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大友の姫巫女

第七話 秋月騒乱 彦山川合戦 前編

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をやっている珠です。
  今回は戦場ですが、様式美って大事ですよね。
  さて、合戦ですが私はお飾りの大将扱いです。
  十一歳の幼女が戦場で何ができるかといえば、髪をツインテールにしてネギを振るぐらいなのですよ。
  おまえら、たっまたまにしてやんよ。私の手勢が。

 さて、今回の戦の解説を。
  ポイントは秋月を毛利と連携させない、つまり秋月を筑豊に閉じ込める事でした。
  また都合がいい事に、秋月の本拠たる古処山城は筑豊の奥にあるから、香春岳城と鷹取城を塞いでしまえば後は袋の鼠です。
  裏口の朝倉街道は戸次と吉弘の大友本軍に抑えさせます。
  こちらに逃れると筑紫氏と連携されかねなかったからです。
  門司の戦が効いているのか、思った以上に秋月の兵が少ないのは嬉しい誤算です。
  元々はこの兵は香春岳城と鷹取城に詰める予定の兵でしたから。

 なお、どうでもいい話ですが鷹取城城主は毛利鎮実殿。
  ……いや、誰?って毛利一族!?
  念のため、香春の遊郭で接待してみたら同姓らしい。紛らわしい。

 守る古処山城には吉弘鎮理を配置。高橋紹運の名前の方が有名な人である。
  この人に山城篭らせて落とされるとは思えないから、後は篭らせたまま朝倉街道から上ってくる大友本軍にふるぼっこというのが当初の計画でした。
  けど、戦は水物で何が起こるか分からないもので、さすが耳川後に筑前・豊前を切り取って大名にのし上がった秋月種実。
  即座に蜂起失敗と見抜いて毛利と提携できる門司まで逃げようとしたのは見事な判断です。


  だが、甘い。


  目的地が最初から分かっていれば、罠の張りようはいくらでもある訳で。
  筑豊から門司に逃げる為には二つのルートがあります。
  21世紀の駅名で言うなら、折尾―黒崎―小倉―門司の筑豊本線ルートと、田川―行橋―下曽根―門司の平成筑豊鉄道+日豊本線ルートの二つです。
  で、筑豊本線ルートの蓋が鷹取城で、日豊本線ルートの蓋が私の城である香春岳城です。

 この二つの内、私は秋月種実が香春岳城に来る事は確信していました。
  理由は簡単で、毛利の支援を受けるためには毛利水軍が出張らねばなりませんが、その主力は瀬戸内海です。
  筑豊本線ルートだと玄界灘に出てしまい、毛利水軍の支援が遅れてしまうのは自明の理。
  背後から戸次鑑連率いる万の軍勢に追われているのに、そんな時間的余裕なんぞあるわけが無い。
  ただでさえ彼らは策が敗れた敗軍であると自覚しているのだから。

「「「「「…………………」」」」」

 と、解説してみせた所、本陣の武将全員黙り込んじゃいましたよ。
  あれ?何かまずった?

「末恐ろしい姫様ですな……」

 呆然と呟いたのが今回勝手についてきた城井鎮房殿。
  宇都宮家と呼ぶ所もあるけど、信長の野望表記で呼ばせてもらおう。
  とはいえこの人も豊前は名の通った勇将だったりするから今回の参戦はありがたかったりする。

 皆、勘違いするけど、この時代の九州なんて大名本人が命令して動員できる兵力というのは本国ぐらいしかなかったりする。
  大名が国内豪族の連合体のお神輿であり、それをいかにまとめあけで兵を生み出すかはその大名の質にかかっているといっても過言ではない。
  万の兵を毎年出兵させる動員体制を作っている父上は決して無能ではないのだ。

 とはいえ、毎年兵を出せば領国は衰退し、国衆の不満は爆発する。
  当初の計画では香春岳城に詰める兵だけを想定していたので、私の御社衆三百と宇佐衆の一部二千で香春岳城に向かうつもりだったのだ。

 だが、生き馬の目を抜く戦国の世で、戦に向かう兵をただで通すわけもなく。
  こちらの威信が低い、またはこの戦負けると国衆が思ったら落ち武者狩りに化け、威信が高く勝ちそうなら勝手働きとして参陣してくるわけだ。
  もちろん、勝手にやってきたとはいえ味方である以上は飯を食べさせないといけないし、戦後の褒賞も用意しないといけない。
  良し悪しでもある。
  とはいえ、彼が連れてきた豊前国衆二千の兵はこちらの想定以上で、だからこそ計画を変更して秋月と合戦を行う腹を固めたのだけど。

「まさに。
  鎮西の巴御前となられるお方でしょう。
  大友の将来は明るいですな」

 追随したのが田原親賢殿。松山城城主として対毛利の最前線を任されている父上の信頼厚い将だが、武よりも知略を用いる。
  相手が毛利、確実に出張るのが小早川隆景だから当然かもしれない。
  戦より、オセロのごとく寝返る豊前・筑前国衆が相手なのだから。
  私の手が武で無く知略である事に気づいているから、その衝撃は城井鎮房殿以上だったりする。

「姫様……
  ご立派になられましたな……」

 あちゃー。
  爺、感極まって泣いてるよ。
  もう扱いが、孫の授業参観に行って孫が答えているのを見る爺ちゃんのポジションだよ。
  ハヤテちん(佐田鎮綱 私の執事)。何とかしてくれと目で訴えても首を横に振りやがる。
  ええい。優秀だぞ。ハヤテちん。
  ちゃんと出来ない事はできないって言える洞察力と勇気はまさに執事。
  キースじゃなくって本当に良かった。

「…………」

 そんなカオス空間を春香岳城城代の志賀鑑綱は黙って見ていたのだがあんたも見てないで助けろよ。
  小原鑑元の反乱鎮圧など功績厚い良将だけに、低い声で一言。

「秋月勢、動きましたぞ。
  魚鱗の陣」

 すぐに戦国武将の顔になる私以外の全員。

「馬引けぃ!
  敵に対して鶴翼の陣を取るぞ!」

「城井殿。中央はお任せしますぞ。
  姫様をどうかお守りくだされ」

「佐田殿。お任せくだされ。
  我が艾蓬の射法で姫様に近づく者を射倒して見せましょうぞ!」

「では、左翼の陣に戻ります。
  くれぐれも軽挙無き様に」 

「姫様。
  くれぐれもここを動かれぬように。
  御社衆・姫巫女衆全てが貴方の盾となり剣となりましょう」

 こうして、彦山川合戦は秋月勢の渡河という形で始まる。
  私はそれを本陣からただ静かに眺めているのだった。

 

「まだ策は残っているしね……」

 

「姫様、何か言いましたか?」

 佐田鎮綱の質問に私はただにぱーと笑うことで答えたのだった。



 

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