  で、墨俣を押さえる為にも対岸の東美濃の掌握は絶対条件よ」

 史実の信長の戦略をあえて信長に告げてみる。
  それで私をどう扱うかあえて反応を見てみるつもりだ。
  大友の名前を出してもいいのだが、毛利元就や松永久秀あたりに「なんで尾張に行ったんだ?」なんて勘ぐられたくは無い。
  特にこの二人、後に信長に敵対しているからなおさら。

 信長はじっと私を見つめたまま、馬を尾張の方に向ける。

「帰るぞ。
  お前も城に来い」

 ですよねー。


  で、小牧山城の奥に現在私はいる訳で。
  女中の皆様の視線がめっちゃ痛いです……
  前世なら「ハーレム!ハーレム!!」と大喜びする所なのですが、ちょっと遊郭なんぞを経営して女社会の恐ろしさを知っているだけに皆の嫉妬の視線が怖い。
  新しい妾を連れてきたと思われているんだろうな。きっと。

「ゆっくりするといい」

 できるかー!!
  元来男ってのはこの手の女社会に疎すぎる。
  ましてや、ここは戦国の世。
  大名の男子を産めばそれだけで栄華を極められる女の戦国時代の合戦場。
  さて、どうしてくれようかと考えていたら、女中が来て「女主人が会いたい」との事。
  はぁ。
  気は進まないけど会いに行きますか。
 
  濃姫。帰蝶とも呼ばれる信長の正室。
  父親はあの斉藤道三。
  歴史資料は少ないがこの人が有能であるという証拠は、信長の女性関係がらみでのトラブルがついに政治問題に発展しなかった事からも現れている。
  たとえば、徳川家康正室の築山殿は武田内通という事件が露呈し長男信康まで巻き込んで処刑されていたり、我が大友とて二階崩れの遠因は側室の子供塩市丸の存在だった。
  奥の統治は国の統治並に力量がいる。 
  そんな奥方と対面しているのだった。

「で、そなたはどこの手の者ですか?」

 うわ。旦那と同じ事尋ねているよ。さすが夫婦。
  考えてみると、美濃は父の国だった訳で、その父を殺したのが兄と来たものだ。
  で、兄の息子を滅ぼそうとしているのが旦那である信長。
  何、この昼メロなどろどろの関係は。

「わが身の上、まだ明かす訳には参りませぬ。
  ですが、尾張の殿様に不利な働きをするつもりもございませぬ。
  今の所はこれにてご容赦を」

 濃姫はじっと見つめたままだが、その視線が突き刺さるようで怖い。

「で、もう抱かれたのですか?」

 うわ。むちゃストレート。
  聞いてるこっちが赤くなるのを自覚しながら口を開く。

「まだ生娘のままでございます。
  ここもいずれ引き払うつもりなれば、殿様のお目にかかる事もなかろうと存じます」

 いい男である事は否定しないけどね。信長。
  その答えは以外だったらしく、濃姫の顔が驚きで崩れる。

「妾にならぬと」

「はい。私には待っている人が居ます」

 これが恋人なら良かったんだけどね。
  殺し相手ですよ。毛利元就って稀代の謀将。
  このままここで暮らして、父の闇や母の苦労を無にするほど私も恩知らずではない。
  で、彼を倒しても島津四兄弟(耳川フラグは絶対に折る)とか龍造寺隆信(今山フラグも潰す)とか英傑達が後に控えて……
  あれ?
  私、潤い無いよ。
  何?この戦続きの人生。
  とはいえ、信長の妾なんぞになった場合、やはり信長が修羅の道を進む以上平穏とは言えるわけも無く。
  不意に色々なものがこみ上げてきた私に濃姫は、疑問を隠そうとはしなかったのだった。

「姫様」

 その声は夜、私の寝床の床下から聞こえた。舞の声だった。
  捕まって小牧山城に連れて行かれる事は想定していたから、舞や麟姉さんには逃亡用のプランをいくつか授けておいたけど、これはどのプランにも無い。

「何が起こった?」

 小声で、だけど舞に聞こえるように呟く。
  そして、床から聞こえる舞の声は驚愕の事実が伝えられた。

「佐田様から至急。
  松永様の間諜と接触。毛利元就病に倒れるとの事です」




 

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