戻る 目次 

大友の姫巫女

第八話 秋月騒乱 彦山川合戦 中編

彦山川合戦

         彦山川     
           ■        凸香春岳城
          A■③    
          B■②   ①   □香春城下町
           ■■
           C■④
            ■■
             ■

秋月軍             三千    
A原田貞種(原田家     五百)            
B秋月種実(秋月総大将  千五百)
C千手宗元(秋月家臣    千)

大友軍                 五千 
①大友珠 (私 御社衆     五百)
②城井鎮房(城井谷衆他    千五百)
③佐田隆居(宇佐衆       二千)
④田原親賢(松山城城兵   千)


  合戦の開始は、渡河をはじめた秋月軍中央に対して、城井勢が一斉に矢を放つ所から始まった。

「進めぇ!
  後ろから大友の大軍が来る以上、ここで死ぬも後で死ぬも同じぞ!
  死んで名を惜しめぃ!」

 同じく秋月軍左翼の原田貞種が渡河して、爺に猛攻撃をかける。
  彼は香春岳城の元城主原田義種の弟に当たり、大友が香春岳城を落とした時は毛利軍に従軍していて助かったという経歴を持つ。
  だから、彼と彼の一党の大友にかける怨念はすさまじいものがある。
  たまたまだけど一番兵の厚い爺に当たらせて正解だった。

「けど、何で猫を咬みかねない鼠なのに戦をしかけたのですか?」

 佐田鎮綱の問いに、私は本陣の後ろを振り向いて答えた。

「乱取り(略奪)なんてされたら、せっかく復興させた香春の町がまた灰になるじゃない」

「優しいお方だ。
  だからでしょうな。
  城代を務めて、民の声は姫様を慕っておりますぞ」

 志賀鑑綱が私の事を褒める。
  本陣にいる私の兵は本陣の総予備という位置づけだが、その実情は流れ者とかの使えない兵を纏めているだけだったりする。
  一応、香春岳城につめていた志賀鑑綱率いる百五十人はまともな兵だが、別府と宇佐・香春の遊郭につめていた流れ者二百人を戦に使えというのが無理である。
  途中で十数人ほど逃げ出しているし。
  再度募集をかけて、姫巫女衆五十人まで入れての張子の虎の本陣だったりする。

 で、その役立たずは佐田鎮綱に見張らせていたりする。
  こういう時、女の方が落ち着いているというのはどーよ。
  まぁ、野党や戦に巻き込まれかねないのが歩き巫女という職業だから、ある程度の腕に自信はないとやってられんわな。
  体を鍛えているからだろう。みんなスタイルいいし。

 で、こちらの左翼の田原殿はと……
  うわ。やる気がねーな。相手側は。
  矢戦すら行ってないわ。
  田原殿は松山城に詰めていたから、こちらの奥の手に感づいているな。
  そろそろ、秋月方も気づいているだろう。

「姫様……もしかして……」

 佐田鎮綱が恐る恐る口に出し、志賀鑑綱なんて化け物を見るかのような目でこっちを見ている。照れるな。

「うん。
  千手宗元を内通させた」

 これが私の奥の手だったりする。
  何の為に香春に遊郭を立てたと思っている。
  かき集めた金を、全部旧秋月家臣買収に使いましたよ。
  毛利の威信落ちた今、金を握らせ、女を抱かせて秋月家臣団を切り崩したのだった。
  これをしていなかったら、最初の秋月蜂起は五千から六千にまで膨れ上がっていただろう。

「動いた」

 志賀鑑綱の一言より先に、千手宗元の陣から秋月種実の陣に向かって矢が飛ぶのが見えた。
  横から、しかも味方と思っていた千手宗元の攻撃に、敗軍の秋月種実の兵の士気は耐え切れずに混乱する。

「勝ったわね。
  田原殿にお願いを。
  爺の軍勢が手間取っているから後詰をお願いしたいと」

 伝令ではなくお願いなのは、私が明確な総大将ではないからである。
  こんなロリ幼女に軍が動かされたら戦の前に崩壊するのが分かっている。
  おかげで、同権の武将三人が個々に戦うという凄く恐ろしい体験をする事に。

「まずいな。
  城井殿の兵が中央を深い追いしすぎている」

 志賀鑑綱はその動きを見逃さなかったし、やはり原田貞種も見逃さなかった。
  攻撃正面を爺から城井勢に変え、横合いの一撃で混乱する城井勢と宇佐衆の間を抜けて一気に本陣に突っ込んでくる。
  互いが同権であるがゆえ連携に齟齬が出た隙を突く見事な采配である。
  すり抜けた原田勢その数二百あまり。

「防ぐぞ!
  姫様。ここを動かれぬように。
  鎮綱。いざとなったらお前が姫様を連れて逃げろ!」

 志賀鑑綱が手勢三百を引き連れて原田貞種を防ぐ。
  潰す必要は無い。私が安全な所に逃げるか、田原勢がこちらに戻る時間を作れるのならば。
  とはいえ、それを信じるほど戦国は都合よくは無い。

「鎮綱。
  ちょっとやってほしい事があるの」

 槍働きができないなら、別の事で戦わないとね。



戻る 目次