戻る 目次 

大友の姫巫女

第二十一話彼は大事なものを盗んでいきました 

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をやっている珠です。
  与えられた神力で秀吉の子供をねねに授けましたよ。
  大友家の死亡フラグ、回避の一手です。

 で、問題はここから。
  秀吉とねねに子供を授けるという目的は果した。
  さて、信長を見て帰るか否か。
  大いに悩む。
  見たいという欲求はもの凄く強い。
  手の届くところに歴史上の偉人が居るのだ。
  それを見たい、よければ話したい。
  純粋な未来を知る者としての欲求。
  だが、それは諸刃の剣でもある。
  謀将毛利元就しかり、腹黒ボンバーマン松永久秀しかり、情報戦でこの時代のトップクラスは現代人でも信じられないほど情報に長けている。
  伝達手段の関係からどうしてもタイムラグがあり、それを補う為の情報誘導を積極的に行うからだ。

 つまりこうだ。
  AがBという事をするという情報が広がって、Cは一日、Dに届くのに数日かかるとする。
  この情報を得てDが何かをする場合、既にCが介入しているという情況で、Dが出し抜くにはどうすればいいか?

 答えはこうだ。
  DがAに対してBという事をするように導く。

 これでタイムラグは逆転し、CはDの後塵を拝む事になる。
  地方大名の謀将にその傾向は強く、その代表は毛利元就なんかだったり。
  このタイプの打つ手というのは距離もそうだが時間も長い。
  介入に対して距離と時間という制約を抱えて手を打つから一手一手が凄く分かりにくい。
  たが、ある瞬間、ある場所に来るとその一手一手が詰み手になって逃れられなくなっていたりする。
  厳島合戦なんてまさにその典型である。

 そしてこの答えにはこんなパラドックスが存在する。

 CがAに対してBという事をするように導く。

 これをされると、Dは介入すら行えない。
  中央の謀将がこのタイプであり松永久秀なんかはこっち。
  こっちは、何よりも数で勝負できるから手数が多い。
  だから、爆弾を置き過ぎて自爆する。
  ボンバーマンが何度信長に背きつつ許されたりという愉快な情況の果てに、爆死という結果はそんな手数勝負で自爆したといえなくもない。

 なお、私はD。
  前世知識を持って、九州という地方でドンドン情況をこっちのいいように作っていっていたりするから。
  今回の秀吉とねねの子供なんてのもそんな手の一つだったりする。


  では、私が今いる織田信長はどっちだ?
  とても簡単。
  彼がAだから。
  Bという行為を行う事でCDに対応させる。
  だから天下を寸前のところまで取る偉人なのだけどね。

 
  ……自分で解説してなんだけど、信長まじでやばくね?
  おちつけ。COOLになろう。
  正直、信長に対して手を打つ必要は無かったりする。
  所詮、本能寺で焼け死ぬのだから。
  彼が生きていた果てで九州征伐なんぞやられたら悪夢以外の何者でもないが、死ぬと分かっているので手を出す必要も無い。
  でも、その情報を持っている私という異分子がいる。

 …………

 おちつけ。KOOLになろう。
  まだ慌てるような時間じゃない。
  今回はちゃんと偽装もした。
  大友の姫巫女は伊勢に滞在中という情報は、偽装ゆえにあえて広げさせている。
  今、撤収して伊勢に入ってしまえば信長の手は届かない。
  秀吉にも会いたかったが、人垂らし光線浴びたくは無いのでパス。

 家康も無理。この時期の三河は余所者に冷たいし、三河一向一揆が始まっているから、寺社勢力の私は敵性認定されるだろう。

 決定。
  ここを引き払う。

 立ち上がる。
  まだ、小牧山城の宿だったりするのでとりあえず津島まで逃げる。
  私が口を開いて撤収の指示を出そうと思った矢先に、

「お客さんですよ。
  木下藤吉郎さんってお方がお見えになっていますが」

 女将の朗らかな声に私は、信長の糸に絡め取られたのをはっきりと悟ったのだった。


「えりゃあ助かったでよ。
  おかげ様で、信長様にも誉めてもらい褒美も頂く事もできた。
  これも丹羽様を動かすだけの銭をめぐんでくれたあんたらのおかげでよぉ。
  こうしてお礼をしに来たって訳さぁ」

 目の前に尾張訛の猿が居る。
  けど、猿は猿でも、動物の猿では無く、ルパン三世の猿だった。
  ああ、だから女好きな訳だ。
  まぁ、次から次に話すこと話すこと。
  話が飛ぶし、身振り手振りが面白いし、緩急があるから麟姉さんも舞も私も腹抱えて大笑い。
  で、活動から戻ってきた他の歩き巫女や、まったく関係ない宿の他の客も巻き込んで、木下藤吉郎大独演会の幕開けとなり。
  綾小路きみまろ並の大フィーバーでやんややんやと話弾めば、酒が欲しい、つまみが欲しいとそのまま宴会になだれ込み。
  元遊女な歩き巫女達がこのチャンスを逃すわけも無く、男客に取り入って一人、また一人と寝屋に消え。
  というか藤吉郎よ。あんた、舞連れて何処に行く?
  ねねはどーした!ねねは!!

「もちろん!帰ってからしっぽりと朝まで合戦してきたでよぉ!
  叫ばせ続けて足腰立たなくなるまでしたおかげで、朝飯は食べられにゃーわ、隣近所から『自重しろ』と突っ込まれ。
  ひでぇーと思わにゃーか?」

 まぁ、分かんなくは無いけど。
  人質だったから死線をくぐってきた訳だしね。

「それに、この胸は一度お相手すべきだきゃあ」

 本音はそっちかよ!!
  まぁ、分からんではない。
  触った私が保証する。あれは魔乳だと。

「ま、魔乳じゃとぉ!
  なんて素晴らしい響き!
  たしかに、この揺れ、このふくらみ、揉めばきっと涅槃に連れて行って離さない。
  まさに魔乳!」

「ま……魔乳なんて……ちょっと人より大きいだけです」

 舞の訂正になんでかかちーんと来る、私と麟姉さん。
  将来有望の私の胸はたとえるなら、某アイドル育成ゲームにおけるパイタッチエロゲアイドルであり、麟姉さんは同じゲームにおけるローソン店員である。
  護衛時に胸が邪魔なのでさらしで絞めるとか隠れ乳属性ですよ。彼女。
  なお、くノ一の舞・霞・あやねの三人はさわやかにF91を超えている。
  化け物め。
  こっそりジェットストリームおっぱいと呼んでいるのは内緒だ。
  あと、補足を一つ。
  この歩き巫女一行で一番胸の小さいのは私だったりする。
  まぁ、年も一番若いからね。
  どうせ神力で後に魔乳ならぬ神乳になって見返す予定だけどね。
  というか、今気付いたが舞よ。あんたなんでそんなにほいほいついてゆく!

「いえ、藤吉郎さんが『金は信長様からもらったでよぉ、舞と麟様の二人を相手にしたいなぁ』と」

 舞が忍者だなとさり気なく評価したのは、ここで私の名前を出さなかったのと、麟を様付けした事。
  まだ、彼はこの一行のボスが私か麟姉さんのどちらかに絞れていないだろう。
  私はくせで麟姉さんと呼んでいるし、麟姉さんの腰には天下の名刀大典太光世がでんと。
  だませればもうけものである。
  で、それはそれとしてちょっと頭冷やそうか。木下藤吉郎。
  帰れ。帰って、ねねと二回戦でもやってろ。この幸せ者。
  ドンちゃん騒ぎと馬鹿騒ぎの果てに、宴は夜更けまで続き、何のためらいも無く自分が藤吉郎と話していた事に驚愕したのは宴が終わって寝床についた後だった。

 彼は大事なものを奪っていきました。
  私の警戒心と逃げる時間です。


  早朝、まだ誰も寝静まっている時に私は旅支度を整えて宿を出ていたりする。
  もちろん、麟姉さんや舞にも報告済みの行動だ。
  事ここに至って、長居は帰って危険だからとにかく逃げると。
  で、全員撤収は流石に怪しまれるから、単独で私が先に逃げる事にする。
  と、二人には説明した。
  多分うまくいかないだろうから。
  秀吉がこの時期信長の腰巾着だったのを私は知っている。
  その秀吉が来訪した時点で信長に補足されたと私も悟っている。
  宿に兵隊連れて踏み込まれたらたまらないという理由もある。
  最悪私だけ連れて行かれても、舞と麟姉さんが無事なら脱出の手はある。
  とまぁ、最悪を考えての行動だったりする。
  ここまで派手に動けばいくらなんでもばれるだろう。

 小牧山の町から離れたと思った時に、それは現れた。
  朝の単騎駆けなのか、待った行動なのかは知らない。
  けど、イケメン不良がいい大人になっても子供心を忘れない、そんな雰囲気を残しながら、織田信長は私に、

「そなたが歩き巫女の長であるか?」

 と馬上から尋ねたのだった。


 

戻る 目次