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大友の姫巫女

第十八話 天と武 そして艶 

「尋ねる。天下とは何ぞ?」


  麟姉さんを一刀の元で倒した、天下を治めているはずの男はこう言って、私に尋ねてきた。


  お元気ですか?
  宇佐で巫女をやっている珠です。
  ボンバーマンのお茶は美味しかったです。
  二度と飲みたくないけど。

 京都は応仁の乱の影響もあって結構荒れています。
  とはいえ、この国の首都という看板を背負っているだけあって町屋敷はそれなりに立派だったりします。
  で、朝廷にご挨拶。
  一条兼定復帰の根回しを。
  時間が惜しいので札束でぶったたく(比喩表現)という手で了承。
  ……朝廷、そこまで貧乏だったか……
  次に、将軍様とご対面。
  当たり障りのない話をしてとっとと去るつもりでしたが、私の護衛の麟姉さんに興味を持ち一戦やる羽目に。
  いや、リアル暴れん坊将軍相手に戦っても勝てないからとこっちが止めても。

「姫様止めないでください。
  私も姫様の護衛を任された身、引くわけにはまいりませぬ」

 これだから武家の娘ってのは……
  で、みごとに伸びている麟姉さんが居る訳で。
  将軍の動きがとにかく速かった。
  薙刀の間合いに踏み込んであっさりと一太刀。
  なるほど。剣聖と呼ばれるだけの人だわ。
  ……ボンバーマン。よくこいつ殺したよな。本当に。
  戦いは数って事だよな。兄貴。兄さん居ないけど。
  で、冒頭の台詞はその後、私に向けられたものだった。

「武を極めても、天下を握れぬ。
  謀を持ってしても、天下は動かぬ。
  政は武に謀に覆される。
  八幡の姫巫女よ。
  教えてくれ。
  天下とは何だ?」

 それは魂の叫びだった。
  何を持ってしても変わらぬ、変われぬ幕府という虚構の王の叫び。
  室町幕府はその設立当初から極めて権力基盤の弱い政権だった。
  だが、かりにも幕府が続いているのは、南北朝・戦国と幕府以上に地方大名が疲弊していたからに他ならない。
  そして、戦国大名という新しいかつ力を持った勢力である織田信長によって室町幕府は滅びる。

「諸行無常でございます」

 私は知っている。
  天下という言葉に取り付かれた者達を。

「ある者は、全ての旧来の秩序を憎み、それゆえ家臣に殺されました」

「ある者は、主君の夢を追い求め、それゆえ全てを失いました」

「そして、ある者は、いろいろなものを捨てて、ただひたすら待ち続けたのです。約七十年も」

 その言葉が嘘ではないと知って、将軍の視線は更に厳しくなる。

「そして、そこまでして求めた天下が永久に続くわけもございません。
  平家しかり、源氏しかり、鎌倉の北条しかり。
  それでもなお、天下を目指すのであれば……」

 一呼吸置いて、私はその言葉を口にした。

「全てを捨てる事です。
  全てを捨てて求めてもなお天下は遠いでしょう。
  天下は得るものでも、奪うものでもありません」

 私が、第二の生を受けて天下など考えなかったのは、天下を取った者達を知っているからに他ならない。
  信長がどれだけの物を破壊し、殺したか。
  秀吉がその夢を受け継いで叶えた後に、叶えた事による自分の存在価値の消滅に怯え狂っていったか。
  家康がだだひたすら幼年期から老人になるまで、嫁と息子を贄に静かに待ち続けたか。
  私にはそんな生き方はできない。
  ただ、戦国の世で家を守り、面白おかしく暮らしたいだけなのだ。

「姫巫女よ。更に問おう。
  そこまでの覚悟を持って政に当たれば、大友と毛利の和議は成るか?」

 その問いに私は答えられない。
  遅い。遅いのだ。その問いは。
  既に将軍の後ろ盾である近江六角氏は観音寺騒動でその力を失っている。
  更に、将軍が暗殺の手を差し向けつつ利用価値があるからと将軍を殺さなかった三好長慶は死の病を患っている。
  その下の松永久秀や三好三人衆は将軍についての敬意など欠片ほど持っていない。
  もう、政治的に彼は死んでいる。
  それが分かるがゆえに、その問いに答えられない。

「答えぬか。
  ならば、更に問おう。
  何が間違っておった?」

 その問いは己の命が失われる事を悟った将軍が発した悟りの言葉。
  だからこそ、答える為に口を開かざるをえない。

「手です」

「手?」

 刀を持ったまま手を見る将軍に私は静かに告げた。

「今、刀を持っている手は、鍬を持ち畑を耕す事ができます。
  物を運び、商いで金を握る事ができます。
  将軍様の手は刀を、幕府を持つのみでした。
  民の手を握る事をもっと速く知っておられれば、毛利・大友だけでなく三好すらも将軍様の威光にひれ伏したでしょう」

 暴れん坊将軍は民の為に悪の御家人を切るのだ。
  御家人を切るだけでは、ただの人切りでしかない。

 将軍はただ手を見つめて持っていた刀を私の前に投げ捨てた。

「流石。姫巫女よ。
  大儀であった。
  問答の駄賃に大典太光世を持って行くがいい。
  供の者の腕はまだ伸びるぞ」

 私は静かに頭を下げる事しかできなかった。
  私は私のエゴで、彼を見殺しにする。
  私の為に、大友家の為に。
  分かっていた儀式だけど、御所からの帰り道私の心は晴れなかった。


  
「姫様。繋ぎがとれました。
  夜、宿の方に」

 宿には、別行動をしていた佐田鎮綱が控えていて、彼女らの到来を告げる。
  京都に来た理由の一つに忍との接触があった。
  情報収集は歩き巫女や遊女に任せているけど、防諜がまったく整っておらず、毛利元就に後手後手後手を踏む始末。
  いや、堺での鎧プレゼントは本気でへこんだから。
  これは、確実に起こる毛利との戦に置いて致命傷になりかねないから忍者を雇う事にしたのだった。
  なんで畿内くんだりまでと思うけど、土着の忍達は露骨に土着勢力と繋がっているからかえって情報が漏れてしまうのだ。
  元就相手には、「珠姫が忍を雇った」という情報ですらどう使われるか分からない。
  あれに勝つには、情報そのものを与えない事が大事だし、防諜で忍の存在がバレても流れ者の忍なら金を払い続けている限り裏切らない。
  土着の忍は金を払っても、地縁で裏切りかねないから。

「で、伊賀?甲賀?」

「甲賀の方でして」

 それもなんとなく予測はついていた。
  時流に乗るのが美味い甲賀と違い、伊賀は独立色が強すぎる。
  こちらの提示は、人材と資金の供給。
  で、要求はくノ一購入である。
  人身売買以外の何者でもないが、九州くんだりまで来る者の生活保障と誰がボスかをはっきりさせる為には絶対に必要だった。
  話はそれるけど、大友領における人身売買は高付加価値をつけて購入側になる事で激減しているけど、他所では相変わらず売られていたりする。
  で、ブランド品が流行すれば偽者も出回るのも当然で。
  いましたよ。大友女の偽者。
  知識(性的)と教養を持たせた高級娼婦である大友女はそれと分かるものは無い。
  せいぜい私が経営する遊郭がそのブランドの保障みたいなものだったりする。
  では、偽者はどうやって大友女としていたか。

 刺青である。

 大友の家紋である杏葉紋を体に彫らせて売っていたのだった。
  首輪をつけ、鎖に繋がれたあられもない女達に彫られている刺青を見て思わず濡れたのは内緒。
  か、かんちがいしないでよね。
  ちょっと、好きなエロゲーブランドがcatwalkNEROとか、ブラックリリスとか、ルネとか、シルキーズとかだったりするだけだからね!
  トップクラスの遊女達にピアスでもつけようかしら。
  ピアスが金銀ならそれの価値で彼女達の価値も上がるし、彼女達にも財産となるな。

 閑話休題。
  まじめな話、全ての人身売買は止められない。
  それほどこの日本の交易は拡大していたりする。
  それを止められるのは統一政権、つまり秀吉を待たないといけない。
  つまり、後三十年はこの光景をみないといけない訳で。
  重たいなぁ……
  私一人なら、喜んで肉欲に溺れてもいいのだけどね。

「姫様」

 麟姉さんが大典太光世を手にとって来訪者の存在を告げる。

「構わないわ。入ってきて」

 麟姉さんを手で留めて、彼女達を部屋に入れる。
  入ってきたのは忍び装束のくノ一が三人。
  くノ一って本当にいたのね。
  が、素直な感想だったり。 

「名前を聞かせて頂戴」

「名前は捨てました。
  里も抜けて、姫様に捨てられるなら死あるのみです」 

 あれ?
  そんな決死のくノ一募集では無いんだけど??

「姫様は我ら女の為に新たな里を作る事を約束してくださいました。
  女が里長になれるなど望外の望み。
  それゆえ、里は最初この話を断ろうとしたのです。
  ですが、我らは夢を見てしまいました。
  西国に名を轟かす姫様の下で女の里長としてくノ一と供に働く夢を。
  ですから、全てを捨ててここに来ております。
  どうか、我ら三人をお買いくださいませ」

 三人同時に平伏するくノ一達。
  その平伏時にぽよよんと弾む胸・胸・胸。
  くノ一だもの。ハニートラップできて当然だわ。

「分かりました。
  貴方達を買います。
  とりあえず巫女としてこの旅についてきてもらうから。
  名前は、舞・霞・あやねでいいかしら?」

「「「我らの命!珠姫様の為に!!!」」」

 
  ためしにと、三人の色仕掛けを見せてもらう為に絡んでもらった。

 凄かった。

 で、麟姉さんと私も混ざって百合5Pに……


  リリスの道を着々と歩んでいる今日この頃です。



 

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