戻る 目次 

大友の姫巫女

第四話 内政(開発)編

 お元気ですか?
  宇佐で巫女をやっている珠です。
  遊郭経営でお金に困らない人になりました。
  泡銭だけに消し去るつもりも無く、これで国づくりを行えます。


  まず、手始めに新田開発です。
  豊前国は瀬戸内気候に属し、雨が少ないので溜池を掘る事から始めなければいけません。
  とはいえ、河川は駅館川、山国川、今川、遠賀川支流など水源に困らないのも豊前の強みだったりします。
  これがまたえらく金がかかります。

 たとえば山国川。
  川で土地が削れているから、平野部というか台地になっている場所が多かったりとか。
  ポンプなんて便利なものは無いから、手段としては上流に堤を築いて水道を作り、溜池群に水を供給するしかありません。

 では、費用はどれぐらいかかるでしょう?
  一つの例に羽柴秀吉が行った備中高松城の水攻めを。
  戦時という事で平時以上の金米が払われたというのを理解した上で、費用を出すと銭で十三万五千四百貫、米六万三千五百石。
  米価で計算しなおすと三十万石という莫大なものになります。
  まぁ、平時という事で若干安くはなるでしょうが、豊後一国の石高が南蛮交易混みで四十万石。
  豊前も似たようなものです。
  一河川の改修工事というのはこれだけの甚大な費用が必要になるんです。

 でも、やらねばいけません。

 父上に手紙を書き、爺たる佐田隆居名義で評定衆の裁可を仰いだ上で、駅館川の改修から始めます。
  これは、駅館川上流に佐田氏の所領がある為で、開発新田は佐田氏および宇佐八幡名義つまり私の所領になる予定です。
  水源地に近い佐田氏所領では棚田を作り洪水を抑えさせ、下流地域では水車を備えて水を上げて溜池を作り新田を開発します。
  問題だったのは水車を作り運用する職人をどう見つけるかでしたが、香春岳銅山の金掘り衆を使う事で解決しました。
  彼らは水車を掘った土を運ぶ為の動力として使用していたからです。
  短期間の計画とは言え工事は三年、収穫できるのに五年はかかると踏んでいます。

 この金は博多の商人達から借り受けました。
  決め手は事業計画書です。
  これだけの規模でこれだけの開発を行い、これだけの田を作るからこれだけの収益が見込める。
  だからこれだけ貸してくれと中州の遊郭で遊女達と共に接待しつつ金を引き出したのでした。

 凄いね。

 十歳幼女巫女が、そろばん片手(中国から大金払って買った)、事業計画書片手に遊女に混じって商人を接待する図ってのは。

 何処のイメクラですか。まじで。

 軽く絶望を覚えながらも、博多の商人達が最後まで気にしていたのは安全保障。
  つまり、収穫が見込める五年後まで駅館川流域は佐田氏および宇佐八幡、要するに大友家が支配し続けているかでした。
  万一毛利家に支配者が代わったら支払いがなくなる可能性がありますから。
  収益も大きい山国川を最初の計画から外したのはこれが理由です。
  現在の大友家の豊前方面の防衛線は、松山城から香春岳城の線での迎撃を想定しています。
  ですが、豊前の最重要拠点は竜王城で、宇佐衆を味方につけた事もあり駅館川では無く山国川まで北上させています。
  何があっても大友はそこから南に下がらない。
  後は勢場ヶ原の合戦みたいに毛利が大友本国に侵攻する力と意思があるかという話になります。

 商人達は私よりはるかに逞しい。
  この情報はほぼ間違いなく毛利側に売られているでしょう。
  それが私の債務不履行になる可能性のリスクヘッジでしょうから。
  こちらもお金を借りる以上、豊前防衛計画が漏れるのは覚悟のうえです。
  で、お金が借りられたのですから、毛利は松山城から香春岳城の線を越えても山国川まで来ないというサインにもなります。
  つまり、筑前が次の戦場と断定できた瞬間でもありました。

 農作物にも手を加えました。
  大分と言ったらカボスです。
  あるのかいなと探させたらあったよ。
  しかも豊後原産っぽい木が。
  早速宇佐にも植える。香春にも植える。
  この時期、カボスは薬として扱われているからなぁ。
  木が無事に育ては薬品として収入が。
  柑橘類の栽培に手を出すならと求めたのはみかんと柚子。
  みかんは私が好きだからです。文句あるか。
  紀伊の有田ではすでに栽培が始まっているので、大金払って苗木を取り寄せます。

 柚子は柚子湯目的で。
  うちの遊郭のおねーちゃん達はみな柚子湯に入ってもらうのです。
  一種の香水代わりですが、おねーちゃんの体や髪からほのかな柑橘系の香りがするとお客様の評判も上々。
  唐辛子を手に入れて柚子胡椒にするものいいかもしれない。

 で、みかん以上に大金を持って探させているのはサツマイモ。
  この時期琉球にまできているのは分かっているから、苗を持ってこさせています。
  サツマイモならぬブゼンイモと呼ばれるかもしれない。

 遊郭という湯場経営に踏み込んでいるから湯を沸かす薪の供給も問題です。
  別府は温泉を使っているけど宇佐や香春、大遊郭となった中州などでは薪を常時必要に必要にするわけで。
  豊後の林業の消費先として活躍してもらいましょう。
  日田の杉や檜をいかだで筑後川を下がらせて、そこから分解して博多に。
  そういや下流に家具職人がいたような。
  彼らに金を出して家具に加工して博多に売り出します。
  効率よく安定的に湯を作るには、薪じゃ不安なのも事実。
  ……私の領地香春だったな。筑豊の。石炭の出る。

 金堀衆に命じて石炭を採掘。
  蒸し焼きにしてコークスに変換。

 これで我が遊郭は十年は戦える。
  うん。十年とごろか百年、千年ほど湯を出し続けそうだけど。
  気に入ったから湯場の名前は「千年湯」にしよう。何か縁起良さそうだし。

 後にたたら商人にコークスを見られて、高値で売ってくれと迫られたのは内緒。
  更に、水車動力でふいごを動かす事に気づいてなかったらしく、水車職人を持って行かれそうになったのは更に内緒。
  湯にかこつけて製鉄までまったく頭が回っていなかったのは絶対に内緒。
  なんで蒸気機関に頭が回らなかったんだろう。私。
  反射炉ってこの時期作れたかな……?

      
  さて、金に困らないと上に書いておきながら金を借りるとはどういう事かというと、遊郭の金は全て自前の兵の雇用に使った訳で。
  名目は各地の遊郭の警護という事で流れ者や浮浪人を雇いました。
  流れ者や浮浪人はそのまま夜盗になるので治安向上を兼ねて一石二鳥です。
  なお、いい働きをした者は遊郭で好きな遊女を一晩選べるという褒賞つき。
  こうして、私の兵隊「御社衆」という呼び名の部隊が誕生しました。
  兵数は各遊郭にそれぞれ配置した合計で三百人ほど。その殆どは博多と別府の大遊郭に配置しています。
  目的も用途も遊郭がらみで「姫のお遊び」と見事なまでに馬鹿にされる御社衆ですが、何時でも何処でも戦に投入できる集団であるという事にはまだだれも気づいていません。

 あと、私の身の回りの世話と護衛を兼ねて薙刀持ちの歩き巫女を組織して「姫巫女衆」を作りました。

 ああ、薙刀持ちの巫女に護衛される私。夢のよう。

 戦闘力は期待しないけど、情報収集はお手の物だし。
  まぁ、そんなこんなで一城城主として持った兵隊は五百人程度です。
  

 ローマは一日にして成らずとはよく言ったもの。
  けど、毛利との決戦は日々迫っている訳で。
  少しずつ、けど間違いなく次の戦は迫っていました。


 

戻る 目次