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大友の姫巫女

第六話 秋月騒乱 前夜 

永禄五年(1562年)十月 筑前国 原鶴

 原鶴の由来は、その野原に湯治の為に鶴が来たからで、筑後川の中州にその湯はある。
  湯が湧き出る筑後川の中州全てを堤防で囲い、中に遊郭を作るという工事だが、その堤防に見張り櫓や柵が作られているあたりどうみても城にしか見えない。
  実際、この工事を行っているのは大友に属する地侍や農民だった。

「何でこんな所に城を作るのだ?」

 土を運びながら農民がぼやく。

「城じゃねえ。遊郭だそうな。
  ここで遊女や白拍子と遊ぶ事ができるのだと。
  博多や別府の遊郭はそりゃ華やかなものと聞いとるし」

 事情を聞かされているらしい侍がその土を持って堤防を築いてゆく。

「そりゃ、楽しそうだ。
  かかあにばれねぇように通わんとな」

「ははは……」

 通った事があるらしい豊後からきた侍が手ぬぐいで汗と泥をふき取って話を続けた。

「けど、こいつがあると戦が楽になるぞ」

「女の世話は困らんが」

 聞いていた別の農夫が茶々を入れるが侍は話続ける。

「いや、それもあるがこの遊郭では傷の手当てをしてくれるしな」

 その言葉に皆がその侍の方を見つめる。

「本当か?それは」

「ああ、実際門司の戦で傷を受けたが別府の遊郭で手当てしてくれた。
  傷を沸かした熱い湯を冷ました水で綺麗にしてヨモギ汁を塗るのだが、おかげでほら」

 と男は塞がった傷口を見せる。

「凄いな。こりゃ」

「ああ、安心して戦働きができるってもんよ。
  足腰痛めたもんは一月ばかり湯につかっているとぴたりと治る。
  宇佐の姫巫女様の霊験あらたかな加護のおかげよ」

 その名前を聞いて手を合わせる聴衆達。

「姫巫女?
  なんでもまだ童と聞いたが?」

 聞いてきたのは地侍。かなり真剣らしく顔がまじめになる。

「ああ、だが門司の戦では陣の一番前に立ち、毛利の水軍を叩き潰した八幡神の化身だそうだ。
  民に優しく、姫の加護か姫が祈祷する土地は不作知らずという大友の守護者。
  大友が九州を治めるために天が使わした天女だそうな」

 その当人が聞いたから悶絶するだろうし、その母親が聞いたらやはり悶絶するだろう話をしていたら何だか騒がしい。

「何事じゃ?騒々しい」

 見ると、一頭の馬がここに駆けて来ている。

「ここの大将にお取次ぎ願いたい!
  秋月の忘れ形見が見つかった!
  すぐに府内に知らせて討たねば!」

 その報告が大声で伝えられると急に騒がしくなるが、気づいてみると先ほど宇佐の姫巫女の事を聞いていた地侍がいつの間にか消えていた。
  だからその地侍は知らない。
  姫巫女の事を語っていた侍と、駆けて来た侍がその姫巫女の侍「御社衆」だという事を。


  その三日後、日田で待機していた豊後からの大友軍八千が到着。
  総大将は戸次鑑連。副将は吉弘鑑理。
  原鶴で遊郭を作っていた地侍を足して一万の兵力になる。
  同日、秋月領古処山城下で秋月種実を大将に秋月旧臣三千が蜂起。
  千家宗元と原田貞種に手勢千ずつ与えて古処山城を攻撃するが、大友軍は山頂に作られた天然の要塞であるこの城に篭る事を選ぶ。
  蜂起を事前に知らされていた事もあり、大友の守将はよく守り秋月勢は古処山城奪取に失敗する。
  その後、秋月軍は毛利と連携する為に北上し、香春岳城攻撃を目指す。
  だが、その手前彦山川に布陣していたのは佐田隆居・田原親賢・城井鎮房率いる五千の大友軍だった。
  その本陣の奥に見なれない「鳥居に杏葉」の旗。
  珠姫率いる宇佐御社衆五百である。 



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