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大友の姫巫女

第三話 内政(金策)編 

 戦争など統治に比べたらはるかに優しい。
  それを知る十歳児というのは他者にどのように見られていただろう?


  お元気ですか?
  宇佐で巫女をやっている珠です。
  十歳にして香春岳城主と遊郭の主人をやっています。
  門司での戦が一息ついたので、本格的に領地経営です。
  香春岳近隣百五十町が私に与えられたのですが……何?町って単位?
  というわけで、爺に聞いてみると「人一人が一年間に暮す事ができる土地」と教えてくれた。
  つまり、人を百五十人雇える土地という事です。
  城の守備隊は最大百五十人という事と理解。
  もっとも、常時これだけの兵隊なんぞ雇えないし。

 しかも減税に踏み切ったし。
  落としたばかりで略奪した後の城が疲弊しているのは当然なので、年貢の免除を命令しましたとも。
  更に父上にお願いして、豊前国衆の賦役を減らしてもらいました。
「毛利が蠢く中、国人衆を寝返らせないようにするには良い待遇を与えるべきです」
  という私の説得に納得してくれたのも、門司で負けずに大友の威信に傷がついていない事が大きいです。
  極力寛容を持って統治に当たって行きたいとは思っていますが、先立つものがないのも事実で。

 宇佐八幡でお世話になっている事もあり、香春の再建は宇佐八幡の喜捨からかなりの額を出してもらっています。
  もちろん、大友の豊前侵攻において宇佐を攻撃しなかったお礼という意味も込められているのでしょうが。
  領主というのは金策に走るものだとしみじみ思い知ったのです。

 香春岳は銅が取れます。
  宇佐八幡に飾られている銅鏡はここの銅が元だとか。
  とりあえず採掘を命じました。取れたら博多に持っていって売り、費用にあてるつもりです。
  あと、香春の地は太宰府官道の宿場町でもあったので、香春岳神社の再建と同時に宿場も再建を命じました。


  遊郭つきで。


  二号店です。本店宇佐ですから。
  私の諜報機関兼資金源ですから。
  なお、三号店も出しています。別府に。
  南蛮交易華やかな府内の人間から銭を毟り取った結果、温泉つきの大遊郭ができあがりました。

 

 …………大悪司という単語が頭に浮かぶけど黙殺する。


  
  南蛮貿易というのは華やかなように聞こえますが、その実は奴隷貿易だったのも否定できなかったりします。
  最初、丹生島にて売られる人達を見て激しく動揺したのも事実です。
  ですが、それなしで大友が戦国大名として存在しえないと思い知ったのもまた事実でした。
  豊後国は石高換算で四十万石相当と言われていますが、それはこの交易あっての事。
  特に火薬は完全に海外からの輸入に頼っているので、売る物が無いこちら側が確実に売れる物が人間だったという事です。
  キリスト教容認というのも、南蛮人と付き合う方便で始めた事ですし。
  後にそのまま父上がのめり込むとは思いませんでしたが。
  先の門司の戦で使われた千丁の鉄砲の火薬は彼ら南蛮商人の火薬によって賄われており、一丁につき一人の割合で日本人が売られたという事実は忘れる訳にはいきません。
  それが分かるがゆえに、父上に南蛮交易における奴隷売買の制限を言い出す訳にはいきませんでした。

 こういう時に己が小娘である事を、力が無い事を思い知ります。
  別府の大遊郭は私が考えた奴隷交易阻止の回答でもあります。
  売り払うのでは無く、留めて使わせる。
  奴隷という低品位ではなく、高級娼婦としての高付加価値のサービスを。
  幸いにも前世知識で、すばらしい変態国家の性技術は知識として持っている訳で。


  結果

 初潮もまだの幼女が

 『神のお告げ』とほざいて

 年上のおねーさま方に

 21世紀日本の風俗産業を教える羽目に

 

 …………殺ちゃんという単語が頭に浮かぶけど黙殺する。

 

 門司で死体見た時にも、己が手を振り下ろして毛利兵を殺させた事も、人として何か大事なものを失った自覚はありましたとも。ええ。

 でも、今回ほど人として、元男として何かもの凄く大事な何かを失ったと自覚した事はありませんでしたとも。


  きっと、後世の歴史家は私の事を『大友の泡姫』と呼ぶのでしょうね。


  ですが、後悔はしません。
  実際、私の遊郭は大盛況で莫大な金が転がり落ちてくるわけで。
  と、同時に府内では奴隷を売るより女を買う方がもうかると思わせたわけで。
  全てがなくなったとは言えませんが、最善は尽くしたつもりです。

 稼いだ金の一部は遊郭で働く遊女の福利厚生に使い、更に海外に売られた人達の供養を宇佐八幡名義で行うようにしました。
  もちろん偽善ですがやらないよりましです。
  その結果、遊女や白拍子の人々からの絶大な支持を取り付けました。
  確実な、そして初めて持つ私の手駒です。


  その手駒をいの一番に使うのは父上という当たり、本当に色々と何かふっきれないといけないと血涙を流しているわけで。


  父上の放蕩で家が傾くのは分かっているので、せめてその傾きをこちらでコントロールしようという苦肉の策でして。
  最悪放蕩し続けてくれても、キリスト教に入信さえしなければいいから。まじで。

 あれやられると、私は確実に謀反起こすしか道が無くなるので。
 
  あ、四号店は博多の中洲に作る予定です。

 大友家滅んだらそこで太夫と称して生きてゆこう……

 何か刹那的に考えが行きますが、国づくりはまだまだ続きます。


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