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大友の姫巫女

第九話 秋月騒乱 彦山川合戦 後編 

彦山川合戦 終盤

         彦山川     
           ■        凸香春岳城
           ■ ③    
          B② A⑤ ①   □香春城下町
          ⑥■■④
            ■
            ■■
             ■

秋月軍              千以下    
A原田貞種(原田家      二百)
B秋月種実(秋月総大将  数百)

大友軍               五千以上 
①大友珠 (私 御社衆   二百)
②城井鎮房(城井谷衆他  千三百)
③佐田隆居(宇佐衆      千数百)
④田原親賢(松山城城兵  千)
⑤志賀鑑綱(御社衆      三百)
⑥千手宗元(元秋月家臣  千)

 
  死兵ほどたちの悪いものは無い。
  大将原田貞種の為、目の前の大友本陣を蹂躙する為、毛利家で冷や飯を食っていた将兵が一人、また一人と佐田・田原の軍勢に突っ込んで時間を稼ぐ。
  それを正面から押さえる志賀鑑綱はがっちりと勢いを防いだように見えた。

「甘いわ!!」

 ここで、御社衆の張子の虎が露呈する。
  支えた一部の場所が流れ者や浮浪人ばかりだったので、原田貞種の気迫に脅えて逃げ出したのだ。
  隊列が乱れる御社衆。
  その齟齬を一気に原田貞種は突いて突破する。
  大友の象徴である杏葉紋がつけられた陣幕まであと少し。
  それを遮るものはもう何も無い。
  原田貞種は血まみれで馬を駆ける。
  付き従う兵は数人にまで減っていた。

「我が一族の恨み!
  今こそ晴らしてっ!!!」

 陣幕を引きちぎった瞬間、馬が急に沈み原田貞種は地面に叩きつけられた。
  陣幕真下に張られた縄に馬が足を取られたのだった。

「おめでとう。原田貞種。
  私の策を全て食いちぎったのは貴方が始めてよ」

 幼子の声がする方を向くと、床机に座っている髪を二つに分けた巫女がいた。
  何故に子供がという疑念は、その隙をついた佐田鎮綱の刀が突き刺さる事で破られた。
  大将が討ち取られた事で、付き従った数人の兵の気力も折れ、薙刀を持った巫女達の三人で一人に当たる攻撃で囲まれたあげく皆その場で討ち取られる。

「くっ……
  ふははははは……
  貴様が、大友の雌狐か」

 口から血を吐き出しながら、死にゆく男は私への呪詛を止めようとしない。

「毛利狐と同属なんていやだわ」

 わたしがしらじらしく言葉を紡ぐと、原田貞種は血と息が漏れるのを構わず大笑する。

「ははははは……
  貴様の事は元就様から聞いているぞ。
  お前は修羅の道を進んでいる愚か者だと……」

 それ以上の口を聞きたくない佐田鎮綱が首をはねようとするのを私は手で制する。

「先に地獄に行って待っていてやる。
  これから先、末代まで大友の家を呪ってやる。
  呪って……」

 その呪詛が原田貞種最後の言葉となった。
  それを受け止めて、私はこの戦の幕を下ろす言葉を口にする。

「鎮綱。
  首をはねなさい!
  この戦!我らの勝利よ!!」

 首をはねた鎮綱が近づいて私に囁く。

「とりあえず、お召し物を換えませんと。
  汚れていますゆえ」

 それでやっと気づいたのだった。


  原田貞種の突入に体はがたがた振るえ、涙目でお漏らしまでしていたという事に。


  見ると、秋月種実の兵が混乱から壊走に移っていた。
  門司の時は大量の鉄砲と戸次鑑連に任せてしまえばいいと人事だった。
  今回、おそらく私は初めて命をかけた戦をしたのだろう。
  あとで「初陣とはそのようなものです」と爺と城井殿双方から笑われたけど。

 
彦山川合戦
動員 秋月三千 大友五千
損害 秋月二千 大友五百 (内訳 死亡・負傷・逃亡を含む) 

討死 秋月 原田貞種 大友 なし

 結局、秋月種実は逃げることができなかった。
  筑豊で大規模に行われた落ち武者狩りに一人、また一人とその数を減らした後、降伏したのだった。
  この状況に筑紫氏と宗像氏は背後で睨む臼杵・立花・高橋勢の為に動く事ができず、秋月を見殺しにする形となった。
  毛利は秋月蜂起に救援を出そうと動いたが、主力は全て尼子攻め、水軍衆はまだ前年度の門司の損害から立ち直っておらず、門司に続いて秋月滅亡によって北部九州における権威は大幅に失墜する事になる。




 

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